第五話 『花火大会の帰り道、突然の雨』
夜空に、大きな花火が咲いた。
ドォン――という重たい音が胸に響く。
河川敷には多くの人が集まり、色鮮やかな光を見上げていた。
「……綺麗」
雨宮しずくが小さく呟く。
その横顔を見て、恒一は少しだけ目を細めた。
夏祭りのあと、三人はそのまま花火大会にも来ていた。
ブルーシートの上。
並んで座る三人。
どこにでもある夏の景色のはずなのに、不思議と特別に感じる。
「白雪、お前こういうの好きなんだな」
「嫌いではありません」
そう言いながら、美月は花火を見上げる。
夜空の光が彼女の横顔を照らし、その姿は本当に“天使”みたいだった。
すると、美月はふいに尋ねる。
「恒一さんは?」
「ん?」
「今、楽しいですか?」
予想外の質問だった。
恒一は少し考えてから答える。
「……まぁ、悪くない」
「素直じゃないですね」
「うるさい」
しずくがくすっと笑う。
そんな何気ない時間が、恒一には少し眩しかった。
やがて最後の花火が打ち上がる。
観客たちの拍手。
そして、夏の終わりみたいな静けさ。
「帰るか」
三人は人混みの中を歩き始めた。
その時だった。
ポツッ。
頬に冷たい感触が落ちる。
「……雨?」
次の瞬間。
ザーッ!!!!
一気に土砂降りになった。
「うわっ!?」
「ちょ、急すぎません!?」
三人は慌てて近くの商店街の屋根下へ駆け込む。
しかし、すでにかなり濡れていた。
しずくの髪から雫が落ちる。
「はぁ……びしょ濡れです」
「風邪ひくなよ」
恒一がタオルを差し出す。
しずくは少し驚いたようにそれを受け取った。
「……優しいですね」
「普通だろ」
「普通の人は、ここまでしません」
その言葉に、恒一は返事ができなかった。
一方、美月は少し離れた場所で雨を見つめていた。
恒一は気になって声をかける。
「白雪?」
「……なんでもありません」
だが、その表情はどこか寂しそうだった。
「昔、家族で花火を見に行ったことを思い出しただけです」
静かな声。
美月がこんな風に過去を話すのは珍しかった。
恒一は少し迷ってから言う。
「また来ればいいだろ」
「……え?」
「来年も。三人で」
一瞬、美月は目を丸くする。
そして。
「……はい」
いつもの完璧な笑顔ではなく。
本当に嬉しそうに微笑んだ。
雨音の中。
三人の距離は、確かに近づいていた。
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次回は「しずくの過去と、消えた帰る場所」です。
お楽しみに!




