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第五話 助けた者は誰ですか?

 先ほどの魔物と同じ狼の姿をその魔物はしていた。


 しかし、その体躯は比べるまでもなく大きく、その体毛は頑丈そうで、その瞳には怒りが満ちていた。


 それに対して兵士たちは皆ボロボロで怪我を負っていない者はいなかった。


 先ほどの魔物を倒した時の喜びとは逆に悲壮感が兵士たちに漂う。




「下がれ!!」


 しかし、その悲壮感にまみれていない者たちがいる。



 それは一陣の風の様で兵士の間を横切って放たれた一本の矢のように素早く、その新しく現れた魔物に魔剣で斬り込む。


 流石に先ほどの魔物より大きいとは言え、その魔剣は脅威だったようでその大きい巨体からは信じられないほど素早く避ける。そして、己に刃向う者の末路を教えるかのようにその魔剣を持つ者を襲おうとする。



 だが、そこに複数の風の刃がその魔物に放たれる。


 雑多に放たれたその風の刃たちは木々を斬り刻み、そしていくつかは魔物にも当たる。しかし、先ほどの魔物とは違いさほどダメージは与えていなかった。

 それでも、少しは傷を負い不快になる。それを示すかのように唸り声と共にその傷を負わした者を睨みつける。



 しかし、それは一瞬のこと。すぐさま魔剣が振るわれ中断させられる。そして、その魔剣を避けたところでまた風の刃たちがその魔物に迫る。



 その後はこれの繰り返しだ。魔剣が負い迫り避けたところに風の刃が飛んでくる。よどみなく、その魔物は攻撃される。



 兵士たちは退避し少し離れてこの攻防を見守る。自分たちの戦いとは同じようで違う。ちゃんと連携された戦いだ。自分たちではこうは上手くいかないだろう。

 先程もあのフードを被った者、あの魔術師が自分たちに合わせてくれていたことがよく分かる。あの自分たちに怒声を浴びせていた者、あの魔剣士が連撃を行なった時もそれに合わせ魔術を使って風の刃を放っている。先ほど自分たちの時は一つだけだった風の刃も今は複数だ。


 そんな攻撃に対しその魔物は追い詰められているように見える。




 しかし、実際はそうではない。まだまだ、その魔物には余裕があった。

 確かに風の刃で傷を負っているが、先ほど倒された魔物とは違い軽傷だ。致命傷には程遠い。体力だってまだまだある。

 その証拠にその魔物の動きは始めと変わらずだ。


 そのことはその魔物に攻撃をしている者たちも気付いている。だから、攻撃の手を緩めるずにいる。緩めれば手痛い反撃をくらう。それがよく分かっていた。




『ルグゥゥゥ』


 しかし、追い詰められてはいないとは言え、傷を負っているのは事実。そして、いい加減鬱陶しくなってきたのも事実。

 その魔物は苛立ちに低い唸り声を上げる。



 そして、魔剣士の隙を突き、一気に魔術師の方へ駆け寄る。その魔物は先に魔術師の方から殺すつもりのようだ。乱立する木々をその巨体からは想像できないほど縫うように走り抜け魔術師に走り迫る。


