第九十一杯「綾瀬寧音の回想」
青春をぶっ壊す。
そう決めたのは高校1年生の夏だった。
お盆に集まった親戚一同の食事会。
楽しそうに青春時代の話をする大人達の顔を見ながら、私は血の気が引く思いがした。
青春から足を洗えない表情で、「あの頃は楽しかったな」なんてお酒を飲みながら笑う大人達。
中途半端な思い出を膨らませて、美化して、懐かしむ。
それは私が進学した季日南高校でも同じだった。
中途半端な部活、
中途半端な勉強、
中途半端に流行に乗っかったSNS投稿。
断っても断っても沸いてくる告白してくる男子生徒達。
『ワンチャンないかな?』 ねえよ! 鏡見ろ! その鼻水がついた学ランの袖洗濯して出直してこい!
折しもその頃、彼があんな事になっていた。
『寧音姉のいる高校に進学しようかな。近いし』
投げやりにそんな事を言う彼からは、もうあの輝きは消えていた。
私を魅了したあのマウンドの上での輝きは。
その原因は、青春であり失恋だった。
だから私は決めた。
他人の青春を、ぐちゃぐちゃにしてやろうと。
燃え尽きさせて、叩きのめして、完膚なきまでに打ちのめす。
『すべての生徒が、青春できる学校生活をつくる』
そう公約に掲げて生徒会長選挙に立候補した。
私は圧倒的な支持を集めて当選し、この学校を変えた。
生徒達は勉強に部活に趣味に恋愛に青春を燃やし、季日南高校の雰囲気は変わった。
唯一抵抗したのは彼だけだった。
彼だけは何かと理由をつけて部活に頑なに入らなかった。
しかしそれでいい。
彼の周りの青春が崩れてくれればそれでいい。
綾瀬寧音という現実を選ぶしかないと分かればそれでいいのだから。
ただひとつだけ気になっていた。
彼は心のどこかで何かに期待しているのではないかと。
彼の好きなラノベのように、自分を変えてくれる出会いや出来事が起きてくれるんじゃないかと。
だから何かと理屈をつけて部活に入っていないんじゃないかと。
だとしたら。
もう一度彼の青春を挫折させる必要がある。
何かに熱中させ、そして挫折させる必要が。
しかしそのためにどうすればいいのか。
そう悩んでいた頃だった。
「きょ、京都の高校から転校してまいりました、瀬川莉子と申します。あ、あの……私、この学校に茶道部を作りたいのですが………。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
私の計画を完成させ、そしてブチ壊しかねない瀬川莉子という爆弾が現れたのは。




