13 鬼ごっこ
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響いてくる音は段々と大きくなっている。
加えて、微かに地面が揺れる感覚まであった。
これらを合わせて考えると、嫌な予想が生まれてしまう。
青柳君曰く、
『巨大なラスボス登場ですよ!』
だったか。
つまり、向こう側から巨大な何かが儂へと迫っているという事だ。
音からして金属。
具合から見て二足歩行の――高確率で巨大な人形の遺跡群かもしれない。
歩くたびに地面が揺れているのだとしたら、巨人と形容する他ないサイズと重量になると思われるのだが……。
ちなみに、撤退という選択肢はない。
ちらりと振り返れば入ってきた扉がなくなっていた。
じっくりと見ていないが、周辺の壁と区別がつかんようになっている。
なるほど、これでは隠し扉を探しても徒労だろうの。
意識的に呼吸をひとつ。
大聖堂ではなく妙な場所に出てしまった事。
巨大な何かとの戦いが待ち構えているという事。
色々と思い浮かべる。
それを、
「知った事かよ」
と吐き捨てた。
驚きはしたが関係ない。
シャンテを救うだけだ。
そして、真っ直ぐに走り出した。
闇の奥に向けて全力疾走。
リュックの留め具にひっかけたランタンの灯りが闇を抉っていく。
接敵はすぐだった。
時間にして十秒もない。
振り返っても壁は見えなくなっただろう頃。
金色の輝きが煌めくのと同時。
巨大な人型がそこに見えた。
瞬時に観察を終える。
基本は先の人形と同じ。
金属の体に、頭部の赤い宝石。
大きく違う点がよっつ。
色が違う。あちらは銀色で、こちらは金色だ。
腕の数が違う。あちらは二本で、こちらは四本。
装備が違う。あちらは無手で、こちらは全ての手に剣を持っている。
そして、何よりサイズが違う。あちらは人間の大人程度で、こちらは五メートル以上あるだろうか。
とりあえず、巨兵人形とでも名付けるか。
最初の人形は銀人形にしておこう。
儂から近づいてくるのは想定外だったのだろう。
即座の迎撃はない。
奴の動きに次の行動を選択するような間ができる。
見逃す理由がない。
「ふん!」
すれ違いざま。
踏み下ろしたばかりの足。
神殿の柱を思わせる重厚さ。
見上げるようなそれに竜卵を叩きつけた。
キイィィィィンッ!
既に聞き慣れてきた音を背後に聞く。
止まってはいられない。
踏み潰されるどころか、振り回す手足にぶつかっただけで致命傷になりかねないのだ。
一気に巨兵人形の足元を駆け抜けた。
三秒数えてから振り返る。
巨兵人形の姿は灯りがギリギリ届く位置にある。
往々にして重量の大きいものはすぐに止まれない。
儂と擦れ違ってからもしばらく歩を進めて、ようやく足を止めて、こちらへと振り返ったのだろう。
そう、振り返ったのだ。
「……効かんか」
儂が竜卵で打った右足。
傷どころか、へこみすらない。
再びこちらへと向かってくる歩調にも変化なし。
この竜卵では有効打にならん、と。
では、決まりだ。
儂は巨兵人形に背を向けて、一目散に走り去る。
勝ち目もないのに戦うかよ。
そもそも、こいつを倒したところでシャンテに会えるわけでもないのだから、相手をするだけ時間の無駄だろう。
逃げられるなら逃げる。
走る、走る、走る、走る、走る。
追ってくる足音は一定。
逃げ始めた時の距離は保てている。
巨兵人形は一歩が大きいものの、挙動自体は早くないおかげだ。
そうして、頭の中でのカウントが二十秒を過ぎた。
不意にランタンの灯りが壁を浮かび上がらせる。
まっすぐ走れていたとしたら、入ってきたのと逆側に到着したはずなのだが。
