まとめ♯4
21
「シャーベットランド」に旅行に来ているショパンとラフマニノフ。
ショパン「雪が降るとどこかへ移動したりする車が使えなかったり、何メートルも積もって溶けるまで身動きとれなくなったり、ろくでもねえなって思っていたこともあったけど、それも昔の話さ。雪をひとつの芸術として、美として感じることができるようになっただけ、僕は成長したみたいだな」
ラフマニノフ「見ろ、ショパン。雪のうさぎだぞ。10匹くらい作ったぞ。この一番大きいヤンキーみたいな目つきのうさぎが番長で、そのほかは子分だ。ショパンはうさぎたちが帰る宿を作ってくれないか?」
うさぎの目にはピンクダイヤモンドが埋め込まれていて、それはそれはとっても雪の色とマッチして美しかったに違いない。
ショパン「僕がピアノ曲を作曲するようなこだわりと情熱で、うさぎの家をつくってやるか」
ショパンが作った家はうさぎ本体より全然小さい、手抜きと思われても仕方ないものだった。しかし、ショパン日く、この家に入ろうとすると、うさぎが家に合わせて小さくなり、広い敷地を満喫できるようになっているらしい。
ラフマニノフ「雪に絵を描こう。この食器用洗剤の容器に絵の具とお湯を混ぜたカラー色水を入れて、お絵描きするんだ」
ショパン「これなーんだ!」
ラフマニノフ「なんだこの雪だるまにしか見えないものは」
ショパン「ド〇〇もんだよ。日本では国民的キャラクターなんだよ。現実世界でも実在するらしいよ。霊界にもド〇〇もんはいるらしいよ。会った人がいるんだって噂だよ。都市伝説みたいな類だけど。僕、このキャラクター好きなんだ!」
ラフマニノフ「都市伝説だろ?俺はド〇〇もんに会ったことがないが……」
ショパン「いや、ド〇〇もんは実在するよ」
2人は粉雪が降るシャーベットランドの人気の温泉に入っていた。
ラフマニノフ「雪を浴びながらの温泉は最高だよ。雪の肌寒さと温泉の肌温かさが絶妙に組み合わさって、素晴らしい感覚を体験させてくれる」
ショパン「あっ、サルが入ってきた。僕のイヤなアレを温泉の中でしないだろうね?なんかサルと一緒の温泉は嫌なんだけど。犬ならいいんだけどね。シベリアンハスキーとか」
ラフマニノフ「相変わらず細かいな。お前は。全く、その繊細さがあのバラードを生んだのかな」
ショパン「『明るくユーモアに満ちた彼自身の光の部分と、病弱で神経質だった影の部分が彼が生み出す美しい旋律の随所で伺い知れます』って言ってほしいね」
ラフマニノフは荷物からハンバーガーとフライドポテトを取り出した。
ラフマニノフ「ほら、食べろ。ペンギン君!」
ショパン「ペンギンって可愛いよね。僕、大好き。歩き方が特にヨチヨチ歩きで僕を笑顔にさせてくれるんだよね!」
ペンギンが何匹か、温泉の中に侵入してきた。美味しそうな食べ物につられてのことだ。
ラフマニノフ「なあ、ショパン。今、降っているこの雪の結晶たちをしっかり観察してごらん。面白いことに気づくぞ?」
ショパンは注意深く、雪の結晶を手に乗せ、目を細くして、見てみた。
ショパン「あっ、僕の顔じゃん。この雪。なんで?なんでこんなことが?あっ、ラフマの顔もある」
ラフマニノフ「この雪は自分の思った通りに形を変えてくれるらしい。面白いだろ?」
ショパン「僕もやってみる!」
ショパンはラフマニノフの目の前に降っている雪に自分の思念を飛ばした。そうすると、ラフマニノフの目の前に大きな葉っぱの形の雪が作られ、「粋な演出ありがとう!ラフマ」と書かれていた。
このシャーベットランドでは太陽がさんさんと照り付けながら、雪が降っているので、太陽の日差しと、雪を2種類、同時に楽しめるという地上世界では体験できない現象が起きる。
