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身辺整理?してみます

エンディングノートをめくりながら就活をする結衣ちゃんの1日です。

「身辺整理?してみます」楽しんでいただけたら嬉しいです。

エンディングノートを購入して二日後の昼。

4月25日。人類滅亡まで341日。

今日は休日なので学校はなく、朝から寝不足の母と二日酔いの父の面倒を見ていた。


母は不眠が続いているらしく、濃いくまが目の下に浮かび、顔色や肌艶(はだつや)も悪い。

父は船酔い状態の如くふろふろで、朝食も食べずに寝続けている。

そんな2人を見ているとこっちまでエネルギーを吸われる気がしてならない。


(こういう状態を『ヤングケアラー』って言うんだっけか。)


うちの場合は病気とかじゃないからちょっと違うのかなと思いつつ、私はベランダに干した洗濯物を回す。

昼食は母が作ってくれたので作らないで済んだが、あと半年後には私が作っているのだろうか。


私は自室に帰ると勉強机に入れているエンディングノートを取り出す。

机の上に置き、目次を開く。

最初に自分の情報を書き入れ、その後に人生の振り返り。次いで医療や介護の情報、葬儀や遺産の管理、最後に遺言といった形で進んでいく。


ページをパラパラとめくり、まず自分の情報というページを開いた。


情報といっても、氏名や住所をはじめ、よく身分証で見かける項目が並んでいる。

私は淡々と、情報を書き入れていく。その中で、一つの疑問が浮かんだ。


「そもそも地球が滅ぶのだから、こんなことやる必要ないのでは?」


終活自体は暇つぶし感覚でやってみてるのであまり考えてなかったが、よく考えれば地球が滅ぶのにこんな個人情報を記載する必要はあるのだろうか。

私はしばらくシャーペンを置いて、個人情報漏洩(ろうえい)になるまいかと考えていた。



その時、リビングの方から「ガシャン!」という鋭い音が聞こえてきた。

私は勢いよく席を立つと、リビングに向かう。

案の定リビングには母が居て、マグカップをフローリングに落としてしまっていた。

茶色い液体が飛び散り、コーヒーの匂いが当たりを漂っている。


私は唖然(あぜん)とする母を押し除け、雑巾を持ち出すと割れたマグカップの破片を拾い集めていく。

はっとした顔をした母は「ごめん、私がやるから」と雑巾を取ろうとする。

「いいから座ってて」とだけ言って、私は黙々と後片付けを進めた。



掃除が終わり、私はそそくさと自室に戻る。

机にはエンディングノートの個人情報記載欄が開きっぱなしだ。


(地球が滅びる前に私が死んだら、あの人たちは私のことを話せるだろうか。)


いや無理だ。パニックになり警察沙汰になる未来が見える。

これは個人情報の漏洩ではなく、地球が滅ぶ前に私に有事のことがあった時用かもしれない。そう思った。



個人情報を書き終わり、私は手のひらを組んで上に伸びる。

時刻は間も無く15時だ。

私は勢いのままベットに倒れ込む。心地よい疲れが瞼を重たくさせた。


視界に本棚や小物が映り込む。


(本来の終活なら、こういうのも遺品になって身辺整理の時に片付けておくのだろうな。)


そんなことを考えた時、幼い頃から持っているぬいぐるみと目が合った。

私は体を起こし、ぬいぐるみを手に取る。少し埃を被った頭を触り、手がベタつく。


地球がなくなったら、こういう物も全て消失する。

でも、このまま放置するのは寝覚が悪い。いつの間にかそんな考えが出てきていた。

子供の頃のアルバム、よく遊んだボードゲーム、好きなアニメのグッズ…。

思い返せばこの家には、思い出がたくさん残っている。


どうせなくなるものだ。わかっているけど、最後に整理してあげたい。

意味がない行為だとしても、自分の中で落とし所が見つかるかもしれない。

宇宙の謎現象なんかに消されるより、私たちの手で整理してもらった方が、物も幸せなのではないだろうか。



私は小学生の時から使っているランドセルラック(今は学校の鞄置き場になっている)の引き出しを開ける。

ここは本当に小学校や幼稚園時代の思い出品が押し込められ、満員電車状態になっている。

小学校の時につけていた名札や、鉛筆キャップ。終いには幼稚園の時作った折り紙が出てくる始末だ。


(絶対こんなんいらないでしょ。)


呆れながら少しづつものを出していくが、途中で引っかかってしまう。

私はとりあえず引き出しを強引に閉め、床に置いたものを凝視する。


自分の手で片付けると言っても、何ごみに出すとか、そういう話になるのだろうが。

…そして、これは果たして捨ててもいいのだろうか。

別に私の部屋の物だし、いいと思うのだが、母が知ったら激昂(げきこう)しないかと思ってしまう。考えすぎではなかろうか。

私は一つづつ物色しながら判別していった。



時計の針が16時を指した。

取っておくものと捨てるものの分別を終え、私は捨てるものをこっそりと袋に詰め、次の収集日に出すことにした。流石に母にはバレないはずだ。


いざ思い出を捨てる準備をしていくと、どうしても過去の思い出を掘り返すものだ。

さっきから私の頭の中は幼児時代の記憶が堂々巡りしていて、ぼーっとしてしまっていた。


私は部屋の出窓を開け、日没に近づく空を見上げた。

思い出の品を整理したとて、この家や街に染みついた思い出は捨てきれないだろうな。

そんなことを考えていると無性に(むな)しくなってくるのだが、正直こんな気持ちになったって意味ないものだ。

しかしながら、「どうせ死ぬから」という暴論で流してしまうのは、あまりに勿体無いかもしれない。

死んでしまえば、こんな気持ちに浸ることも何もできなくなってしまうだろうし。


終活というものを初めてみたはいいものの、本当にこんな感じでいいのだろうか。

まぁ誰に評価されるわけでもないしいっか。


私は夕焼けに染まりそうな空の空気を吸うと、窓を閉め(きびす)を返した。

この後、3人分の夕食を作らなければならないからだ。



作業用として、音楽重宝してます。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)

今回も「錦中の通常授業は」引き続き、まったりと暇な回になったなぁと思ってます。

平和だと面白くなれない悪癖があるのですが、こんな感じでいいのかな?

ご意見・ご感想お待ちしてますー。

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