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パレード・オブ・ガレイゼル  作者: ドンガラガッシャン
第二章
22/24

リオルと彼女~逃げ延びた棘を添えて~

多分この物語の中で一番作者に振り回されているのはキイチ。

 六人の見目麗しい少女が、薄い布によって体のラインがよくわかるサザーラの踊子衣装に身を包み、音に合わせ砂漠の民の踊りを披露していた。

 周囲の囃し立てる男たちにも踊り子たちが侍っている、そんな砂の都の宮殿に。


 ゼドゥーアとダージャも、人の姿をしてそこにいた。


 女は年齢も見目の種類も問わず、あるものは男に垂れかかり、あるものは酒を盃に注ぐなどと、色々な方法で楽しませる。

 広間から個室に連れていかれるのを、喜んで受け入れている者もいる。暫くして、艶めかしい女の声が漏れ聞こえてきた。

 そんな部屋に気が付き酒を片手に入室する者、存分に楽しみ服も引っかけただけのような格好で出てくる者と、男たちは思い思いに場を楽しんでいた。

 ただし女はみな目が虚ろで、怪しく輝く花飾りを、必ずどこかに身に着けている。


『カラーリングは違っても、同じ女の顔もいるなぁ………よくこんなに種類(ジャンル)を揃えられるもんだよ』

『ホムンクルスだからな。顔の元となる人間の血液さえあれば、あとは何百体と作ることも可能だ』


 そのため、ぞんざいに扱われ壊れる者もいた。今も広間の一角で、ワザと油をかけられた身に火を付けられた女が絶叫を上げている。それを楽しそうに笑い飛ばすのは、ゼドゥーア達のような衣服を身にまとった火の厄神だ。十分に笑ったところで飽きたのか、さっさと抱き寄せいていた女たちを引き連れて奥の部屋に引っ込んだ。


『………焦げ臭い』

「ゼドゥーア様、よろしければバルコニーは如何でしょうか?」

『案内しろ』

『俺も行く』


 場所を移し、女たちも下がらせたところで話の主題は彼らの主シュレストとなった。

 今は別室で自分達とは違う持て成しを受けおり、付き従う事は遠慮されてしまった。


『お前たちも楽しむといい。私がいては寛げなかろう』


 そう言って女神の促すまま退出した主に、ゼドゥーアの様な部下たちは不満を露わにしたが、気づかいを無駄にするのかと他の者たちにも言われ結局は引き下がった。

 しかし、あの勝ち誇ったかのような顔でシュレストの腕に絡みつき案内をしていた厄神には多くの者が顔をしかめた。


『厄神リリーダだっけ?ここの主の』

『ああ、前々からコンタクトを取っては来ていた。それに傍に侍らせていたガルガスト神そっくりのホムンクルスたち』

『ガルガスト帝国の国父レナードねぇ………シュレスト様引いてたな』

『………それでも、あの女が保有する錬金術師は優秀だ』


 それさえ手に入れば、シュレストもリリーダには興味がなかった。それは彼女自身も感じ取っているだろう。

 でなければ馬鹿だ。


『………あの女神もシュレスト様と同じころに生まれた神なんだろ?』

『竜暦の終盤、生きた邪竜ガルガンをその眼に見た神の一柱だ……かといって強くはない。奇跡的に生き延びただけで、実力はない』

『だがレナードとかいう男の死体を強奪して、ホムンクルスで大量生産するぐらいには知恵が回るんだろ?今日の俺達を含む招待だって、アレをシュレスト様に売りつけるための前準備ってやつ?』

『………』


 思い出すのはつい先ほどの事である。

 シュレストの城のバルコニーに集められたのは、配下の男神のみであった。女神たちはいない。

 現れたシュレストはひれ伏した配下たちに気を止めることもなく空を漂い、彼らの中心に降り立った。

 それと同時に彼の足元から展開された魔法陣は、全員を光に飲み込んだ。ゼドゥーアたちが目を開けた時にはもう、このサザーラ商業国の月下の光に照らされリリーダ達が屋敷の玄関で出迎えていた。


