第四十七杯「かもなまいはうす②」
「問題があります」
金曜の昼休み。
いつものように茶道部の部室に集まった僕達に、開口一番寧音姉が言う。
「今のままだと、輝木さんの勉強が間に合いません」
寧音姉の言葉に、輝木さんがガックリうなだれる。
「ううっ……、結衣菜だって頑張ってるのに……」
「頑張ってるのは認めるけどこのままだと期末試験に間に合わないのよ。何せ全科目赤点なんだから」
寧音姉がハアっと疲れたため息を吐く。
自分の勉強もしながら輝木さんの勉強も見ているのだから負担は相当なものだろう。
しかしこっちはこっちで問題があった。
「こっちも瀬川さんの勉強が間に合いません」
「ううっ……、面目ありません……」
色々頑張ってもらってるけど、思ってた以上にひどく、文法は中学レベルからやり直してる状態なのでとにかく時間が足りない。
他の科目も見ておきたいのでとにかく時間が欲しい。
「なので今週の土日のどちらかで、皆で集まって勉強したいと思います」
「えーっ!? ヤですー! 土日は遊びたいですー!!!」
寧音姉の言葉に、輝木さんが声を上げる。
「現代文8点、数I3点、数A12点、英語6点、理科総合11点の分際で何を言っているのかしら……!」
「イタタタタタ!? ギブ!? ギブです! 分かりました! ベンキョーしますからー!!!」
しかしすぐに寧音姉の両拳で頭グリグリが炸裂しギブアップした。
どうやら上下関係ができあがったようだ。
僕は、マイペースにお弁当を摘まんでいる板野さんに声をかけた。
「他人事のような顔をしてるけど、板野さんも問題あるからね」
「私が? どこが問題なんですか?」
「板野さん、応用問題解き方と答え暗記してるでしょ」
「……」
「その証拠にホラ、さっき解いてもらった問題の答え間違ってる」
「……問題の数字を変えたんですね」
「先生だってテストでやる事だよ。まさか先生に数字を変えないで下さいなんて言わないよね」
「……言いません」
「じゃあ土日にもう一度ちゃんと公式がどうしてそうなるかを理解する所からやり直そうか」
「……はい」
若干不満そうだけど、板野さんが頷く。
彼女は要領が悪いだけだから、コツさえ掴めば苦手も克服できるはずだ。
それより問題は……
「瀬川さん、昨日の英作文雑に書いちゃったでしょ」
「ス、スミマセン……」
「着実に力をつけていってるのにもったいないよ。忙しいのならお稽古を減らしてもらったり、応援部の練習やめにした方が……」
「いえ、それはできません」
申し訳なさそうな声から一転、意思の強い返事が返ってきた。
「一旦始めたものを、中途半端に投げ出す訳にはまいりません。ご心配なく、これからはちゃんと両立させてみせます」
「……なら、いいんだけどさ」
昨日寧音姉から聞いた運動部のメンタルトレーニングに茶道を教えてるという事を明かさない瀬川さんに、いや、それを明かしてもらえない僕に失望してしまう。
せめて何か手伝わせてくれてもいいのに……。
「それじゃあ土日のどっちに、どこで集まるか決めましょう。まずは土日の予定を聞かせてちょうだい」
「私は特に何もありません」
「結衣菜もですー」
「僕もだよ。板野さんは?」
「私も今週は何もありません」
「それじゃあ土曜にこの茶道部の部室に……と言いたい所だけど、旧校舎土日は閉まってるのよね」
「そーなんですか?」
「そうよ。だから誰かの家で集まる他ないわね」
「では私の家ではいかがですか?」
輝木さんの問いかけに寧音姉が答え、瀬川さんが早速手を上げる。
瀬川さんの家を思い出す。
「瀬川さん家はやめよう」
「どうしてですか?」
「あそこは……逆に落ち着かなくて勉強に集中できなさそうだから」
「家」というより「屋敷」みたいな瀬川さん家で勉強するのは落ち着かなそうだ。
お母さんが顔を出してきて、萎縮する光景が目に浮かぶ。
「結衣菜の家もダメですよー。ここから遠いですし、マンションだから狭いですしー」
「ウチもです」
輝木さんと板野さんもNGを出す。となると……
「僕の家か寧音姉の家?」
「大鳥君の家でいいでしょ」
「まあいいけど」
「ほほう、先輩の家でお勉強ですか。それはそれは楽しそうですね」
輝木さんがニッシッシという表情でほくそ笑む。
「言っておくけどあなたの担当は私よ輝木さん。しっかりお勉強させてあげるからね」
「……ワーイ、ユイナベンキョーダーイスキ」
寧音姉に釘を刺され、輝木さんが死んだ顔でダブルピースを浮かべる。
「大鳥君の家ってどちらにあるんですか?」
「ここから自転車で20分くらいの所かな。西図書館の近くなんだけど」
「自転車でもバスでも行けるから、土曜の9時くらいに図書館前で待ち合わせって事でどうかしら?」
「結衣菜大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「私も行けます」
輝木さんと瀬川さんと板野さんが頷く。
こうして土曜に集まって勉強する事が決まった。