ショパン「ああ、太陽が最高!ずっとこのままでいたーい。青い空から雪が降ってくるという神秘。この体験からまた曲を生む霊感が育まれそう」
ラフマニノフ「俺も快晴の空を見ながら、太陽の光に照り付けられるほど嬉しいこと、幸せなこと、快感なことはないと思うぞ」
ショパン「ねえ、ラフマ。なんで、神は地上世界を作ったんだろう。この霊界だけあればいいのにね。霊界のほうがずっと幸せになれるしね。地上世界、つまり、物質界なんていらなくない?戦争とか貧困とか嫌なことばかり目がついて、地獄としか言いようがないよね」
ラフマニノフ「でも、霊界にずっといると飽きてこないか?全て自由で思い通り。なんか、刺激が欲しくなるんだと思う。魂がな。不自由を味わったから、自由に幸せを感じることができるんだよ。霊界では全て自由だから、その自由が当たり前になり、だんだん幸せという感情が薄れてくるかもな。だから、あえて不自由の多い地上世界に行き、不自由や苦痛を味わうんだ。そうすることで、感覚をリセットさせ、また自由に幸せと強く感じるようになれると思うしな。物質界でしか味わえない喜びもあるしな。この霊界ではお腹が空くことがないから、物質界のほうが食事も美味しいと思うぞ。肉体による生理現象で、食欲があるからな。肉体にいるときしか味わえない幸せがあるんだと思う」
ショパン「じゃあ、ラフマは物質界にまた転生したいと思うの?」
ラフマニノフ「絶対に嫌だ!あくまで俺は考えを述べただけだ。戻りたいなんて少しも考えちゃいないよ。それより、あと20分後にアイスレースを2人で参加するように予約してあるんだ。そろそろ温泉から出るぞ?」
ショパン「そんなの聞いてないよ」
ラフマニノフ「言ってなかったからな」
22
満月が水面を黄色く輝かせている。
川か、湖か、海かはご想像に任せよう。その水の上を船が浮かんでいた。
静かに、月明かりに照らされてその船に1人の人間が腰を下ろして座っている。
何か手紙を書いている。
辺りは誰もいないで不気味な静寂さだけがその人間を包んでいた。
月の光を頼りに手紙にペンを走らせている。幻想的な雰囲気だ。
しかし、人間の表情は何やら涙が頬を流れて、くしゃくしゃな顔をしていた。
その人間の表情を考えるに、誰かに別れの手紙でも書いているかのようだ。
いや、きっとそうに違いない。
手紙に彼の涙がこぼれ落ちて、インクが歪み、見えづらくなった。
「僕たち、もう会えなくなるんだね⋯⋯」
その人間は心の中でボソっとつぶやいた。
その人間はフレデリック・ショパン。
川でも湖でも海でもなく、なんと田んぽに小さな船を浮かべ、焼肉を焼きながら、曲の構想を練っていた。
手紙を書いていたのは、ショパンの作曲するときのやり方だ。まずは、曲にしたい感情をそのまま素直な文章で手紙を書き、その手紙からインスピレーションと刺激を受けて、旋律を受け取るという構図だ。
ショパンは田んぼが好きだった。祖国ポーランドの田園風景が彼に懐かしさという感情を与えてくれるからだ。
相棒のラフマニノフはショパンと違い、海で作曲をしている。海で日光浴しながら、波に揺られ、パソコンでだ。
ショパンは夜に度々、このように田んぽに船を浮かべ、カエルの鳴き声を聴きながら、作曲に励むことがある。
ラフフマニノフとはいつもー緒に行動してきたから、たまに一人になる時間が欲しいのかもしれない。
ラフマニノフ「よお!ショパン!約束の2時に来たぞ!曲の構想はだいぶ進んだか?」
ショパン「ラフマ。寂しかったよ。やっぱり、一人って寂しいね。この満天の星空と静寂な田園に船を浮かべて、美味しい焼肉を食べることは結構、楽しくて、幸せなひと時なんだけど。やっぱり一人より二人のほうがいいね。あえて、少し一人になる時間を生み出すことで、ラフマの存在が当たり前になっている感覚を新しく更新し、ラフマに感謝できるようになるようにしているんだが」