『ようこそシュレスト様。私の館へ』


 見目のいい美男美女とフードを目深く被った何者かを付き従え、豪奢な衣装に身を包んだリリーダが出迎えた。ゼドゥーアとダージャは、シュレストが危惧したことを瞬時に悟った。

 絶対にレーシャとは相容れないと、見ただけでわかった。


『………レーシャだけじゃねーよなー……あのリリーダが気に入らねえって思う女神………』

『男神でも多いと思うぞ』

『シュレスト様、それでもあの女と手を組むと思うか?』

『………』

『………マジかよ……』


 しかし、シュレストはフードの者とのみ別室から戻ってきた。リリーダの姿は、ない。


「またのお越しを楽しみにしておりますわ」


 何やら含みのある笑いを湛えるホムンクルスたちに見送られ、シュレスト達はその場を後にした。

 リリーダが見送りに来ることはなかった。











 フロティア暦3月18日。



 ―――これでラストだー!!

 ―――おっしゃキメラの爪ぇぇぇ!!


 おおおおおおおおおお!!!!


「………逞しいいですねー冒険者(ハンター)って」

「こんな大型の怪物(モンスター)素材ならなぁ……そら高く売り飛ばせるだろ」


 ルーガスとガルガストがキマイラの大群を駆除した翌日。放置された怪物(モンスター)の素材を採取するために、たまたま近くにいた冒険者(ハンター)達が嬉々として地面を掘り返していた。

 そして国境警備隊の隊長とチャーリーは、城壁の砦の監視室からコーヒー片手にその光景を見つめていた。

 既に軍の方でも100体ほど解体して技術部が研究に入ってはいるが、何しろ個々が巨体すぎたためにその全てを回収するのは不可能であった。討伐した本人たちも創造主たる厄神の名を理由に、残りの回収を拒否していた。


「やだよ僕、アドゥヴァストの創った怪物(モンスター)とか」

『因縁的に無理』


 そのために、50体ほどのキマイラがまだスラト平地の土の中に放置されていた。


「足の部分とか一番掘り返すのめんどくさかったですねー」

「土が柔らかいからなー……変に掘ったら逆に沈むし」

「あ、沈んだ」

「言ってる傍からこれだよあいつら……」


 冒険者(ハンター)達が素材を回収しきれば、またここは人のいない砂埃舞う国境となろう。


「それでいいんだよ、こんな共和国方面なんつー国境は」

「………警備隊長、最近の北の動向は?」

「報告通りだが?ウォッチャー中尉」

「自分はこのままエルシー・ルイ中佐へ報告しに行きますが、最近はラスカー様もよく共に行動されています。警備隊長」

「………」

「直接、言づけることはありませんね?」


 重ねられた念押しに、警備隊長も一つだけ口にした。


「………本当に、何もないのだ……ユグラスト教会が崩壊したというのに」

「………それは、変……ですね……」

「教会関係者の亡命も、難民も……向こうの国境が封鎖されている情報はもちろん知っている……だが」


 あまりにも、おかしい。


「……」


 ホーロライ共和国の国境が閉ざされようと、ガレイゼルの方は開かれたままである。関税が上がったわけでもないのに、共和国以外の人間の姿もない。


「………報告しておきます」

「頼む」


 北で、何かが起こっている。それは確かなことだった。











 パレード・オブ・ガレイゼルの二階の部屋が満室となった。

 ガルガストとルーガス、そしてリオルの私室を除き、後は五室残っていたのだが。

 その内の一部屋はユグラの眼の隊員たちが折半して長期滞在しており、丁度四室残っていた。


「アタシはジニー・ハント。ファントム隊の隊長で幻覚魔法っていう紫色の精霊魔法が得意なのん♡」



 よろしくね♡



『……何でこう……紫の属性魔法に特化した奴ってオネェが多いんだ?』

「性別も偽れない奴が人を惑わす事が出来て?」

『いや出来ろよ、それでこそプロだろ』

「ぶっちゃけ幻覚魔法で美女に化けて男引っかける仕事が多いから、日頃から女の仕草が出ちゃうの。お分かり?何度も引っかかった事のあるガルガスト神?」

『かーーー!!!!』


 遺憾だとばかりに尾を床にたたきつけるガルガスト神の心情が、男たちはまあ…解らなくもなかった。

 暗い紫色のコートとキイチと同じ型の軍服を着た男は、ルーガスと似た身長や体格をヒールの高いブーツで支えていた。肩幅もあり、屈強だ。

 しかし仕草が女らしく、また真っ赤なルージュが目に留まる。

 アレクセイの様なしっかりとしたオールバックではなく、少し緩んでいるのがまだとっつきやすいかと思っていた少年を意味ありげに見つめだしたので、気付いたキイチとリンレイが盾となった。


