第六十八杯「大丈夫! きっと需要はあるよ!」
「リベンジです!」
輝木さんがショッピングモールの前でフンスと鼻を鳴らす。
「何の?」
「決まってるじゃないですかー。結衣菜と莉子先輩、ついでに先輩のデートのリベンジですよー。昨日は会長先輩っていうお邪魔虫がついてきましたからー」
「板野さんは?」
「板野先輩はお邪魔虫じゃありませんでしたけどー、結衣菜は莉子先輩とデートしたいんですー。イチャイチャとー」
昨日の夜、輝木さんから連絡が来てショッピングモールに来る事になった。
日曜の15時前という事もあって、ショッピングモールは混み合っている。
「スミマセン、お待たせしましたー」
バスから降りて来た瀬川さんが、こちらに駆けてくる。
昨日の着物から一転、半袖の白の上着に、ピンクのスカートだ。清楚な彼女によく似合っている。
「莉子せんぱーい、全然待ってないですよー。待ち合わせは15時ですしー」
「フウ、よかったです。大鳥君、こんにちは」
「うん、こんにちは」
瀬川さんが、僕にニコッと微笑む。うっかり好きになってしまいそうなくらい魅力的な笑顔だ。
「では、行きましょうー!」
「はい! 楽しみですねっ」
「……う、うん」
楽しそうな女子2人と比べて、僕の足取りは重い。
なぜなら今から行く所が……
「莉子先輩、ここですー! ここ、可愛い水着が多いんですよー!」
「ホントですねっ! 少しお値段は張りますが……。お年玉を崩してきたので大丈夫です!」
女子の水着が売っているショップだからだ。
当然のように周りは女性が多く、男の僕には肩身が狭い。
「じゃあ僕はあそこで待ってるから」とベンチに逃げようとしたが、輝木さんにガッチリ肩を掴まれる。
「せんぱーい、何ヘタレてるんですかー。先輩の意見も聞きたいから、いっしょに見てくださいよー」
「大鳥君、ご意見よろしくお願いしますっ!」
含みのあるニヤっとした笑顔と、裏表ないニコッとした笑顔が同時に迫ってくる。詰んだ。
2人の後をトボトボついていきながら色とりどりの水着が飾られているショップを歩く。
当然の事ながら男は僕しかいない。不審者に間違えられないだろうか……
「莉子先輩、莉子先輩、この水着とかどうですかー? 莉子先輩に似合うと思いますよー」
「こ、これはさすがに大胆すぎますよ輝木さん……!」
「にゅふふ、よいではないかー、よいではないかー」
「や、やめてください!? 大鳥君、助けて下さい!!!」
と、いつの間にやら大変な事になっていた。
瀬川さんに助けを求められ、際どい水着を持っている輝木さんを間に入って止める。
「む~、もうちょっとで落とせてた所だったのに~。てゆーか先輩? 何で帽子被ってるんですかー?」
「きょ、今日は日差しが強いから」
「今屋内じゃないですかー」
頭に被った黒いキャップの位置を直す。
このショッピングモールは5月に椎名さんと会った場所だ。
まあ遭遇する可能性は低いだろうけど、今は彼女に会いたくないし、存在に気づかれたくない。
「大鳥君、私の水着を選んでいただけますか?」
「え? 僕が?」
「はい。お恥ずかしながらどういった水着がいいのか分からなくて……。選んで頂けたら僥倖です」
僥倖なんて言葉、リアルで聞くのは初めてだなと思いつつ水着を見る。
思春期男子には見るのも手に取るのも気恥ずかしい代物だ。
しかし輝木さんに選ばせたら、また際どい水着を選びかねない。
僕は緊張しながら水着を見つめ、瀬川さんに似合いそうなものを選んだ。
「じゃあ……これとかどうかな?」
「いいですね! では、試着してきます!」
僕が選んだ黄緑色の生地に、大きな花柄が描かれている水着のサイズを選び直して、瀬川さんが試着室へ入っていく。
「ハー。せんぱーい、ダメダメですねー」
しかし瀬川さんが試着室に入ると同時に、輝木さんにため息を吐かれる。
