地球無くなるんだから、勉強とかしなくていいんじゃないんですか?
一年後に滅ぶ世界の、中間試験の話です。
「地球無くなるんだから、勉強とかしなくていいんじゃないんですか?」楽しんでいただけたら嬉しいです。
教室の窓から新緑が見える。
心地の良い風が髪を揺らした。
今日は5月11日。人類滅亡まで残り325日だ。
いつものように授業を受けていた私は、先生のある発言が耳につき、集中切れを起こしていた。
「みなさん忘れてそうなので言って起きますけど、ちょうど一週間後。5月18日月曜日から二日間、中間試験ですからね。地球が滅ぶからって上の空にならず、ちゃんと勉強しておくように。」
2時間前に理科の先生が言った言葉だ。
そう、放課後の理科室で顕微鏡を覗いてにやにやしていたという、彼である。
職員会議で中間試験の議題があったのだろう。
先生達は、ことあるごとにその話題を出してきた。
そしてその話を聞いた私たち3年4組の反応はというと…。
「ねぇねぇ、勉強つったって一体何したらいいわけ?」
「本当だよね、出す側は簡単に言ってのけるよ全く。」
皆、砲を膨らませながらぶつくさ言っている。
勉強が苦手な生徒ほど、その態度は顕著だ。
よくよく考えればかなりまずい時期だ。
2年生の試験は二週間前から準備を始めていたというのに、どうもやる気が出なくて終活をしていたせいだな。
私は自分の行いを顧みて、ため息をついた。
中間試験で勉強しないと行けないのは、
国語・数学・英語・理科・社会だ。
そのうち、私が得意としているのは理科のみ。
残りの四教科、ことに国語と英語は成績が悪い。
私はため息をつくと、スマホに入っているカレンダーのアプリを開く。
週末に予定は入ってないが、介護…ではなく両親の面倒で集中が切れないか心配だ。
私だって勉強が好きじゃない。すでにやりたくない気持ちが滲み出ている。
そんな時、こんな会話が耳に入った。
「ていうかさ、地球が滅ぶのって来年の3月31日だよね?」
「そうだけど。」
「てことは…受験ないんじゃね?」
あぁと声が出そうになった。
確かに、来年度が来ないということは高校受験がない。
なんでこんな当たり前のことを今まで気づかなかったんだ。
定期試験を頑張ってこられたのは、少しでもいい成績を取って受験に役立てるためだ。
しかし、真空崩壊はその意義ごとごっそり奪っていった。
(あの謎現象め!)
私は教室の窓から見える青々とした大空に、心の中で舌打ちをした。
16時が近づき、私はいつものように美鈴ちゃんと肩を並べて通学路を歩いていた。
そして、さっきからの話題は、来週に迫る中間試験である。
「今日誰かが言ってた話を小耳に挟んだんだけどさ、受験ないんだよね?私たち。」
「ないねぇ。残念だな〜。」
美鈴ちゃんは露骨に肩を落として見せる。
「なんで?受験なんて、面倒だし眠れないしプレッシャーはすごいし、いいことないじゃん。大変だよ?なくなってラッキーでは?」
私は正直な疑問を口にする。
小学校時代、中学受験を考えてた私は、「受験」という単語にいい思い出がなかった。
小6の夏頃までは、立河市唯一の公立中高一貫校に進学しようと考えていた。
しかし、成績も伸び悩み経済的に裕福でもなかった磐城家は、最終的にこの錦中に進んだ。
小学5年生の時から勉強に費やしてきたあの時間はなんだったんだという、誰にも向けられない鬱憤や、中学受験が原因で起こった人間関係のもつれ。
本当に受験にはいい思い出がない。
それ故、高校受験がないと気づいた時には、真空崩壊に悪態をつくと同時に、心の中でガッツポーズをしていた。
美鈴ちゃんは少し唸った後、こう答えた。
「だってさぁ、受験は確かに面倒だけど、その後には華の高校生活が待ってたわけじゃん。受験がないのは楽だけど、高校生、なりたかったな。」
確かに…。私とは別の視点を持つ美鈴ちゃんの言葉に、なんとなく納得した。
高校生は法的にもできることが増える。中学生より融通の効くことも多いはずだ。
「そうだね、ちょっと羨ましいかも。」
高校生になれないのは確実だが、ならば定期試験を受ける意味とはなんだろうか。
学業を続けさせるため…が妥当な理由だろうけど。
「やりたくなぁーいっ!」
美鈴ちゃんが両手を振り上げる。
私は美鈴ちゃんの肩に手を置き言った。
「やるしかないよ。適当に。」
「適当に」勉強をして、今日は5月18日、月曜日だ。
今日から魔の中間試験が始まる。
私は静寂の教室の中で、問題用紙と睨めっこをしていた。
今日の1日目は数学、社会があり、
明日の2日目は理科、国語、英語がある。
教室中を見回してみると、クラスメイトの解き方は十人十色だ。
過半数は眉間に皺を寄せながら解いているが、もう半分はというと、寝たり遊んだりだ。
完全に開き直っているのが手に取るようにわかる。
(まだ一学期の中間試験だぞ…。この調子でいったら三学期の期末試験はボイコット者が出そうだな。)
私は覚えてる限りの方程式を回答用紙に書き殴り、さっさと1時間終わることを祈った。
「はい、そこまでー。後ろから集めてくださーい。まだ解いてる人、ペン置きますよー。」
チャイムの音と同時に、先生が声を上げた。
後ろから燃え尽きた表情を浮かべる宇佐見さんがプリントを差し出す。
それを受け取り、自分の回答を上に重ねて前の美鈴ちゃんに渡す。
今日は短縮授業なので、このまま家に帰っていい。
「どうだった?」
美鈴ちゃんが振り返って聞いてくる。
「聞かないでぇー…」
しなしなと萎れる宇佐見さんが先に答える。
「私はー…やっぱモチベがあがんなくて、よくなかったかな。」
オブラートに包んで言ったが、かなりぼろぼろだ。
ここ一週間、詰め込むように復習をしたが、「どうせ受験はない」という言葉が頭から離れず、集中などできるわけない。
私は明日の時間割を思い出す。
苦手な文系教科が多い明日は、今日以上に地獄を見るだろう。
その案じは、次の日現実のものとなった。
自分でもびっくりするくらい空欄の多い問題用紙を回収され、私は項垂れながら帰宅した。
地球も滅びるんだ。こんな茶番はもうやりたくないと、心底思った。
石に罪はないとわかってはいるが、私は下校中に大きめの石を蹴りながら歩いたのだった。
初めてアクセス解析見て、「こんなに沢山見てくれてる人がいるんだ!」ってびっくりしました。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)
みなさんありがとうございます!
そして、今日はなぜか筆が乗るのかいっぱい原稿書いております。いつもこうならいいんですけどねぇ。
今回、いたって平和な試験回。私も試験大嫌いなので気持ちわかります。
結衣ちゃんは理科が得意なようですが、みなさんはなんの教科が得意でしたか?(私は総合が得意でした!)
ご意見・ご感想、お待ちしてますー