ラフマニノフ「そうだ。俺がいることは当然のことと思ってもらっては困る!感謝したまえ!」
2人は焼肉を食べながら、ワインとビールも飲みだした。
ショパン「あっ、カエルが肉を狙っている。あっ、食べられた」
ラフマニノフ「ここが霊界じゃなかったら、カエル焼きになっているところだったな。ここのカエルたちを酒にしてみないか?酒に浸してカエル酒をつくるなんてのは?」
ショパン「えーーー。ゲテモノ嫌いだよ。それより、最近、自分の存在が怖くなるよ」
ラフマニノフ「どういうことだ?」
ショパン「生前は死ねば天国はなくて、霊界もなくて、終わりだと思っていた。でも、人間は死後も永遠に生き続けるってなって、永遠に生きるなんて辛いなんて思ったりしてるんだ」
ラフマニノフ「しかし、死ねば全ておしまいだったら嫌だろう。俺は永遠に生き続けることを嬉しく思うよ。だから、ショパンとこのような予想外な新しい人生になったわけだしな。神を恨んだこともあるが、今は、幸せだからな。俺は」
ショパン「永遠に生き続けるって、怖いんだよね。ずっと意識があるってことだよね。なんか自分の存在が怖い」
ラフマニノフ「それより、ショパン。今回の手紙はどんな内容だったんだ?どんな思いを曲にしようと思っていたんだ?もちろん、お前のことだからピアノ曲だろうが」
ショパン「最近、ラフマが一旦僕から離れるって聞いたときの一瞬の絶望と悲哀をね。正直、ラフマと別れるのは、兄弟家族と別れることよりも怖いし、辛いんだ。心に穴が空いてしまう。たかが一瞬だけど、あのときの夢でのラフマの言動が僕を曲作りに向かわせてくるんだ。私の次なる超傑作を目指したい。ラフマが関係しているから、自分最大のお気に入りになると思う」
ラフマニノフ「ホタテも焼こうか。ああ、美味しいな!そんなくさいこといってないで、食べろ!」
ショパン「僕たち、ずっと一緒だよね?」
ラフマニノフ「もう、言うのも嫌だ。今まで何を聞いていたんだ?」
ショパン「存在していることの喜びと、永遠に消滅できない苦しさのはざまにいつも揺れている。僕の悩みを忘れさせてくれるのは君だから、これからもよろしく!」
ラフマニノフ「ショパン。焼肉が冷めるぞ?お前の分も焼いてやっているんだから、感謝しろよ!」
ショパン「ラフマ。聞いてる?真面目な話なのに」
ラフマニノフ「ああ、聞いてるよ。とにかく、必ず物事にはメリット、デメリットがある。善と悪。両面を兼ねそろえて、全ては存在している。存在していることの喜びがあるということは存在していることの苦しみもあるということだ。喜びだけをとることはできないし、喜びだけしか感じなかったら、その喜びすら、喜びと感じられなくなる。喜びと感じられるのは、苦しみがあるからなんだからな」
ショパン「そうだよね。苦しみがあるから、喜びがあるんだよね。どちらか一方だけってことはない」
ラフマニノフ「存在している苦しみを感じないようにするのはあきらめるしかないな。俺だって不意に怖くなり、不安になるよ。でも、それをショパンという酒で酔って忘れている時間を増やしたいと思っている。人から離れるな。特に俺からな。孤独になると、考える時間が増えて、辛くなるからな」
ショパン「君は相談役として優秀だね」
ラフマニノフ「これからもどんどん頼ってくれ。その代わり、俺も頼るからな。ギブ&テイクだ」
ショパン「お互い、助け合いだね。僕も頼もしい相棒を目指すよ」
ラフマニノフ「隠し事だけはするなよ。なるべくな!俺たちは素直になんでも言いたいことを言える仲を目指そう!」
ショパン「ラフマは言いたいことを全て隠さず言い尽くすタイプだから問題ない。内気な僕の課題だね。それは。」
23
