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さどうぶっ! ~転校生の茶道部部長が初恋の女の子に瓜二つだった件~  作者: アブラゼミ
いっぱいめ「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

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第二十七杯「ぼっち・ざ・でーと」

 あっという間に金曜日が終わり土曜日がやって来た。

いつもより早めに目が覚め、シャワーを浴び、顔を洗って眉を整えた。

まだ時間があるというのにソワソワして落ち着かない。


 部活の買い出しとはいえ、女の子と2人で出かけるなんて初めて……でもないか。寧音姉に付き合わされる事があるし。

とはいえこれからあの子と、瓜二つな瀬川さんと待ち合わせなんて緊張する。

僕は、スマホのカレンダーにある『待ち合わせ 商店街 11時』を指でなぞった。





 自転車を駐輪場に止めて、商店街のアーケードを歩く。

コンビニ、コーヒーのチェーン店、100円ショップ、お米屋さん、金物屋さん。

どこにでもあるお店とここにしかないお店が混じる商店街は、シャッターが降りている店が多い。

土曜日が店休日なお店もあるようだが、全体的にもう何もやっていないお店が多い気がした。

時刻は10時35分。ちょっとどころではなく早く来すぎてしまった。

『あそ○のかんけい』の新刊を読みながら時間を潰す。




「大鳥くーん。お待たせしましたー」」




 美しく響く声と共に、天使がやってきた。

明るい茶髪をお団子ヘアにした瀬川さんが、手を振りながら近づいてくる。

白のロングスカートのワンピースに、桜色のカーディガンを羽織り、ガーリーな茶色のハンドバックを持っている。履いているのはピンクの靴紐がカワイイ白のスニーカーだ。


「瀬川さん、おはよう」

「はい、おはようございます。お早かったですね。まだ10時45分なのに」

「ま、まあ、ちょっと早く着きすぎちゃって」

「そうなんですか。では少し早いですが、買い出しに行きますか?」

「う、うん」


 瀬川さんと並んで、人もまばらな商店街のアーケードを歩く。




「……」

「……」




 会話がない。

僕が彼女に何を話しかけていいか分からないというのもあるけど、瀬川さんも何だか緊張しているらしく話しかけようとしては引っ込めというのを繰り返している。どっちもぼっちであるが故の無言だ。

そういえば茶道部にいる時も、瀬川さんは誰かに話しかけられたら答えるという感じだったような気がする。

こういう時に気を使って何か軽快なトークでもできればいいんだけど、僕には難しい。


「あー、瀬川さん」

「は、はい!」

「この商店街に、茶道の道具を売ってるお店があるの?」

「は、はい! 商店街の中ほどにある調理道具のお店で……」

「そ、そうなんだ」

「……」

「……」


 何とか話しかけてみたのだけど、わずか数ターンで会話終了である。空しい。


「……お、大鳥君」

「な、何?」

「先ほどお待ちになっている時に読んでいた本は、どんな本ですか?」

「……」


 瀬川さんに問われ、一瞬悩んだけどリュックから本を取り出し表紙を見せる。


「『あそ○のかんけい』っていうライトノベルだよ」

「『あそ○のかんけい』……? どのような物語ですか?」

「えーっと……ボードゲームカフェを舞台にした物語で、そこの店長代理の男子と、アルバイトの女子高生、常連客の女の子3人を中心に回る物語で……。まあ読んでもらった方が面白さが分かると思うよ。図書室に入ってるから」

