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さどうぶっ! ~転校生の茶道部部長は、初恋の女の子に瓜二つだった件~  作者: アブラゼミ
いっぱいめ「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

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第三十二杯「わたしが先輩の代わりになれるわけないじゃん、ムリムリ!」

「あのー……先輩?」


「……」


「せんぱーい、オーイ、せんぱーい」


「……」


「へんじがない。ただのしかばねのようだ」


「……死んでないよ」




 本から顔を上げて、図書室のカウンターの隣に並ぶ輝木さんに答える。




「いや顔死んでますけど。そんなに厳しい……ですよね。莉子先輩の『お稽古』」


「……うん」




 おとといの放課後と、昨日のお昼休みと放課後、それに今日のお昼休みとみっちりお茶会でのお作法を叩き込まれ……お稽古してもらった。おとといと昨日は輝木さんもいたから、スパルタ茶道部長の『お稽古』の厳しさはよく分かってるだろう。




「土曜も学校に来て部室でお稽古する事になっちゃったよ。それくらいしないと作法を覚えられないだろうけどさ」


「ごしゅーしょーさまでーす」


「……ホントだよ。ただお茶会に出るだけなのに。なんであんなに覚える事多いんだろ……」




 茶道の入門本に目を落とし、瀬川さんから教わった事を復習する。


襖の開け方から茶室への入り方、お菓子の頂き方、お茶の頂き方に至るまで細々とした作法がたくさんあり覚えるのに必死だ。もう扇子で叩かれたくない。


輝木さんは間違えても叩かれないのに、なぜか僕は間違えた時に叩かれる。


彼女の中で、僕は叩いていい対象と思われてるのか? 前にやめるって話したのに……




「ところで輝木さん、何を読んでるの?」


「『わたしが○人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』ですー」


「あー、それかー……どんな話だったっけ?」


「もー、茶道の事で頭いっぱいになっちゃってるじゃないですかー」




 輝木さんが「わたしが○人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)」のあらすじを説明し出す。そういえばそんな話だった。




「それ図書室の本でも図書館の本でもないよね? 輝木さんの本?」


「はいー。結衣菜、わ○なれは全巻買ってますー。一番好きな作品なんでー」




 クフフと笑いながらわ○なれを大切そうに両手で持つ輝木さん。よほど大事にしているようだ。




「よっぽどお気に入りなんだね。どのキャラが推しなの?」


「もちろんれ○子です! 結衣菜もあんな彼女が欲しいですー!」




 それから興奮気味にれ○子のいい所をしゃべってる輝木さんだけど、話が頭に入ってこない。


今は茶道の知識以外を入れている余裕がない。本当に余裕がない……




「せんぱーい、聞いてますー?」


「ゴメン、聞いてたけど耳に入ってなかった」


「それ聞いてないのと何が違うんですかー」




 輝木さんが怒った様子で僕をバシバシ叩く。痛い痛い。


それから何だか気遣わしげな目を向けてきた。




「どーやら大変みたいですねー。お茶会のお稽古」


「ああ、うん……。輝木さん、変わってくれない?」


「今更何言ってるんですかー。ムリですよー、ムリムリー」




 当たり前の事を言われてしまい、茶道の本に再び目を落とす。


今は少しでも作法を覚えるしかない。




「茶道のラノベでもあるといいのにですねー。『さどうぶっ!』とかありそうじゃないですかー?」


「あー、Web小説とか探せばありそうだけど、あんま参考にはならなさそうかなー。作法より人間模様がメインになるだろうし」


「デスヨネー」


「マンガもあるんだけどね。不良が茶道をやる作品」


「そーなんですか?」


「うん。昔サン○ーで連載されてた」




 時折輝木さんが話しかけてきて、気分転換になる。


茶道の本を最後まで読み終えて、顔を上げる。


気がつけば図書室を閉める20分前になっていた。




「それじゃあ僕は返却された本を戻しに行ってくるから」


「もう戻しときましたよー」


「え?」




 輝木さんに言われ本を戻すカートを見ると、20冊くらいあったはずの返却本が空になっていた。




「先輩がお勉強中に、結衣菜戻してきましたー。すごい集中力でしたねー」


「あー……、ゴメン。つい」


「いいんですよー。いつもほとんど先輩にしてもらってますしー。たまには可愛い後輩に頼っちゃってください」


「うん、ありがとう」


「……」




 お礼を言うと、輝木さんが神妙な顔になる。




「どうしてそんなに頑張るんですか?」


「うん?」


「昼休みも土曜も犠牲にしてお稽古するなんて、先輩のイメージと違います。もしかして、莉子先輩の事を好きになったんですか?」


「違うよ。前にも言ったけど、僕は瀬川さんにそういう気持ちは抱いていないって」




 苦笑交じりに答えると、輝木さんが小首を傾げる。




「じゃあどうしてですか?」


「そうだな……。きっとこうする事が、瀬川さんのためになるって思ったからかな?」


「……」




 僕の返答を聞いて、輝木さんがフウと小さく息を吐く。




「やーっぱり、結衣菜じゃ代わりはできそーにないですねー」


「うん? どういう意味?」


「なんでもないですー。そろそろ見回りいきましょー」


「ああ、うん……」




 何やらはぐらかされて、2人別々に見回りを始める。


そしていつも通り、閉室時間に図書室を閉めた。

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