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第四話 戦う者は誰ですか?

『ルガァァァァァァァァァアァァァァアアァァァ』


 太い唸り声が暗く深い森に広く響き渡る。一斉に野鳥が警戒の鳴き声を発しながら飛び去り森が震える。静寂に包まれていた森が一気に騒がしくなった。小さな獣たちは声とは逆の方向へ森の中を一目散に逃げる。


 その声を聞いた者たちは、それをただの獣が発したとは思わなかった。



 そう、ただの獣のはずがない。



 聞いた者を恐怖に陥れる。そう言った類のものだ、その声は。




 だから、それを近場で聞いた者たちは恐怖で立ちすくんでいる。どこかの兵士たちだろうか。その者たちは一様に同じ形の鎧に身を固め、剣と盾を構えてはいたが震えていた。

 誰かの生唾を飲む音が兜越しに聞こえる。もしかすれば無意識で己がしたのかもしれない。



 それ(・・)はその様子を大きく紅い双眸でゆるりと眺める。鋭い牙が覗く大きな口からは低いうなり声が絶え間なく聞こえる。

 そして、ゆっくりと木々の陰からその巨体を現す。


 強靭な四肢と鋼の様な体毛、触れなくても分かりそうな鋭い牙と爪。



 それは、森の狼を大きくしたような魔物(・・)だった。




 その巨大な狼の魔物は己に剣を向けて来る者たちを睥睨すると、徐に口を開け少し長い舌を出す。それはまるで笑っているかのようだった。いや、実際笑ったのだろう。目の前で怯えている者たちを。

 その証拠に襲いかからず品定めをするかのように見渡している。



 そして、その商品たちは怯えるしかできなかった。だが……。





「何してやがる!! さっさと隊列を組み直せ!!」


 大きな怒声が横の方から上がる。先程の魔物の声とは違うがその声は過去の恐怖を怯えていた者に思い出させた。そして、その怒声に従う。


 それを見て怒声を上げた者が続けて声を上げる。



「魔物の注意を分散させろ!! 訓練を思い出せ!!」


 その声を聞いた者たちは、まだ魔物への恐怖が残るものの、その声に従う。おそらくその訓練とかで嫌と言うほど動きを体に染み込まされたのだろう。恐怖とは別に体が勝手に動いているようだった。



 それを魔物は面白くなさそうに眺め、新しく現れ怒声を上げた男に顔を向ける。

 他の者たちと同じような鎧を着ているが、盾は持たず剣は青白く光る魔剣と呼ばれる物を持っていた。

 その魔物にはその魔剣がどれくらい物かなど分からなかったが、その男は明確に己の脅威に成りえることはすぐに分かった。それほど男からにじみ出る雰囲気が他の者と違っていた。

 その魔物は警戒してその男を睨む。




『グアァ?』


 しかし、それが良くなかったのだろう。浅くだが右の後ろ足をその魔物は斬られる。怒りにまかせてその不埒者に顔を向ける。そして、その者に己が受けた倍以上のものを返そうと襲いかかろうとする。



『グルァア、グア?』


 だが、そう意識をその不埒者に向けた途端、また後ろから別の者に後ろ足を斬られる。今回も浅かったが不快なことには変わらない。その不快な原因を排除しようと動くがまた別の者から斬られる。流石に警戒していたので傷を負うことはなかったが、これまた不快であることには変わらない。



『グルルルゥゥゥ』


 その不機嫌な様子を隠そうとせずに唸り声を上げる。それに斬りつけようとしていた者たちは怯む。



「怯むな!! 攻撃の手を緩めるな!! 魔物の晩飯になりてぇのか!!

 そんなに晩飯になりてぇのなら、俺が斬り刻んで料理してやる!!」


 横合いから先ほどと同じ者から怒声が飛ぶ。それに弾かれたようにその魔物に兵士たちは斬りかかる。その自分よりも一回り大きい魔物より怒声を上げている者の方が怖いと言う風に。



「その調子だ!! お前たちが斬り刻め!!」


 その怒声に煽られながら、兵士たちはその魔物を攻撃する。その攻撃は浅かったが、しかし徐々に傷は増えていった。そうやって、兵士たちは魔物に果敢に挑んで行く。



 だが、その魔物の方も黙って己が斬られたままではなかった。


 反撃し兵士たちにも傷を負わせる。死ぬほどの傷を負わせることはできなかったが、それでもすぐに治る傷でもない。


 徐々に兵たちの攻撃の回数が減ってくる。



「ぐあぁっ!!」


 一人の兵士が魔物に吹っ飛ばされ地面に太い木に打ち付けられる。地面に倒れたその兵士はピクリとも動かない。

 そして、その兵士に止めを刺そうとその魔物は襲いかかった。



『グルゥ!!』


 しかし、横合いから迫った魔剣に邪魔され、それを避けるようにその魔物は大きく飛び退く。いつの間にか先ほどから怒声を上げ指示だけをしていた者がその魔物の傍にいた。青白く光る魔剣が牽制するかのようにその魔物に向けられている。



「遅い!!」


 その言葉は目の前に魔物に向けられているようで、その実違う者たちに向けられていた。



「す、すみません」


 そんな声と共に深くフードを被った者と、先ほどからいる兵士たちと同じ装いの者たちが木々の陰から現れる。



 そして、その魔物に向けて風の刃が迫る。文字通り風を切る音を立てて。



 それは薄い緑色した透明な刃で触れた物を綺麗に切り裂く魔力で形作られてる。魔術で作られた風の刃だ。


 それを魔物は見定めると素早く避ける。しかし、少し掠り浅からぬ傷ができる。真面に当たっていたらどうなっていただろうか?


 その魔物はそれを放ったフードの者に意識を向ける。



 だが、それは悪手だ。先ほどから受けている攻撃がまた再開される。兵士たちの増援を伴って。


 その魔物の傷は段々と増えていく。一応反撃はするが己を取り囲む兵士の数が多い。そのうえ、魔術の援護がある。そして……。




『グガァァァアアァァ』


 森にその魔物の断末魔が響く。その巨体はゆっくりと地面に倒れる。




「やったぞ!!」「倒した!!」「やった!!」「おおおおお~~」


 その断末魔とは対称に兵士たちの歓声が沸き起こる。兵士たちは皆どこかしらボロボロだった。無傷なのは怒声を上げていた者とフードの者だけだ。


 だからか、兵士たちの喜びもひとしおのようだ。しかし……。



「気を緩めるな!! まだ終わってねぇぞ!!」


「「「え!?」」」



 その怒声に疑問の声が兵士たちから出る。魔物は倒したはず。そう確認するかのように倒れている魔物に目を向ける。ピクリとも魔物は動かない。



 しかし、その警告の言葉通りの()が聞こえてくる。




『グガァァァァァアアアアアァアアァァァァァアァァァァァア』



 先ほど聞いた唸り声よりも大きな声が森に響き震わす。




 そして、先ほどの魔物より二回りも大きい魔物が森の深い所から現れたのだった。

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