第1話 アベルが作った腐海塔とそれを見上げるアメリー
この物語は、前作「世界の意思にさようなら」と同じ世界、同じ設定で書かれていますが、舞台は日本ではなくフランスに変わっています。前作を読まなくても大丈夫ですが、前作の登場人物が登場することもあります。もしお時間ございましたら、手に取って下さると嬉しいです。
1889年の万国博覧会のために建設されたパリを象徴するエッフェル塔、今やその面影は無い、ただ大きなカビや菌類で汚染された悍ましい象徴になっている。日本のゲーム、バイオハザードに出てきそうな気持ちの悪い存在となってしまったのだ。『世界の意思』とかいう化け物になった人間、アベルグランバーレが自分の力を示すために作った、と皆が言っている。
「あ、腐海塔からゼノが生まれてる」
腐敗、特殊な微生物を生み出す事ができるアベルグランバーレは、その能力を使ってフランス中を滅茶苦茶にした。大地はカビによって、白や黒色のカビまみれになり、石や舗装された道路はドロドロになってしまった。家や建物から見たことのないキノコや不気味な植物が生え、ペットや近所の人、更には死体さえ汚染され、私達を襲い始めるのだ。たった数週間でフランスを変えたアベル グランバーレは、人々から腐海のアベルと呼ばれるようになった。
「ゼノって、巨大樹から生み出されるモノなんじゃなかったっけ?」
「いまさら何言ってんの、アベルは化け物なんだよ、『世界の意思』って奴は世界樹やゼノを操れる能力を持っているんだろ? あいつは、あいつ自身が世界樹なんだよ」
「ああ、そうだったな、こっちは兵力が、力がどんどん減っていくのに、向こうさんは簡単に補充できるって言うのか……。くそったれ、くそったれ……」
「おいおい、あんた大丈夫か?」
「俺の、俺の息子を返してくれよ……」
避難区域で泣いている男性は今にも壊れそうだった。
アベルが現れるまでは、世界樹が地面から現れたぐらいで済んでいた。勿論、被害に遭った町はパニックになったし、死者も出た。その後、時々現れるゼノとかいう化け物に怯える毎日が始まった。まだ、熊の獣害ぐらい程度だったものが、国の存亡にかかわる重大な問題へと変わってしまった。
「アメリカは助けてくれない」
「しゃーないさ、世界樹の被害は全世界なんだ」
「そもそもアメリカの方が酷いって噂だぜ」
「武器の支援も無理だって言われたらしい、もう終わりだよ」
「べ、別の国に避難しよう」
「何処が受け入れてくれるんだよ、自国だけで手一杯だってのに」
ここに光は無い、ただズブズブと落ちていく沼地、アベルの汚染は人々の心にまで広がってしまっているのだ。私はそんな周りに憤りを感じていた。けど、ただムカついているだけで終わってしまう。私には何の力もない、ちょっと勉強が出来るだけ、中のやや上ぐらいの人が、どうやって熊の巨体をもつ化け物に勝てるだろう。アベルは更にその上、神に匹敵する化け物。
どうせ、足手まといになる……
私は今やっと自分も底のない沼に入っていた事に気が付いた。
冷たくジメジメとした世界に、1つの光が差し込んだ。ある少年の体から鉄の固まりのような物が生成されていた。ザブという能力者の誕生だ。その光景を見た周りの人たちは、彼の元に駆け寄って祝福した。戦士の誕生だと
彼の肌は黒かった。フランスではアフリカ系移民を受け入れていた。私が生まれる前からあった労働問題を解決するためだ。つい少し前までは、そのせいで失業率が、フランスの景観が、肌の色とかそう言うんじゃなく、民族や価値観の違いで問題になっていた。残念ながら、肌の色とか目の細さで差別する奴もいた。
今はどうだろう、そんな下らない事で喧嘩することは無い、そんな下らない事で無駄な力を使う余裕なんて残っていないのだから。
彼はアフリカ出身だった。昔からフランスに住んでいる訳では無い、数年前に自分の為にここに住み始めた者、彼は軍に入って戦う気は無いと言った。だが、周りの目は違った。長年フランスに住んでいる人は勿論、同じ移民のアフリカ人でさえ、彼を虐めの様に囲って追い詰める。そして、誰かがチクった軍人によって連れて行かれた。凄く丁寧に歓迎されていた、まるで実績のある選手を勧誘するかのように、たぶん金の話、待遇の話をしているのだろう。
世界樹からゼノが現れ、それに対抗するためなのか、それとも神様の悪戯なのか、全く分かっていないが、一般的な人と比べ治癒の速度が高く、不思議な能力を使えたザブは重宝された。そしてその内の1人が大きな戦果を残したのだから、民衆のザブに対する期待値は異常なのだ。
私も選ばれたら行ってあげるのに……
宝くじに当たれば良いかなって感じで毎日を過ごしている。
軍に入れば、ゼノをバンバン倒して、英雄みたいな扱いされるはずと、妄想をしながら寝床に入るのがいつもの日課だ。
注意、ハッピーエンドとはならないと思います。
何卒よろしくお願いします!




