世界がなくなるまで1ヶ月弱、他愛もない話をする
幼馴染とのお話会です。日常会です。
「世界がなくなるまで1ヶ月弱、他愛もない話を」楽しんでいただけたら嬉しいです。
閑静な住宅街に冷たい北風が吹き抜け、私は体を小さくする。
2月6日土曜日。人類滅亡まで54日。
私は酒井悠真の自宅前に来ていた。
彼から告白されて一年近く経っている。
今更返事するのもいまいちピンとこないが、無視するよりいいのかもしれない。
何より、私は終活をしている。
未練を残したまま死んだら、終活を続けてきた意味はない。
私は彼の家のチャイムを鳴らすと、玄関扉の前に立つ。
チャイムから少年の声が聞こえてくる。
「…はい。」
「磐城結衣です。悠真くんいますか。」
数瞬の沈黙の後、少年は「今行きます」といった。
しばらくすると、玄関のドアがゆっくりと開いた。
目の前に、すっかり肌が白くなった悠真が立っていた。
「久しぶり。あの時の返事を言いにきた。」
私は単調直入に言った。
一瞬驚いた表情をした悠真は、少し考えると玄関扉を広く上げる。
「…家上がったら?外寒いだろうし。」
私は「それじゃあ」と家にあがった。
玄関で靴を脱ぎ、靴を揃える。
(幼稚園の時からこの家には遊びに来てるけど、あの頃よりやっぱ靴大きくなったな。)
リビングに着くと、悠真は椅子を勧めた。
私は荷物を床に置き、椅子に腰掛ける。
「なんだったっけ?」
早速話を切り出そうとする悠真に、私はひとつ気になっていたことを質問した。
「その前に質問。悠くんさ、なんで学校来なくなったの。」
数年振りの君付けに一瞬たじろぐと、視線を宙に彷徨わせて言った。
「…そうだな。勉強するのとか、学校に行くのとか、面倒になっちゃったんだよ。行く気しなくてさ。結衣は毎日行ってたんだ。」
「友達に会いに行ってたんだよ。勉強しに行ってたんじゃない。」
「そりゃそうかもな。すげぇ。」
悠真は吹き出すように笑う。
私は「で、あの時の返事だけど」と続ける。
「私悠真くんとは付き合えない。あと、返事がこんなに遅くなって、ごめん。」
二重の意味を込めて、私は頭を下げる。
テーブルクロスの柄が視界いっぱいに広がるくらい、90度近く頭を下げ続ける。
「…だろうな。ていうか頭上げろよ。」
私はゆっくりと頭を上げる。
彼はあまりにも爽やかな笑みを浮かべ、今にも笑い出しそうな顔をしていた。
「そもそも、6月くらいからなんとなく気づいてたんだよ。後1ヶ月くらいで俺ら死ぬのに、付き合えるわけないだろ。…そ、そんなこと言いに来てくれたんだ。」
何がおかしかったのか、途中から笑い声混じりになる。
こっちは真面目に来てやったというのに…。そう言えばこんなやつだった。
「あの、私の話これで終わりなんだけど。」
「終わりかよ!」
テンポよく悠真が突っ込む。
あと1ヶ月で死ぬというのに。元気そうでよかった。
「そういえば、今日親御さんは?」
「母ちゃんは車で買い物に行った。父ちゃんはパチンコかな。」
「…っ、お父さんパチンコ始めたの?」
「そうだけど?」と悠真が不思議そうな顔をする。
…やっぱ世の父親って、死が近づくと現実逃避に走るんだ!
私は日がな一日中酒を飲み続ける父のことを思い出した。
「なんだよ。」
「いや、うちのお父さんもお金ないくせにお酒飲むようになったからさ。同じだなぁって。」
「父ちゃんてそんな生き物なのかもな。」
苦笑いを浮かべながら、悠真は言った。
悠真は椅子から腰を上げると、台所に行って戸棚を開けた。
「あーどこに何があるのかわかんないな…。まぁいいや、ココアでいい?」
「いいよ。」
完全に緊張感のないやり取りをしながら、悠真はホットココアを淹れて持ってくる。
腰を据えて話したい時、彼はよく暖かい飲み物を茶菓子を勧める。
冷めるまで待たせるつもりだな…。
「悠真くん、人類滅亡予告から何してた?夏休みとかどうしてたの?」
「俺?俺は…。ていうか、結衣から先に話せよ。」
「嫌だ。先喋って。そのあと話すから。」
本来ならこんな態度とらないが、これくらい彼ならいいだろう。
そもそも私は自分から喋るの嫌いだ。
小一時間、私たちはココアを飲みながら、近況報告を交わした。
「…さっむ。」
玄関扉を開けた悠真が体を震わせる。
私は門扉を開けると、彼に向き直る。
「ねぇ、多分会うの最期になっちゃうよね。」
「そうだろうな。」
「元気でね。」
「へいへい。結衣もな。介護に疲れてぶっ倒れないように。」
手をひらひらさせながらお互い手を振る。
後ろを向き直り歩き始めた時、後ろから声がかかった。
「なぁ、このあとどうすんの?」
「終活の続きだよ。そっちは?」
「…今やってるゲーム全クリする。」
「くだらなっ。」
間髪入れずに突っ込み、私は「じゃあね」と手を振った。
久々に「リング」を見てテンション上がってます。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)
Amazonで買ったんですが、早く着くもので。
あれを見ていて、投稿が遅れたのです。(言い訳)
幼馴染の男友達がいないのでイメージつきませんが、結衣ちゃんと悠真くんは随分気のおけない関係のように思います。こういう関係性、あんまいないですよね。
ご意見・ご感想、お待ちしてますー




