14 巨兵人形戦
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壁から離れるように走り出した儂を、人形どもが一斉に追ってくる。
十秒ほどしてから走りながら振り返れば、先頭は巨兵人形で、少し遅れて続く五体の銀人形の姿が見えた。
予想通りだ。始めよう。
「よっと!」
儂はスライディングのイメージで急停止。
速度が落ちたところで四時の方向に向かって再び走る。
横を走り抜けようとする儂に、巨兵人形が剣を振ってくるが間合いの外だ。地面が砕かれて、風圧が抜けていくだけ。儂には当たらん。
もっと滑らかに動ければ違うのだろうが、奴は小回りが効かんのは知っておる。
その隙を埋めるように、後続の銀人形が距離を詰めてきた。
さすがに巨兵人形よりは対応が早いが、あくまで奴と比べてだ。
横から手を伸ばしてきたところに、走りに緩急をつけてフェイントを入れれば、簡単に躱せる。
両手を突き出したまま、目の前でよろける銀人形。
「ふん!」
がら空きになった顔面に卵フック。
顔面に直撃して、宝石が砕け散った。
あと四体。
結果を横目にすぐさまサイドステップ。
飛び掛かってきた二体目が体を泳がせているので、カウンターの卵ストレート。
あと三体。
しかし、欲張ってはいかん。
もう巨兵人形が向かって来ておる。
見なくても足音でわかるのはありがたいのう。
再び巨兵人形と銀人形のどちらからも離れる方向に向けて走り出す。
すぐに巨兵人形が銀人形を抜くだろうから、そうしたら同じように繰り返せばいい。
時間は掛かるが、確実に銀人形を倒せる。
「ん?」
ランタンの灯りの向こう。
そろそろ壁に到着するだろうかという頃。
暗闇の向こうで何かが光っている?
数は五、だろうか……薄紫の、光……魔法陣か!?
増援が入るとは。
さすがに巨兵人形が追加されはしないだろうから、おそらく銀人形。
数を減らしても、しばらくすると復活する仕様らしい。
一度に出せる数は限りがあるのかのう。
エネルギー的な問題なのか。それとも魔法の制約なのかはわからんが、制限なしではあるまい。
でなければ、最初から増援は巨兵人形か、部屋を埋め尽くすほどの人形の群れだったはずよ。
しかし、なかなか粋な計らいではないか。
ボーナスステージというやつじゃな?
いくらでも銀人形を倒せる。
というのは冗談として。
「さて……」
最初の時と同じように先制するには距離がある。
儂が近づく頃には銀人形は待ち構えているだろう。
挟み撃ちにされれば逃げられそうにもない。
では、多少は賭けになっても横方向に逃げるか?
この位置だと微妙だが、挟み撃ちにされるよりはずっといい。
しかし、愚策よな。
長期戦になれば先に倒れるのは儂だ。
通路のように一対一には持ち込めないし、相手は疲れ知らずの上に戦力を補充できる。儂の足が止まってしまえばどうしようもない。
いくら儂が妙に強くなっているとはいえどな。
実を言うと、この遺跡に入ってから体の調子がやたらいい。
最初は若いというのはいいのうと思ったものだが、それだけでは説明できんな。
こんなに走っているというのにまだ限界ではないのだ。
体力も速度も十歳の子供のそれを遥かに上回っておる。
竜卵の成長あたりに原因がありそうな気がするが、都合がいいので究明は後回しにする。
だが、それとて限度はあるだろう。
無敵になったわけではない。
少しずつ息は上がっている。
今は実感がないが、疲れも溜まってくる。
いずれは力尽きるに決まっていた。
それまでに竜卵が巨兵人形を倒せるほどに成長すればいいのだが……いつになるかわからんのう。
なら、やろう。
逡巡は一秒で終えて、即決した。
真っ直ぐ前へ。
ただし、速度は少しだけ落とす。
まるで疲れで足が鈍ったように。
結果、後ろの人形どもとの距離が狭まる。
背中に足音が近づいてきた。
もう前に壁が見えている。
五体の銀人形もゆったりと迫ってくる。
後ろの三体も巨兵人形についてきているだろう。
包囲される。
ぶぅおんっ!
風を切る音がした。
後ろ。頭上から。
体を回して振り返る。
流れる景色の中、見えた。
巨兵人形がよっつの腕を振り上げている。
今にも巨大剣が落ちてくる。
おそらく全力攻撃。
逃げ場はない。
なければ作ればいい。
右手の竜卵。
手首の捻りを意識。
振り返る動作に合わせて、勢いをつけて押し出す。
添えた左手でも回転をつけ、まっすぐに巨兵人形へと放つ。
卵スクリューパス。
我ながら十歳児が投げたとは思えない速度が出た。
狙いは巨兵人形の顔面中央。
巨体に見合った大きな赤い宝石に激突する。
キイィィィィィンッ!
