人類滅亡予告
1話に続き、帰宅からの過去編です。
「人類滅亡予告」楽しんでもらえると嬉しいです。
「ただいまー」
始業式の帰り、マンションの玄関ドアを閉めながら私は声を上げた。
家は静まり返っており、人気を感じないほどだ。
しかし、玄関に母の靴は置いてある。ということは…。
廊下を歩き、キッチンを通り抜ける。玄関からすぐにキッチンとリビングがあり、そこを曲がると母と父の部屋。次いで私の部屋だ。手洗いや洗面所、風呂場はリビングから分岐している。
リビングを抜け、両親の部屋をノックする。返事は聞こえないが無断で入る。
中にはシングルベットが隣り合って置いてあり、机や本棚も置いてある。ベランダから心地良い午後の風が吹いている。
そして、手前のベットの上に母が座って携帯を眺めていた。
「お母さんただいま。」
「…あぁ、おかえり。」
母は今気づいたというような顔をしている。短縮授業なのを教えなかっただろうか。
「えっと、ノックしたんだけど。」
「いや、ごめんね。気づかなくって。」
私は母の携帯を覗き込む。そこにはネットニュースのページ。大きな文字で「一年後の真空崩壊。逃れる方法はないのか?」と書かれていた。
「またそのこと調べてたの?調べてもしょうがないのに。」
「だって、少しでも助かる方法があるなら調べないと…。パパはなにもしてくれないじゃない、私が…」
母はまたスマホの画面に齧り付き、最後まで聞き取ることができなかった。
私は奥にある自分の部屋に入りドアを閉じる。
(お母さん、心配性だからなぁ。今回の事も、あと3ヶ月はこの調子だろうな)
私は制服から私服に着替えると、ベットに寝っ転がった。
あの日から、私たち磐城家は変わってしまったように思う。
母はネットニュースや情報をずっと拾うようになり、父も帰宅時間が遅くなっている。そして毎日のように酔っ払って帰ってくる。酩酊状態なことも多く聞き出せないが、居酒屋で飲んでいるのだろう。
前はこんな家じゃなかったんだけどなぁ。
目を瞑り、あの日のことを思い出す。人類滅亡予告が下された、あの日のことを。
時は一週間前に遡る。3月30日のことだ。
「じゃあ、行ってきますよー。」
私はトートバックを手に取り、リビングにいる母に声をかけた。
「あれ?どこ行くんだっけ。」
「映画だよ、前言ってたやつ。」
「あーなんだっけ。可愛い絵のやつでしょ?帰ったら感想聞かせてねー。」
リビングからエプロン姿の母が顔を出す。髪の毛を一つにまとめ、にこやかに笑う姿はとても優しい。
私は玄関で靴を履くと、15時には帰るねと行って玄関扉を閉めた。
映画館を出ながら、私はスマホの電源を入れる。
私が住む立河市は二つの映画館があり、今回は二つ目の映画館での鑑賞だった。
わずかな振動とともに液晶が光だす。ホーム画面が映し出された時、母からの大量のLINEに気がついた。
(電源切るって言ったのに…。前もあったなこんなこと。)
まぁ後で見ればいいかと私はスマホをトートバックの中にしまった。
あの時、通知画面に表示された母からのメッセージ。
あれを見ていたらどうなったのだろうと今でも思う。
駅前のデッキに登り、自宅まで戻ろうとした時だった。大量の人だかりができていることに気がついた。
大道芸ともまた違う雰囲気の集団に誘われるように、私も人混みの中に入っていった。
人をかき分け前に出る。大衆が見つめていたのは、駅前のビルに設置された大型テレビだった。
テレビ画面に映し出されている番組に、私は目を見張った。
「真空崩壊発生か。地球への影響は」
真空崩壊という聞いたことのない言葉に首を捻ったが、「崩壊」という単語に、何か良からぬことが起きたのだろうと予想がついた。そして「地球への影響」というのも気になる。宇宙関連のことだろうか。
(確かに宇宙は真空だけど、それが崩壊したってこと…?)
他の人達も聞き馴染みのない単語のようで、私と同じくよくわからないという顔をしていた。
そんな中、テレビのキャスター達は深刻な顔で話し合っていた。
「この現象は一体どういうものなのでしょうか。」
「はい、この「真空崩壊」というものは、現在の宇宙が最も安定した状態ではなく、エネルギーが少し高い偽の真空にある場合、より低いエネルギー状態へ突然相転移する物理現象のことを指します。これに巻き込まれると、原子まで物質は分解されると考えられています。」
「これが発生した…というのは確かなのですか?」
「はい、NASAが観測したところ、オールトの雲の彗星の数が減っていることや、数光年先の恒星のいくつかが観測できなくなっていること、重力場の観測から、真空崩壊が起きたと推測しています。」
よくわからない。
専門家が話し合う用語は、正直頭が追いつかない。
しかし、この後の一言でようやく理解した。
「おそらく1光年先で真空崩壊が発生し、こちらに迫っているものと思われます。原子まで分解されるため、一年後に地球はなくなる…ということになります。」
何かのドッキリかなと思った。
でも流石にここまでの悪戯はないだろう。とすると、私たちはこんなラノベの設定みたいな理由で死ぬのだろうか。そもそも原子までの分解ってどんなふうに死ぬものなんだろうか。
キャスターが泣き出しそうな顔をしている。観衆の中でも静かに泣き出した者もいた。
私はただその液晶画面を凝視し、得体の知れない終わりに呆気に取られていた。
その日の夜、正式に1光年先で真空崩壊が発生したことが発表され、地球の命日は来年の3月31と計算された。
これにより、人類の寿命は残り367日となったのだった。
花粉は終わったはずなのに鼻の調子が悪くて困ってます。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)
今回は「真空崩壊が発表された日」の回想でした。いかがでしょうかー?
立河市には二つ映画館があるそうですが、果たして結衣ちゃんはどの作品を見に行ったのでしょうか。気が向いたら予測してみてください。
(感想・ご要望等、お待ちしていますー)




