49 二次試験 1
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遺跡学科の二次試験で試されるのは竜卵の能力――ではない。
いや、竜卵を試されるのは間違いないし、受験生同士で竜卵を使ったリーグ戦が行われるのだけど、それだけでもないのだ。
正確に言うと竜卵をどれだけ使えるか、またはその素養があるかが試される。
なにせ受験資格を得られるのは『春の初めの日に十二歳以上の者』なのだ。
数日後に生まれた受験生と、昨日ようやく孵化した受験生では竜卵の成長具合が雲泥の差だろう。
性能差だけで比較しては、素質のある生徒であっても一年間を無駄にしてしまう。
そのため、戦いぶりから素質ありと試験官に認められれば合格もあり得た。
もちろん、じっくり竜卵を育ててから挑むという選択も正しいし、そういう人間も多いのだろう。
中には二十代ぐらいの受験生もちらほらといる、けど、どうなんだろう? マルスだって見た目だけじゃ判断できないからなあ。
あれで俺のひとつ上なんて信じられる? 十三歳なんだよ、マルス。
ちなみに、リィナは俺と同い年だそうだ。
「マルスは僕に合わせたんだ。余計な気を遣わずともいいものを。まったく、物好きな奴だ(足を引っ張って悪い事をした。あいつはいい奴だ)」
「へえ、誕生日はいつ頃?」
「僕は夏の双子月の日だ。おかげで半年間使えた。親の伝手で探索チームの手伝いができたからな。カルロはどうなんだ?」
「俺は冬の終わり近く。孵化してから一ヶ月経ってないね」
「……そうか。体つきを見ればカルロが戦えるのはわかる。精々、ベストを尽くす事だな(努力は裏切らない。実力を発揮すれば大丈夫だ)」
自分と違ってまったく成長させる時間がなかった俺を気遣ってくれるリィナ。
俺が既に七層まで竜卵を成長させてるなんて考えもしないのだろう。
なんだか、騙しているみたいで悪いな。
「大丈夫。結構、鍛えてるんだ」
「なら、君と対決する時は遠慮なくやらせてもらおう」
俺のような例外はそうそういない。
儂みたいに竜卵片手に遺跡群を薙ぎ払うような真似は普通できないのだから。普通の子供なら間違いなく殺されている。
まあ、絶対にないとも思わないけどね。
たとえば、さっきのヴィンセントみたいな貴族なんかが金で腕のいい探索者を雇い、比較的安全な遺跡で竜卵を成長させる、なんてやり方があってもおかしくない。
青柳君の言っていた、そう、寄生プレイだ。
それで本当に戦えるのかは疑問だな。
さっきのリィナの様子からすると竜卵なしでもかなりできる雰囲気があった。
そういうふうに竜卵のマイナスを自力で補える人間の方が、得てして強敵になりうると思っている。
「そろそろだな。僕の列の方が早いようだ」
リィナが先を眺めて呟いた。
現在、受付の時のように並んで、順番に竜卵の確認が行われている。
これである程度、実力差を考慮したリーグ戦になるだろう。
隣り合った列に並んでいたんだけど、リィナの方が少しだけ先に順番が回ってくるようだ。
何か一言ぐらい気の利いた事を言おうかと口を開きかけて、別の場所で歓声が起きた。
ちょっと離れた列だ。誰かがすごい竜卵でも出したのか、色々と盛り上がっている。
「おい、すごいぞ!」
「え、嘘でしょ!?」
「十二歳で四層到達なんて、有り得ない!」
へえ、四層か。
俺が大聖堂から脱出した時よりも上だ。
やっぱりいるところにはいるんだな、と感心しかけて気づいた。
誰かと思えばヴィンセントじゃないか。
奴は周囲の声に応えるように手を上げていたけど、俺たちに気付くと勝ち誇って冷笑を浮かべてきた。
「ふん。言うだけはあるらしい」
「そうだね」
ペーパーで三位。竜卵も四層到達。実力者なのは認めざるを得ない。
少なくとも武術を習ったエンプティでは太刀打ちできるレベルではないだろう。
ヴィンセントは待合室に向かう途中で俺たちを指差してくると、その指で自分の足元を示して挑発してくる。
睨み返そうとしたら、リィナに遮られた。