弾かれる。
儂の竜卵ではまだ威力が足りないのだ。
宝石は砕けず、竜卵が弾かれて空を舞った。
だが、当たったのはまさに剣を振り下ろそうとした瞬間。
巨兵人形の剣撃に隙が生じた。
剣は止まらない。
それでも、タイミングが狂い、狙いがずれ、軌道が曲がる。
ここからは賭けだ。
投げた勢いのままに横へと跳んだ。
なりふり構わない投身。
受け身も取れずに肩から落ちる。
痛みをこらえて、すぐに体を丸めた。
少しでも生き残る確率を高めるために。
直後、剣が落ちた。
まるで稲妻。
それが四本。
まとめて炸裂した。
風が巻き、砕けた床が暴れる。
粉塵がうっすらと辺りに漂う。
爆発でもしたのかと思った。
儂の小さな体が跳ねて、何度も床にぶつかり、飛んできた礫が傷つけていく。
「ぐっ、つう――!」
歯を食いしばれ。
痛みは無視しろ。
目を閉じるな。
観察を続けるのだ。
見失えば終わるぞ。
言い聞かせて、揺れの中で見続ける。
剣撃を終えた巨兵人形。
攻撃に巻き込まれた銀人形たち。
生き残りはひとつ、ふたつ、みっつ。
他は倒れたまま手足を震わせている。
あれをくらって行動不能にはなるものの、活動停止しないとは恐ろしい防御力だ。竜卵がなければ銀人形の一体でも手に余ったな。
だが、儂は生きておる。
体中が痛い。傷だらけだが、五体は無事。動ける。
そして、投げた竜卵を見失わなかった。
儂から近い位置に落ちている。
我ながら惚れ惚れするコントロールよ。
立ち上がり、走る。
リュックも捨てる。
巨兵人形は遅い。
銀人形は動けないし、間に合わない。
掬い上げるように竜卵を掴み、生き残った銀人形へ襲い掛かる。
反応の遅い一体目に卵アッパー。
倒れる銀人形を踏み台にして、二体目に卵ダンク。
三体目の掴みかかりをすり抜けて、背後から後頭部を卵撲殺。
まだだ。
止まるな。
動き出す巨兵人形。
だが、その肝心の初速が遅いのだ。
その間に儂は距離を詰め切った。
手ごろな瓦礫から、巨兵人形の右上段の腕に上り、一気に駆け上がる。
奴が剣を捨てて襲ってくれば、ひとたまりもなかった。
だが、巨兵人形の知能はその判断を下せず、地面に埋もれた剣を抜こうとして余計な手間をかける。
肩口に到着。
不安定な足場。
揺れに合わせる。
腰を落として構え。
目の前には赤い宝玉。
手には印の増えた竜卵。
竜卵を全力で叩きつける。
一撃で砕けるはずなどない。
だから、卵を置き去りにする。
そこをすかさず逆の腕での掌底。
宝石に卵を打ち込むように何度も。
宝石が砕けるのが先か。
巨兵人形が剣を抜くのが先か。
「ぅうおおおおおおおおおおおおっ!!」
吼える。
宝石に細かいひびが走った。
回転を上げる。
手が焼けるように熱い。
足場が大きく揺れる。
視界の隅。
巨兵人形の右手の一本がくる。
時間がない。
勝負に出る。
下から上へ。
掬い上げる一打を放った。
渾身の一撃で宝石に亀裂。
だが、砕けない。
しかも、竜卵が表面を滑って宙に浮いてしまう。
巨兵人形の頭より高い位置。
とても儂の背では届かない。
下から迫る右手。
そこに自ら飛び込んだ。
巨大な指先を踏む。
ほとんど激突したようなものだった。
全身をバネにして着地したが、ほとんど意味がない。
体の内から嫌な音が聞こえた。
それでも。
それでも動ける。
そして、奴の指先は儂の体を打ち上げた。
「これで」
浮かんだ竜卵を掴み。
全身の体重を余さず。
落下の勢いのままに。
眼下へと叩きつける。
キイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!
高い音がドームに響き渡る。
宝石の亀裂が深く、深く、深く、奥へと沈んでいく。
びくんと巨兵人形の全身が痙攣した。
そして、亀裂が最奥まで達した瞬間、表面が一気に割れ砕けた。
宝石の破片がまるで光の粒子のように溶ける光景は美しい。
弛緩した巨兵人形の肩に着地した儂は大きく息を吐き出して、告げる。
「儂の勝ちじゃ」
そんな儂の宣言がきっかけになったわけではないだろうが、地震でも起きたように足元が揺れた。
ゆっくりと巨兵人形が前のめりに倒れ始めたのだ。
「ぬ、お、おおおお!?」
儂は慌てて背中側に逃れるが、疲れのせいか、途中で足が間に合わなくなってしまう。
結果、巨兵人形の背中を転げ落ちる事になった。
「ふう……」
瓦礫だらけの石畳の上に大の字で倒れたまま、天井を見上げた。
また増援が来るかもしれんので休んではいられんが、一息ついても罰はあたらんだろう。
「疲れたわい」
しみじみと呟く儂の手の中の竜卵には印が増えていた。
それも、大量に。




