第二話 『隣の天使は疑っている』
「……つまり、本当にただ泊めただけなんですか?」
白雪美月は腕を組みながら、じっと恒一を見つめていた。
朝。
相沢恒一の部屋。
小さなローテーブルを挟み、妙に重たい空気が流れている。
「だからそう言ってるだろ」
「でも、普通は知らない女子高生を家に入れません」
「それは……まぁ……」
反論できなかった。
正論だった。
すると、横でパンをかじっていた雨宮しずくがぽつりと言う。
「でも、この人は何もしませんでしたよ」
「言い方!」
恒一は思わず立ち上がる。
美月はじーっと恒一を見る。
「……本当に?」
「疑いすぎだろ!」
しかし、美月はため息をついた。
「最近、この辺りも危ないんです。だから心配しただけです」
その声音は、少しだけ優しかった。
恒一は頭をかく。
「悪い。次から気をつける」
「次がある前提なんですね」
「ないから!」
しずくはそんな二人を見ながら、小さく笑っていた。
その後、美月は朝食を見て固まった。
机の上にはコンビニのおにぎりとカップ味噌汁だけ。
「……普段、こんな食生活なんですか?」
「忙しいしな」
「栄養バランスが終わってます」
「そこまで言う?」
美月は冷蔵庫を開ける。
中身を見て、さらに顔をしかめた。
「何もありませんね」
「男の一人暮らしなんてそんなもんだろ」
「だめです」
なぜか強い口調だった。
「今日の夜、私が作ります」
「……は?」
恒一としずくの声が重なる。
「お礼です。昨日、騒いでしまったので」
そう言って、美月はさらりと髪をかき上げる。
まるで当然のように。
恒一は困惑した。
学校一の美少女が、なぜ自分の部屋で料理を作る流れになっているのか。
一方でしずくは、少しだけ嬉しそうに呟く。
「……なんか、楽しそう」
その小さな一言が。
止まっていた三人の時間を、少しずつ動かし始めていた。
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