「――っ!」
速度を落とす。
正面の壁面にいくつもの魔法陣が浮かび上がったのだ。
壁際に咲いた薄紫の輝きが闇を照らし出して、そこから銀人形がのっそりと這いだそうとしている。
魔法陣の数は十体。
入口の事を考えれば出口も一筋縄ではいかんと考えていたが、こうくるか。
背後に巨兵人形で、正面に銀人形が十体。
侵入者の始末のためなら一対一などするわけがないものなあ。
質か数かで迷うぐらいなら両方とも投入するに決まっている。
「好都合、だ」
進路変更と同時に再び加速。
十体の内、一番右側にいた銀人形に向かう。
銀人形が魔法陣から出た直後のタイミングで接敵し、勢いのままに跳躍。銀人形の顔面に卵を叩きつけた。
しびれるような感触。
卵と壁に挟まれた銀人形の頭が、宝石ごと砕けた。
巨兵人形には効果がなかったが、こちらは一撃で沈む。
前に戦った奴と同じ性能だ。
ますますもって好都合。
ようやくこちらを向いたばかりの隣にいた銀人形に飛び掛かり、地面へ倒しながら卵の一撃。
二体目の宝石が砕け散る。
今なら次の銀人形も狙えるが、ここまでだ。
儂は壁際を走って、銀人形たちから距離を取る。
振り返らない。
全力で走る。
音がきた。
風もだ。
斬撃。
頭上から巨大剣が降ってきた。
ふたつの音と風が衝撃となって抜ける。
ビルの上の大きな看板がそばに落ちてきたらこんな心地だろうか。
背後からの風にあおられるのを、必死にバランスを取りつつ振り返る。
巨兵人形の一撃。
剣が直撃しただろう壁面が抉られ、石畳に亀裂が走り、粉塵が漂っていた。
これは掠めただけひとたまりもないのう。
ふん。
「隙だらけよ」
一撃を終えた姿勢のまま止まっている巨兵人形。
その足元に駆け込む。
狙いは剣の向こう側。
巨体の味方のせいで視界を奪われて、立ち往生している銀人形ども。
漂う煙に紛れて接近し、儂から見て最奥の三体を狙う。
一体目、先制の卵ストレート。
二体目、反応前に卵サイドスロー。
三体目、掴みかかってきたところをしゃがんで回避し、落ちてきた卵を掴み取って、そのまま卵アッパー。
そして、再び走る。
銀人形は追おうとしてくるが、倒れた味方が障害物になって出遅れている。
再び風を感じた。
見る余裕もなく、前に飛び込む。
足裏を風圧が押す感覚に冷や汗が出る。
巨兵人形に二撃目。
今度は風に身を任せるように転がり、立ち上がると同時にダッシュ。
ただし、巨兵人形に向けて。
最初と同じだ。
左足に竜卵を叩きつける。
キイィィィィィンッ!
効果、なし。
ダメか。
竜卵の印がまたひとつ増えておったから、いけるかと思ったのだがのう。そこまで甘くはないらしい。
再びあの臨死の戦場に踏み込まねばならんようだ。
恐怖はある。
なにせ、当たれば死ぬ。
だが、そんなものは銀人形が相手でも一緒だ。
その程度の覚悟はとっくの昔にできておる。
元よりこの身は一度死んだ身よ。
戦うという選択ができるだけ行幸。
儂がやる事は変わらん。
シャンテを救うためには、ここを抜けださねばならん。
走って逃げれるなら良かったが、どうやら出口を探すにもまずはこやつらを倒さなければならないらしい。
問題は巨兵人形をどうやって倒すかだったが、餌を出してくれおった。
そういえば、こういう遊びがあったのう。
懐かしいものだ。
旅先の村の子供とよくやった。
割と得意だったのじゃぞ?
「さあ、鬼さんこちら、手のなる方へじゃ」
果たして鬼は人形どもか、それとも儂か。
最後に残った者だけが知る事のできる、命を賭けた鬼ごっこを続けるとしようかのう。




