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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第一章 シェロカミン大聖堂
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17/179

15 下層回廊

 15


「ふうむ」


 竜卵を掲げる。

 やはり、見間違いではないのう。

 最初からあった八枚のひし形の花弁。

 戦っている最中も増えているのは確認しておったが、さすがに最後に仕掛けている時までは確認できんかったのだが。


「ひの、ふの、みの……三十二枚もあるのう。最後に覚えっておったのが十一だったから、一気に二十一枚も増えおったか」


 ううむ。

 これは巨兵人形の宝石を砕いて一気に増えたのか、それとも殴っている最中に増えていたのか……。

 後者のような気がする。

 そうでもなければあの宝石を砕けたとは思えん。


 ともあれ、遺跡群特効が上昇したのなら僥倖よ。

 シャンテ救出の成功率が高くなる。


 それにちらりと考えた身体能力についても上がっているようだ。

 何せ、あんな無茶をしたというのにもう呼吸が落ち着いてきておるし、打撲や切り傷はあっても重傷はない。

 普通なら途中で三度は死んでおったわ。

 これも好都合だからよい。


 さあ、休んでいられんぞ。

 儂は勢いをつけて立ち上がり、置き去りにしたリュックを回収する。ついでにランタンの屑晶石も補充。


 そして、まずは倒れたままの銀人形どもを倒して回った。

 活動停止していないものの、していないというだけ。

 ほとんどが満足に動く事もできない有様なので、半ば作業のようなものですぐに全て片付いた。

 一段落して足を止める。


「さて、増援が来そうなものだが」


 しばし、辺りを見回すが例の魔法陣が現れる様子もない。

 耳を澄ましてみても、儂の呼吸の音ぐらいしか聞こえてこん。

 ここでの戦闘は終わりか?

 銀人形を呼び出す指示は、巨兵人形が出していたのかもしれんな。


「よし。行くか」


 儂は竜卵を壁に押し当てながら歩き出した。

 戦いの中でどちらから来たのかわからんようになってしまったが、巨兵人形がつけた傷があるので、少なくとも二ヶ所はわかる。

 入口の対面と、ここだ。


 遺跡群特効は遺跡の全てに反応するわけではないのか、壁が崩れたりする事もない。

 ならば、何に反応しているかとなれば、遺跡群を動かしている力そのものに対してだろう。

 だから、ただの石壁には反応せず、遺跡の力で生み出された赤い宝石や、人形の体に反応する。


 そんな考察をしながら歩く事、二分。

 巨兵人形の傷跡が残る場所に着いた。

 あちらほどではないが、落ち着いて眺めるとボロボロだのう。

 と、ガリガリと音を立てていた竜卵に反応があった。


 キイィィン


 遺跡群特効が働く音。

 見ればただの壁面に見えた場所が波打っておる。

 竜卵のあたる場所を中心に、まるで水面に波紋が起きたみたいな具合だ。トリックアートでも見ているようじゃ。


「ふん」


 強めに竜卵を叩きつけると、あっさり壁面がガラスのように砕けた。

 その下から現れたのは入り口と同じ金属製の扉。

 こうやって隠しておったわけか。

 すぐに先に進みたいが、念のためドームを一周してみよう。




 結果、他にも二ヶ所の扉が見つかった。

 ひとつは入ってきた扉だったが、戻ってみても何も見つけられなかったので、選択肢から除外する。

 それぞれ開けてみたが、上りの階段がふたつ。


「これが円環のどちらかに繋がっていればよいのだがのう」


 先で繋がっているのがベストなのだが。

 だとすれば探索の手間も省けるし、儂の予想が的中していたことにもなる。

 それも行けばわかるか。


「まずは後から見つけた方から行ってみるか」


 どうせヒントもないのだ。

 儂の運の良さに期待しよう。


 階段を上っていく。

 なかなか一段の高さが大きく、急勾配な階段だった。

 いくら身体能力が上がっておっても、体のサイズは子供なので歩きづらい。

 前世で中年を過ぎてから階段に苦労した記憶が蘇ってくるようじゃ。


 幸い段数が三十を数えたところで終わった。

 扉はなく、そのまま通路に繋がっている。

 ランタンに照らし出されるのは、右方向へ緩やかに湾曲しながら続く石の回廊だ。


「予想が当たったか?」


 このままカーブが続いて、輪を描いているかもしれん。

 だとすれば、ここはおそらく下の方の回廊だろう。

 巨兵人形がおったのが侵入者用の処刑部屋とすれば、そこから直通する場所は地位の低い者のためのスペースのはず。

 古今東西、地位の高い者は上のスペースを求めるものよ。

 いや、ちゃんと根拠はあるぞ? 大聖堂の映像でも、人々に讃えられていた真球と円環は最上に置かれておった。


「よし。幸先が良い」


 シャンテが囚われている牢屋があるとすれば、処刑部屋に近いはず。

 あの子の泣き声が聞こえやしないかと、耳に意識を集中するが、まるで音は聞こえてこなかった。

 戦いの中で押し込めていた焦燥が再燃する。

 声の限りに叫びたい。

 だが、それでは遺跡群を刺激してしまう。


 大丈夫だ。

 落ち着け。

 儂の予想が見当はずれかもしれんし、牢屋はもう一方の階段の先だったかもしれんし、それにシャンテの意識がない可能性もある。

 最悪の想像なんぞ捨てろ。


「無事であってくれよ……」


 祈る気持ちのまま歩を進める。


 果たして牢屋らしき部屋はあった。

 階段から一分も歩いていない。

 左右の壁面に金属扉があり、中に入ってみると石壁と鉄格子による仕切り。


 しかし、シャンテの姿は見つからない。


 左右のどちらを確認しても同じだった。

 あるのは殺風景な石の壁だけ。

 そもそも人が立ち入った形跡どころか、使われた形跡さえ見当たらない。

 遺跡の物とは思えないような……というのは今更か。このエタニモ大聖堂は僅かな埃ぐらいしか落ちていないし、経年劣化を感じさせないのだ。


 可能性を潰すつもりで竜卵で壁や床を打っても反応しなかった。

 シャンテはどこにいるのか。


「逆側、とは考えづらいが……」


 同じ目的の施設を分けるのは非効率的だ。

 とはいえ、いないのなら見つかるまで探すだけだ。




 その後、儂は回廊の全ての部屋を調べ尽くした。

 回廊はカーブが続き、いくつもの部屋が並んでいた。

 大きさや設備が様々だったが、そこにあったのは施設の住人のためだろう施設ばかりだ。


 途中で少し広いホールに行き当たり、上階に繋がる螺旋階段を見つけた。

 シャンテがいる可能性の高い下層の回廊を先に全て調べる事にする。

 だが、やはり並ぶ施設は変わりないまま。


 色々と魔導具に利用できそうな道具、というか魔法陣が刻まれた道具も見つかるが今は重要ではない。

 肝心なのはシャンテの無事。

 なのに、どこにもシャンテの姿はない。

 とうとう、回廊は下りの階段に行き当たってしまった。


 そこを下りれば見覚えのあるドームだ。入ったのとは別の扉らしく、近くには巨兵人形に砕かれた壁と床。

 儂の予想が当たったわけだが、喜ぶ気持ちにはなれない。


「どうやら上階に行くしかないみたいだのう」


 そうして、儂は途中で見つけたホールに向けて引き返す事にした。

ちょっと短めです。

すいません。

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