第九十二話 閑話 シタラテレビのパン屋取材 ブルド視点
「今日の特集はエルグランド王国の王都で一番評判のいいパン屋さんの紹介です!」
ラーク男爵家の屋敷を改装したシタラテレビの配信が始まった。
キャスターをしているのはユウキさんのエンシェントヒールで命を救われたシャロンや奴隷になっている三十人のうちの数人だ。
「それでは、パン屋さんの中継に映像を切り替えます! ラルク君、聞こえてるかな?」
「お、おう。俺っちは聞こえてるぜ」
「お兄ちゃん、緊張しすぎて変な口調になってるよ!」
パン屋の前に小奇麗になったラルクとアニヤが映る。
どうやら、初の配信で緊張しているみたいだな。
「ゆ、ユウキさん、助けてくれよ!」
「何を言ってるの、お兄ちゃん。ユウキさんは今爵位の授与式の準備で忙しいのよ!」
「ったく、大丈夫か? お前ら。深呼吸しろ、深呼吸」
俺はスマホで撮影しながらため息をつく。
ユウキさん抜きでのシタラテレビの撮影は初めてだ。
「ほら、そろそろ中に入るぞ」
「分かった!」
「はい、でしょ。お兄ちゃん」
アニヤはしっかりしてるな。
よし、パン屋の中の取材に移ろう。
「いらっしゃいませ。異世界パン屋のお店にようこそ」
『こんにちは!』
ラルクとアニヤが礼儀正しく挨拶する。
早速店内を見回ると白パンを焼いた、食パン? ってやつや、総菜パンってやつが並んでる。
「すっごい美味しそうな匂いがする!」
「白パンがいっぱい!」
「店主、何で異世界パン屋って名前なんだ?」
「フフフ、それはですね、ユウキさんの配信のコメント欄の方に異世界のパンの焼き方を教えてもらったのです」
店主はラルクとアニヤに丸い黒パンを差し出す。
うん? 普通の黒パンに見えるがな。
「ラルク君とアニヤちゃん、食べてみてくれるかな?」
「……うん」
見た目はただの黒パンだが違うってことか?
俺も食べてみたいがスマホで撮影中だからな。
ラルクとアニヤは黒パンを手でちぎると嬉しそうな顔をする。
「うわあ! 柔らかい。いつもの堅い黒パンじゃない!」
「お兄ちゃん、一緒に食べよう!」
ラルクとアニヤは一緒にちぎったパンを頬張ると幸せそうな笑みを見せる。
「外はカリッとしてるのに、中はふわふわ!」
「うーん、なんか果物みたいな香りがするような」
「アニヤちゃん、鋭いですね! 果物から作った酵母という物を使ってこのパンを焼く前に発酵させているのです!」
おお、発酵ってやつは確かユウキさんに教えてもらったな。
酵母っていう目に見えない菌を使ってパン生地を膨らませることによってふんわり柔らかいパン生地に仕上がるって話だ。
「すっごく美味しいね!」
「本当だね!」
ラルクとアニヤは美味しそうに黒パンを食べてるな。
「そして、これがユウキさんから仕入れている白い小麦粉を使ったクロワッサンというパンです」
「ん~? なんか変な形!」
「でも美味しそうだよ!」
くう、カメラマンだから俺は食べられねえ。
後で自分でお金を出して買うか。ユウキさんから金貨二枚も一人一人に出してもらってるからな。
普通は月に大銀貨七枚が平均なのに金貨二枚も出すなんてお人よし過ぎるぜ。
住む所もラーク男爵家の屋敷に住まわせてもらってるからお金はかかってない。
一日三食、メイドたちの美味い料理を食わせてもらってる。
本当にユウキさんには感謝してもしきれねえ。
ラルクとアニヤはクロワッサンを不思議そうに見つめながら、躊躇している。
「ほら、お前達が食べないなら俺が食べるぞ」
「え! それはダメ!」
「お兄ちゃん、食べるよ!」
ラルクとアニヤはクロワッサンに一斉にかぶりつく。
サクッ!
「凄いこのパン、さっきの黒パンより外が硬いのに中はふわっとしてる」
「なんか香りがすっごくいいよ! この香り、屋敷の料理でも食べたことある」
「それはですね。バターという物を使ったクロワッサンなんですよ」
俺も質問するか。
「ここの異世界パン屋はどれくらいお金を稼ぐんだ?」
「そうですね。一日で金貨十枚くらいの売上になりますね」
「すごい! お金持ちだ!」
「お兄ちゃん、失礼でしょ! おじさんはどんな気持ちでこのパン屋さんをやってるの?」
異世界パン屋の店主はニコニコとしながら語りだす。
「私はこの世界のパンは何処か味気ないと思いながらパン屋をしてきました。でもユウキさんの配信を通じて、新しくて美味しいパンの作り方を知ったのです! この感動を王都の皆さんにも味わってほしいと思ってこのパン屋をしているのですよ!」
配信のコメント欄も喜色満面だ。
「流石ユウキさんの配信を見ているだけあるな!」
「ここのパン屋本当に美味しいんだぜ。俺の奥さんは毎日朝並んで買ってるんだ」
「ユウキさんもこれを見たら喜ぶんじゃないか?」
そうだよな。俺達が救われたのも、美味しいパンが焼けるようになったのもユウキさんの「配信」というスキルのお陰だ。
俺はそう考えると涙が止まらなくなった。
ラルクとアニヤもクロワッサンを頬張りながら、目に涙がたまっている。
「ハハハ、私のパンは誰かを笑顔にするための物ですよ。ですが泣きながら食べてもらえるというのもいい物ですね!」
「俺は泣いてないぞ!」
「カメラマンのブルドさんが一番泣いてる~!」
う、うるさい。
俺はカメラに映らないようにしていたが、何故か配信用のスマホがこちらを撮影していた。ちょっとだけカメラに向いて喋ろうかな。
「俺たちはスラムで毎日生きるか死ぬかの瀬戸際の暮らしをしていたんだ。でもな、ユウキさんに出会って、シタラテレビの取材クルーにしてもらって本当に良くしてもらってる。ラーク男爵家にいる違法奴隷の皆も同じじゃないか? だからこれから仕事を頑張って、ユウキさんに恩返ししていきたいって思ってるぜ」
ハハハ。スタジオの様子を映すカメラを見るとシャロンや他のアナウンサー、カメラマンの美しい女性たちも涙ぐんでる。
「じゃあスタジオにお返しするぜ」
「は、はい! シタラテレビのスタッフ一同はこれからもユウキさんに付いていきます!」
『はい!』
皆、目に涙を溜めながらもいい笑顔をしていた。
ユウキさんが見たら、喜んでくれると思うぜ。
ちなみにラルクとアニヤ、俺の特集の回は本当に人気になった。
大体最後にいつも泣くから泣き虫三人組って言われるようになっちまったぜ。
でもな、この幸せは昔じゃ考えられなかったんだ。
だから泣くのは笑って許してくれよ。
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