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第十一話 寛大なのは誰ですか?

 いつもの爽やかな寝起きに、いつもの穏かな朝食。これがいつものルクスの朝……だった。



「やっぱり、こちらの素材で作った料理は美味しいわね」

「ええ、そうですね。内陸にあるので魚などは手に入らないと思ったのですが」

「それに味噌が手に入るなんてラッキーだったわ」

「聖界では手に入りにくいですからね」

「本当、態々帝国とかに買いに行かないとなかったものね」

「値段も高いですし」


 黒髪の少女と同じく黒髪の年若い女性がルクスの座る、長いテーブルの反対端で喋っている。それは大して大きな声ではなかったが、彼女たち以外喋っていないこの食堂では長いテーブルの端にいるルクスにも良く聞こえた。



(いつも朝食を一人でとるのは少し嫌だと思っていたが、存外好きだったんだな。静かな朝)


 そう少しうるさく聞こえる少女たちの声を聞きながらルクスは思った。




 少女の方は十代半ばだろうか。ストレートの長い髪は艶があり朝の光に輝いている。切れ長の目には黒い瞳が輝き何かを見透かすようだった。そして、透き通るような肌色に赤色の唇は、化粧が無くても妖艶なものを感じさせる。服装は派手やかさは無いが、それでも生地のしっかりとしたワンピースを着ており所作もどこかの令嬢のそれだった。

 もう一方の女性は、いや、もしかすれば少女と同じ年代だろか。背は高くきりっとした印象を与えるが、肩まで切りそろえた黒い髪から覗く顔は、どこか幼さを残している。ただ、黒い瞳からはどこか冷たい物を感じ、それが年齢を上げているようだ。こちらの服装はどこかのメイド服のようで、彼女は使用人のようだがその食べる動作に粗野は無かった。



 そんな彼女らはルクスのテーブルの遠い対岸で朝食をとっていた。



「流石メアね、この焼き魚の火加減は絶妙で美味しいわ」

「ありがとうございます

 ですが姫様、こちらの人参もお食べください。あと、ほうれん草も」

「ええ~~」

「食べませんと大きくなりませんよ」

「本当に大きくなれるの?」

「さぁ~?」

「……そこは大きくなると言ってくれない?」

「姫様は小さいままでもよろしいので」

「頼むから大きくしてちょうだい」


 そんな呆れた声をその姫様と呼ばれた少女が奏でる。聞こえる声は澄んでて綺麗だが話している内容は庶民的だ。先ほどから朝食を食べながら話している。

 彼女らの朝食はルクスとは違い、白米に焼き魚、数品の惣菜にお味噌汁。古き和食の物だった。ちゃんと箸を使い食べている。

 ルクスはどちらかと言うと洋食を好んだので朝はパン食が主だが、ほんの少しだけ彼女らの朝食を自分も食べてみたく感じた。

 ちなみに魔王国の食文化は前世で言う和洋折衷だ。これにはれっきとしたわけがある。その昔『制定王』ジベルタ()広めたのだ。そして、その食文化のいくつかは聖界の方にも伝わった。近年は貿易を通じて聖界でも色々な物が食べられている。



「お昼はどうしようかしら?」

「やはり、王都で探すのがよろしいでしょう」

「お店とか分かるの?」

「一応、ここに来る途中で買った『ウェルロルドの巡り方』がありますが」

「……何それ?」

「ヴィーグリーズの商人が綴った紀行記みたいな物です」

「流石商国の商人ね。ヴィーグリーズは魔王国のすぐ隣の国とは言え、人族なんてここにほとんど来ないでしょうに」

「来ないから本にしたのではないでしょうか」

「それなら内容はいい加減かもね」

「割と中身は詳細に書かれているようですよ。『私情は混ざるが現地人にも数多く取材した』とあります」

「現地人って」

「魔族と書くと体裁が悪いのでしょう」

「変わらないと思うけどね。

 でも、それ古い物じゃないの? お店とか潰れていない?」

「さぁ~、まぁ~それは老舗の店に行けばよろしいかと」

「じゃ~王都観光ね」

「かしこまりました」


 そんな風に彼女らは朝食後の予定を立てている。


 その様子の彼女らに割と真剣に自分も混ざれないだろうかとルクスは思う。別行動でも構わないので。




「よろしいのですか?」


 そんなルクスに横合いからセバスの声がかかる。彼女らの所業についてだろう。



「構わん。ほっとけ。別段暴れてもいないのであろう?」

「はい。ほとんどのことをお二人でやられているそうで、係りの者も手間がかからないとのことです」

「あの料理もか?」

「はい。ほとんどはあのお付の者がやっているみたいですが」

「……そうか」


 何ともおかしな二人組だ。パッと見、令嬢とそのメイドだが、やっていること、いや、やったことはそんな生易しい事ではなかった。


 そう、魔王城への侵入など簡単なことでは無い。近年まれにみる出来事だろう。


 ルクスは鋭く対岸を見る。それは疑惑と疑念が入り混じる物だった。



「恋、ですか?」

「……その眼鏡は曇っているのか? 新しいのに変えたらどうだ?」

「ですが……寛大すぎるかと思われますが?」


 セバスはそう言って眼鏡をクイッと中指で上げ、ルクスに少し鋭い視線を送りながら言う。どこかセバスには納得できないのだろう。彼女たちの処遇に。



「だからと言って拷問にかけるわけにもいくまい。俺に猟奇的な趣味は無いしな。

 それに騒ぐわけにもいかないだろう?

 昨日、ただ城内を迷って歩いていた(・・・・・・・・)だけだぞ」

「それはそうですが……」


 そう、彼女たちが昨日勝手に古い謁見の間に入っていたことは無かった(・・・・)ことにした。

 それは騒ぎを大きいな物にしたくはなかったからだ。


 彼女たちがあそこに入ったことを知るのはルクスに追いついたセバスぐらいだ。気絶していた者は彼女らが入ったかどうかまでは知らない。



 あの古い謁見の間は特別な場所だ。特に人族に入られたとなると何かと騒ぎ出す者たちがいる。ルスクとてそれは仕方がない事だとは思うが。

 今回は被害(・・)はなかった。ルクスが懸念したこと、そう恐れたこと(・・・・・)は起きなかった。



「ただ、客人として迎えるのはどうかと」

「ここから放り出すわけにはいかんだろう。

 出自はともかく、やったことを考えると野放しにはできん」

「あまり変わりがないように思われますが?」


 そう出かける話をしている彼女たちを見てセバスは言う。確かにに現状では城を宿として貸しているだけだろう。野放しと大して変わらない。



「構わん。ほっとけ」

「魔王様がこのような寛大な方とはついぞ知りませんでした」

「それこそ、ほっとけ」


 ルクスは憮然とした顔でセバスに答える。



「かしこまりました。

 では、今日のご予定はこちらになります」

「……誰か俺に寛大な奴はいないのか?」

「おそらく、魔王様をおいて寛大な方はおられないかと思われます」


 そう澄ました顔でセバスはルクスに言う。



 それに対しルクスは大きなため息で応えるのだった。

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