ショパンは音楽学校に大きな劇場を作る計画を立てていた。
ラフマニノフ「生前は役者としても結構イケてたって噂だが、どうなんだ?」
ショパン「今、台本を書きまくっているからそれが完成したら劇場で生徒たちに発表してみたい。ラフマにも出演させるけどね」ラフマニノフ「えっ?俺も?」
ショパン「音楽家ばかりじゃなくて、俳優の演技も極めていこうよ。僕、俳優の世界にものすごい興味が昔からあったんだ。生前では、ピアノ音楽の作曲の道に進んだから、役者として活躍できなかっただけで、役者として本格的に頑張ったら、名俳優になるとまで言われていたらしい」
ラフマニノフ「お前の名演技か・・・期待はずれにならないようにな」
ショパン「期待していていいよ。自信があるからね」
ラフマニノフ「じゃあ、今、ここで何か演技してみろ」
ショパン「わかった。行くよ!」
「ああ、神様!!!なぜ?なぜ私はオーケストレーションがこんなにも下手なんでしょうか。なぜ?ああああああ!!!私より彼のピアノ協奏曲のほうが評価されている。こんなの悔しくないわけないではないかーーーー!ピアノ曲だけ上手かったと言われるのはもうこりごりなのにーー!ウウウウウ『できれば涙を流す』。神よ、何かを得るということは何かを失うということなのか。ピアノ曲が得意な代わりに、オーケストラが苦手。いやいや、待てよ」
ラフマニノフ「もういい!ショパン」
ショパン「まだ、途中だよ?ラフマ。せっかくこれからいいセリフが出てくるのに」
ラフマニノフ「期待外れで俺を楽しませてはくれないらしいな」
ショパン「じゃあ、ラフマはできるんだろうね。やってみせてよ!今のセリフをもう一度⋯⋯」
ラフマニノフ「いや、俺は俺の考えたセリフでいく!」
「怒涛なる静かな難しい和音から始まる私のピアノコンチェルト。今や地上では世界で最も人気で評価されている最高峰のコンチェルト。全て私のおかげなのだ。しかし、その曲のアイデアは神が与えてくれたのではないかと。才能も結局は神の気まぐれ。運なのだという輩がいる。しかし、断じてちがーーーーう!すべて私の実力なのだ!私がこのピアノコンチェルトを完成させるまでに払った犠牲、使用した時間、酷使した精神力は計り知れないだろう!!!だから、神のおかげではないーーー!」
ショパン「なっ⋯⋯⋯。ラフマ。お前!!!なんて演技力だ!圧巻だった。ラフマはオーケストレーションだけでなく、演技力でも俺の上を行くのか!!!ふざけるな!僕は認めない!認めないぞーーーー!」
ラフマニノフ「迫力がお前とは違うだろ?どうだ?参ったか?」
ショパン「いつからそんな上手くなったの?どのくらい練習したんだ?」
ラフマニノフ「まだ1年も経ってない。お前と付き合い始めてから、いつかお前をビックリさせてやろうと披露するのを楽しみにしていたんだよ。まさか、お前から機会をくれるとは夢にも思わなかったけどな」
ショパン「僕は長年、演技の研究をし、自分なりに才能を磨いてきたのに。たった興味を持ち始めて1年弱のラフマにもう抜かされてしまうとは⋯なんでーーーーーー!」
ショパンは悔しがって、這いつくばって、床を手でどんどん叩いて、喚いた。
ラフマニノフ「俺がこだわっているのは、いかに短時間、少ない練習量で、少ない努力量で向上するか、才能を伸ばせるか、上達スピードを最も気にしている。やはり、何となく工夫もしないで考えないで練習していても全く上達は遅くなってしまうだろう。ショパンより俺の方が努力の質が高かったということかな。ショパンには絶対に負けたくない。勝ちたいと常に思ってきたからな。何事もお前には勝ちたいんだよ!お前にその気概はあるのか?自分は演技が上手い!と油断して、満足しながら、全力じゃなく、手を少し抜いていた。甘い努力の仕方をしていたんじゃないのかな」
