第四話 『三人で行く、はじめての夏祭り』
休日の夕方。
駅前へ続く商店街は、夏祭りの人混みで溢れていた。
提灯の灯り。
屋台から漂うソースの匂い。
遠くから聞こえる太鼓の音。
「うわぁ……」
雨宮しずくは目を輝かせながら辺りを見回していた。
その様子は、普段の無表情気味な彼女からは想像できないほど子供っぽい。
「そんな珍しいか?」
「こういう場所、あんまり来たことないので」
恒一は少しだけ驚く。
すると隣を歩く白雪美月が口を開いた。
「じゃあ今日は楽しみ尽くしましょう」
そう言った美月の姿に、恒一は一瞬視線を奪われた。
白を基調にした涼しげな浴衣。
普段より少しだけ大人っぽい髪型。
学校で“天使”と呼ばれる理由がよく分かる。
「……何見てるんですか?」
「いや別に」
「今、絶対何か思いましたよね?」
「思ってない」
しずくがじーっと恒一を見る。
「照れてます?」
「違う!」
そんなやり取りをしながら歩いていると、しずくが急に立ち止まった。
視線の先には射的屋。
「やりたいのか?」
「……ちょっとだけ」
珍しく遠慮がちだった。
「じゃあやるか」
恒一が財布を取り出す。
すると美月が先に料金を払った。
「今回は私が出します」
「なんで張り合うんだよ」
「別に張り合ってません」
絶対張り合っていた。
しずくは射的の銃を持つ。
だが――。
パン!
「きゃっ」
全然違う方向へ飛んでいった。
「下手すぎるだろ」
「銃って難しいですね……」
その後、美月も挑戦したが結果は同じだった。
意外と不器用らしい。
二人が悔しそうにしているのを見て、恒一は笑いながら銃を受け取る。
「貸してみ」
パン!
一発で景品のお菓子が落ちた。
「えっ」
「すご」
二人の視線が集まる。
恒一は少し得意げに景品を差し出した。
「ほら」
しずくは受け取ると、小さく笑った。
「……ありがとうございます」
その笑顔を見た瞬間。
恒一はなぜか胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
だが次の瞬間――。
「きゃっ!?」
人混みに押され、しずくがよろける。
反射的に恒一はその手を掴んだ。
一瞬。
しずくの体温が伝わる。
そして、それを見ていた美月が静かに口を開いた。
「……仲良いですね」
笑顔。
なのに少しだけ怖かった。
「いや、今のは転びそうだったから!」
「ふーん」
絶対納得していない。
祭りの喧騒の中。
三人の距離は、少しずつ変わり始めていた。
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次回は「花火大会の帰り道、突然の雨」です。
お楽しみに!




