第三十八杯「綾瀬寧音の暗躍」
「実は折り入って、瀬川さんにお願いがあるの」
「お願い、ですか?」
6畳に満たない、狭い茶道部の部室で私は彼女と向き合っていた。
この茶道部に通い始めて3週間。
何杯かお茶をいただいて、彼女とも打ち解けてきた頃合いだ。
「今度体験入部に部活に入ってない2年生の男子を来させるから、茶道部に入部させてあげて欲しいの」
「部活に入ってない? この学校の校則では、何かの部活に入るのが決まりでは?」
「ええそうよ。でも彼は、あれやこれやと理屈をこねて部活に入らなかったの」
「それは何とも……やる気のなさそうな方ですね」
まだ会っていないのに、彼女の中での彼の評価が地に落ちる。
落ちすぎて入部して欲しくなさそうな空気だ。
でも彼女の茶道部に、彼を入部させてもらわないと困る。
「やる気がないっていうのは事実ね。だけどあなたに会えば変わるかもしれない」
「どういう意味ですか?」
「それは――――――私の口からは言えないわ。でもこれだけは言える。この茶道部に入らないと、彼はこの先ずっとダメになる」
「……」
何やら事情があると察したのか、彼女が神妙な面持ちになる。
「彼が来たら厳しく指導してあげてちょうだい。その扇子で手を叩いたりとか」
「ええっ!? そんな事、できませんよ!」
畳んでいる扇子を胸に抱き、瀬川さんが泣きそうな顔で首を振る。
何かイヤな思い出でもあるのだろうか。
でもここは、心を鬼にしないといけない。
私は彼女に向けて、深々と頭を下げる。
「お願い。このままだと裕樹は……彼はダメになる。私が彼に関われるのはもうこの1年しかないの。それまでに立ち直らせてあげたいのよ」
「……」
顔を上げると、瀬川さんが私をまっすぐ見ていた。
なんて曇りのない眼なんだろう。
魂の美しさまで、表しているかのようだ。
「事情は分かりませんが、綾瀬先輩は覚悟がおありなのですね」
「……ええ」
「かしこまりました。私も腹をくくりましょう」
「じゃあ」
「はい。その彼を茶道部に入部させましょう。そして厳しくお稽古いたします」
「……ありがとう」
あの子と瓜二つの顔を持つこの子を利用するような真似をするのは心苦しいのだけれど、これしかない。
でないと彼は一生ダメになる。
これでいい。
私は自分に言い聞かせる。
これで彼女を――――――――――――輝木結衣菜さんを、守る事ができる。
これで第1章は完結です。
次回更新は5月29日です。
このお話は、とあるスマホゲームに出てくる私の好きなキャラの髪を解いた姿が、そのスマホゲームの人気キャラにそっくりだとつぶやかれていた事から思いついた物語です。
初恋の女の子に瓜二つの彼女に出会ってしまった彼。
そんな彼の事情を知らない彼女。
彼と彼女の間で板挟みの彼女。
そんな彼女の事を気にかけている彼女。
そして、彼ら彼女たちの事などまったく意に介さないマイペースな彼女。
彼ら彼女たちの物語はこれからどうなっていくのか。
茶道についてはまだ勉強を始めたばかりです。至らない所があったらスミマセン。
次話以降のお話は、毎週金曜に公開していく予定です。
なるべく更新できるように頑張ります!
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