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さどうぶっ! ~転校生の茶道部部長が、初恋の女の子に瓜二つだった件~  作者: アブラゼミ
よんはいめ「彼女が転校した理由」

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第八十二話「茶道の歴史」

「本日は茶道の歴史について勉強して頂きます」



 2学期最初の部員全員が集まった茶道部の放課後。


瀬川さんがプリントを皆に手渡しながら仁王立つ。


そんな瀬川さんに向けて、輝木さんが正座したまま手を上げる。



「莉子先輩、それってベンキョーしないといけない事ですかー?」


「しないといけない事です。本来であれば入部後すぐにして頂くべき事でした。ですが色々ありましたので後回しにしていましたが……」



 瀬川さんが色々あった1学期を思い出したのか瞑目する。


その色々は主に瀬川さんのお母さんが試験を課した事とか、瀬川さんが英語で赤点を取っていた事とかなのを思い出したらしい。ちょっと気まずそうにする。可愛い。



「……後回しにしてしまいましたが、やはり茶道の歴史は学んで頂かなくてはなりません。簡単にまとめるので、それほどお時間は頂きません。よろしいですか?」



 瀬川さんの問いかけに僕らは「「「「はーい」」」」といいお返事をする。


瀬川さんは、頷いて早速茶道の歴史の授業に入った。



「日本にお茶が来たのは、鎌倉時代と言われています。中国で禅を学んだ僧の栄西が粉末状の茶を持ち帰り、湯を注いで茶筅で泡立てて飲むようになりました。茶の栽培もこの頃に行われるようになったそうです」


「「「「……」」」」



 プリントを見ながら、僕・輝木さん・板野さん・寧音姉が笑いをこらえる。


プリントには瀬川さんの個性的なイラストが添えられていたからだ。



「室町時代になるとお茶を飲む習慣が武家や商人にも広がり、中国から高価な茶道具も伝わり、ぜいたくな遊びとして流行したそうです。そんな時に現れたのが村田珠光という人物です。ぜいたくな遊びとされていた茶の湯とは反対の、精神性を重んじる『わび茶』を始めました。その珠光の精神を受け継ぎ深めたのが武野紹鴎という豪商です。そして紹鴎の弟子が、千利休です」


「せんのりきゅー! 結衣菜、その人知ってます!」



 知ってる名前が出てきて、輝木さんが反応を示す。


瀬川さんが、頷いてから千利休について解説する。



「千利休は有名な茶人ですからね。現在の茶道の作法や茶室の造りなどは、利休の影響を多く受けています。豊臣秀吉に切腹させられた話はあまり知られていませんが」


「切腹させられたんですか!?」



 瀬川さんの言葉に輝木さんが驚く。


瀬川さんは、また小さく頷いた後スラスラと何も見ずにこう言った。



「色々な説が挙げられていますが、商人・茶人としての影響力を強めすぎた利休を秀吉が危険視したという説が最も有力視されています。それだけ利休は影響力が強い人物だったという事です」


