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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第二章 エスクリスク聖殿
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51/179

48 挑発

本日は6時にも更新しております。

未読の方はよろしければそちらからご覧ください。

 48


 そうして、残されたのは二次試験のある生徒たち。

 まず魔導学科が先程の講堂に行くよう指示を出された。


「じゃあ、あたしは魔導学の試験ね。二人とも、また後で会いましょう?」

「うん。マルスもがんばって」

「精々、油断しない事だな」


 巨体の友人を見送り、俺たちも遺跡学科の会場へと移動になる。

 調べた限りだと、竜卵の状態の確認と、受験生同士の模擬戦が行われるらしい。

 おそらく会場は運動場のような場所だろう。


「リィナ、次は負けないよ」

「意気込むのは結構だが、足元をすくわれないといいな(油断大敵だ。全力で挑もう)」

「やあ、座学トップの二人は余裕のようだ」


 いきなり声を掛けられた。

 俺たちの前を歩いていた男子で、なんというか、いかにもいいとこの坊ちゃんだった。

 両脇にスーツ姿の男女を控えさせる姿は俺のイメージしていた貴族そのもの。

 真ん中で綺麗に分けた赤毛の髪を掻き上げ、さらに真っ白のスーツなんていう結婚式の新郎みたいな服を見せつけるように襟をただして、冷ややかな笑みを浮かべる。


「まったく、さっきのテストではどんな裏技を使ったのかな? その様子だと次も対策があるみたいだが、ぼくの目を誤魔化せるとは思わない事だ。まったく、弁える事を知らない平民はこれだから目障りなんだ。そうだろ、ティム、ミリム?」

「ヴィンセント様のおっしゃる通りです! でなければ、ヴィンセント様が負けるはずがありません!」

「あー、そっすね。まあ、ヴィンセント様も三位なら十分じゃないんすか?」


 ティムと呼ばれた少年が力説する一方で、ミリムと呼ばれた少女は適当に返している。温度差のある二人だけど、双子なのか同じ顔だ。


 彼らの話を総合すると、ヴィンセントというこいつが三位の受験生なのかな。

 それで、俺とリィナに負けたのが納得いかなくて、俺たちが不正をして一位と二位になったと思ったのか。

 それとも二次試験前に難癖をつけて動揺を誘うつもりなのか。


 しかし、平民とか言って見下してくるあたり、貴族の出身なんだろうな。

 お付きの人までいるし。

 この様子だと反論しても聞きそうにないし、回り回って孤児院に迷惑が行くのも嫌だし……うん。無視しよう。


「リィナの竜卵はなに? 俺はストレンジなんだけど」

「おい、無視するんじゃない!」

「そうだ、カルロ。その態度は感心しない」


 リィナは俺を一言窘めると、嫌味少年ヴィンセントを一瞥した。


「つまらん詮索をするぐらいなら己を省みろ(人の成績なんて気にせずに、自分がベストを尽くすように頑張った方がいい)」

「なんだと!?」


 うわあ。

 これ、相性最悪なんじゃない?

 激高されたリィナは少し考え込み、一言付け加えた。


「意気込むのは結構だが、足元をすくわれないといいな(油断大敵だ。全力で挑もう)」


 それさっき俺に言った台詞じゃん。

 俺が怒らなかった台詞だから大丈夫だとでも思ったの?

