表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さどうぶっ! ~転校生の茶道部部長は、初恋の女の子に瓜二つだった件~  作者: アブラゼミ
いっぱいめ「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/66

第二十九杯「ぼっち・ざ・でーと③」

「着きました。こちらのお店です」




 商店街の端にある、『たちばな』という看板がかかった和菓子屋さんの前で瀬川さんが立ち止まる。


こちらも年季の入った感じのお店だ。その扉を横に開いて瀬川さんが入る。




「こんにちはー」


「おや莉子ちゃん、いらっしゃい」




 ショーケースで頬杖をついていたおじいさんが、顔を上げる。


白い作務衣に白い帽子、いかにも職人といった感じの出で立ちだ。


そして瀬川さんを下の名前で呼ぶところを見るに、昔からの知り合いらしい。




「おや? 男を連れてるなんて初めてだね? 彼氏かい?」


「いえ、同じ高校の茶道部の部員です」




 さっきの蕎麦屋さんと同じようなやり取りが起き、また受けなくてもいいダメージを受ける。


別に瀬川さんとどうこうなりたい訳じゃないけどさ……




「大鳥君、こちらのお店はイートインだとお茶がついてくるんです。どのお菓子にしますか?」


「そうだな……。瀬川さんのオススメはどれ?」


「私のオススメはおはぎです」




 瀬川さんに勧められ、ショーケースを見る。


大きなおはぎが1個100円で売られていた。安い。


他のお菓子も1個100円台で売られていた。




「じゃあおはぎにしようかな」


「かしこまりました。杵太きねたさん、おはぎを2つ、店内でお願いします」




 僕は現金で、瀬川さんは意外にもスマホ決済でそれぞれおはぎの代金を払う。


おじいさんがおはぎをお皿に取り、お茶を注ぎ出す。


僕と瀬川さんは、店内の席に腰掛けた。




「瀬川さん、このお店も昔から通ってたの?」


「はい。家の茶道教室のお茶菓子は昔からこちらでお世話になっていますので」


「あ、もしかして茶道部のお菓子も……」


「はい、こちらのお店で購入しています」




 茶道部で出た若鮎や濡れ燕を思い出す。


確かにアレは、スーパーやコンビニじゃ売ってなさそうだ。




「はいよ。おはぎとお茶2つお待ち」


「ありがとうございます」


「あ、ありがとうございます」


「ごゆっくりどうぞ」




 頑固そうな見た目とは裏腹に、愛想のいい笑顔を浮かべておじいさんが去って行く。


お皿に大きなおはぎが載っている。


瀬川さんに倣い、菓子切りで1口大に切ってから手で口に運ぶ。




「これは……すごいね。こんなにおいしいおはぎ、今まで食べた事ないよ」


「フフっ、そうでしょう?」




 今まで食べたおはぎと全然違う。


香り高いあんこに、上品な甘さに舌鼓を打つ。


大きいおはぎって、大きい割に甘さが足りなくて物足りない感じになるのにこれはそれが全然ない。




「これで100円は、安すぎるくらいだね……」


「ですよね? でもこれ、昔は80円だったんですよ」


「80円!? お店の採算は取れてるの?」


「そういうのは度外視だよ兄ちゃん。お客さんに喜んでもらいてえからな。まあ他でちゃんと回収してるからよ」




 ショーケースの上で頬杖をついているおじいさんが、ニシシと笑う。


商売が好きで、人が喜ぶ顔が好きな人の笑顔だ。








「……」


「……」








 先ほどの蕎麦屋と同様に、僕と瀬川さんは無言で黙々とおはぎを食べる。


瀬川さんは幸せそうな表情でおはぎを食べている。


本当に和菓子が好きなのだろう。


セットでついてきたお茶を啜る。


熱すぎずぬるすぎずちょうどいい温度だ。




キイイ、お店の前で自転車のブレーキの甲高い音がした。


ガシャンと自転車立てが乱暴に立てられる音がして、扉が横に開かれる。




「じいさーん、配達行ってきたぞー」




 おじいさんと同じ格好をした若い男の人が、岡持を手にのっそりと入ってくる。


随分若い人だ。20代前半くらいじゃないだろうか。




「三太さんた! 遅かったじゃねえか! どこほっつき歩いてたんだ!」


「別に寄り道してねえよ。まっすぐ帰ってきたっての」




 口げんかし始めるおじいさんと、多分おじいさんの孫の三太さん。太い眉毛や目元がよく似ている。


その三太さんの目が、瀬川さんと合い見開かれる。




「三太さん。お邪魔してます」


「莉子ちゃん。お邪魔だなんてとんでもない、いくらでもゆっくりしていってよ」




 態度がコロリと変わる三太さん。


すぐに分かった。この人は瀬川さんの事が好きなんだなと。