ショパン「言い返せない⋯まさかラフマが陰でそんな下積みをしていたなんてね⋯これからは油断しないよ。ラフマ。君は最高のライバルだ!見直したし、君は大したものだ!!!」
ラフマニノフ「俺が負けたくない。負けてたまるか。絶対に勝ちたい!この強い感情が湧き上がるのはショパンくらいしか今のところいない。うぬぼれるのはやめたほうがいいが、お前こそ、俺にそう思わせるのは大したものだな!」
アゲハ「お互いに認め合っていて、競い合っていて、最高のダチじゃない」
ショパン「ゲッ!アゲハ。いつの間に。神出鬼没だな。毎回」
アゲハ「私もその劇に出させてくれないかしら?ギャラはいらないわ」
ラフマニノフ「この劇はショパンと2人で行う神聖なものだ。手出しはさせん」
ショパン「でも、3人の方がより面白くなるから、アゲハにも役をあげよう。今、台本を書き直すから」
ラフマニノフ「決して、アゲハを俺ら2人が奪い合うみたいな三角関係愛憎劇にしないでくれよ?」
ショパン「そんなのあり得ないよ。アゲハにそんな奪い合いされるほど魅力ないし、美人でもないし」
アゲハ「あら、そんなこと言っていいの?ショパン。ラフマにあのことバラすわよ?」
ショパン「それだけはやめて」
ラフマニノフ「なんだ?あのことって??」
アゲハ「実は⋯」
ショパン「わかったよ。アゲハも主役にしてあげる。3人が主役ってことでいこう」
アゲハ「はーーーーー。楽しみだわーーー!!!」
24
音楽学校「エキスパートピアノ」で入学式が行われていた。
ショパンとラフマニノフがW校長を務め、当然ながら出席していた。
「次は校長のラフマニノフ先生よりご挨拶です」
「ワーーワーーワーー!ラフマニノフ先生!!!素敵!!!」
「あのラフマニノフが本当に登場だぜ?信じられるか?」
「すごい!!!!」
ラフマニノフ「皆さん、この度はエキスパートピアノにご入学おめでとうございます。私やショパンに憧れて入学してきた人も多いのではないでしょうか。しかし、たくさんの生徒たちがいるこの会場で少々、残酷なことを申し上げますが、私とショパンが直接指導できる人数は限られています。それ相応の能力や光るものが無ければなりません。しかし、皆様には自分には才能が無いと簡単にあきらめてほしくありません。なので自分の真の最大値の能力までとことんピアノ演奏と作曲をわが校で極めてください。やりきってください。ショパンや私を超える音楽家を輩出することがわが校の目標です。ぜひ、満足のいくまで音楽を追求してください。皆さまから、私やショパンを超える大天才が現れることを楽しみにしています」
「ラフマニノフ先生、ありがとうございました。次は、ショパン先生、お願いします」
「……」
ショパン「何故、私が現れるときは黄色い歓声がないのか不思議ではありますが、ショパンです。皆さん、こんにちは。この会場にいる生徒たちに私から言いたいことは3つ。
一つ目は私たちに憧れの感情をもないこと。私たちを超えるくらいの強い勢い、情熱を持ってほしいです。スゴイと思っているかぎり、超えられないかもしれません。まずは、私たちのレベルが普通だと思って、早く到達しようと試行錯誤して、成長していってほしいこと。
二つ目は優秀な人への嫉妬や憎しみや妬みを悔しさと負けたくないという気持ちに変えて、自分の向上の糧とすること。健全な嫉妬を持ってください。嫉妬も使い方によっては人をレベルアップさせます。
三つ目は僕のラフマニノフを横取りしないこと。僕はラフマニノフの正式な相棒であり、もし僕を超える人が現れても、ラフマをそそのかさないこと。
以上です。」
ラフマニノフ「おい、ショパン。気持ち悪いぞ!なんだそのセリフは」
「ショパンとラフマニノフってそんな仲なのかよ⋯⋯」
「やけにラブラブだな〜」
