18 シャンテ・メリヤ
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はて、どうしたものか。
儂は体の具合を確かめる。
竜卵の成長で頑丈になったせいか、矢を受けた左腕はちゃんと動くし、出血も止まりかけていた。肩や脇腹の傷も同じようだ。
さすがに傷が塞がるわけではないようだが、それでも簡単に布で縛ってみれば、もうひと踏ん張りはできそうな具合じゃ。
うむ。今はありがたい事だが、ずいぶんと人間離れしてきたのう。
そうする間もシャンテを観察する。
本当ならすぐにでも駆け寄って、力の限り抱きしめて、嫌がられるまで撫でてやりたいところだが、今のシャンテは見るからに危うい。
ヘタに刺激してはどう爆発するかわからん。
一体、シャンテに何があった?
最初に断言しておくが、あれは間違いなくシャンテだ。
かわいい容姿。
かわいい仕草。
かわいい声。
かわいい……言い切れんわい。
とにかく、かわいい。
そんなかわいいシャンテを見間違えるわけがない。
しかし、あの角。
シャンテの額からちょびっと飛び出しておる角。
あんなもんは前はなかったぞ。うむ。角があったところで、やはりシャンテはかわいらしいのだが。
「やはり、あれかのう?」
シャンテの頭上に浮かぶ映像。
そこに描かれている角を持つ人々。
あちらは角の数も場所もバラバラなのだが、中にはシャンテと同様の角を持つ者もおる。
「精霊族」
エタニモ大聖堂の主と思われる種族。
共通点は角。
黄金人形軍を蹂躙した力も合わせて、シャンテと無関係ではあるまい。
考えられる可能性はふたつか。
ひとつ、実はシャンテは精霊族で、この遺跡によって覚醒した。
ひとつ、遺跡の機能によってシャンテが利用されており、擬似的に力を与えられた。
儂の勘だと前者。
そうだとしたら、色々と説明がつく点もあるのだ。
長年、誰にも反応しなかったエタニモ礼拝堂の転移魔法陣の事。
戦いの中で銀人形が一度も彼女を狙われなかった事。
傷つけられる事なく、さらわれた――あるいは侵入者である儂から保護された事。
牢に入れられたりせず、最重要施設にして、最も防衛力の高い大聖堂で守られていた事。
他にも最初に大聖堂に直通した事もだ。
あの時はまだ通路に精霊族がいたから扉が繋がったのかもしれん。
だから、シャンテがいなくなって儂だけになった後は、巨兵人形のおった処刑部屋に送られたというのはどうか。
つまり、儂らへの遺跡の認識はこうだ。
侵入者に捕まった同胞が脅されて大聖堂への道を開いた。
まったく、とんでもない誤解だわい。
儂がシャンテを脅す? んなわけあるか!
まあ、あくまで推測。
それだけでは説明がつかない部分もあるしのう。
「ねえ、お兄ちゃんってば!」
ガシャアンッ!
怒った声といっしょに、黄金像の残骸が儂の後ろに降ってきおった。
見ればシャンテは頬を膨らませて儂を睨んでおる。
うむ。かわいい。
かわいいが、機嫌を損ねるのは危険だ。
「すまんすまん。少し考え事をしておっての?」
「お兄ちゃん? 変なの、おじいちゃんみたい」
おっと、口調を間違えてもうたか。
幸いな事にシャンテは首を傾げはしたものの、冗談とでも思ったのかすぐに笑顔に戻った。
「ねえ、お兄ちゃん。シャンテね。すごいんだよ」
「うん。そうだね。シャンテはすごいよ」
すごいかわいいものなあ。
儂の心からの同意に気をよくしたのか、シャンテはパタパタと足を揺らした。
まあ、その足の動きに合わせて黄金像の残骸どもがプレス機にかけられているみたいに、ぐしゃっ、ぐしゃっと潰されておるのが問題だのう。
「すごいよね! こんなのもできるんだよ! ほらっ!」
ハイテンションで台から飛び落りたシャンテだが、その足は宙に浮いていた。
どうやらシャンテは空も飛べるらしい。
青柳君が今のシャンテを見たら『魔法少女シャンテちゃんだ!』などと大騒ぎするのだろうなあ。いや、魔砲だったか?
と、現実逃避はいかん。
「あ、お兄ちゃん。また他のこと考えてる!」
一転して機嫌を悪くしたシャンテは、器用に空中で跳びはねる。
すると、再び黄金像が潰されていく。
「お兄ちゃんはシャンテを見るの! シャンテだけ見てるの! 他のはダメなの! じゃないと、きらいになっちゃうよ!」
「ああ。ごめんな。俺もシャンテが大事だよ。お願いだから許してくれないかな」
「んー。いいよ。お兄ちゃんだから、ゆるしてあげるね。きらいになんかならないよ。お兄ちゃん、大好き。シャンテが大きくなったらおよめさんになってあげるからね!」
……本当にシャンテに何があった?
いや、嬉しい。
孫から言われたい台詞ランキング第一位『わたしおじいちゃんのお嫁さんになる』を言ってもらえたのだから、じじい冥利に尽きる。
前世の儂だった全財産をお小遣いにやっておった。
だが、シャンテはこんな風に気持ちを言える子ではない。
これぐらい儂の事を好いてくれておるかもしれんが、気持ちを言葉にできないでもじもじするのがシャンテだ。
黄金人形軍をぼろ屑のように破壊したのもらしくない。
気持ちの優しい子じゃ。
シャンテに懸想しておる町の悪がきが、気を引きたくてちょっかいを掛けて来た時も、ケンカできんで、儂とロミオ兄が蹴散らすまで我慢しておったのだ。
こんなシャンテも愛せるが、急変の原因を考えると見過ごせんよなあ。
精霊族の力を持った影響で、精神が高揚しておるのか。
それぐらいならいい。時間を置けば落ち着くだろうからのう。
だが、もしも、遺跡によって操られているのだとしたら、救わねばなるまいよ。
まあ、もっと前の話として、このままではメリヤ孤児院に帰れんしのう。
今のシャンテはちょっとした癇癪で、他の皆を傷つけてしまう。
「シャンテ、その角はどうしたんだい?」
「つの?」
首を傾げるシャンテ。
儂がおでこを指差すと、不思議そうに自分の額を触って、びっくりしている。
「お兄ちゃん! 変なのがある!」
気づいておらんかったんか。
まあ、鏡でも見なければわからんか。
シャンテは自分の角を上目づかいで見ながら、つついている。
「シャンテ、お兄ちゃんにそれを見せてくれんか?」
「や」
空気が、変わった。
シャンテは笑顔で儂を見ておるが、拒絶は揺るぎない。
考える素振りさえなかった。
即座の拒否。
「これ、シャンテのたいせつなものなの。だれもさわっちゃダメなの」
まるで台本を読み上げるような口調。
「そんなこという、お兄ちゃんはきらいになっちゃうよ?」




