第4話 肉食獣のスカウトがやってきた
「どうしたの? 遠くの方を見て」
「いや、軍人さんに誘われたんだけど……」
「まさか、勧誘!? アンタが!?」
「う、うん……」
「国もなりふり構ってられないのね」
「まあ、人が足りないってずっと言っているからね」
「そう、けど死に行くようなものよ」
「……」
母の反応からしてあまりよく思っていないようだ。それもそうだ、父が腕を無くしたのだから、こんな苦しい状況なんだから仕方がないのは、本人も分かっているが、愛する人が帰って来たら片腕が消えていたんだから。
「まさか、入るんじゃないでしょうね」
「ま、まさか、私、凄く運動できる方じゃないし……」
「そうよね、訓練だって大変なんだもん」
「そうだね……」
「お父さんは何とか生きて帰れたけど……」
「ま、まあね、そんな事よりさ……」
これ以上はマズいと思った私は、不器用ながら話題を変えた。
しかし、話せる話題なんて、同じ避難区域のおばさんの事とか、支給品の事、暗い話題しかないから、災害前の日常を思い出して話すも、行きつく先は、早くあの頃に戻ると良いね、どうしても暗くなってしまう。
避難区域の中心で人が集まっている。ほとんどが男ばかり、若い女性も少なからずいる。皆の目線の先には軍人、その中にオレリアの姿もいた。
「集まりがあるって聞いていたけど、これのこと?」
「ああ、お母さんとアメリーか」
集まっている者の中には、ウチの父親も混ざっていた。
「お父さん、また戦いに行かされるの?」
「まさか、流石にお荷物だよ」
「じゃあ一体?」
「もし避難区域にゼノがやって来た時の対処法だって」
「対処法?」
「にわか仕込みの銃の使い方講座さ」
「お父さん、片腕だけど使えるの?」
「アメリーはホントずけずけと言うな~、まあこれでも少しばかり戦場経験がある者、銃の使い方は分かっている。まあ教師になれってことだ。お母さんとアメリーにも教えていくからな」
「嘘でしょ、私銃なんて持てっこないわ」
母は否定するも、決まりだから、と父に説得させられた。
ゼノは普通の生き物じゃない、様々な姿かたちをしていて、驚異的な再生能力を持っている。包丁とか拳銃なんかじゃ歯が立たない。アサルトライフルとかを使ってやっと倒せる奴らばかりだ。特に力のない女性はなおさらだ。
「アメリー……その、なんだ、あまり張り切らないようにな」
「どうしたの? いつもなら何でも一生懸命やんなさいって言うのに」
「いや、その、銃は危ないんだよ、訓練中にケガだってするかも」
「まあ、真剣にはやんないけど……」
父は珍しく消極的だった。
国の為に、人様の為に、馬鹿真面目に頑張る人なのに
そんな人が私にサボるように言って来たのだ。
「おや、また会ったね」
「げ、また見つかった」
なんでこの人は私の事を見つけられるのだろうか、そんなに目立つ格好はしていないはずなのに、またオレリアに会ってしまった。この避難区域、そこまで狭いわけじゃないのに
「こちらは御両親かな?」
「はい」
「……ほう、あなたの娘さんでしたか」
オレリアは父の失った腕から、なぞるように顔を見て喋る。
何かを警戒しているような気がした。
「はい、娘です」
「お名前は」
「ルイピジョンです」
「初めまして、オレリアリオンです。失礼ながらその腕は戦地で?」
「ええ、恥ずかしながら食い千切られまして」
「いえいえ、恥ずかしいなんて名誉の勲章です」
母はオレリアの、名誉の勲章、と言う言葉を聞いた瞬間、ムッとオレリアを睨んだ。母とオレリアは今後仲良くなることは無さそうだ。
「確か、軍用の銃を使える者が何人か、その中にゼノとの戦闘経験者もいると聞いていましたが、あなたの事だったのですね。娘さんとは先程お会いしまして、彼女に才を感じて言葉をかけていたのです」
「そ、それは、軍に引き入れるという事ですか!?」
「ええ、彼女は私の隊に必要と」
「む、娘は銃は勿論、勉強も運動も不出来で、今時の若者と言いますか、その、祖国に対する忠誠といいますか、そう言ったものも薄いので、そちらでご迷惑をおかけするかと……」
度を越えた謙虚さ、というか何かを否定しているような言い方だ。父は、私の話が上がってからずっと冷や汗をダラダラと流している。
「銃の扱いは、入ってから私がみっちり教えます。その前にもお父様の方で、教育もされますし、娘さんが迷惑をかける事はありません」
「……で、ですから」
父はどんどん弱くなっていく
そんな父を救ったのは長年一緒に歩んできた母だった。
「もう、戻ってください! まだケガも癒えていないのに、あれやこれや手伝ってくれってだけでウンザリなのに、今度は私達の娘に手を出そうなんて、失礼にも程がありますよ!」
「これは失礼、奥方、軍人達は肉食系なもので、焦っていました。ですが、このままでは私たちは負けてしまう。ただ、殴られ続けるのは嫌ではありませんか? 私は嫌だ、ただ殺されるだけなんて」
オレリアはそう言い残し戻って行く、両親は警戒の眼差しを離さなかった。私が悪い男に騙されていたらこんな顔をしているんだろうなって思った。