「あら…残念♡」

「ストーム隊のトルス・ルイだ。何かあったらアレじゃなくて俺を頼ってくれ」


 すかさず年若い青年がリオルの型をつかみ厳重に注意をした。深緑の軍服なのがストーム隊の特徴らしい。肌は褐色で、緑色のピアスをする耳は長い。緋色の瞳がまたさらに、ある少女を連想させた。


「…あの、所でエルシー・ルイという少女を…」

「知ってるも何も親戚だ。エルフィ人であるあの子の祖母は俺の父の妹だ」

『ちなみにエルフィ人は長命人種の一つだから計算するのやめとけ』

「こんがらがるよ、エルフィ人の家系図は。二百歳で一人目を出産とかするし」

『孫と妹が同い年とかわけわかんねー』

「わかりました。これ以上は聞きません」


 言い切った少年の衣服の袖を、今度は眠たげな壮年の男が猫背のまま引っ張った。

 背筋がしゃんとしていればとても背が高そうだが、今にも眠そうな男は時折カクリとしながらも自己紹介をしてくれた。


「ルーツ隊のリフェ・トゥリー」

「あ、はい」

「じゃ」


 寝る。

 そう言って、男は二階に引っ込んだ。

 速かった。


「………リフェは寝るの大好きだからなー…」

「ま、とにかく私たちだけでも話し合いましょ」

「お、話を進めるのか?」


 トルスとジニーの言葉に、待ってましたとカウンターでコーヒーを啜っていたリンレイも話に加わってきた。店内の兼業店員達も興味津々で、一人ミズヒコだけが我関せずと厨房で仕込みの方を続けていた。

 エルシーとガレッドは午前中の会議に出席してからこちらの方に来るらしく、今はいない。

 あの世界樹の棘(いばら)の隊長たちが今ここに勢ぞろいしているが、昨日の怪物(モンスター)の件を軍がどれほど把握できているのかも重要である。

 終わったら飛翔魔法の許可を取ってすぐに来るとは通信機越しで息巻いていたが、何時になるかはわからない。

 そして二杯目のコーヒーに口を付けていたキイチが、そんな二人を待つ義理を持っていなかった。


「結論を言おう。イコール大司祭はホーロライ共和国にいない」


 ユラ・イコール・ユグラスト大司祭の行動範囲はあまりにも狭い。六色司祭を筆頭に彼女を煙たがる上層は陣の補修以外に行う大司祭の仕事を殆ど与えようとしなかった。

 そのために、彼女自身が知る自室以外の世界は限られている。


「我々が知る限り、彼女が知ることの出来た“身を隠せる場所”はホーロライ山脈内に点在する古い神殿跡地しかなかった」

「というか、山脈から出たことがないのよ、あの方」

「六色司祭がな…自分たちの息がかかっていない所に大司祭が出かけるのを、露骨に嫌がったからな」


 自分達の反対勢力に、彼女が唆(・)さ(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)を危惧したらしい。

