第十五話 国を造ったのは誰ですか?
「ふぉっふぉっふぉっ。息災で何よりじゃの」
その奇麗で鮮やかな装飾と窓はないが明るく照らされた部屋に入ると、そんな言葉で出迎えられた。
「ご老体も息災で何より。もちろん、ノルロルド大公、ナーロルド大公も」
その部屋の中央には大理石の円卓が置かれ、その四方に背もたれが高く重厚な椅子があった。それぞれの椅子の後にはこれまた大きく重厚な扉が続いている。
その一方、その部屋の間取りでは東にある扉からルクスは入り、その手前円卓の東側にある椅子に座ってからその場にいる者たちに挨拶をした。
「魔王様におかれましても、ご健勝で何よりです」
「わたくしからも。ご清祥のこととお喜び申し上げます」
ルクスの右隣り、北側の椅子には金髪の髪を綺麗に伸ばした貴公子然と言った男性が座っている。鼻が高く穏かな見た目四十代の壮年だが、魔族の見た目は歳より大分若く見える。実際は一一二歳と言う歳だ。人族ではここまで生きれる者はいないが魔族では普通だ。
そんな男性が北にある公爵領ノルロルドを治めている、アルベルト・トレク・ノルロルド。なので北方大公とも呼ばれている。
逆の左隣り、南側の椅子には赤毛の少しウェーブがかかった髪が特徴のな妙齢な女性が座っている。赤毛の髪は炎のように綺麗でその女性の少し派手な衣装と相まって情熱的な印象を与えている。もちろんこちらも見た目と歳は違う。九三歳と言う歳は人族では十分に高齢だろう。ただ魔族でも流石に三桁の歳は若いとは言われない。微妙なお年頃なのだろう、歳の話は彼女にはタブーだ。
そんな女性は南にある公爵領ナーロルドを治めている、カサンドラ・トレク・ナーロルド。南方大公とも呼ばれている。
そして、初めに声かけて来た真正面西側の椅子に座っているのが、西にある公爵領イスロルドを治めている、ルドヴィーク・トレク・イスロルド。西方大公とも呼ばれる老人だ。
今、この部屋には魔王国の実力者が顔を合わせている。それは個人の魔力が高いと言うだけでなく、その権力も高い物を有している。実質魔王国は東西南北の四つの地域に別れている。一応東方のウェルロルドを中心に政治は行なわれているが、独立独歩の気風がある魔族は割とそれぞれの地域独自で統治を行なっていた。
一応王家には敬意と忠誠はあるが、必ずしも友好的なものになるとは限らなかった。
それはある意味四つの国が魔王国にあるようなものだ。
ただ、歴代の大公たちは今ある平穏が王家によってもたらされていることを重々理解していた。そして、人族より長く生き出生率が低い所為だろう、人族とは違い血を血で洗うような争いを好まなかった。そのため緊張感はあれど他方に攻め込むようなことは一度も起こらず、また、人族との戦争時は団結してことにあたった。
今日は年に一度、その大公たちが魔王城に集まる日。剣とも魔術とも違う権力のさや当てを行なう日。
それは『四方会議』と呼ばれる、もっとも重要な会議だ。
そこでは魔王国全体の方針を決めるだけでなく、互いを牽制し合う場でもある。
だから、時に辛辣な言葉が飛び、無言の言葉が刺し合う。そんな殺伐とした場……だった。
「今年は比較的天候が安定してましたので、収穫時にはいい物が採れそうです」
「ふぉっふぉっふぉっ。そりゃ良かったの。北の人参は甘くて美味いからの」
「ええ、確かにね。流石にあの甘いのは南では無理ね」
「でも、南でとれる果実はどれも甘くて美味しいですよね」
「そうじゃの。今年もイチゴが美味かったの」
「ルド老にそう言って頂けると嬉しいですわね」
しかし、今はどちらかと言うと穏かな会話が続いている。
今年の農作物の出来はどうとか、来年はどうなるかなどだ。
「こないだ、ひ孫の子供が立つようになっての」
「おお~、私の孫もこないだやっと立つようになりましたよ。そうこうしているうちに、立つのは遅かったのがもう走り出しましたよ」