「なんか恥ずかしくない?」
ショパンの最後のセリフにより、会場中が変な空気になった。
「ショパン先生、ありがとうございました。それでは、ショパン先生とラフマニノフ先生から握手会を始めます。順番通りに並んでください。握手は一人10秒までです」
握手会が始まった。
「こうやって握手できるのが夢のようです。」
ラフマニノフ「ぜひ、私を驚かせるような音楽家を目指してください!」
「ショパンよーーー。抱いてくれ!頼む!」
ショパン「握手だけだよ。抱くのはラフマだけで十分だ」
ラフマニノフ「また、ショパン。勘違いされるようなことを」
「なんかショパンってキモくない?なにあの発言。天才は変わり者なのかしら」
ショパン「聞こえてますよ。今、僕の悪口言いましたね?」
「だって、変なこと言うから。」
ショパン「抱くのはハグって意味ですよ。ラフマとハグしたことがあったからそういっただけです」
「そのセリフもなんか浮いてますよ?」
ショパン「君はラフマを絶対にハグできないからヤキモチ焼いているみたいだな。ラフマは僕のものだからな。絶対に渡さない」
ラフマニノフ「ショパン。お前、いつも変だが今日は特に変だぞ?酒でも飲んで酔っ払ったか?」
ショパン「僕はラフマの相棒だって言ってるんだ。正々堂々と言ってみたかったんだ。君への愛だよ」
ラフマニノフ「ショパン⋯いつもの絶妙な距離感を取り戻したまえ」
ショパン「僕は正直に生きることにしたんだ。隠したくない。全てさらけ出す」
この一連のやり取りはすべて霊界の新聞やテレビで生放送され、大いに話題になったとさ。
25
ショパンとラフマニノフは音楽学校「エキスパートピアノ」に偵察に来ていた。
生徒たちの演奏を直に聞いてみたかったというのが理由だ。
優秀な生徒は基本、学校の先生に推薦される形でショパンとラフマニノフに紹介されるが、先生の感性だけでなく、自分たちが実際に聞いて確かめるということも重視したい項目だった。
直径数キロの円形会場にグランドピアノが数百個置かれ、生徒たちが全てのピアノで演奏している。こんな奇妙で壮大な風景は霊界でしか見れないだろう。
霊界のこの会場は特殊な作りになっていて、普通、ピアノとピアノを至近距離において、それぞれ違う演奏をさせたら、音が混ざって演奏の良し悪しの判断がしづらくなってしまうということが起きそうなものだが、ここでは起きない。それぞれピアノに座った人に周りの音は聞こえないし、そこに近づいてきた人もそれぞれ隣の音が混ざり合うことなく、その近づいた一番近いピアノの音しか聞こえないようになっている。なので、ショパンとラフマニノフはそれぞれ何度も演奏の仕方が違うその生徒独自の味のみを楽しむことができた。歩きながら、何度も演奏のハーモニーが違うものが、動く列車の車窓の景色のように変わるのは、少し慣れない体験かもしれない。
ショパンはある生徒の前で足を止めた。
ショパン「君、独特な演奏の仕方するね。すごい激しい演奏ばかりだ。ここまで嵐のような激しさを持つ演奏は今まで聞いたことがあまりないな。でも、その仮面は外したまえ。私たちに顔を覚えてもらえないならば、これからの音楽活動で不利になるだろう」
「あなたの忠告は全くアテになりません。私はラフマニノフさんのお気に召す演奏をしたかっただけです。ショパンには認められなくても結構です」
ラフマニノフ「アハハハハ」
ショパン「何を言ってるんだ!君みたいな態度をしてきた輩は初めてだ。誰だ!お前は!」
ラフマニノフ「芳樹だよ!」
ショパン「えっ!芳樹?僕が冷たくあしらったことのある、あの⋯」
芳樹「ラフマニノフさん。ショパンを驚かせることができました。大成功です!!」
