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さどうぶっ! ~転校生の茶道部部長は、初恋の女の子に瓜二つだった件~  作者: アブラゼミ
いっぱいめ「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

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第二十五杯「いたのかよ」

「改めまして輝木さん、茶道部へようこそ!」


「わーい! ありがとうございまーす!」








 茶道部にパチパチとまばらな拍手が響く。


『お稽古』もほどほどに、今日は輝木さんの歓迎会を開くという事になった。


瀬川さんの手には扇子があるけれど、作法に反する行為をした輝木さんを叩く事はなかった。僕は叩かれた。なんでやねん。


輝木さんが落雁を手に取って囓る。そして微妙な顔をした。




「あー……口の中の水分が全部持ってかれますー。先輩、お茶くださーい」


「先輩をアゴで使うんじゃありません。はい」


「ありがとうございまーす」




 瀬川さんが点てた薄茶を飲んで、輝木さんがハアと息を吐く。


それから、僕の隣へジトっとした目を向けた。




「ところでー。なんで会長先輩がここにいるんですかー?」


「昨日も言ったでしょ。私は週1回茶道部でお茶を頂いているのよ。それに部活動の状況を確認するのも生徒会長の仕事よ」


「週1回ー? 昨日来たじゃないですかー」


「いつも水曜日に来てるのよ。昨日は子猫ちゃんの体験入部に立ち会って欲しいって頼まれたから来たの」


「結衣菜は子猫じゃないですー! フシャー!」




 輝木さんの威嚇を意に介さず、澄ました顔で寧音姉お茶を啜る。


そんな2人を瀬川さんが、ニコニコと見ていた。天使の目には、この2人の諍いが諍いと映っていないらしい。




「生徒会長の仕事ってー、ヒマなんですかー?」


「ヒマじゃないわよ。部活動の要望の取りまとめに、予算の配分、備品の管理に、教職員の負担軽減……。どうして教職員の仕事までこっちに回ってくるのかしら……」


「お、お疲れ様です」




 疲れたため息を吐く寧音姉に、瀬川さんが二杯目のお茶を点てる。


それを作法通り、茶碗の正面を避けるように回して3口半で最後はスッと音を立てて寧音姉が頂く。


瀬川さんに教わったというだけあって、堂に入った仕草だ。




「それより5月も残り半分よ。部員5人集められるのかしら?」


「うっ……。が、頑張ってどうにかします」


「部員5人? 5人集められないとどうなるんですかー?」


「廃部になるのよ」




 寧音姉の言葉に、輝木さんが飛び上がる。




「廃部ー!? 結衣菜入ったばっかなのにー!? もう廃部になるんですかー!?」


「お、落ち着いて下さい輝木さん。まだ廃部になると決まった訳じゃありません。それに廃部になっても同好会として続けられますし……。部室はなくなって、お茶とお茶菓子は出せなくなりますが……」


