第十四話 祝われたのは誰ですか?
「かっかっか。お前が婚約するたぁ~目出度い話だぜ。
祝いだ。ほれ呑め」
ラウルはライトに化けたルクスにそう言って酒を注ぐ。
「よせ。婚約などしていない」
「なら、酒はいらねぇのか?」
「いや、それはいる」
「どっちだよ」
そう少し呆れてラウルはルクスを見る。魔術越しだが少し不機嫌そうでもある。
「しかし、街じゃ魔王は婚約したって噂が流れているぞ」
「誰だ流したのは? 牢屋に放り込んでやる」
「そんなことすりゃ、すぐに牢屋は満員になるぞ」
「……牢屋を増やすか」
「止めてくれ。俺も入らねぇといけなくなる」
「お前も広める気満々か!」
「いや、だってよぉ~。女の噂話一つもねぇんだぞ。誰だって気になるだろう。
魔王の相手は誰だ! ってな」
「立場を考えてみろよ。ホイホイ手をつけれるわけないだろう。
お前だってそうじゃないか」
「俺か? 俺はイスロルド公爵家の傍流の中の傍流、その末っ子だぜ?
家だって継ぐわけでもない」
「よく言う。イスロルド大公の覚えめでたいって話じゃないか」
「ふん! それはお前とこうして呑んでいるからだろう?」
「まぁ、あの爺様なら知ってそうだな」
イスロルド大公。魔界でも西に位置する公爵領を有する西方大公とも呼ばれる。御年二一三歳。今の魔王国最高齢を更新している。
見た目は好々爺然のお爺さんだが、一癖どころか皺の数だけ癖がありそうな老人だ。だてに歳は喰っていない。
遠い東方にある王都ウェルロルドにおける事象もその多くを把握しているだろう。おそらく多くの間者も使って。
別に国と大公は敵対をしているわけでもないが、それはそれ。政治と言う、多くの者が関わるものは得てして憎しみが無くとも争いが起こる。その回避策の一つとして、もしくは必勝の策として、間者を使っている。
ラウルが元々ルクスと仲が良かったことは割と知られていることであり、その実力が高いことも知られている。だからイスロルド大公も目をつけている。
流石にルクスの魔術が直接見破られたと言うわけではないだろうが、ラウルの交友関係中で比較的怪しい部類のライトと言う人物について色々と調べているかもしれない。
「しかし、その爺が今回の件、何て言うか見ものだな」
「おい、よしてくれ!」
「なんせ、ひ孫の婚約相手だ。二言三言で済むかどうか」
そのひ孫であるルクスはそれを想像して身を震わせる。
ルクスの実母はイスロルド大公の孫娘だ。たいそう可愛がっていたと言う。残念ながら産後の肥立ちが悪くルクスを生んだ後亡くなってしまったが。そのこともあって一時期王家とは疎遠だったが、王を引き継いだルクスが直に行って協力を仰いだことから、今は影なり表なりで支えてもらっている。
「別に俺が立てた噂じゃないんだが……」
「そうなのか?」
「人族の国が勝手に言ってきたことだ。本人にも知らせてなかったみたいだぞ」
「はぁ? 何じゃそりゃ?
それじゃ、本当にただの噂かよ」
「大方、他の国々が俺の評判を下げるために噂を流したんだろう。
本当にいい迷惑だ」
苛立ちを交えながらルクスは酒を煽る。
ちなみに魔王国の成人は十八歳だ。飲酒も十八歳から許可が出る。とは言え、保有魔力が高いと大抵酒には酔い難い。だから割と若くからルクスは飲酒している。
「道理で国からは何も発表が無いはずだな。
国からはなんか発表しないのかよ。婚約してませんってな」
「それはそれで、噂を立てた奴に乗らされているみたいでな」
「ああ、それはあるな。慌てふためくのを見て楽しむ奴もいるからな。
しかし、お前も婚約者のこと、まんざらでもないんだろう?」
「はぁあ!? そんなわけあるわけないだろう!」
「城に囲って好き勝手にさせてるって話を聞いたぞ」
「……それは、まぁ、そうだが」
そう歯切れ悪くルクスは答える。確かに外から見ればその通りだ。好き勝手にさせてると言っても城の者に殊更迷惑をかけているわけではないので放っているだけだが。
「別に囲ってるわけじゃない。客室を貸しているだけだ」
「何故そんな事をする?」
「あれの国の奴らは国外退去させた。あれに関係がありそうな者はお付の者だけだ。
そんな中であれはどう行動するか? 真意はどこにあるか? それを見るためだ」
「ふ~~ん。恋愛感情はねぇが興味はあるって感じだな。
一体何がある?」
「それは……ただの勘だ」
そう、あの少女たちには何かある。漠然とだがそれを少女たちに感じる。それは魔王としての勘。
(それにあのセリフ。謁見の間で聞いたあれは前世で似たようなのを聞かなかったか?
もしかすると……)
「勘ね~。まっ、その言い訳を大公にもするんだな」
ラウルはルクスの不安を煽るようなことを言う。
「不吉なことを言わないでくれ。今度大公たちとの集まりがあるんだぞ」
「かっかっか。いや、絶対話題に上がるだろう」
「あ、あぁ~~~。上がるだろうな……。どっかにバックレようかな」
「大公たちが嬉々として追っかけて来るんじゃねぇの。爺は歳だからやらねぇだろうが」
「あぁ~、そうだな。やりそうではあるな」
大公たちも暇じゃないだろうが全員剛の者だ。口で言うより手が先に出そうではある。魔族はどこか脳筋かもしれない。
「まっ、お前の婚約報告はともかく」
「他人事だな……」
「そりゃ~本当に他人事だからな。
それより、こないだの件どうなっている?」
「あぁ、あの森の浅い所に強い魔物が出て来ているってやつか。
あれの調査なら、ハンター協会に頼んだ」
ハンター協会。魔物を狩る者たちの集まりだ。その有り様は国によってまちまちだが、主に魔物の素材の買い取りや販売を行なっている。何所の国でもハンター協会の名称は一緒だが、国ごとに管理が違い国境を越えての繋がりなど無い。そもそも国が直接運営しているところが多い。
魔王国では直接経営管理はしていないが、会長等の人事には口を出し承認している。
「ハンター協会か~。あんまり当てにならんからな~」
「そう言うなって、軍を動かすには大規模になるし、それで変な騒ぎになるのもあれだろう」
「何も無かった時に責任も取らされるか」
「俺が出した命令だし、誰かに責任を取らせるつもりはないが、担当者は何か嫌味を言われるかもな」
「それはありそうだな。
それならハンター協会に頼むのも仕方がないか」
そう言ってラウルは酒を呑む。
「じゃ~後はお前の婚約記念に呑むだけだな」
「……牢屋が空いているか、確認しようか?」
「……じゃ~婚約破棄を記念して?」
「……あくまで婚約前提なのは止めないんだな」
ルクスは憮然としながらも、ラウルから酒を注がれた。
そして、遠くに響く喧騒の中に婚約祝いの祝杯の声が聞こえた気がしたのだった。
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