 それに幾人かの兵士が焦ったように声を上げるが、それ以外なすすべがなかった。


 ただ、無残に魔術師はその魔物にやられるだけと思われた。




 その魔物がそれ(・・)に気付いたのは、避けようもないほど迫った時だ。


 足元の薄暗い森の一部、いや、所々がぼやけている。まるでそこに透明な何かがあるようだ。



 しかし、それに気付くには遅すぎた。


 その魔物の足がそれに触れた途端、爆発(・・)した。



 その爆発はその魔物の強靭な足を吹き飛ばしこそしなかったが、バランスを崩すには十分だった。派手に転び、転んだ先にも爆発する。派手な音が森に何度か鳴り響く。



 その透明な物の正体は魔術で圧縮された空気の塊だ。触れると中の圧縮された空気を一気に解放する。それはちょっとした爆弾と変わらない。

 それが、その魔物と魔術師の間にいつの間にか蒔かれていた。おそらく、風の刃を出す合間に設置したのだろう。そこら一帯は地雷原となっていた。


 そんな所に突っ込めば無事では済まされない。そこにいる兵士なら簡単に死んでいただろう。それが分かっているのか、見ていた兵士たちは言葉も発せず立ちすくんでいた。



 だが、その魔物は巨体に似合ったタフさを示していた。四肢は吹っ飛ばず死んでもいなかった。

 しかし、ノーダメージとはいかなかったようだ。


 少しふらつきながらその魔物は立ち上がる。少し足元が覚束ないようだ。それを振り払うようにその魔物は顔を振った。


 そして、魔術師を見る目には戦意の色は失われてはおらず、その透明な爆弾を避けようと目を凝らす。



 しかし、それはもう一人への注意を疎かにする。




 迫りくる魔剣を咄嗟に避けたが浅からぬ傷をその魔物は負う。やはり、その魔剣の鋭さは己の体を容易に斬り裂く。


 そのことを確認できた代償は高く、その魔物の動きは鈍る。


 その魔剣士は地雷原にその魔物を追い込むように斬り迫った。



 そして、またその魔物は空気の爆弾に翻弄され隙を作り魔剣に斬り刻まれる。




 森の大地にその魔物が倒れるのに、大して時間はかからなかった。





「ふぅ~~~」


 その魔剣を持っていた者は大きく息を吐く。



「ようやく倒せましたね」


 その魔術師は地雷の様に配置していた空気の爆弾を解除しつつ、そう魔剣士の傍にやって来て言った。その深くかぶったフードからは若い女性の声が聞こえる。



「この時期のベリヴォリスは番になっていることが多いので、二体いたのは珍しくはないですが……」


 そう言って魔術師は大きな巨体を横たえて死んでいる魔物を見る。


 その狼に似た魔物、そのベリヴォリスと呼ばれる魔物は、この時期番を探して森を彷徨っている。番になった者たちは四六時中一緒に行動するわけではないみたいだが、それでも近くにはいる。この時期のベリヴォリスを一体見かければもう一体いることを想定するのは魔物を相手にする者たち間では常識だ。



「ああ、こんなでっかいのがここにいるのは珍しい。いや、おかしい。

 これくらいの大きさだと、もっと森の奥、ここよりずっと西にいた奴だ」

「態々番を探しに来たのでしょうか?」


 魔物の強さは大体保有している魔力で決まる。そして、その大きさもだ。ある意味その巨体を維持するのに魔力を使っているともいえる。

 しかし、魔力の保有量が多いといいことばかりかというとそうではない。魔力を回復するには魔力が濃い場所でないと効率が悪くなってしまう。魔力の回復の仕方はさまざまだ。食べる飲む息をする。要は体の外にある魔力を内に取り込めばいい。つまり、魔力保有量の多い何かを取り込めればいい。そして、それが大量にあるのは魔力の濃い場所だ。

 なので、魔力歩保有量が多い大きな巨体を持つ魔物は得てして、その魔力が濃い場所を動きたがらない。



「こんな所まで来て婚活か? それほどモテなかったのか? こいつ」

「さ、さぁ~、それは何とも……」

「まぁ、いい。被害状況を……っ!!」

「!!」


 そんな疑問を横に置いといて、部隊の被害状況を確認しようとした時、その疑問に応える(・・・)()が、いや振動(・・)が響いてくる。



 森全体が揺れるような振動が規則的に響く。それは何か大きな物が歩いているかのよう。時折木々が倒れる音も聞こえる。


 そして、それは確実にこちらに近づいて来ている。




 全員が息をのみ見つめる先、森の奥からそれ(・・)は木々を倒しながら現れた。




 黒い鱗に覆われた立ち並ぶ木々と変わらない高さの体躯。その体を支える太くて強靭な両足。そして、何よりもナイフをたくさん並べた様な牙が並ぶ大きな口。それに対照的な小さな腕。見る者が見たらティラノサウルスと言いそうだ。



 ただ、それの吐く息に炎が含まれていなければ。



 その息は少し暗い森の中を照らし、その魔物の全貌を示す。




「ティラドロス……」


 誰かが呟いた声が聞こえる。



『ガロロォォォ』


 その声に答えたわけではないだろうが、その魔物は低い唸り声を返す。それは先ほどの魔物たちよりは音は小さいがやけに響く。




(まずい!)


 魔剣士はこの状況に焦りを感じた。

 ティラドロスはもっと森の奥にいる魔物だ。その巨体もさることながら、その大きな口から吐く炎も厄介だ。

 それ相応の装備と武器が無いと太刀打ちできない。

 もちろん、魔剣士や魔術師は生き残れるだろう。しかし他の者は?



「総員!! 退避!!」


 焦燥に駆られながら、声を張り上げる。そして……。




 その魔物が行動するよりも早く。



 兵士たちが命令に従うよりも早く。




 轟音と共にその魔物は閃光に包まれる。





 そして、閃光に焼かれた視力が回復して見たのは、重い音と共に倒れるティラドロスの姿だった。





「あれは!!」


 木々の陰から見上げた所に見える上空には、黒い人影が見える。小さく見えるにもかかわらずその身から漂う魔力の放流はその者が誰かと言うことを如実に示していた。



「魔王ルクロソス……」


 そう呟く声が畏怖と共に静かに響いたのだった。

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