「お茶とお茶菓子のない茶道部なんて、茶道部じゃないですー!!!」




 荒ぶる輝木さんを、僕と瀬川さんが2人がかりでなだめる。


輝木さんはフーフー言いながらも、落ち着きを取り戻したようで畳の上に正座し直した。




「とにかくー、部員を集めないとですねー。結衣菜、友達に声かけてみましょうかー?」


「あ、いえ……。お手数をおかけする訳には……」


「……」




 輝木さんの申し出を断ろうとする瀬川さんに、前から感じていた違和感を覚える。


この態度といい、あのポスターといい、部室をこんな旧校舎3階の隅っこにした事といい。彼女はまるで茶道部に部員を集めたくない、いや、入る部員を選んでいるみたいだ。


輝木さんが、瀬川さんに向けて渋い顔をする。




「莉子せんぱーい、そんな事言ってられないですよー。結衣菜メンドーともメーワクとも思ってませんからー。声をかける子はいい子を選びますしー」


「そう言って頂けるのはありがたいんですけど、でも……」




 歯切れの悪い返事を返す瀬川さん。


転校したこの学校にわざわざ茶道部を立ち上げたのに、部員を集めたくない。


何か理由がありそうだけど、聞いても答えてくれなさそうな気がした。




 寧音姉を見る。


その何かを知っている、いや推測がついているのだろうけど澄ましてお茶を啜っていた。


こちらに聞いても答えてくれなさそうだ。




それより部員集めだ。


瀬川さんは乗り気じゃないけど、部員を集めないといけない。


5月中に5人集めないと廃部になってしまう。僕がいるとはいえ、寧音姉は目こぼししてくれないだろう。


と、畳の上で正座してる寧音姉を見てある事を思いついた。




「寧音姉は、週1回ここに来てるんだよね?」


「ええそうよ。お茶を頂きにね」




 寧音姉に問いかけると、飲んでいた茶碗を回して指で拭いて畳の上に置いた。


作法通りの仕草だ。




「作法も、習ってるんだよね?」


「ええ、何かの役に立つかもしれないと思って」


「それって、部員とやってる事同じなんじゃないですか?」




 僕が言わんとした事を、輝木さんが先に言う。


その言葉に、寧音姉と瀬川さんが目を瞬かせる。




「ホントだ。部員と変わらないわね」


「ホントですね」


「じゃあ寧音姉が部員って事でいいんじゃないかな」




 僕の言葉に、寧音姉と瀬川さんが目を瞬かせる。




「その発想はなかったわ」


「その発想はありませんでした」


「「いやいやいや」」




 しっかりしてそうなのに抜けていた2人に輝木さんと2人でツッコミを入れる。




「僕らは部員を入れて茶道部を存続させたい、寧音姉は週1回お茶を飲むためにも茶道部が残って欲しい。寧音姉が茶道部に入れば僕らの希望も、寧音姉の希望も叶う。これってウィンウィンじゃないかな」


「甘い交渉ね。そんなんじゃ私は……」


「綾瀬先輩、入部して下さったら水曜日のお茶菓子は毎週生菓子にします」


「入部するわ」




 瀬川さんからの甘い交渉に、寧音姉が即落ちする。


弱っ!? 寧音姉、弱っ!?


まあ昔からお菓子好きだったもんね……。僕のお菓子を取ってたくらいに……




 寧音姉が瀬川さんの差し出した入部届にクラスと名前を記入し始める。


それを見ながら輝木さんが、ハ~っとため息を吐いた。




「会長先輩が入るのはぶっちゃけ歓迎できませんけどー、茶道部が潰れるのは避けたいですからねー。しょーがないから入っていいですよー」


「何様よ」


「結衣菜の方が茶道部に先に入ったから、茶道部では結衣菜が先輩ですー。会長後輩、お手」


「私の方が茶道部に先に通ってたんだから私の方が先輩よ。子猫ちゃん」


「結衣菜子猫じゃないですー! フシャー!」




 また言い合いを始める寧音姉と輝木さん。


そんな2人を気に留めず、寧音姉の入部届を両手で掲げた瀬川さんが可愛らしい笑みを浮かべる。




「やりました! これで部員5人、茶道部廃部回避です!」


「「「え???」」」




 瀬川さんの言葉に、僕らは顔を見合わせる。


この場にいるのは瀬川さん、僕、輝木さん、寧音姉の4人だ。4人しかいない。




「瀬川さん、4人しかいないよ」


「え? 5人いますよ?」


「「「え?」」」




 瀬川さんの言葉に、僕らは顔を見合わせる。


部室にいる部員を数えてみる。


瀬川さん、僕、輝木さん、寧音姉。やっぱり4人しかいない。




「や、やだなー。莉子先輩。何言っちゃってるんですかー? 4人しかいないじゃないですかー」


「いえ、茶道部の部員は5人いますよ?」


「え? いや、4人しか……」


「5人いますよ?」


「も、もももも、もしかして座敷童子か何かですか!? 結衣菜、怖い話苦手なんですー!」




 輝木さんが怯えながら僕の腕にしがみついてくる。


柔らかい感触が腕に当たり、心の臓が跳ねる。


正座で痺れてる足を、寧音姉が人差し指でツンツンしてくる。やめて痛いから。




「お、おおお落ち着いて輝木さん、ざ、座敷童子なんていないから。それより瀬川さん、5人いるってどういう事?」


「言葉通り5人いるって事です。そろそろ来られる頃だと思うんですけど……」




 と、そんな事を瀬川さんが話している途中に部室の扉がガラッと開いた。




「瀬川さんゴメン。部活が長引いちゃって」




 飾り気のヘアゴムで短めの髪を二つ結びのお下げにしている女子だ。


下はセーラー服のスカートだが、上は水色のTシャツを着ている。何かの部活の後なのだろうか?