 そういう所が部下にあたるキイチたちの反感を買っていたというのに、外道なことこの上ない。


「………店長」

「なにー?」

「その…ユラ大司祭は俺が店長に保護されたことを知ってましたよね」

「知ってたね」

「店長同じことできないんですか?」

「できない」

「俺もですか?」

「リオルは出来るんじゃない?」

『坊主は出来ると思うぞ、多分』


 みなの視線が、一斉に少年に降り注いだ。

 特に世界樹の棘(いばら)方面から鬼気迫るものが伝わってきた。

 はっきり言って怖い。


「……ど、どうすればいいんですか?」

『そういうのはラスカーが詳しいからなー』

「僕もわかんないなーそういうのは」

「おいガレイゼルの軍人!!」

「言われなくても連絡とってます!!」


 チャレットがすぐに行動に移っていたために、ラスカーたちとはすぐに繋がった。


 そしてリオルは、なぜかガレイゼルの軍人が勢揃いした会議室の中心で、店長達と共にエルシーの準備を眺めていた。


「………何でだ」

「すぐ準備ができるんで待ってください」

「へー、このガラス版に手をかざせばいいのか」

『あなた達は近付かないでください』

「えー」

『えー』

「準備出来ました。リオルさん、手をかざしてください」


 エルシーの言葉に、ざわついていた会議場が一斉に静まり返った。

 上座にいたウィリアムとガロールも、リオルの手が翳されたガラス版を一心に見つめていた。

 ルーガスも興味深そうにすぐ隣で覗き込んでいたが、さすがに近すぎたためガルガストがひょいと摘み上げて遠ざけた。


「先ほどお伝えした通り、お願いします」


 風の精霊を集めさえすればいい。後はその膨大な魔力と魔動機器が全てをやってくれるという話だったので、エルシーに言われるままリオルはオッドアイを輝かせて従った。

 ガラス版は光り輝き、コードで繋がっていた巨大な地球儀に、三つの点を表示させた。

 そのうち青と紫の二つはガレイゼル帝国の王都に。

 当然、ルーガスとリオルである


「という事は…」

「その赤い点が」


 国王と元帥の言う通りに、一つの赤がそこにはあった。



 極東の島国に。



「………キイチィィィィ!!」

「ちょっとアンタ!!どういう事よあの点滅している場所!!」

「……っ……っ!!」

「そこのリンレイ!!あんたも何か言う事ないの!?」

「ねーけど!?何であそこに大司祭様がいるんだよ!?」

「こっちが聞いてんでしょ!?何でよりによってあ(・)そ(・)こ(・)なの!?」



 どう見ても極東の花街でしょアソコの場所ぉぉぉーーーー!!



「………花街」

『あーリリーダと出くわしたアソコだなー』

「あーあの街かー」

『………ドンか』

「ドンだね」


 大人の内緒話に無理やり加えられたはいいが、何のことやらさっぱりわからない。というかいつまで手を翳していればいいのかもわからない。周りも何やら話が勝手に進行していて自分達に注意を払うものはいない。

 ラスカーやエルシーも同様である。データの解析に入ったアレクセイやユリアに何やら指示を飛ばしていて、話しかけるタイミングもない。


「………どうします店長?」

「そりゃラスカーに聞かなきゃねぇ?」

『途中で接続切ってデータが中断されるのもなぁ?』

「………切っちゃう?」

「切りませんよ恐ろしい!そうじゃなくて、店長たちはユラ大司祭の居場所が分かりましたけど…どうするんですか?」

「?」

「………保護する気ないんですか?俺みたいに」

『あー言いたいこと何となくわかった』

「?」


 聞かれている店長が分かっていなかったので、代わりにガルガストが分かりやすく説明してやった。


『つまり坊主は今までお前がもう一人のオッドアイである大司祭様を気にしてなかった理由が、ユグラスト教会っつー強大な後ろ盾があったからだと思ってたんだよ』

「でも冷遇されてたんだよね?そのオッドアイの子」

「それを聞く前は、俺も本当に教会が大事にしていたんだと思っていたんですよ、って………本当に関心がないんですか?」

「な(・)ん(・)で(・)?」


 それをこっちが聞いているのに。


「………もう一人のオッドアイなんですよね…?」

「そうだね」

「………主神ユグラストの契約者(コントラクター)ですよね…?」

「オッドアイならね」

「………」

『坊主、諦めろ』


 この時少年の中によぎったのは、ユラ・イコール・ユグラスト大司祭に対する憐み以外に、何もなかった。

 同じオッドアイだというのにこうやってもう一人の、黒騎士としての実力もあるオッドアイだけでなく、ガレイゼルの軍部にまで大切にされている自分に比べ、彼女の待遇は雲泥の差である。

