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遺らないけど遺すもの

遺書を書いてる途中に幼馴染くんのことを思い出しちゃう中3のお話です。

「遺らないけど遺すもの」楽しんでいただけたら嬉しいです。


「はい皆さん、生き渡りましたか?」


国語教師が手を叩きながら声を上げる。


「今日の課題はこちらでーす。」


そう言いながら国語教師は黒板をとんとんと叩いた。

何が書いてあるのかと言えば……。



(『遺書』…ねぇ…。)



これまた道徳と国語好きが食いつきそうだなぁと偏見を思い浮かべる。

国語教師は「じゃあチャイムの音で終わりにしてくださーい。」と言って、自身も教卓に座って書き始める。



今日は1月28日木曜日。人類滅亡まで残り63日だ。

あと2ヶ月強で、私たちは真空崩壊(しんくうほうかい)に巻き込まれ宇宙の藻屑(もくず)になる。

遺るものなどない。


なのになぜ先生は遺書を書けと言ったのかと言えば…


「遺らないなら、大切な人や好きなものに気持ちを伝えないでいいんですか?」


と言われた。

要は、宇宙にバラされる前に手紙として思いをまとめ、気持ちの整理をしておけ。またはその誰かに伝えろ。

そんなところだろう。


そして先生はこう続けた。


「皆さんがお世話になった人や、最後気持ちを伝えたいなって人に書いてみましょうね。」


目の前には原稿用紙が3枚置いてある。もちろん後から追加がもらえるそうだ。




お世話になった人…かぁ。

もちろん真っ先に思いついたのは両親だ。


しかし、すでに家に帰ってこないことが増えた父や、食事もまともに取れず過覚醒(かかくせい)に陥っている母に、何が楽しくて手紙を書くというんだろう。


(…別の人にしよう。)


そうなると…。

私は目の前の席でスラスラと鉛筆を紙に滑らせる美鈴(みすず)ちゃんを見つめる。


私は出だしの分に苦悩しながら、少しづつ原稿用紙を埋めていった。




美鈴ちゃんへの遺書…もといお礼のお手紙を書き終わった私は、天井に腕を上げて伸びる。

ちなみに原稿用紙は残り一枚だ。

これを誰に宛てたものか…。


私はその時、斜め後ろの席に座る()()()のことを思い出した。



酒井悠真(さかいゆうま)


幼稚園の頃からの幼馴染で、家も近い。

故に、クラスが別でも、家族ぐるみでどこかに遊びに行くことも多かった。


彼の席は空席だ。6月ごろから学校に来ていない。


悠真との思い出が、少しづつ頭に映されていく。

正直、思い出すのが億劫(おっくう)…というか気まずいものだ。




幼稚園の頃は、本当に気兼ねなく接していた。


小学区に上がってからも、同じクラスになることが多く、家も近い私たちは一緒に帰ることが多かった。

ただし…。


「なぁ、お前ら付き合ってんじゃないの?」

「もう付き合っちゃえよー!」


そんなふうに揶揄(からか)われることが多かった。


今だったら「それがどうした・だったらなんだ」とシカトできるだろうが、当時その手の話題に敏感だった私たちは、別々に帰ることが増えた。


問題は中学2年生の2月のことだった。



「俺さ、お前のこと好きなんだけど…。」

「…は?」



頭の中が真っ白になった。

今の状況を頭の中で必死に整理する。状況的に、これは告られたってこと?悠真に??

あの泥遊びでスモックを真っ黒にしていた悠真と、付き合うってこと?


頭の中にはてなが浮かび、口から(ども)ったような声が聞こえる。



「っえ、えっと…?」

「いやあの…別に返事を急いでるわけじゃないから…考えといて。」



彼はそういいのこすと、一目散に走り去っていった。


あれから、何て返事をしたのか分からず黙っていたのだが、1ヶ月後に人類滅亡予告が出され、それどころではなくなった。




チャイムが鳴り、国語教師が「じゃあ次回までお願いしまーす」と言って、教室を出ていった。


私はあの時の記憶が思い起こされ、複雑な気持ちになっていた。

悠真に返事をしてない…。というかすっかり忘れていた。



「結衣ちゃんどうしたの?難しい顔して。」

「いや、一年前にあそこの酒井悠真に告られられたんだけど、まだ返事をしていなくってね。」



私は斜め後ろの席を指さしていった。

美鈴ちゃんの口があんぐりと開く。



「…なぁんで、そんな大事なこと忘れちゃうかなぁ…。酒井くんの気持ち!」



机をばんばん叩きながら、美鈴ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をする。



「で、どうするの?返事しないってことはないよね?」

「…あっ、言う言う。言うけど…。悠真のやつ、学校来ないんだも…」



「来ないんだもん」と私が言い終わる前に、美鈴ちゃんが机をもう一度ばんと叩く。


「おうち知ってるんでしょ!行った方がいいって!命日に後悔するよ。」


まぁ確かに。後悔はしそう。

私は「えぇ〜」と唸りながら、あいつの席を眺めた。



作業用BGMとして「ウィリアム・テル」序曲を聴いていること多めです。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)

結衣ちゃん、かなり大事なことをうっかり忘れちゃうなんて、筋金入りのうっかり屋さんですね(笑)

悠真くんの席を六月から凝視していた結衣ちゃん。

次回はお察しの通り悠真くんのお家に行きますので、その時どんな返事をするのか。ぜひ予想してみてください。

ご意見・ご感想、お待ちしてますー

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