第十二杯「挙動不審」
新しい朝が来た。月曜の朝だ。
朝練のトランペットの音が、自転車置き場の上にある渡り廊下から響く。
土日も練習しただろうに、元気な事だ。
頑張ったってプロになれるわけじゃないのに、どうしてあんなに頑張るのだろう。
ガシャンと自転車立てを蹴って自転車を立て、何とも繋がっていない有線イヤホンを耳に突っ込む。
イヤホンで耳を塞いでも、トランペットの音は耳障りなほど渡り廊下から響き続けていた。
人もまばらな昇降口で上履きに履き替え、誰もいない階段を上り、人もまばらな廊下を歩く。
いつも通りの朝。いつも通りの学校の風景、それなのに。
自分の心音がドクドク脈打つ音が聞こえてくる。
彼女の姿、彼女の顔をつい探してしまう。
向かいの渡り廊下、教室の窓、こんなとこにいるはずもないのに。
会いたくないという思いと、会いたいという思いが交差する。
こんな気持ち、とっくの昔に決別したはずなのに。
彼女に瓜二つなあの子に出会ってしまったせいだ。
顔を合わせたら何と言えばいいのだろう。
「おはよう」とキモくなく挨拶できるだろうか。鏡を見た時に寝癖があった頭頂部を手で撫でつける。
「……あの」
「うっひゃい!?」
背後から突然声をかけられ、思わずキモいリアクションをしてしまう。
イヤホンが耳から外れ、下に垂れ下がる。
それを掴んでから恐る恐る振り返ると、いつも教室に一番乗りで来ているお下げの女子がいた。
お手洗いにでも行っていたのか、手にはハンカチを持っている。
「な、何?」
「落とし物ですか?」
「え?」
「落ち着きのない様子でキョロキョロしてたから、落とし物かなって」
「……」
傍から見ると挙動不審な様子に見えていたらしい。
いけない。そういうキモい挙動はしないようこれまでの高校生活心がけてきたのに。
「い、いや、別に何も落としてないから」
「はあ。ではどうして」
「な、何でもないから!」
そう言ってお下げの女子から逃げるようにして2年1組の教室に入る。
当然の事ながら、お下げの女子がついてくる足音がしてくる。
僕は早足で自分の席に着き、外れた有線イヤホンを耳に嵌めた。