「君はバカか。相手をしても自分の格を落とすだけだぞ(冷静になれ。君は奴とは違うだろう)」
「そうだね。その通りだ」
さっきは俺が冷静になれと言っておいて情けない。
ここで言い合っても意味はないのだ。
どうせ後で戦う事になるのだから、それを待てばいい。
「じゃあ、行ってくる」
リィナの番が回ってきた。
ヴィンセントほどではないけど、隣でもざわめきが起きている。
彼の竜卵は、ストレンジか。印は三層の半ば。
印の数はヴィンセントには負けているけど、それぐらいなら決定的な差にはならない。
おそらく、リィナもヴィンセントと同じグループに配置されるだろう。
と、人の事を気にしている場合じゃないな。
俺にも順番が回ってきた。
「では、竜卵をここに出して」
「はい」
さあ、見てもらおうじゃないか。
これが俺の竜卵だ。
テーブルに敷かれた赤い布の上に竜卵を置く。
もう今までのように絵の具で隠していない竜卵を。
七層に到達した印。
「――!?」
職員が声にならない悲鳴を上げた。
隣の職員もその気配に気づいて、俺の竜卵に気付いて硬直していく。
それに連動して周りの受験生にもゆっくりと驚愕が浸透していった。
ヴィンセントの時のような声は上がらない。
「君、ちょっといいかな?」
「はい?」
「確認させてもらうよ」
フリーズしていた職員が慎重に竜卵を持ち上げた。
印の辺りを何度も触って、こすり、しまいには机の下から取り出した布に洗剤までつけて拭き始める。
どこからともなく集まってきた職員がぼそぼそと話し合う声に耳を澄ますと、
「染料ではない、か」
「いや、しかし、七層というのは……」
「焼印の可能性もあるのでは?」
うわあ、思いっきり疑われているよ。
どうやら七層という数字はかなり有り得ないものらしい。
悪くないとは思っていたけど、ティレアさんみたいな不良シスターだって十層に到達していたんだから、絶対にありえないレベルだとは思っていなかったんだけどな。
「君、ちょっとこれを竜卵で叩いてくれないか?」
「あ、はい」
次に机の下から取り出されたのは金色の塊。
金の延べ棒かと思ったけど、光沢がないな。
金色の、ブロック?
「遺跡群特効の力を調べたい。思いっきり叩きつけるんだ」
「七層というのが嘘でなければブロックの方が壊れるが、もしも嘘だったなら君は気を失うかもしれない。わかるね?」
これは疑われるというより、取り調べみたいになってきたな。
全員とは言わないけど、職員の俺を見る目が厳しいものになっている。
とはいえ、嘘偽りなんて何もないので、言われた通りに竜卵を叩きつけるだけだ。
「えい」
儂直伝、卵ダンク。
キィィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!
強烈な発動音に慣れていない受験生が耳を押さえた。
慣れている人間はブロックに注目を集めている。
そのブロックは粉微塵に砕けていた。
ざわめきが大きくなって、なんだか職員以外の教師みたいな人たちまで集まってきた。
完全に試験が止まってしまって、段々と申し訳ない気分になってきたぞ。
目立つのは承知していたつもりだけど、想像していた以上の騒ぎだ。
他の受験生が俺を見る目も称賛じゃなくて、驚愕と戦慄だよ。
例外なんて不敵な笑みを浮かべているリィナと、憎々しげに睨んでくるヴィンセントぐらいじゃないの?
「本物、か」
「いや、他のブロックも念のため試しておこう」
「ああ。そっちのを持ってきてくれ」
そこから更にブロック砕き製造機になる事、十回。
最後は緑がかった黄金のブロックに弾き返されて、ようやく解放された。
なんだかいかにも偉そうな服装の教員が職員に代わって結果を告げる。
「カルロ・メリヤ。ストレンジ、七層だ」
「……はい」
なんだか精神的に疲れてしまった。
注目されすぎて針のむしろから脱出する気分で待合室に向かおうとして肩を掴まれた。
振り返れば偉そうな教員。
「別室で話を聞きたいんだが、いいな?」
「え?」
それって拒否権はありますか?




