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友達からの電話

【閲覧にご注意ください】

このコンテンツには、自死に関する描写が含まれています。気分が悪くなった場合は、すぐに閲覧を中止してください。もし、今つらい思いをされている方は、ひとりで悩まずに窓口にご相談ください。


少々雲行きの怪しい、結衣ちゃんの夏休みです。

「友達からの電話」無理のない範囲で楽しんでいただけたら嬉しいです。



夏休みも折り返しに差し掛かった8月12日。

私の案じは…現実のものになった。

実際にどう母に接してるのかは割愛するが、夏休みが休みではなくなってることは確かだ。


私は勉強机に倒れ込み、机上に広がる宿題を(なげ)いた。


「宿題なんてできるか…!)


母はあれから薬を服用しはじめたが、もちろんすぐに効果が出るわけもなく…。

ほとんど廃人になってきている母の面倒を見ているのだった。


「酒飲んでないで少しは手伝えっての…。」


特定の個人に悪態をつくと、私はほとんど手付かずな数学のプリントを取り出す。


(これに受験勉強とかあったら、私が先に病んでたな。)


こんなに大変な夏休みは最初で最後だ。

そんなことをずっと考えている。




数十分後、正午を知らせるタイマーが鳴った。

スマホの画面に触れ、タイマーを止める。


プリントを仕舞った私は、リビングに行き冷蔵庫を開ける。

これから3人…いや2人分の昼食を作る。

どうせ父は酔っ払って食べないだろう。


朝に茹でた素麺(そうめん)と果物の缶詰。スーパーの惣菜…。

栄養素的には凄まじく偏っているはずだ。

しかし、正直これ以外思いつかなかった。



私は母の寝台へ昼食を持って行く。

隣でいびきをかいて眠っている父の横で虚空を見つめる母。

傍目から見れば、機能停止した家庭といって(しか)るべきだ。


「お母さんご飯。少しは食べないと3月より前に死んじゃうよ。」


私は母の口元に素麺を摘んだ箸を持っていく。

もはや反応することも無くなった母の口に素麺を入れ、噛ませてから嚥下(えんげ)させる。


これを数十分かけて行う。


途中何度も母は噛む動作を止めるが、その度に声をかけ、完食まで付き合わねばならない。



(私、最期の夏に何やってんだろ…。)



時折そんな考えも頭をよぎる。

しかし、考えたって無駄なことだ。無視して動くしかない。




母の食事介助が終わればようやく自分の昼食だ。

時刻は間も無く13時になる。

といっても、これもまた大層なものではない。


パックご飯やスーパーの惣菜、ぶっかけ素麺で済ませることがほとんどだ。

食べ終われば洗い物、片付けを済ませ、母のトイレ介助を経てようやく自由時間になる。




ため息をつきながら自室に戻る。

その時、スマホから電話の受信を知らせる着信音が響いた。

私はスマホを手に取ると、電話の相手を確認する。


そこには「名取風香(なとりふうか)」と書かれていた。

私は通話ボタンに触れる。



「もしもし?どうしたの?」

『結衣ちゃん、今時間大丈夫?話あるんだけど。」

「あるけど…何?」



電話口から聞こえる風香ちゃんの声は、終業式に会った時よりか細く聞こえた。



『あのさ、真空崩壊(しんくうほうかい)まであと何日か覚えてる?』

「あと232日だよ。」

『そっか…。』


『あのさ、宇宙の現象で巻き込まれて終わりって、どうなのかなって。

そんなのに消されて終わりって、それでいいのかって話してたの。恵麻(えま)花音(かのん)と3人で。』

「恵麻さんは同じ班だった子だよね。花音さんって確か…風香さんの隣の…」



風香さんが「そう。」と肯定した。

3年4組の座席では、風香さんの後ろに恵麻さん。そして、風香さんの右隣に花音さんという順番だ。

私も何度か花音さんと話したことがある。



「…真空崩壊じゃ、だめってこと…?」

『うん。どうせ死ぬんだよ。だったら変わらないよね、いつだって…。』



私は風香さんが伝えたいことがようやく分かった。

つまりは、残り232日を()()()()()最期を迎えようと、そう言いたいのだろう。



「あの…それって…?」

『もしかしたら結衣ちゃん来るかなって。」



それはつまり、私が死に急ぎそうだということだろうか…?

開いた口が塞がらない。



『来ないなら別にいいの。…私達、もう決めたから。」



静かな風香さんの声に、固い決意を感じた。


どう返したらいいのだろう。止めるべきか、そもそも電話を切るべきか…。


しかしその時、ふと頭の中に磐城(いわき)家の現状が脳裏によぎった。

廃人と化した母。飲んだくれて会話もままならない父。


磐城家はもう、家族の原型を留めていない。



「…行けたら行く。」


『…分かった。一週間後の正午。学校の屋上にね。』



そう言ったっきり、風香さんは電話を切った。

私は、しばらく呆然と、部屋を見渡していた。


本当にあれでよかったのだろうか…。

今でも思考が巡る。まだ腑に落ちないところがあるのだろう。でも…。


頭の中に浮かんだどす黒い思考を振るい、私はスマホを閉じる。



あと232日となった今日。

もしかしたら、あと7日に訂正されることになるかもしれない。




最近冬眠明けなのにやけに大きいクマがいて怖いですね。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)

なんだかニュースを見てると怖い話ばかり流れてきまして、他のものも見たいなーって思ってます。

そして今回…とても雰囲気が重いなって、書いてて思いました。結衣ちゃんが不憫です。

次話や活動報告のところでも、くどいくらいに注意書きさせていただきますが、

決して当該行為を助長・推奨するものではありませんので、よろしくお願いします。

ご意見・ご感想、お待ちしてますー

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