「それは、元気のいいお子さんだこと」
「ええ、ですが本当に危なっかしくて目が離せませんね」
「ふぉっふぉっふぉっ。そりゃ~すぐに魔術も使えるようになるじゃろうな」
「ルド老がそう仰るならそうでしょうね」
そして、家族の話で談笑してる。傍目には唯のよくある会話だ。別段珍しい話でもない。
しかし、そう、よくある話をしていることが重要だ。
少し前まで、いや、ルクスが王位を継ぐまでは前述通りだった。
特に前魔王の治政下では、終始ほぼ片言だけで終わったり、時には欠席もあったりした。もちろん偶々領地で面倒事が起こり手が放せなかったかもしれない。しかし、何年も続くと言うことはありえにくい。
(まっ、ルクス坊のおかげじゃな)
西方大公、ご老体とも、また、ルド老とも呼ばれるルドヴィークは他の大公と言葉を交わしながらそう思う。
一昔前なら大公同士でこのように穏かに語り合うなど想像だにしなかった。辛辣な言葉か無言か、それとも……。
相手の領地へ攻め込むなどはなかったが殺し合いが全くなかったかと言うとそうではない。一応試合形式ではあったが生死を問わないこともあった。この過酷な環境の魔界。未だに魔物たちが蔓延る魔境が数多くあるこの環境では人が住める場所は少ない。そして、食料を維持するのも難しい。そんな中で潰し合いこそしないが、相手より優位に立とうとするのは本能だ。そのためには武力だっていとわない。
それがルクスの時代になってから変わった、いや変えさせられた。
ルクスが生まれる前、ルドヴィークは王家と距離をおいていた。
先代の魔王ドュマドロス、ルクスの父親は凡庸な人物だった。とりわけ愚かではなかったが魔力も歴代の魔王を抜いて高いと言うわけでもなく、平均的な魔王。それが先王ドュマドロスの評価。しかし、その前ルクスの祖父に当たる魔王は違った。頭が良かったのだ。いや、人を使うのが上手かったと言うべきか。
千年近く戦争と呼ばれるような大規模な物は人族との間ではなかったが、小規模な物は数多くあった。人族にしてみればそれも戦争だろうか。少数の者たちが攻め魔王城に辿り着く間もなく魔王の一撃で撃退される。
一応魔王も戦っているので戦争と言えば戦争なのだろうか。魔王の威光を示すため魔王自ら赴いていただけだが。
そんな中、緩衝地として東隣の国ヴィーグリーズを作ったのだ。先先代の魔王は。
もちろん、公言してその国を造ったわけではない。東の荒れ果てた何もない土地に商人たちを呼び寄せたのだ。密かに関税を低くすると言って。数人のそれでも聖界において太いパイプを持つ者たちと密約を交わし、新しい国を打ち立てたのだ。
あれよあれよと言う間にヴィーグリーズ国は大きくなり、聖界でも発言権の高い国となった。議会制の国であり、必ずしも魔王国の意向通りになるわけではなかったが、くだらない争いはなくなり聖界との経済交流が盛んになったのだ。
人族から流れて来る物は大抵稚拙で脆い物が多い。しかし、中には目を瞠る物や構造的に頑丈な物、美味しい物などもある。また、形にならない技術やレシピなどの知識は役立つことも多い。一括りで全ていらない物とはできない。魔界側にとってもこの経済交流は良い結果を生み出した。
公にされることはないが魔王の偉業の一つとして数えられるのは間違いないだろう。
だが、そんな父王と比べられたドュマドロスはと言うと平凡だった。もちろん平凡な王と言うのも悪くはない。どちらかと言うといい方だろう。しかし、ドュマドロスは我慢ならなかった。父王と比べられるのが。
とりわけ父王を知っている大公たちには敵対したわけではないが関係が良好とは言い難かった。別段大公たちはドュマドロスを卑下したわけではなかったが評価を上げるわけもなく、大公たちと王家との関係は冷えた。
そして、ある出来事が起こったのだった。
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