第2話 オレリア リオンというメスライオン
昨日の能力者になった彼は居なくなっていた。軍に連れて行かれたのだ。今頃、英雄みたいなおもてなしを受けているだろう。味の薄い、栄養と腹を半分くらい満たす食事じゃなく、ガッツリと分厚いステーキとか、軍のコックが作るちゃんとした物が出されているはずだ。彼がビーガンじゃない事を願う。
「どうしたのアメリー? 苦い顔して何処を見ているの?」
「何でもないよ、ただ昨日のアフリカ人の男、今頃楽しんでいるのかなって?」
「ああ、徴兵された彼ね、嫌がっていたけど」
「そんな奴でも、例え愛国心が無い奴でも、金の為ならやるもんでしょ」
「そうかしら、お母さんなら逃げ出したいわ」
「本当なら逃げ出したいよ、けど逃げられない、こんな物騒な世の中じゃね」
「隣に住んでいたジーンさん、その一家は逃げちゃったけどね」
「お父さんが戦地で死んで、奥さんおかしくなってたからね」
「でも、お子さんの事考えての事だと思う、もっと安全な国はあるからね」
「道中殺されてなければいいけど……」
「こらっ! そんなこと言わないの」
「そもそも、40代の女と働けない子供2人、受け入れてくれる国があるのかしら」
私と母はそこまで愛国心は無い、フランスの為に死んでくれなんて言われても、絶対に断ってやる。けど父は違う、国の為に戦地に向かったのだ。そして……
「おう、2人ともどうしたんだ?」
「将来について考えていたの」
「そっか~、アメリーも大学生だもんな」
「もう大学なんて意味無いよ」
「そんなことないさ、この戦いが終わったらまた大学生に戻れる」
「それってアベルを倒した後ってこと?」
「そ、そうだが……」
「今、この不利な状況で勝てると思っているの?」
「お、おい、あまり大きな声で言うな、聞こえるだろ」
「いいわよ、どうせ皆そう思っている。勝っても元の生活に戻れないって」
「……」
父は黙ってしまった。娘の反抗期に何も言い返せない弱気な父、そんな父だが愛国心ってモノは持っていた。アベルによってゼノの被害が拡大し、兵士を募っていた時、迷わず志願したのだ。運動とか出来るタイプでは無かったが、努力という精神力で銃の扱いや、大変な作業もやり遂げていった。仲間たちとゼノを倒したと報告を聞いた時、母と私は驚いた口が塞がらなかった。てっきり後方支援とか地味な作業をしていると思っていたからだ。
しかし、現実は甘くはない、ついこの間、右腕が無い状態で帰ってきたのだ。ゼノに食い千切られたらしい、運よく仲間に助けられたが、もう戦う事は出来ない、そんな障害者になってしまった父に贈られた物は、配給で貰えなさそうなほんのちょっと良い食べ物、今はどこで使うのかわからない金、そして皆からの労いの言葉、私達ピジョン家は国に貢献したんだぞっていう評価だけだった。
「そろそろ、ボランティアの時間だから」
「そ、そうか、頑張ってくるんだぞ」
私は避難区域のボランティア活動をしている。ボランティア活動の主な仕事は、避難区域の配給の調理、掃除、警備、諸々皆で協力してやっている。参加しないと冷たい目で見られるし、道端で寝てばかり文句ばかりの、お婆さんと同じ扱いを受けてしまうからだ。働くことが難しいとは言え、悪態までついてしまうと、虐めを受けるし、困った時に誰も手を差し伸べてくれないのだ。消えそうな蝋燭みたいな彼女は明日死んでもおかしくない。
今日のボランティア活動は、配給の食事の手伝い、ジャガイモの皮を剥いたり、野菜を切ったりする。生の野菜だからつまみ食いが出来ないのが残念だ。
「ラタトゥイユか? ジャガイモ入っているのか?」
「そうですが、何か?」
「ズッキーニの割合と玉ねぎの割合が酷いな、これほとんど玉ねぎとジャガイモ食べているのと変わらんだろ、私が日本で教わったカレーとかいうものを教えてやろうか? 肉は……ないのが厳しいが」
「なんですか、馬鹿にしに来たのですか?」
私の前にやって来た女は、軍服を着てがっしりとした体形、けど顔は小さいし整っている。赤い瞳がルビーのよう、メスライオンみたいな女だ。
「これは失礼、どうせならと思い、親切心で聞いたんだ」
「そうですか」
「すまないね、ところで君、軍に入らないかい?」
「けっこうです。私、運動とか苦手なので」
「そうか、結構才能ありそうだと思ったのだが」
「だったら、男を勧誘すればいいのでは?」
「確かに、男女公平とは言っても、男性の方が力はあるからね」
「ええ、銃なんて重い物持てませんもの」
「そうでもないさ、私だって使っているのだから」
「そうなのですね、てっきり男を誘う勧誘係かと」
「君、友達少ないだろ」
「ええ、別に1人で生きていけますし」
「最近の若者って感じだな、って私はまだ30代だがな」
「……ここへは何をしに?」
「ああ、実は本当に勧誘係なんだ。女性の部隊を作ろうと思ってね」
「ああ、確かに見た目はカッコいい系ですもんね。さぞモテるのでしょう女の子に」
「誉め言葉と受け取るよ、是非入隊考えてくれ」
「だから、入らないってば!」
「私の名前は、オレリアリオン、オレリアと呼んでくれ」
そう言って彼女は消えていった。無理やり握手された手は、女性とは思えない程、ゴツゴツとした手だった。素人の私でも分かる、彼女はちゃんとした軍人、本当に女性の部隊を作ろうとしているんだ。けど何故なのだろう。そんなに人手不足なのだろうか。




