第十七杯「とある図書委員の禁書目録」
職員室で鍵を受け取り、図書室へと向かう。
昇降口前の廊下は部活へ向かう生徒がごった返していた。タイミング悪く重なってしまっているらしい。黒色の学ランと紺色のセーラー服の群れで詰まっている。
僕はそれを避けるように大きく迂回して、図書室へ行く事にした。
久しぶりに通る1年生の教室前の廊下。
少し前まで1年生だった僕達と入れ替わった1年生達が、騒がしく談笑していた。
早足で1年生の廊下を進んでいると、6クラスある教室の真ん中辺りに、何やらポスターが貼られている掲示板があった。
「部員集めのポスターって、これの事か」
『茶道部 部員募集中』と達筆な筆で書かれたポスターが、他の部活の部員募集のポスターと並んで隅っこに貼ってある。文字だけで絵も何もない、これじゃ書道部のポスターみたいだ。
「瀬川さんって、独特のセンスの持ち主なのかもな……」
僕はポスターから目を離し、図書室へ急いだ。
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「ゴメン、待ったー?」
「いえー、今来た所ですー」
まるでデートの待ち合わせのようなやり取りだが、その場所は学校の図書室の前だ。
金髪ショートボブの輝木さんと、数名の生徒達が本を持って待っている。
鍵を開けて、カウンターに座り輝木さんと2人で本の返却を受け付ける。
すぐに仕事がなくなった。
「ヒマですねー」
「ヒマだね」
僕は参考書を取り出し、輝木さんはタブレットをいじり出す。
それも飽きたので、近所の図書館から借りてきたラノベを取り出し読み出した。
しばらくして、輝木さんがタブレットをカウンターに置いてこちらに話しかけてきた。
「先輩先輩、何読んでるんですか?」
「『とある魔術の○書目録』」
読んでいた巻を閉じ、輝木さんに表紙を見せる。
輝木さんが、獲物を見つけた猫のように目をギラリと輝かせた。
「ほほう、1周してそこに帰ってきた感じですか」
「うん、そんな感じ。久しぶりに読み返したくなっちゃって」
数多あるライトノベル作品の中でも超人気作で、超大作と言っていい作品。
当然読んだ事あるが、久しぶりに読み返すと面白くてハマり直したという訳だ。
「先輩はどの話が好きですか?」
「新約のオティ○スを世界中の刺客から守る話かなあ。世界中を敵に回しても1人の女の子を守る上○さん、マジ上○さんだよ」
「マジ上○さんですよねー」
オタクにしか分からない話で輝木さんと盛り上がる。
中学でも高校でもこういう話ができる相手がいなかったので、彼女というラノベ好き仲間ができたのは素直に楽しい。
「先輩はどのキャラ推しですか?」
「食○操祈かな。輝木さんは?」
「結○淡希ちゃんです」
「え、意外」
上○さんや一○通行の名前が出てくるかと思ったら、意外な名前が出てきた。
無印の頃は少しだけ活躍してたけど、新約や創約に入ってからはそれほど出番は多くないし、どちらかというと男性に人気がありそうなキャラだ。
「ところで先輩、茶道の本はどうしたんですか?」
理由を聞こうと思ったら、話題を変えられた。
僕は苦い思いを飲み下しながら、輝木さんに答えた。
「あれなら返却して本棚に戻したよ」
「どうしてですか?」
「やっぱり、ホラ……『百聞は一見にしかず』っていうか、『習うより慣れろ』っていうか……」
昨日はおとといに続いて歩き方の練習と礼の練習だった。何回か扇子で叩かれた。
正直勉強しても頭に入らなかったし意味がなかった。
自分で返却手続きをして、自分の手で棚に戻した。本当はいけないんだけど。
「ふーん、そうなんですねー」
輝木さんが興味なさそうな返事をする。
それから人もまばらな図書室を見回して、前を向いたままこちらに話しかけてきた。
「先輩、転校生の茶道部部長って、どんな人なんですか?」
輝木さんに聞かれ考える。
まだ3回しか会ってないし、瀬川さんの人となりを知っているとはいいがたい。
けれども、彼女を一言で表すとしたらこの言葉以外ない気がした。
「美しい人、かな」
「……美人って事ですか?」
「ああうん、見た目もそうなんだけど仕草というか所作というか、ひとつひとつの動きが美しいんだ」
「ほほう」
「正座してる姿とか、お茶を点てる仕草とか、美しくて思わず見とれちゃうんだ。字もすごくキレイなんだよ」
「へー、そうなんですかー」
輝木さんが、気のせいかジト目でこっちを見てくる。
どうしたんだろう?
と、思っているとカウンターの前に誰かが現れた。
輝木さんと2人、慌てて佇まいを直す。
目の前には紺色のセーラー服と白いリボンに包まれた形のよさそうな胸、キレイな首筋、頭の上でお団子にした茶色い髪。そして、あの子に瓜二つな顔。
「大鳥君、こんにちは」
噂をすればなんとやら、
そこにいたのは転校生にして茶道部部長、瀬川莉子さんだった。




