第三十杯「響かない! ユーキニアム」
「先輩先輩、何読んでるんですか~?」
月曜日が休みの部活が多いからか、いつもよりは人が多い放課後の図書室。
そのカウンターで隣に並ぶ輝木さんが、いつものように声をかけてきた。
「『響け! ○ーフォニアム』」
「おやー? 先輩にしては珍しいチョイスですねー」
「久しぶりに読みたくなってね」
図書室に入っている『響け! ○ーフォニアム』を掲げて輝木さんに問いかける。
「ところで輝木さん、『響け! ○ーフォニアム』ってラノベに入ると思う?」
「うーん、入らないと思いますー。表紙にイラストはありますけど、本編にイラストがないですしー」
「だよねえ。瀬川さんはこれもラノベだって思ってるみたいだけど」
「あー、まあ確かにラノベっぽいっちゃラノベっぽいですけど。京○ニでアニメ化もされてますしー。劇場版も作られましたしー」
「そういえば今、映画やってるみたいだね」
「そーなんですよー。今度の日曜結衣菜クラスの子達と観に行くんですー。吹奏楽部の皆といっしょに」
「そうなんだ。それは楽しみだね」
「はいー。それより先ぱーい、莉子先輩とのデート、どうでした?」
どうやらこっちが本題だったらしい。
ニヤニヤと笑う輝木さんに、小さく息を吐く。
輝木さんは気を使ったつもりだったろうけど、僕からしたら……
「輝木さんがいてくれたらなあって思ったよ」
「ふぇっ?」
変な声を出して、輝木さんがキョトンとする。
その顔がジワジワ赤くなる。
「な、なんですか? 結衣菜、口説かれてるんですか?」
「いや口説いてないけど」
「またまたー、照れちゃってー」
僕の肩をバシンバシン平手で叩いてくる輝木さん。痛い痛い。
「瀬川さんと買い出しに行った後、いっしょに蕎麦を食べに行ったりしたんだけど、会話が止まっちゃたり、2人共黙り込んじゃう場面があってさ。輝木さんがいれば話が止まる事なかっただろうなーって思ったんだ」
「あー、そういう……。先輩は先輩ですし、莉子先輩は人と遊びに行ったりするの、慣れてなさそうですもんねー」
「だよね」
家が厳しそうだし、多分子供の頃誰かと遊びに行ったりする事なかったんじゃないだろうか。ましてや異性と2人で出かけるなんて経験もなさそうだし、何をしゃべっていいのか分からなかったのかも知れない。
連絡先も交換したけど、『これからよろしくお願いします』『うん、よろしく』の1ターンで終了した。
「そーゆー時にー、スマートに話題を振ってあげるのは先輩の役目ですよー」
「って、言われても……話題なんてないし」
「ないのは話題じゃなくてやる気でしょー? そんなんじゃモテませんよー」
「いいよモテなくても……」
と、いつものように下らない話をしているとセーラー服のスカートがカウンター前に現れた。
「大鳥君、輝木さん。こんにちは」
そこにいたのはいつも通り美しい人。茶道部部長の瀬川さんだった。
彼女と目が合い、僕の胸が大きく跳ねる。
おととい一緒に出かけて時間を過ごしたとはいえ、まだ慣れそうにない。
瀬川さんの腕にはカバンがかけられ、両手には5冊の文庫本が抱えられていた。
僕は、努めて冷静を装い彼女に話しかけた。
「こんにちは瀬川さん。返却かな?」
「はい、よろしくお願いします」
「かしこまりでーす」
輝木さんと手分けして5冊の本、『りゅう○うのおしごと!』6巻から10巻をページをめくって汚れなどがないか確認し、パソコンで返却手続きをする。
「全部ご返却いただきました。それにしても早いね。もう読んだんだ?」
「はい。早く続きが読みたくなって一気読みしてしまいました。こちらの貸し出しをお願いしますね」
そう言って瀬川さんが、カバンから『りゅうおうの○しごと!』11巻から14巻までの4冊と、『あそ○のかんけい』の1巻を出してくる。
「あれ? 『あそ○のかんけい』も借りていくんだ?」
「はい。大鳥君にお話を聞いて読みたくなってしまいまして。少しだけ読んだんですが、面白そうなお話ですね」
「それは重畳だね」
「はい、重畳です」
談笑する僕達の横で、輝木さんがニヤリと笑う。
「莉子先輩も着実にラノベ沼にハマってますねー。てっきり『こんなのハレンチです!』とおっしゃるかと思いましたが」
「あ、ええと……確かに破廉恥なシーンやイラストもあったのですが、逆にそれが読みたくなったといいますか……」
頬を赤く染めて頭のお団子をクシクシいじる瀬川さん。
純粋培養お嬢様っぽいし、そういうものに触れてなかった分新鮮だったらしい。
……新鮮だったという事にしておこう。
「そ、それより瀬川さん。今日は部活はどうしたの?」
「本日は部室の掃除と備品の整理だけにして、おしまいにしました」
僕から貸し出し手続きが完了した『りゅう○うのおしごと!』と『あそ○のかんけい』を受け取りながら、瀬川さんが微笑む。
それから、何だか真剣な表情になった。
「大鳥君、輝木さん。明日のお昼休み、茶道部の部室に来ていただけますか?」
「明日のお昼休み? 僕は大丈夫だけど……」
「結衣菜も大丈夫ですー」
「ではお昼ご飯を持ってお越し下さい。お茶をお点てします。そこで皆さんの茶道具をお配りするのと……大事な話がございますので」
「大事な話?」
「明日お話いたします。では」
瀬川さんが、ニコッと笑って図書室を後にしていく。
その様子は、何だか緊張感があった。
「大事な話って、何ですかねー?」
「さあ?」
僕と輝木さんは、目を見合わせて互いに首を傾げた。