「今で言う、インフルエンサーみたいな感じですか?」


「そういった面もありそうですね。その千利休の子孫は『三千家』と言われ、表千家・裏千家・武者小路千家を興しました」


「裏千家っていうのは聞いた事あるけど……、それって何?」


「流派の事です。お茶の点て方などの作法が流派によって違います。現在茶道の流派は500以上あると言われています」


「莉子せんぱーい、この茶道部は何流ですかー?」


「瀬川宗家流です」



 どうやら瀬川さん家の流派の作法に従っていたらしい。



「板野さんは何流を習ってたの?」


「ウチの先生も独自の流派の看板を掲げてました。細かな作法の違いはありますが、大まかな流れはいっしょな気がします」



 寧音姉の問いに、板野さんが答える。


野球のルールが日本と海外で違うみたいなもんか? ピッチクロックとか色々あるけど大まかなルールは一緒みたいな。



「……ここまでが茶道の歴史の大まかな流れです。詳しい事やご興味が湧かれた事は是非お聞き下さい」



 「簡単にまとめる」と言っていた通り、瀬川さんが江戸時代以降の茶道の歴史の話をさっとまとめて終わらせる。


しかし僕は、ある疑問が残った。



「瀬川さん、ひとついいかな?」


「はい、何でしょう?」


「茶道って、何で始まったのかな?」


「それは、先ほど話した通り鎌倉時代に栄西が粉末状の茶を持ち帰ったのがきっかけで……」


「ああうん、そうじゃなくて。どうして茶道は始まったのかな?」



 僕の質問が分かりにくいのか、瀬川さんが小首を傾げる。可愛い。



「茶道って……、どうして始まったのかな? 茶道を始めた人は、どうして茶道の作法を作ったりのかな?」


「それは……、バラバラだった作法をまとめたかったのではないでしょうか。きちんとルールを作る事で、茶道をひとつの文化として確立したかったからだと思われます」



 瀬川さんの言う通りの面はあるだろう。


けれどもその答えは僕にはしっくりこなかった。



「……大鳥君の疑問は持ち帰って考えさせて頂きます。ここからは、お茶にしましょう」



 瀬川さんが立ち上がり、お菓子が載ったお皿を持ってくる。



「本日のお茶菓子は栗きんとんです」



 栗きんとんを前に輝木さんが「わーっ」と顔を輝かせる。



「栗きんとんって、お茶菓子でも出てくるんですね! おせちのイメージでした」


「はい。茶会でも人気のお菓子なんですよ」



 黄金色に輝く栗きんとんはとてもおいしそうだ。


大きめの栗に、ねっとりとしたさつまいもがお皿の上で輝いている。


1口食べると、上品な栗の甘さと、落ち着くさつまいもの甘さが舌の上でひとつになった。


やさしくて、えもいわれぬ味わいに皆顔をほころばせている。


まだ暑いけど、秋が来た。口の中に。



「おいしいね。これも『たちばな』で売ってるの?」


「いえ、こちらはウチで作ったものなんです」


「瀬川さん家で?」



 僕の問いかけに、瀬川さんが頷く。



「毎年秋になると栗を送って下さる方がいて……。栗きんとんを作るのがウチの恒例行事なんです。この栗きんとんは私が作ったんですが、お口に合いましたでしょうか」


「うん、おいしいよ。自然な甘さがいいね」


「あ、ありがとうございます」



 僕の返事に、瀬川さんが頭のお団子をクシクシいじりながら照れくさそうにする。可愛い。



「それでは皆さん、自分で飲むお茶を点てて下さい。まずは輝木さんから」


「はーい」



 瀬川さんに言われ、輝木さんが盆略点前のセットを手に風炉に近づく。


今までは瀬川さんが皆の分までお茶を点てていたけれど、自分で自分のお茶を点てるようになった。


輝木さんが無事、瀬川さんの指導も入る事無くお茶を点て終える。



「次は大鳥君、お願いします」

「はい」



 輝木さんに代わり、僕が風炉の前に歩みよりお茶を点て始める。


瀬川さんにジッと見られてるのは落ち着かないけれど、盆略点前はもうマスターした。


僕も指導が入る事無くお茶を点て終える。




 しかし薄茶の泡が少ない。


口にしてみると苦みが目立つ。隣で自分で点てたお茶を自服していた輝木さんも苦い顔をしている。



前よりは泡を立てられるようになったけど、お茶に泡を立てるのは難しい。


瀬川さんみたいに、上手に細かい泡を立てられるようになるにはどうすればいいんだろう。


僕はお茶を点て始めた瀬川さんを見る。


野球を始めた頃、上手い人の動きを見て盗むのが大事だとコーチに言われた。

それ以来味方チームの上手い人や、相手チームの上手い人の動きを見て真似る癖がついた。


ここは瀬川さんの動きからコツを……



「……あっ」


「うん?」



 茶筅通しをしていた瀬川さんが、小さく声を上げる。


一斉に見てくる僕らに向けて、瀬川さんが苦笑を浮かべて茶筅を持ち上げる。



「茶筅が欠けてしまいました」



 お茶を点てる道具の茶筅は、古い物は先が欠けやすく慎重に扱う事が求められる。


という話を口酸っぱく瀬川さんから言われても、僕や輝木さんや板野さんや寧音姉は先を欠けさせてしまった事がある。


しかし瀬川さんが茶筅を欠けさせてしまったのは初めてだ。



「珍しいですね。莉子先輩が茶筅を壊しちゃうなんて」


「壊したんじゃなくて先が欠けただけでしょ。古い物だったのかしら?」


「……はい、そうですね。新しい物と取り替えましょう」



 瀬川さんが先の欠けた茶筅と茶碗を持ち、シンクへと進む。


そんな彼女の後ろ姿を見ながら、僕はある事を思い出す。


最近瀬川さんが、茶筅をすべて新しい物に変えたばかりだったという事を。


新しい茶筅と茶碗を手に、瀬川さんが風炉の横に正座し再び茶筅通しを始める。





――――――集中力を欠いている




 僕の目にはそう見えた。


いつもの美しい作法が、今日は心ここにあらずに見える。


集中しようとしてるんだけど、集中しきれてない。



 手は動いているんだけど、気持ちが入ってない。そんな風に見える。


点て終えた薄茶は、いつもの瀬川さんのお茶とはほど遠い泡立ちだった。



「……」



瀬川さんが、納得がいかないといった表情で自分のお茶を見つめる。


そして、自分のお茶を自服して苦い顔をした。

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