 言葉の裏を読み取れる人じゃないと通じないんだよ。


 案の定、正面の彼には欠片も通じなかったようだ。

 怒りのあまり目元をぴくぴくと痙攣させている。


「貴様、調子に乗るなよ? その女みたいな顔で試験官をたらし込んだのだろうが、公衆の前で惨敗すれば意味はない。ボロボロにしてやる」

「おい。リィナを侮辱すると許さないぞ」


 無視しようと思ったけど、これはダメだ。言いがかりもはなはだしい。

 リィナはクールに受け流しているけど、俺の方が聞き捨てならない。

 ほんの数日の関係で、本当の友達と呼べるほどの関係を築いたわけじゃないけど、不当に貶められて黙っていられるほど薄情になれるか。


「ちっ、田舎者まるだしの平民が口を挟むな。ボロ雑巾みたいな服で出歩いて恥ずかしくないのか?」

「……ふ」


 よし、殺そう。

 貴族? 知るか。アリア姉の作ってくれた服を馬鹿にされたんだ。俺と儂の総力を用いてこいつの実家ごとぶっとばしてやる。


 儂ならできるぞ。

 主要人物を調べ上げて、闇に紛れて一人ずつ確実に、しかし、最速で消していく。奴らが事態に気付いた時にはまとめられる人間はいなくなっているだろう。そうしたら後はバラバラになったところを潰して回るだけよ。


 一瞬でそこまで考えたところだった。


「……ヴィンセントと言ったな。今の発言は撤回してもらおうか」


 ひやりとした感触が首筋を撫でた。

 頭に上っていた血が一気に引いていく。


 見れば隣のリィナが静かにぶちキレていた。

 表情から感情が抜け落ちて、しかし、その目は怒りで燃えがっている。


「その服はカルロの大切な物だ。人が大切にしている物を貶すなど許さない」


 その言葉には憤り以上の感情が込められていた。

 俺を慮っての怒りはある。だけど、それだけじゃない。

 自身にも共通する何かを抱えている。


 既にその右手は腰の横のポシェットに伸びていて、いつでも竜卵を発動できる状況。

 まさに一触即発。


 俺の中の儂が警告している。

 リィナができるというのは筆記テストだけじゃない。

 戦いもできる。


「――っだから、どうした。襤褸ぼろを襤褸と言って何が悪い!」


 怯みはしたもののヴィンセントは挑発を止めない。

 リィナが小さく吐息を漏らした。

 まるで、何かを諦めたように。

 おそらく、それは言葉での理解だろう。


「話してわからないなら、もういい」


 ヴィンセントは何を考えているんだ。

 状況がわかっていないのか?

 この尋常じゃないリィナの怒りに気付かないわけがないのに、火に油を注ぐような――って、いけない。そういう事か。


「リィナ。怒ってくれてありがとう。でも、それはダメだ」

「止めないでくれ、カルロ。これは君だけの問題じゃない」

「いや、それでもダメだ。失格になる」

「……そういう事か」


 あんなに怒っていても、リィナは一言で察してくれた。

 竜卵から手を離して、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


 辺りを見やればずいぶんと注目を集めていた。

 受験生はもちろん、学習院の職員からも。

 これだけ目撃者がいれば言い逃れはできない。


 ヴィンセントの狙いは俺たちを挑発して、竜卵を発動させる事だろう。

 試験前に私闘で竜卵を使えば大きなマイナスだ。

 挑発した側にも非はあるだろうけど、それでも竜卵という武器を先に抜くのはまずい。

 それに、ヴィンセントが本当に貴族だったとするなら裏で手を回す可能性もある。

 権力を持った相手にその土俵で戦うのは下策。


「ちっ、少しは知恵が回るか」


 図星だったようだ。

 馬鹿な貴族だと思い込んでいたら痛い思いをするところだった。


 それはそれとして、


「けど、侮辱された借りはきっちり返させてもらうよ」


 ヴィンセントを睨みつける。

 アリア姉を馬鹿にされてだんまり? 有り得ないな。ロミオ兄に知られたら雷が落ちるし、俺自身だって自分が許せなくなる。


「ああ。カロルの言う通りだ。先程の自身の言葉を忘れない事だな」

「そうだね。公衆の前で惨敗すれば意味はない、だっけ?」


 言い捨てて、そのままヴィンセントの横を抜いていく。

 後ろから何事か言っているけど、今度こそ無視だ。


「ふん。楽しみが増えたな」

「心から楽しめはしないやつだけどね。ああ。試験が待ち遠しいよ」

「まったくだ」

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