第十八杯「としょいいんのおしごと!」
「大鳥君、こんにちは」
明るい茶髪のお団子頭の下の整った顔立ちが可愛らしくニッコリ微笑む。
紺色の生地に白のリボン、他の女子が着ると野暮ったく見えるセーラー服も、彼女が着ると魅力的に見えるから不思議なものだ。
いつも通り背筋がピンと伸びた彼女は、いつも通り美しかった。
「せ、せせせ、瀬川さん?」
「はい、瀬川です」
「き、ききき聞いてた?」
キョドる僕の横で、輝木さんが「うわあ……」と小さな声を漏らす。
ちょっと黙ってて。キモいのは分かってるから。そういうの地味に男子は傷つくから。
「? 何をですか?」
瀬川さんが可愛らしくコテンと小首を傾げる。
「美人」と「カワイイ」というのは両立しないものだと思っていた。
けれども彼女はその両方を併せ持つ希有な存在だ。……あの子のように。
「き、聞いてなかったならいいんだ。そ、それよりどうして図書室に?」
「もちろん本を借りにです。大鳥君が図書委員だってお聞きしてましたので、オススメの本を紹介してもらおうと思いまして」
「お、オススメの本ね。分かったよ。輝木さん、カウンター任せていい?」
「あ、はい。どうぞごゆっくりー」と投げやりな返事をしてきた輝木さんを残し、カウンターに出る。
手は震え、心臓は早鐘を鳴らし、脈は波打ち、視線が上下する。
不意打ちは困る。会うと分かってるなら心の準備ができるけど、突然会いに来られたらそれができない。
あの子と、瓜二つな顔に会うのは。
「スミマセン大鳥君、お忙しい所」
「い、いや全然忙しくないから。見ての通り、放課後の図書室は利用者少ないし」
瀬川さんが、人もまばらな図書室の中を見回す。
数人が本を読んでたり勉強をしてるだけだ。
「ホントですね。どうしてですか?」
「ぶ、部活で忙しい生徒が多いからね」
僕の返事に、瀬川さんが整った形の眉をハの字に下げる。
「会長さんからお聞きしましたけど、この学校は部活動が活発なんですね。これでは部員集めは難しいでしょうか……」
「……」
実際その通りだと思う。
少し前の僕を除いて皆何かしらの部活に入っている。1年生も部活を決めてしまっただろう。
困っている瀬川さんの力になってあげたいものの、何も思い浮かばない。
そして瀬川さんにおススメする本も何も思い浮かばない。
気がつけば、僕達はラノベの棚の前に立っていた。
「ライトノベル、ですか? 大鳥君のオススメの本ってライトノベルなんですね?」
瀬川さんに聞かれ、僕はカッと体が熱くなる。
しまった! つい習慣でなんとなくラノベの棚の前に来てしまった!
「せっ、瀬川さんはラノベなんか読まないよね。ゴメン。何か他の本を……」
「読みますよ?」
「え?」
「私もライトノベル、読みますよ。家に何冊か持っていますし」
「な、何を?」
「『響け! ○ーフォニアム』です」
――――――それはライトノベルじゃない。
心の中でツッコむ。輝木さんがいれば同意してくれるだろう。
表紙はイラストだし、京アニでアニメ化されたし、世間的にはラノベに分類されなくもないけれど、挿絵がないから厳密にはラノベではない。面白いけどね。僕も好きな作品だし。
選ぶ作品が難しくなった。
図書室に過激な作品はないけれど、半裸や下着が出てくる作品ばかりだ。ラノベだし。
「……」
瀬川さんが、ワクワクした表情でこっちを見ているのを感じる。
いい家の箱入りお嬢様っぽい彼女に受け入れられるラノベ作品。そんなのあるのか?
ええい、ままよ!
僕は運を天に任せて手を棚に伸ばした。
手に取ったのは――――――
『りゅう○うのおしごと!』
――――――アウトオオオオオオオ!!!!!
僕の頭の中の審判が叫ぶ。
いい作品だ。すごく熱くていい作品だけど色んな意味でアウトなシーンが多い。
瀬川さんには刺激が強すぎる。
「その作品ですか? 女の子のイラストがカワイイですね!」
僕の手から『りゅう○うのおしごと!』の1巻を取り表紙を見て、瀬川さんが微笑む。
守りたい、この笑顔。
「あ、うん。将棋がモチーフのライトノベル作品なんだけど。難しい戦法の話とかも出てくるからやっぱ他の作品を……」
「大丈夫ですよ。将棋は子供の頃おばあさまとよく指していたので、分かります」
――――――詰んだ。
あ○ちゃんと銀○ちゃんに挟まれた八○の気分になり、僕は力なくうつむく。
楽しそうに『りゅう○うのおしごと!』を手に取り始めた瀬川さんに、今更「読まないで」なんて言えない。
「面白そうな作品ですね! 大鳥君、ありがとうございます。楽しみに読ませて頂きます」
「あ、うん……。それじゃあカウンターで貸し出し手続きを……」
「はい、分かりました」
瀬川さんは、『りゅう○うのおしごと!』を5巻まで借りていった。
次会った時、どんな顔をすればいいだろう……




