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また来年

今回は楽しい冬休みです。

「また来年」楽しんでもらえたら嬉しいです。


寒い教室の中に十数人の生徒が着席している。


今日は12月25日金曜日。人類滅亡まであと97日

最後の二学期は、あっという間に終わった。


先生が夏休みと同じような定型文を読み、間も無く時刻は11時になる。

今日は11時30分下校なので、あともう少しで終わるはずなのだがやったら話長いな…。


私は頬杖をつくと、窓から見える校庭を眺めた。

桜に新緑、紅葉と見てきたけど、今の樹木は何色でもなく、ただ冬の寒さに耐えているようだった。




「あーやっと終わったー!寝そうだったよー。」


美鈴(みすず)ちゃんが大きく伸びをする。

私もふらふらしてた意識が戻っていく。



結衣(ゆい)ちゃん、冬休み予定は?受験ないから遊びたい放題だよ!」

「親の介護。」



私はそう言うと、肩をすくめた。

美鈴ちゃんが「えー?」と眉を(ひそ)める。


「ねーえ、ちょっとは休んでるんだよね?息抜き大事だよー?」

「そうしたいんだけど…。」


私は家に残してきた親を思い出す。

自分でも頬が引き()るのを感じた。


美鈴ちゃんが私の手を取る。



「結衣ちゃん、冬休み遊ぼ!もちろん無理のない範囲で。」



「へ?」という声が出る。

確かに受験はないけど…。



「結衣ちゃん頑張りすぎだよ、何か冬休みに息抜きする!約束だからねっ。」



そう言われるとな…。

私は今の家庭の状態と美鈴ちゃんの申し出を頭の中で計算してみる。


「そうねぇ、日中とかならいけるかも。」

「本当っ?」


なんか美鈴ちゃん、純粋に誰かと遊びたいだけでは…?

そんなことを考えつつも、遊びに誘ってくれることは嬉しい。


…というか、友達と遊ぶなんてここ一年近くやってなかったな。


「…うん、じゃあ明後日の正午までに行きたいところ送ってくれる?そしたら私計画立てるわ。」


私は久々にテンションが上がっていた。




校舎の外に出ると、鼻が痛くなるような寒さが襲ってきてた。

昇降口から出てきた生徒が口々に「寒い」「寒い」と騒ぐ。


「結衣ちゃん手袋ないの?指凍っちゃうよぉ…。」

「あーそういえば持ってないな。」


そんなことを言いながら寒空の通学路を私たちは歩いていく。



「ねぇ結衣ちゃん?」

「なに?」


「今年一年、どうだった?」



美鈴ちゃんが顔を覗き込む。私は少し遠くを眺めながらこの一年を思い出す。


1月とか2月は高校見学とか模試やってて、

3月は進級と…人類滅亡予告があったな。


それから…4月は、特に何もなくって、5月に宮城行って、6月は期末試験があって…。



真空崩壊(しんくうほうかい)の予告が全面的に諸悪の根源のように思える。絶対ないほうが楽しかったな。


()()がなければ楽しかったんだろうね。」


私は冬の曇り空を睨む。

「あー確かに」と美鈴ちゃんも言うと、空に向かって舌を出してみせる。



「私は楽しかったよ。結衣ちゃんと同じクラスで。」



美鈴ちゃんがこちらを向きながら言う。


「私も…楽しかったな。」



本当に美鈴ちゃんと同じクラスでよかった。


あと3ヶ月の人生だ。

最期まで楽しく過ごせるといいなとしみじみ思う。


私は口角をにっとあげると、空に向かって手を伸ばした。



「冬休みめっちゃ遊んでやるぞー、真空崩壊見てろよー!」



完全に(たわ)け者の言動に見えるが、どうせあと3ヶ月の人生だ。楽しんだもん勝ちだろ。

私たちは冬休みの過ごし方を話し合いながら帰った。





「明けましておめでとうございます。」

「明けましておめでとうございます。」


スマホを片手に、私たちは人でごった返す神社に来ていた。

目の前に立つ美鈴ちゃんの体は、綺麗な着物…ではなく、鉄壁の防寒着に包まれている。



「今年始まったね。最後の3ヶ月。」

「元旦である一月一日。人類滅亡まで残り90日です。」


立河市柴崎(しばさき)町にあるお諏訪様。確かルーツは長野県だっけ。

目の前は人の壁に囲まれている。少し移動するのも至難の業だ。



「いやぁ、分かってはいたけどすごい人だね。着物で来なくてよかったー。」

「本当だね。お参りはおろか、トイレにすらいけないや。」

「ところで、ここってなんの列?」


私は周囲を見回す。

お参りの列だと思うが、ここまで人だらけだと判別がつかない。


(あと何分で参拝済ませられるかなぁ…。)


私が吐いたため息が、白くなって消えていった。




私たちが参拝を終えたのはそれから30分以上経った後だった。

私はやけにニヤニヤしている美鈴ちゃんの頬を突いた。


「何お願いしたの?」

「ん〜聞きたい〜?」

「聞いて欲しそう。」


少し勿体ぶるようなそぶりを見せた後、美鈴ちゃんは無邪気な笑みを浮かべて言った。



「残り一年、ここにいるみーーんなが、笑って過ごせますよーにっ。」



美鈴ちゃんらしい。

といっても、私も同じようなこと願ったんだけど。


「私も、最期まで健康でいられますようにって願った。」

「ほとんどお揃いだねー」


私たちはそんなことを言いながら人混みの神社の端へと歩いていった。

人混みがマシな建物に寄りかかり、ここに来てようやく眠気が意識に混じってくる。

その時、右側から肩を叩かれた。


「結衣ちゃん、これ。私からのお年玉。」


お年玉…?」

私は美鈴ちゃんが手に持つ袋を見つめて首を傾げた。


「美鈴ちゃん、ポチ袋という概念はこの機に捨てたんだっけ?」

「いいから開いてみてっ。」


私は袋を受け取ると、そうっと中を開ける。

その中には……



「…手袋?」

「そう、手袋なかったでしょ?」



ふわふわで白い生地で作られた手袋を持ち、一度手に湯つけてみる。

手の体温が外気に奪われない暖かさに、胸がいっぱいになった。



「…ありがとう。」

「どういたしましてー。」



顔を見合って笑い合う。

その時、私は暖かい(てのひら)を見つめて思った。



「あっ、ごめん私何も用意してないよ?」

「いいのいいの、サプライズなんだから。」

「いやそれだとちょっと…。」



そういう私に、美鈴ちゃんはしばらく視線を宙に彷徨(さまよ)わせるといった。


「じゃあ、次会って遊ぶときに何かお返ししてもらおうかな!」

「おっけ。」



私たちはそう言いながら、残り3ヶ月の今年を迎えたのだった。




美鈴ちゃんの聖女っぷりに、書いてる方が疑心暗鬼になります。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)

いやぁ今回はとても平和な年末年始ということで、2人の仲の良さが際立ちますね。

おそらく必要最低限の介護以外ほったらかしてる結衣ちゃん。楽しさそうでよかったような、心配なような…。

私は夜の神社に行くというのはしたことないのですが、きっと人混がすごいものとお察しします。

ご意見・ご感想、お待ちしてますー

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