見た目は美女、中身は450歳その名も魔法使いダリア
「じゃあノックしますよ?」
すこし緊張しながら、ドアの前に軽く握った手を差し出そうとしたその瞬間。
目の前の頑丈な木製の扉が、まるで爆発でもしたかのように勢いよく開いた。
「シエと新人ちゃんだねぇ!! よろしく!!」
鼓膜に突き刺さるようなハイテンションな声。
あまりのタイミングの良さと風圧に、私の心臓は跳ね上がり、思わず情けない声が漏れる。
「ひぇっ……よ、よろしくお願します……?」
完全に気圧されて一歩引いた私の横で、男がどうなっているかというと……。
うわぁ……泥水を無理やり飲まされたみたいな、ものすんごい嫌そうな顔をして天を仰いでいる。
「まぁまぁ中に入ってお茶の準備はできてるから」
満面の笑みで手招きするダリアさんに、男はあからさまに肩をすくめ、吐き捨てるように呟いた。
「お前やっぱキモいよ……」
「乙女に向かってそんな事言わないの!」
ダリアさんはわざとらしく両頬に手を当てて身をよじる。
その仕草は、10代の少女がやれば愛嬌もあるのだろうが、彼女の持つ大人の色香のせいで、妙な破壊力があった。
「本当に何歳生きてるんだよ。500歳くらいか?」
「そこまで行ってません!!450くらいですーー!」
………………450?450……450歳!?
え?450歳?え?見た目的にどれだけ多く見積もっても30代前半では……?
思わずダリアさんの顔を凝視する。きめ細やかな白い肌にも、目尻にも、年齢を感じさせるシワなど一つもない。むしろツヤツヤしている。
20代と言われたところで何ら信じられるぞ。これぞファンタジー………
「ごめんねぇ新人ちゃん、こんな非礼なやつは置いといてあたしといっしょに女子会しましょ」
驚愕でフリーズしている私の肩に、ダリアさんが優しく腕を絡めてくる。
ふわりと、甘いけどくどくない、いい香りが鼻腔をくすぐった。
「おい!」
「え?いや?いいんですか?あの人置いてきて……」
背後からツッコミの声が飛んでくるが、ダリアさんは華麗にスルーし、鍵の閉まる乾いた音を残してドアを無情にも閉める。
後ろからドアを叩く微かな声が聞こえた気もしたが、気のせいだろう。うん、気のせい。
「いいのよ。勝手に帰るでしょ。それにあの子がいてもつまらないし」
ダリアさんはクスクスと楽しそうに笑いながら、私を促して歩き出す。
そして、ふと私の足元に視線を落とすと、その綺麗な眉を少しだけ痛ましそうに下げた。
「それにしてもすごいことになってるわねぇ………とりあえず体洗ってきなさい。服なら貸すから」
言われて初めて、私は自分の惨状をまじまじと見つめた。
靴はべっとりと泥にまみれ、髪の毛も埃まみれだと思う。
そもそも服だってただの平民が着るような安物の、しかも着古した服だ。
あちこちが擦り切れ、泥や埃で見る影もなくボロボロになっている。
「ありがとうございます……!」
さすがにこのままの格好で上がっては、このピカピカで素敵なお家を汚してしまう。
ありがたくそのお言葉に甘えさせていただくことにした。
「ここがお風呂ね。使い方わかる?」
「はい多分」
「じゃあごゆっくり。服ならおいておくから」
優しく微笑むと、脱衣所の棚に綺麗に畳まれた衣服を置いて、パタンと扉を閉めて出ていった。
足音が完全に遠のいたのを見計らって、私はお風呂場へと一歩踏み出し、こらえきれずに声を上げた。
「うわぁぁ猫足のお風呂だぁ………えぇぇ初めてリアルで見たかも……あ、ドールハウスでは見たことあったかかな……これぞセレブ……ぷくぷく界隈か…!?」
◇◇◇
お風呂から上がり、用意されていた服に袖を通す。
それは私が今まで着たこともないような、上質な生地の、フリルとリボンがあしらわれたとても可愛いお洋服だった。
さて、ダリアさんはどこにいるんだ。
脱衣所の扉を開けて周りを見渡すと、廊下の奥に小さな木製のドアプレートのかかったお部屋があった。
『ダリアのお部屋』
多分ここかな?少しドキドキしながらノックをすると、「はーい」と鈴を転がしたような楽しげな返事がするので、ゆっくりとドアを開ける
「ただ今上がりました」
待ってくれていたダリアさんが振り返った瞬間、その綺麗な目をキラキラと輝かせた。
「いやぁー可愛い!似合ってるーー女の子私とフェシアちゃんだけだったから……嬉しいわぁ!!」
ダリアさんは両手を頬に当てて、まるで少女のようにピョンピョンと跳ねながら大はしゃぎしている。
いや、あなたのが可愛いよ……っ!!!




