第十話 遅れて来たのは誰ですか?
「申し上げます!! テラサイン国の大使と名乗る者が裏門に現れました!!」
急いで謁見の間に入って来た兵士が声を上げて報告する。
その様子に、いや、その内容にルクスは眉をひそめる。
「テラサイン? しかも裏門だと?」
「はい!」
「何で裏門に? いや、まさか! 直接来たのか!?」
ルクスは驚き、驚愕の声を上げる。
この魔王城には外周に大きな門が二つある。西側に面している西門と東側に面している東門。
元々魔王城は人族と戦うために造られた城塞だ。なので東からの侵攻を防ぐように壁や門が造られていた。
しかし、『制定王』ジベルタが魔力の遷移を止めて以来、人族の侵攻はほぼほぼ無くなった。特にここ千年近くは経済戦争へと移行し、城の意味合いも大きく変わってきた。
そして、王都ウェルロルドに通じている西門を表門、反対の東門を裏門と呼ぶようになり、その殆んどを表門を通じて行ない裏門は使われなくなった。
裏門には一応門番はいるが千年以上固く閉ざされた門があるだけだ。これからも開ける予定はない。
その門へ新しい大使とやらは来たようだ。
確かに東の国から来たのなら一番初めに目にするのは東にある裏門だ。
しかし、今は東からの道は城を迂回し王都に続いている。そしてそこから西の表門へと続く道がある。
それらを無視し直接城に来たのなら裏門に行きつくことはあるかもしれない。
「まぁ、いい。表門に回らせてここに連れて来い。どんな面か拝んでやる」
流石にここまで変な奴には今世では会ったことがない。いや前世もでだ。逆にルクスは興味が湧いた。
変な噂は立つわ、時間通りには来ないわ、来ても間違った場所にくるわ。ルクスは前世で人づてに聞いた新人社員の話を思い出す。
しかし、ルクスの思い通りにはならない。
「いえ、それが……」
「何だ?」
「……消えました」
「何だと!? どう言うことだ!? 詳しく申せ!!」
その報告者をルクスは睨みつける。
「そ、それが門上から衛兵が誰何したところ、その者はテラサイン国の大使だと名乗り、裏門を開けるよう申してきました。
もちろん、そのような者に従うはずがなく、衛兵は直ちに表門の方へ回るように命じました。
ところがその者は勝手に入ると言うや否や消え去ったのです」
その報告者は少し青い顔をしてそう報告した。
「それで今はどうしている?」
「はっ、今は門上や城壁の上からですが探索を行なっている次第です」
「……そうか」
ちょっとした沈黙が流れる。
(消えた……。おそらく魔術か何かで姿を消したのだろう。
しかし、そこまでしてどうする? 不審に思った者が門を開けるのを待つ?
いや……)
「不審者の入った形跡は?」
「警護の結界には反応ありません」
そう別の者が答える。
(なら、思い過ごしか? いや、何か嫌な予感がする)
そうルクスは何か漠然とだが焦燥に駆られる。
(裏門からそいつが入ったとして、先ずどこへ行く? 宝がある宝物庫? いや、それは盗人だ。
そいつは一応大使。なら……謁見の間!!)
何かに気付いたようにルクスが顔を上げる。
そして、突然目にも止まらない速さで駆け出し新しい謁見の間を飛び出る。
そう、いつも使っている謁見の間は新しい方の謁見の間だ。後から普段使うために、そしてダミーとして見せるために造られた物だ。
ルクスは一目散に古い謁見の間に向かう。途中衛兵たちが驚くが気にもかけずに走る。
向かっている古い謁見の間は裏門から長く続く先にある。
(間に合ってくれ!)
そう何かにルクスは願うが、それが叶わないのが示されるかように古い謁見の間の入口を警備している衛兵たちが、その手前で倒れているのが廊下の先に見える。
近寄って素早く倒れている衛兵たちを診る。ただ気絶しているようだが、このタイミングでひとりでに気絶はないだろう。誰かにやられたとみるべきだ。そして、おそらくその者はこの謁見の間に入った。
ルクスは重く閉ざした重そうな扉を見上げ、少し逡巡後、意を決してその扉に手をかける。
思いの外抵抗が無いことに驚き、重厚な扉に似合った音とは別にやけに澄んだ声が響いて来たことに驚く。
それは若い女性の声に関わらず、聞く者に威厳と少しばかりの畏怖を感じさせた。
その声の調べに誘われて王座を見る。
そこには濡羽色の長く美しい髪と澄んだ黒い瞳を持つ少女と思しき人影があった。
その者の小さく紅い唇が朗々と魔王のセリフを告げる。
それは昔よくやったゲームのボスイベントをルクスに思い出させた。もちろんルクスがプレイヤーで相手がボス役。
ルクスは自分がゲームの中に迷い込んだように思え、本来なら怒鳴りつけるなり止めさせるなりをするべきなのに一切動けずにいた。それこそ見てるだけしかできないゲームのイベントの様に。
しかし、そんな魔王を見兼ねてか、一人異議を唱える者が現れる。
それは無遠慮にその魔王然とした者の言葉に割り込み、本物の魔王の代わりにセリフを吐く。
すると今まで謁見の間に満ちていた、威厳も畏怖も霧散する。
しかし、魔王はその無礼な者たちに何も言う事は出来なかった。
それは自分のセリフを無くしたようで、それとも本来の自分のセリフを求められ答えられないかのよう。
そして、そのわけは魔王自身も分からなかった。
そんな魔王に応えるようにひっそりと佇むようにある古き勇者の剣が鈍く光りを反射しただった。
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