「そうなんですか?」

「うん、読んだらきっと『裏切られた!?』『まさかこうなるとは!?』ってなるから」

「そうなんですね! とても面白そうです!」


 両手を合わせ、ニコッと微笑む瀬川さん。

美人っていうと近寄りがたいイメージがあるけど、彼女はカワイイをしっかり併せ持っていて、親しみやすい雰囲気もある。……あの子のように。


「そういえば瀬川さん、『りゅう○うのおしごと!』は何巻まで読んだの?」

「8巻まで読み終わりました」

「え? もう? 読むのは早いね」

「いえいえ、物語が面白いですから。おととい昨日と夢中になって一気読みしてしまいました。夢中になりすぎて、お母様からの呼びかけに気づけませんでした」


 瀬川さんが、可愛らしい微苦笑を浮かべる。

うっかり好きになってしまいそうな可愛さだ。きっとモテるんだろうな……

そんなこんな話してる間に、お目当てのお店に着いたらしく瀬川さんが「この店です」と言いながら足を止める。

年季の入った感じの金物屋だ。店内にフライパンや鍋などが所狭しと吊されてたり並べられてたりしている。


「おじさま、こんにちは」

「おお、莉子ちゃん。いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」

「部活動で使う茶道具を買いに来ました」

「そうかいそうかい。ゆっくり見ていっとくれ」


 レジ横に座っていたおじさんに挨拶して、瀬川さんがお店の奥へと進んでいく。


「こちらです」


 瀬川さんが、店の奥にある一角を手で示す。

そこには部室で見た事ある物から見た事ない物まで、多種多様な茶道具が並んでいた。


「すごいね……。茶道の道具ってこんなにあるんだ」

「はい。これでもほんの一部です」

「これでほんの一部なんだ……。今日は何買うの?」

「扇子や菓子切りは倉庫にありましたので、帛紗ふくさ茶巾ちゃきん、それから茶筅ちゃせんなどを購入しておきたいですね。『茶巾と茶筅は新しい方がいい』と言いますし」


 聞いた事のない単語が次々出てきた。

瀬川さんが、下の方にある赤い布を手に取る。


「こちらが『帛紗ふくさ』です。道具を拭き清めるために用います」


 掲げられた赤い布を見て、瀬川さんが部活で使っていたのを思い出す。

あと、手を縛るよう言ったときに差し出してたのも……


「ウチの流派では女性用は赤い帛紗、男性用は紫の帛紗を使います。そしてこちらは『茶巾ちゃきん』です」


 帛紗を数枚カゴに入れ、瀬川さんが白い布を広げる。


「茶碗を拭く麻でできた布です。大鳥君、茶巾寿司というお料理はご存じですか?」

「あ、うん。なんとなく……何かで包んでるようなお寿司だよね?」

「はい。錦糸卵で五目ご飯を包んだもので、宮廷の料理人が茶会での所作にヒントを得て考案したと言われています。そしてこちらが『茶筅ちゃせん』です」


 白い布を畳んでカゴに入れ、瀬川さんが竹できたお茶を点てる道具を手に取る。


「瀬川さん、それは部室にあるよね?」

「はい。ですが茶筅は先が欠けたりしやすいんです。欠けないように使う前にお湯で柔らかくしておくのですが……。それでも欠けてしまうので新しい物を買っておいた方がいいんです」

「なるほど」


 茶筅をカゴに入れた瀬川さんが、他の商品も真剣なまなざしで見始める。


「後は……懐紙も買っておきましょうか。近々必要になるでしょうし。大鳥君、大鳥君の靴のサイズはいくつですか?」

「靴のサイズ? 28cmだけど……」

「結構大きいんですね。ではこちらも買っておきましょう」


 瀬川さんが、真っ白な足袋も1つ取ってカゴに入れる。

カゴの中は何やかんやで一杯だ。


「持とうか?」

「いえ、大丈夫です。軽いので。お心遣い、ありがとうございます」


 僕の申し出を断って、ニッコリ笑う瀬川さん。布に紙に竹でできた商品。確かに重くはなさそうだ。


「おじさま、お会計をお願いします」

「はいよ。いつもお買い物してくれてるからサービスしとくよ。お会計から500円引きだ」

「ありがとうございます!」


レジにまっすぐ向かい、瀬川さんが店主のおじさんと談笑しながらお会計を済ませる。

やはりというか何と言うか、瀬川さんはこのお店に、いやこの商店街に通い慣れてるみたいだ。

お会計を済ませた瀬川さんが、レシートを抹茶色の財布に入れ、エコバックに道具を入れる。


「お待たせしました。大鳥君、行きましょう」

「あ、うん……」

「毎度どうもー」


 ご主人に頭を下げながら、2人でお店を出る。


「大鳥君、お付き合い頂きありがとうございました。買い出し、完了です」

「あ、うん……」


 あっさりと終わった買い出しに、拍子抜けした気分になる。

時刻は現在11時10分。お店に入って10分でのお買い物終了だった。

というか僕、何もしてないけど来る意味あった?




「……」

「……」




 瀬川さんと、無言で向かい合う。

ぼっち同士、何をしゃべったらいいか分からなくなった奴だ。輝木さんでもいてくれたら、違うんだろうけど……




「え、ええと……」

「あ、あの……」




 僕が何か話しかけようとするのと、瀬川さんが何か切り出そうとするのが重なる。


「な、何?」

「い、いえ、大鳥君からどうぞ」


 譲り合い修羅場が始まり益々気まずくなる。

クラスメートと英語のスピーキングの授業なんかで2人1組になった時に起こる、気まずい奴だ。

瀬川さんも経験あるのか益々空気が重くなる。


「あ、あの!」


 それでも意を決したように、瀬川さんが声を上げる。


「な、何?」

「少し早いですが、大鳥君、お腹空きませんか?」


 瀬川さんに問われ、お腹をさする。

早くに目覚めた分、朝ご飯を早く食べた事もありお腹は適度に空いていた。


「う、うん。空いてるかな」

「では……お昼ご飯をご一緒しませんか?」


 少し頬を赤らめ、上目遣いで尋ねてくる瀬川さん。

まさかこんな展開になるだなんて。

このお誘いを断れる者がいるだろうか。いや、いまい(反語)。


「う、うん。瀬川さんさえよければ」

「は、はい。ご一緒しましょう。大鳥君の好きな食べ物は何ですか?」

「僕は……蕎麦が好きだよ」

「ではお蕎麦を食べに行きましょう。この商店街、おいしいお蕎麦屋さんがあるんですよ」


 瀬川さんがニコっと笑って、僕の手を取り先導し出す。

柔らかく温かな感触にドキっとしながらも、僕は冷静になるよう自分に言い聞かせる。

彼女はきっと、新入部員と仲良くなりたいだけ。他意はないはずだ。

こうして僕らは、お昼ご飯を食べにお蕎麦屋さんに行くことになった。

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