 店長には一切の関心がないようだが、リオルは彼女を姉の様な存在だと勝手に思っていた。

 だから今も、勝手ではあるが彼女の事を助けたいと思っている。


「………」


 しかし手段は思いつかない。


『………おい、ラスカー!!坊主は何時までこうしてりゃいいんだ!?』

『少々お待ちなさい!もう少しでデータの保存が完了します』

「出来ました!もう結構ですリオル様!ご協力感謝します!!」

「じゃあ僕たち帰るね!!」

「え、店長!?」

『いーからいーから。ガレイゼルの軍部とそこの世界樹の棘(いばら)の面子を掛けた戦いに巻き込まれたくなけりゃ帰るぞ』

「あっはい」


 聞いただけでも胃のあたりがシクシクしてくる内容である。それは喜んで会議を退出させてもらうとしよう。

 バタンと会議室の扉を閉めて、二人と人に化けた神は案内人の促すままに軍本部を後にした。

 黄みがかったレンガで出来た階段をおり、数年前に建て替えた五階建ての大きな建物の影に存在する駐車場に入った時。

 リオルはガルガストに肩を持たれ、無理やり足を急がされた。


「は?」


 全員が車に乗り込んだところで、ルーガスも自分の車を急発進させた。

 一人何が起こったのかよくわからないリオルが後部座席で疑問符を浮かべるが、今はただ時間がない。


「結構荒い運転するから気を付けてね!」

「??」

『ガレイゼルの軍人も大司祭サマの方に目が向いている!お前の警備が今手薄になっているんだよ!』

「え゛」

「やっぱりなんかついて来てる!ガルス!!」

『一般の車だ!ただし乗ってるのは厄神!!ガレス、西地区の俺の家に行け!!』

「オッケィ!」

「ガルガストさん!?」


 運転中の車から飛び出し竜人の姿になったガルガストは、後方の車にそのまま突撃した。

 まだ軍本部の近くの道だったために、周りにいる人間も多くが憲兵だった。

 だからか、車の中から腕が折れたことも気にしていない人間が飛び出てきても、それほどの混乱は生まれなかった。

 厄神が街中に出現したことを知らせるサイレンは鳴り響いたが。


「店長!ガルガストさんが……っ」

「リオルそっちの扉閉めて!」

「あっはい!」


 無理やり助手席に乗り出したリオルはガルガストの開けた扉を何とか閉め、座りなおした。勿論助手席だ。

 外の方はというと、ルーガスの乱暴な運転が通るたびに憲兵達によって今までの道は封鎖されていく。


「店長!西地区にガルガストさんの家があるって本当ですか!?」

「何でも各国に持ち家を作ってて国が厳重に監視してるって話だよ!!」

「ですよね!」

「ある種ガルスの“神域”だ!治外法権っていうか、厄神もガルスが怖くて手出ししない場所!とりあえずそこに避難!!」

「わかりました!」


 王城に隣接する軍本部は東地区に存在していた。ルーガスが聞いているガルガストの家も西地区の王城付近に存在していたため、城周りの大通りを利用すれば目的地にはすぐにたどり着ける。

 後宮の長く高い塀を横に見る車道をまっすぐ進み、たどり着いたのは貴族街と市民外のちょうど中間点。

 そこに、黄土のレンガが色為す王都の中でただ一つ。城と同じように灰色がかった色彩を許された屋敷が存在していた。


「レナード王都の!景観法を守りましょうよ!神であろうと!!」

「はいはい入るよ!“開けゴマ”!!」


 堅牢な門は、車の中のルーガスの言葉に反応したかのように勢いよく開け放たれた。

 ルーガスにアクセルペダルを思い切り踏み込まれた車が、リオルの悲鳴と共に敷地内に飛び込んだ。それと同時に門は勢い良く閉ざされ、ご丁寧に施錠まで施されたのだから、追っていた怪物(モンスター)たちは勢いよく門に衝突して動かなくなった。


