第四十九杯「としょいいんのおしごと②」
「先輩、ちょっとその席変わってもらっていいですかー?」
月曜日の放課後。
月曜は部活が休みの生徒が多いため、いつもより多い貸し出し処理や返却処理を終えた所で輝木さんがそう言ってくる。
いつも右のパソコンの席が僕、左が輝木さんのため珍しい。
席を替わった輝木さんがパソコンをカチカチしてから「あちゃー」と声を出した。
「先輩、莉子先輩が延滞してますー」
「え? 瀬川さんが?」
画面を見てみると、確かに瀬川さんは5冊の本を延滞していた。
「この前借りていった『りゅう○うのおしごと!』と『あ○びのかんけい』か……」
「続き気にならないんですかねー?」
「そもそも忘れてるのかもね……」
今日も応援団のチアの練習に行っている瀬川さんは、注目を集めているらしくギャラリーが増えているようだ。
「明日のお昼休み、莉子先輩に言っておいてくださいね先輩」
「僕が?」
「はい」
「まあ、いいけど……」
輝木さんが、僕の事をじーっと見てくる。
「ど、どうしたの?」
「先輩、最近なーんかおかしくないですか?」
「な、何が?」
「莉子先輩の前で緊張してるっていうかー、意識してるっていうかー、そんな感じ?」
「……そんなに分かりやすい?」
「はい。当の莉子先輩は気づいてないみたいですけどー」
ごまかしてもムダだと思ったので認めると、そんな答えが返ってきた。
「何かあったんですかー?」
「……それは言えないよ」
「えー」
輝木さんが不服そうにするけれど、何があったかは言えない。
『好き』とは言われたけど、どんな意味か分からないし、恋愛的な意味はなさそうだけに勘違い野郎とは思われたくない。
輝木さんがハーッとため息を吐く。
「つまんないですねー。ラノベなら読者が途中で読むの辞めちゃう展開ですよー」
「なんで?」
「ここは可愛い後輩に相談して場面を打開するとこでしょー。そして嫉妬イベントが発生、結衣菜が先輩を閉じ込める!みたいな展開に」
「なりたくないよ」
突然ヤンデレ要素をチラつかせた後輩から椅子を引いて距離を取る。
チラつかせるのは太ももや胸元だけにして欲しい。
いや、学校でそんな事するのもダメだけど
「まあ冗談はこれくらいにして」
「冗談、だよね?」
「なんで警戒してるんですかー。結衣菜はそんな事しますんよー」
「それどっちの意味?」
「しますんよー」
「……」
なんか怖いので距離を取ったままにする。
「まあ冗談はこれくらいにして」
輝木さんが椅子のキャスターを転がしてこっちに近づいてくる。
ふわっと、女の子特有の甘い香りがした。
慣れてもおかしくない回数嗅いでいるのに、ドキドキしてしまう。
「莉子先輩って、恋人いるんですかねー?」
「さ、さあ、どうだろう? 彼氏いてもおかしくなさそうだけど……」
「ハイへんけーん」
僕の顔の前で、輝木さんが人差し指と人差し指でバッテンをつくる。
「え?」
「恋人=彼氏とは限らないですよ? 女の子の恋人って可能性もなくないですか?」
「それは……まあ、そうだね」
「そです。結衣菜の中学ではフツーにいましたし」
「え? いたの?」
「はい」
「そうなんだ……」
ちょっとビックリ。でもあってもおかしくない話か。
「……引かないんですか?」
「うん?」
「女の子同士なんてーとか思わないんですか?」
「ああまあ、ちょっと驚いたけどいてもおかしくはないかなって」
「でも実際に見たらーとかなりません?」
「さあ、別にいいんじゃない? 恋愛は人それぞれだし」
輝木さんが二、三度目をパチパチさせる。
「じゃあ仮に結衣菜と莉子先輩が付き合ったら応援してくれます?」
「そりゃまあ、2人とも知り合いだし応援するよ。何かできる訳ではないだろうけど」
僕の返事に、輝木さんがデスヨネーと苦笑を返す。
そして時計を見てから、僕の背中をグイグイ押した。
「ホラ先輩、閉館時間近いですよ。結衣菜はカウンターしてるんで返却本戻しに行って下さい」
「仕事をサラッと押しつけないでよ。まあいいけど」
いつもより多い返却本の詰まったカートを押して本棚へと向かう。
その手応えは、いつもより重たかった。




