第二十一杯「代わりに手を縛るというのはいかがでしょうか」
「輝木さんは文芸部に顔を出してから体験入部に来るって言ってたから、まだ少し時間があると思う。その前に注意点を確認しよう」
「はい、よろしくお願いします!」
あっという間に輝木さんが体験入部に来る火曜日が来た。
茶道部の部室の畳の上で、僕・瀬川さん・寧音姉が車座になって座る。
僕1人ではちゃんと話できるか怪しかったので、寧音姉に来てもらった。
「瀬川さん、分かってるとは思うけど部員を5人集められなかったら茶道部は廃部。同好会に格下げになるわ」
「……はい。分かってます」
寧音姉に念を推され、瀬川さんが神妙に頷く。
「だから今日来る子を逃してはいけないわ。私の癒やしのお茶の時間を守るためにね」
――――――自分のためかよ。
心の中でツッコむ。
まあ何であれ協力してくれるのはありがたい。
「今日来る子はあまりガマンが得意な子じゃないわ。自由気ままな子猫ちゃんだし」
「子猫ちゃん?」
「寧音姉がそう呼んでるんだ。今日来る1年生の輝木さんの事を」
瀬川さんの顔がこっちに向く。
うう、その顔で見つめられるのはまだ慣れない……
「まあ多少元気すぎる所はあるけど、基本真面目でいい子だし、いい子だよ。図書委員の仕事もちゃんとしてくれてるし」
「なるほど! いい子なんですね!」
瀬川さんに頷く。
いい子って事しか伝わってなさそうだけど、輝木さんはいい子だ。
若干ノリが軽くて悪ふざけをする事もあるけど、基本真面目でいい子だ。
「でも茶道については素人だと思うし、叱られると拗ねちゃうと思うわ。今日は作法については大目に見てあげてちょうだい」
「わ、分かりました」
そう言う瀬川さんだが、胸元に閉じたままの扇子をしっかり握っている。
「瀬川さん、その扇子は僕が預かるよ」
僕が出した手を見つめながら、瀬川さんの眉がハの字に下がり、お預けを食らっている子犬のような弱った顔をする。可愛い。
「あの……、どうしても扇子を預けないといけないでしょうか」
「うん。扇子があると叩いちゃうでしょ」
瀬川さんが、扇子をギュッと引き寄せる。
セーラー服の胸に扇子が押しつけられ、形が変わる。僕は慌てて視線を逸らした。
その先には目を潤ませて上目遣いでこっちを見ている瀬川さんの整った顔。
そんな顔で見つめられると、折れてしまいそうになる。
「ダメよ。瀬川さん、大鳥君に扇子を渡しなさい」
僕が折れそうになるのを察してか、寧音姉が厳しい声で瀬川さんに命じる。
来てもらってよかった。僕じゃ瀬川さんに厳しい事が言えない。
なんせ、あの子と瓜二つだから。
「う、うー……分かりました。大鳥君、お願いします」
「う、うん。分かったよ」
胸元に押しつけていた扇子を、瀬川さんが差し出してくる。
指先に触れたそれはほのかに温かくて、彼女の体温が感じられた。
しかし瀬川さんが扇子を放さない。
「瀬川さん?」
名前を呼ぶと、瀬川さんが頬を真っ赤に染めながら、赤い布と両手を前に差し出した。
「あ、あの! 代わりに手を縛るというのはいかがでしょうか!」
「「却下」」
僕と寧音姉は2人で、瀬川さんの提案を却下する。
それじゃお茶点てられないでしょ……
そんなこんなやり取りをしている内に、部室の扉がコンコンとノックされる音がした。