それにしてもこの子、どこかで見た事あるような気が……




「えーっと瀬川さん、この人は?」


「茶道部部員の板野加代いたのかよさんです」


「どうも、板野です」




 部員、いたのかよ!


いつの間にかいた部員に、僕達は面食らう。




「いつ入部してたの?」


「大鳥君が入部する前日に入部してました」




いたのかよ!




「でも私、知らないわよ」




 戸惑った声で、寧音姉が聞く。


それに瀬川さんが、丁寧に答えた。




「入部届を届けに行った時、生徒会室に綾瀬先輩はいらっしゃらなかったので」


「ああ、そう……。連絡と確認の不徹底ね……」




いなかったのかよ!


騒ぐ僕達を尻目に、瀬川さんが点てたお茶を作法通りにいただくお下げの女子。


どうやら茶道経験者っぽそうだ。


それにしてもこの子、やっぱりどこかで見た事あるような気が……


と、お下げの女子が僕の方を見てくる。




「大島君も茶道部に入部してたんですね。知りませんでした」


「あ、大島じゃなくて大鳥です」


「オートリ?」


「はい、大鳥です」




 学生証を取り出して、お下げの女子に見せる。




「そうなんですね。同じクラスなのに知りませんでした」




お下げの女子は、僕の名前を確認した後そんな事を言いながら頷いた。僕が言うのもなんだけど、他人に興味がない子なのかな……




「……って、え? 同じクラス?」


「はい。私、オートリ君と同じクラスです」


「え? 2年1組?」


「はい」




こんな人いたっけ……


クラスメートの顔を思い出そうとしても、あまり興味がないので覚えてない。


ただ、このお下げ、どこかで見た事ある気が……




「あ、いつも朝早く来てる人?」


「はい」




 いつも朝一番に来ているお下げの後ろ頭を思い出す。そういえばこんな人だった。


僕らの会話をニコニコ聞いていた瀬川さんが、改めて僕達に板野さんを紹介する。




「板野さんは競技かるた部の部員ですが、週に1回だけ部活の後に来て下さってるんです。茶道経験者なんですよ」


「まあ、小学校の時にお茶の教室に1年通ってただけですが」


「それでもすごいですー! 即戦力じゃないですかー! あ、結衣菜は1年生の輝木結衣菜って言います。板野先輩、よろしくお願いしますね!」


「はい、よろしくお願いします。……体験入部の方ですか?」




 淡々とした様子で、板野さんが輝木さんに向けて頭を下げた後瀬川さんに尋ねる。マイペースな子だな……


瀬川さんは、首を横に振って板野さんに答えた。




「輝木さんは昨日入部した新入部員ですよ。そしてこちらの綾瀬生徒会長も入部して下さる事になりました」


「え? じゃあ……」


「はい、茶道部廃部、回避です!」




 ニコッと微笑む瀬川さんを、板野さんがジッと見る。


それから何故か、僕に視線を移した。何なんだ?




「はあ、まあ茶道部が廃部にならなくてよかったですね。瀬川さん」


「はい! これでようやく一安心です」




 瀬川さんが、セーラー服に包まれた形のいい胸をなで下ろす。


その顔は、ホッとした感情と、それだけじゃない感情で彩られていた。


一体どうしたんだろう?


そんな事を考えていると、板野さんが僕の方をもう一度見てきた。




「まあ何はともあれ、同じ部活の一員になった訳ですし。これからよろしくお願いします。オーシマ君」


「大鳥です」




 こうして茶道部は、無事廃部を回避した。


ちょっとマイペースな5人目、もとい2人目の部員と共に。

板野加代いたの・かよ

誕生日 1月3日

身長 155cm

クラス 2年1組

好きな食べ物 卵焼き(しょっぱいの)

苦手な食べ物 特にない

得意科目 文系科目なら大体得意

苦手科目 強いて挙げるなら数学

趣味 特にない

特技 特にない

最近の悩み 特にない

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