ラフマニノフ「今までにないタイプの演奏スタイルを確立させている最中だからな。ショパンが足を止めて、芳樹にどういう反応を示すか興味あったが、やっぱり予想通りにの結末になったな」
ショパン「芳樹!お前の演奏スタイルは芸術にドロを塗る行為だ。気を付けたほうがいい。私のエチュード10-3を弾いたら、きっと酷評されるだろう。情緒豊かに弾けないからな」
芳樹「やっぱり、ショパンは意地が悪いな。さっきまで褒めてくれたと思いきや、正体が知れた瞬間に意見を変えやがった!それに別れの曲はショパンが作曲した当初は、ヴィヴァーチェで明るく快速にってはずだった。最初の思惑どおりに弾いてもらえただけありがたいと思え!別れの曲を早く激しく弾くは僕だけだから価値の高い貴重な個性だろ?」
そう、ショパンが足を止めたのはエチュード10-3「別れの曲」を芳樹があり得ない快速に激しく弾いていたからである。
ラフマニノフ「俺がたくさん指導した甲斐があって、ショパンを少しでも驚かせることができてよかった。芳樹も内心、嬉しいんじゃないの?」
芳樹「ショパンは結構、心が狭いので、認められてもラフマニノフ師匠に褒められることよりは嬉しくありません」
ショパン「ラフマ。芳樹を一流のピアニストに育て上げるって言っていたもんね。そうか。まあ、君の演奏は私の足を止めさせるほどの個性を持っていたことは確かだった。斬新で意外性の塊だ。それは認めるよ。せいぜい、頑張りたまえよ」
芳樹「彰一はすぐ隣にいたんですよ?ラフマニノフさん、気づきました?」
ラフマニノフ「いや、気づかなかった。あまり、私が注目するような演奏はしてなかったからかな。顔を見るのを忘れていた」
ショパン「そうだよ。僕は彰一をレッスンしたんだけど、ラフマにその気にさせるピアノは弾けなかったみたいだね。僕も実は、ラフマに彰一の演奏を興味持ってもらえるか内心ワクワクしていたんだけどね。ガッカリかな」
すると、すぐ隣でまだ演奏していた彰一が演奏を止め、近づいてきた。
彰一「こんにちは。ショパンさん。ラフマニノフさん。今日はいつもの偵察に来たのですね!僕はショパンさんの演奏を真似ばかりしてきました。でも、ショパンさんの演奏はあくまで参考にして、自分のオリジナリティをしっかり身につけないといけないと思いました。ラフマニノフさんに興味持ってもらえなかったのは、ショパンさんの演奏に似せて演奏していたからですよね。今度からは、自分だけの演奏の強みを作っていきたいと思います」
ショパン「いい子でしょ?ラフマ。芳樹と違ってひねくれてない!」
芳樹「どっちがひねくれているのかな?」
周りの生徒たちはずっと同じ場所でなにやら話し込んでるショパンたちを見て、気になって集まってきていた。
「こらー。しっかり席について演奏してなさい!」
先生が周りに注意していた。
ラフマニノフ「どうだ!ショパン!芳樹は!生意気だが、成長したろ?」
ショパン「いや、実はますます芳樹が可愛く思えてきたよ。あのトゲがあって、少し反抗してくる所に可能性を感じさせる。僕は入学式で言ったはず。自分たちを憧れと思わないこと。超えてやるくらいの反抗的な負けじ魂を持て!みたいなことを。芳樹は貴重な人材だよ。天下の音楽家の私にあそこまでの態度を出せるのは度胸があるし、面白いよ。初めて僕に本音でぶつかってきてくれたんだからね。ただ、謙遜して、謙虚で、自分の腹を出さないで、無難な態度しか出さない、本音を隠す生徒よりは何億倍もマシだよ」
ラフマニノフ「彰一にも頑張ってもらわないとな」
ショパン「彰一は、型にはめられてしまうからな。好青年すぎてね。芳樹のが面白いな。反抗してくるだけ」
ラフマニノフ「面白いというか、熱いよな。人間、熱さがないとな」
ショパン「ラフマがかなり熱いから、芳樹も熱くなった。まさに類友の法則だね。」