「……ところで莉子ちゃん、そっちの男は?」




 三太さんの目が、僕を向いて険しいものになる。分かりやすい人だ。




「同じ学校で茶道部の部員の大鳥君です。今日は茶道部で使う道具の買い出しに付き合ってもらいました」


「ど、どうも」


「……はあ、どうも」




 僕に対して不機嫌になる三太さん、分かりやすい人だ。




「コラ三太! お客さんに向かってその態度は何だ!」


「別にいいだろ。どうせもう来ねえだろうし」


「てめえこの野郎! 客商売を何だと思ってやがんだ!」




 また口げんかし始めるおじいさんと三太さん。その間を取りなすようにまあまあと瀬川さんが間に入った。




「まあまあお2人とも、落ち着いて下さい。三太さん、大鳥君三太さんがお作りになった『濡れ燕』の事褒めて下さってたんですよ。『食べるのがもったいない』って」




 瀬川さんの言葉に衝撃が走る。アレ、おじいさんじゃなくてこの人が作ったの?




「それはまあ……どうも」




 三太さんがこちらに目を合わさずに礼を言い奥へと引っ込んでいく。シャイな人だ。




「ったく、しょうがねえなアイツは。あんなんでよく店を継ぎたいだなんてよく言えたもんだ」




 おじいさんがフンと鼻を鳴らしてから、瀬川さんに笑いかける。




「莉子ちゃん、アイツの嫁になってくんねえかな? 莉子ちゃんが一緒にこの店をやってくれたら、心配ねえんだけどな」


「いえいえ、私程度じゃとても。それに三太さんにはきっといい方が現れますよ」




 おじいさんの言葉を冗談とでも思ったのか、瀬川さんがニコッと微笑みながら答える。


おじいさんは、分かりやすく肩を落とした。




「ダメかー……。まあアイツじゃ莉子ちゃんに釣り合ってねえからな」




 しょんぼりするおじいさんから目を外し、残っているお茶を啜る。


何だか気まずい。知らなくていい事情を知ってしまった気分だ。




「大鳥君、そろそろ出ましょうか。杵太さん。ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした。おはぎもお茶もおいしかったです」


「おう、ありがとうな兄ちゃん。また来てくれよ」




 愛想と気っ風のいい笑みを浮かべるおじいさんにお代を支払い、瀬川さんと僕はお店を出る。


瀬川さんが、先ほどの蕎麦屋を出た時のようにうーんと伸びをする。




「うーん、おいしかったですね。やはり『たちばな』のおはぎは絶品です」


「そうだね。瀬川さんって和菓子が好きなんだね」


「はい、私、和菓子が大好きです」




 弾むような声と笑顔で瀬川さんニッコリ笑う。可愛い。




「……」


「……」




 そしてまた、沈黙が2人の間に流れた。


分かっていたけどぼっち同士だと話を振ってくれる人がいないとこうなってしまうらしい。


輝木さんでもいてくれればよかっただろうに……




「じゃ、じゃあ僕はここで帰るね」


「え? あ、はい……そうですよね。用事は済んだわけですし……」




 気まずくなったので帰ると伝えると、瀬川さんがなぜかしょんぼりとした様子になる。


彼女の中ではまだ何かしたい事があったのだろうか。




「あ、あのっ」


「うん?」


「大鳥君さえよければ、連絡先を交換しませんか?」




 そう言いながら、瀬川さんが抹茶色のスマホカバーがかけられたスマホをハンドバッグから取り出してくる。




「あ、うん。部活の連絡とかで必要になるだろうしね」


「ですです。部活の連絡とかで必要になるでしょうし」




 ぼっち同士、他人と連絡先交換に慣れてない感じのやり取りをしながら、お互いスマホで連絡先を交換し合う。


高校に入って初めて誰かと、それも女子と連絡先交換してしまった。




「じゃ、じゃあ僕はこれで」


「は、はい。ではまた学校で」


「うん、また学校で」




 駐輪場まで付いてきた瀬川さんに手を振り、別々の方向に歩き出す。


時計を見るともう13時。


あの子と瓜二つの彼女と、2時間以上いっしょに過ごしてしまった。


人でいっぱいの遊園地で遊び疲れたみたいにクタクタだ。楽しい疲労感だけど。








「……うん?」








 何やら視線を感じ振り返ると、瀬川さんが立ち止まってこっちを見ていた。


僕が振り返った事に驚いた表情を浮かべた瀬川さんだけど、すぐにいつものニコッとした笑顔を浮かべて手を振った。


なんとなく手を振り返すと、彼女は踵を返し背中を向けて僕と反対方向へと歩いて行った。








「……」








 振り返った時に動いていた彼女の口を思い出す。


その口は、「ごめんなさい」と言っていた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