37 試練 1
37
翌朝、俺とティレアさんは裏庭で対峙していた。
「あー、いいのか? 本当に昨日の今日で?」
ティレアさんは竜卵から出た双剣を持っている。
そして、俺の手には昨日のロープ。
「うん。試すなら早い方がいいでしょ」
「まあ、そうだけどよ」
実は古代学習院の入学にあたり、俺はティレアさんから条件を出されていた。
竜卵から出てきたものが戦いに向かない場合、入学先はティレアさんが決める、と。
つまり、フィールドワークを重視する学習院ではなく、文献の調査を主体とする学習院を選べという事だ。
確かに竜卵でハンデを持っていたら、この世界のフィールドワークは危険すぎる。
だが、俺がやりたいのは前者なのは明確だった。
親としては子供の夢を応援したいけど、それでも無謀なら恨まれてでも止める。
将来の話をした時にはっきりと言われていた。
今日、これから俺のストレンジの真価をティレアさん直々に確かめてもらうのだ。
「オレもアームズだからわかるけどよ、最低限の使い方はもうわかってるよな?」
「うん。竜卵が孵化した時になんとなく」
まるで最初から知っていたように理解できた。
竜卵の解放の仕方。ストレンジの戻し方。その他にも色々――といっても、ほとんど小細工みたいなものだろうけど、伝わってきた。
「でも、知ってるだけだ。使い勝手を自分で試さねえでいいのかよ」
ティレアさんとしても俺の夢を諦めさせたいわけじゃないのだろう。
もっと時間をくれるつもりのようだ。
「大丈夫」
「へえ、勝算はあるってわけか」
「たぶん?」
「なんで自信がねえんだよ」
その辺りは俺じゃなくて、儂の領分だから。
記憶としては理解しているんだけど、どうしても実感が持てないんだよ。
俺が曖昧に笑うと、ティレアさんも決意ができたのか、双剣を構えた。
右の剣を肩に担ぐように持ち上げ、左の剣は剣道でいうところの中段の位置。
肩幅程度に足を前後に開き、視線は左の肩越しに俺へと定められている。
「まあいい。一度だけとは言ってねえし、何度でも相手してやるからかかってこい。ついでに色々と教えてやるよ」
さすがはティレアさん。
剣を構えただけなのに空気が重くなったような気がする。
プレッシャーだけで足が震えそうだ。
「じゃあ、俺も……」
負けていられない。
俺はロープの端を右手で握り込み、腕に巻きつけ、と念じる。
勝手に動き出したロープはシュルシュルと蛇のように俺の右腕に絡まり、背中を通って左腕まで同様に包み込んだ。
ロープで巻いたバンテージ、とは違うかな。
どちらかというと手甲をイメージした方が近い。
「もうそれぐらいの操作はできるのか」
「うん。まだ、ゆっくりとしか動かせないけど」
今のも一分近くかかってしまった。
それにあまり細かい動きもさせられない。
「慣れたらもっと早く動かせると思うんだよ」
「そりゃあな、お前は自分の体は動かせても、ロープなんて動かした事ねえんだから時間は掛かるぜ。一日目でそんだけできりゃあ優秀だ」
なるほど。納得した。
つまり、俺の頑張り次第でもっと早く、細かく。自在に動かせるようになるかもしれないんだね。
「といっても、持ち主が触ってねえとダメだけどな」
「それもわかる」
体のどこかがロープに触れていないと動かせないし、あまり長い間――これも鍛え方次第な感じだけど一分ぐらい、手放してしまったままだと竜卵に戻ってしまう。
「でも、それで全部じゃねえぞ」
「それを教えてくれるの?」
「おう」
と、同時にティレアさんが踏み込んできた。
相変わらず、速い。
それなりの距離があったのに、たった一歩で詰められてしまった。
「ちゃんと、受けろよ?」
声と同時に左手の剣が振り下ろされる。
回避は、無理。
左右によけても、後ろに下がっても、もう一方の剣で追撃できるようティレアさんは構えている。
だから、頭上で両腕を十字にして受け止めた。
少しでも威力を減らすために自ら前に出て、剣の根元の部分に当たりに行く。
真っ当に受けたら真っ二つにされそうだけど、これなら腕を覆うように包んだロープが斬撃を止めてくれるはず。
そのまま剣を横にずらしながら、ティレアさんの左側面を取る。
狙い通り刃がロープの半ばで止まり、
「がっ!?」
衝撃に打ち据えられた。
片膝をついて、なんとか倒れるのを堪えるけど、意識がぶれる。
外から殴られたような感じじゃない。もっと体の奥、というか、芯の部分が痺れるような感覚だった。
覚えが、ある。
騎士の黄金人形が放ったコロナのように輝く剣撃。あれを竜卵で迎撃した時にも似た症状が出た。
「アームズにもストレンジにも耐久限界があんだよ。傷つけられたら持ち主にもダメージがある。壊されたら気絶しちまうぜ」
ティレアさんの解説。
なるほど。あの時も竜卵の遺跡群特効を上回る威力でダメージを受けたからだったのか。
「で、傷ついたアームズとストレンジはしばらくすると直る」
「しばらくって……あ」
言っている途中でしびれが取れた。
素早くティレアさんから飛び退く。
最初から追うつもりはなかったのか、ティレアさんは剣を下ろしたままだ。
腕を見ると、切られたロープが元に戻っていた。
「どれぐらいってのはダメージとか、竜卵の成長具合で違うんだよ。お前の場合は、そうだなあ。たぶん、ロープのどれぐらいが傷ついたかで変わるんじゃないか? 半分で真っ二つにされたら気絶すると思うぜ」
「これは、ちょっときつい」
このままだと防御のためには使えない。
もっと強度を高める必要がある。
「まあ、これも慣れてくと少しぐらいは耐えられるようになるぜ」
「そうなの?」
「おう。慣れるまできっついけどな」
ティレアさん、イイ笑顔だなあ。
どこか目が虚ろな感じがとってもチャーミング。
これは何か嫌な経験を強引に忘れようとしている時の笑顔だぞ。
今ぐらい強くなるまで色んな苦労があったのだろう。
「まあ、これぐらいは知っておけよ。後は学習院で習え」
「適当だなあ」
「本気で学習院に行くつもりならいいだろ? オレに習いてえならここに残ればいいんだしよ」
まったく。
不器用な激励をくれるんだから、ティレアさんはずるいよ。
そんなことを言われたら、
「期待に応えたくなるじゃん」
「へっ、いい顔になったな、男の子。そんじゃ、次が本番だ。オレを納得させてみろよ」
再び構えるティレアさん。
手加減はしてくれているみたいだけど、本気だ。
生半可な気持ちだと、何もさせてもらえなくなってしまう。
「じゃあ」
「儂の出番かのう」
先生、お願いします。
儂、登場。