「え? どこが?」
「デザインは莉子先輩に似合いそうですけどー、胸元の開いたビキニを選んだ所がですよー。下心見え見えでバッドチョイスですー。男の子が女の子の水着を選ぶならー、もっとフリルとかリボンとかで胸元が隠れてるものを選ばないとー」
「……もっと早く言ってよ」
ガチなダメ出しを食らい凹む。そういう事は選ぶ前に言って欲しかった。
「まあ莉子先輩はそういうの気にしなさそうですけどー、ちょっとズレてる所ありますし」
「……だね」
そんな話をしている内に、試着室のカーテンが開いて水着姿の瀬川さんが現れた。
「い、いかがでしょうか? ビキニは初めてなので恥ずかしいのですが……」
「「ありがたやありがたや」」
「な、なぜ拝むのですか!?」
輝木さんと2人で拝んでいると、瀬川さんからやめてください!とガチめのトーンで泣きつかれたのでやめて顔を上げる。
そこにいたのは海にいたら絶対ナンパされる美少女だった。
透き通った肌。
スッキリとした長い足。
スリムな体付きの割に、意外と大きく谷間もしっかりできている胸。
この美少女の水着姿に目を奪われない男がいるだろうか。いや、いまい(反語)。
「大鳥君、い、いかがでしょうか?」
「すごく……似合ってるよ。瀬川さん以上にこの水着が似合う人は、この地球上にきっといないね」
「そ、そうでしょうか……。では! こちらにします!」
瀬川さんが顔を赤くしながら、試着室へと引っ込んでいく。
「えー、もうちょっと見せてくれてもいいのにー。莉子先輩も恥ずかしがり屋さんですねー」
不満そうに唇を尖らせている輝木さん。僕も同意見だ。
でも正直あれ以上見ているのはこっちもドキドキして落ち着かないのでよかった。
「お、お待たせしました」
「う、うん……」
水着を手に、瀬川さんが顔を赤くしながら出てくる。
着ているのは服だけど、さっきの水着姿が浮かんでしまう。
この子と付き合える相手は幸せだろうな……
「じゃ、次は結衣菜が試着してきますね」
いつの間にか水着を手にしていた輝木さんが、瀬川さんと入れ違いで試着室へ入っていく。
瀬川さんが、頭のお団子をクシクシいじりながら僕の隣に並んでくる。
「わ、私の水着姿、変じゃなかったでしょうか?」
「へ、変なんかじゃなかったよ。その……すごくキレイだった」
「あ、ありがとうございます……」
「……」
「……」
会話終了。
ぼっち同士がペアになるとこうなる。
分かってはいたけどこうなる。
ただ、不思議と居心地の悪さは感じなかった。
初めて出会った時は、彼女と瓜二つだと思った彼女。
でも今は、もう彼女を見ても彼女の事をあまり思い浮かべなくなっている。
「……」
「……」
そうこうしている内に、試着室のカーテンが開いて輝木さんが現れた。
「じゃじゃーん! 結衣菜の水着姿、お披露目でーす!」
「「(ズレそう!!!)」」
僕と瀬川さんの心の声がシンクロしたのが分かる。
黄色いビキニを着た輝木さんの胸元はブカブカで、今にもズリ落ちそうになっていた。
意外となくはなかったけど、ややちっぱいには合っていなかった。
僕は輝木さんから目を逸らし、瀬川さんに声をかけた。
「……瀬川さん、お願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。輝木さん、もっとサイズの合った物にしましょうね」
「えっ? ちょっと待って下さい莉子先輩!? 結衣菜、合宿までにきっと大きくなりますからー!!!」
いやあと1週間でそのサイズに成長するのは無理だろ!と思いながら、瀬川さんが輝木さんを試着室に引っ張り込みカーテンを引く音を聞く。
この後輝木さんは渋々自分のサイズにあった水着を試着してから購入した。
その視線は瀬川さんの胸をうらやましそうに見ていた。
大丈夫! きっと需要はあるよ!