「な…っなんで怪物(モンスター)たちが……!?」

「怪物(モンスター)を創れるほど力のある厄神が殺しに来たって事だよ……あ、でもアレ北の国境で狩りつくした奴の小さいのだ」

「アレのですか!?」


 言われてみれば確かに、門に阻まれるキマイラたちには見覚えがある。

 大きさは確かに違うが、あの日リオルも映像越しに見たキマイラの大群のように黒みがかった体毛に羊や獅子の頭部。鋭くとがった黒い爪も、何もかもが同じものである。

 ただし、強化魔法で肉体強化が施されているはずなのに、門を飛び越えて敷地内に入ろうとしてこない。


「言ったろう?ここはある種ガルスの神域なのさ……入り口である門からちゃんと入んないと神罰喰らうんだ」

「神罰?」

「黒炎で自然発火…するんだけど、本能でその危険を察知してるねアレ……門をぶち壊してはいる分には問題ないってわかってるし……面倒だな、知能が高いや……」


 五体ほどの獰猛なキマイラが、まるで段取りをしていたかのように交互に黒い門へと突進していた。自己再生をする時間を互いにとっているらしく、黒い門が突破されるのも時間の問題である。


「力さえ示せば神の門は全てに開かれる……そんなルールに律儀に従ってるなーアレ」

「どどどどうするんですか店長!?門もミシミシ言ってますよコレ!突破されるのも時間の問題じゃないですか!!」

「突破された瞬間魔法ぶっ放す」


 本気らしい男の髪が異様な輝きを放ち始めた。集められ始めた青い精霊が今まで見たリンレイの魔法以上のものだったこともあり、少年は一目散に屋敷の中に逃げ込んだ。

 こちらも本能が全力で訴えてきた。

 逃げなきゃ死ぬと。それほどの何かが行われると。

 門が怪物(モンスター)たちに打ち破られたのはほぼ同時の事だった。


「“絶対凍結・一方通行”!!」


 ルーガスの両手から放たれた冷気は、門から直進してきた怪物(モンスター)たちの一切を飲み込んで猛威を振るった。


「………五体全部が一瞬で………」


 跳びかかろうとした瞬間の耐性で、ものの見事に凍り付いていた。ルーガスの数センチ先で止められた獣の爪先はそこで時を止められてしまい、二度と動くことはない。


『ふんっ!!』


 合流したガルガストの剛腕が、それを許さなかった。


『人ん家の門ぶち壊してんじゃねええええええええ!!!!!!!!!!』


 黒炎を纏った両腕は、持ち主の心からの怒りを物語っていた。


「………まあ、立派な門構えですもんね………」

「あいつ人のモノを壊すのは好きだけど自分のモノ壊されるとあんな感じになるんだよねーやっぱり神だから」

「………」


 理不尽この上ないが、大体の神というのはそういうものである。

 凍ったまま砕け散った獣たちを、それでも足りないとばかりに地響きのするほど踏みつける激怒の竜人。素材も何も取れないほど粉々になっているキマイラをまだまだ今も踏みつける。

 しばらくは収まりそうにない激情である。


「ああいうのを触らぬ神に祟りなしっていうんだよ」

「よくわかります」

「家の中に入ろう。ガルスも落ち着いたら合流するだろうし」

「はあ………」

『このこのこのこの!!!』

「………」


 ここは少年も、男の言葉に従った。











「………立派ですね」

「店に通うのが不便だからって使っていなかったけどねー」


 それでも定期的に清掃が入っているのか、室内はとても綺麗に保たれていた。埃が舞う事もなく、廊下の片隅には青いアネモネが季節故に飾られていた。


「………」


 固い誓い。それを花言葉にする、国父レナードの愛した国花。


「花?食べれる奴?」

「………」


 その事実を、相変わらずこの男は知らずにいた。


「あ、リオルこっちこっち~応接室だよ~」

「わー………アネモネをスルーですかー……何ですかここ」


 家主でもないルーガスによって案内された応接室は、真っ赤な絨毯と真紅のソファが誂えられた……黒い装飾の施された、まるでおとぎ話の魔王の一室。


「ガルスの趣味」


 納得できた。

 竜の翼、ガボット温泉街の魔法陣のあの邪竜の頭部、所々に細かに散らばる金の装飾。そしてベルベットの赤いカーテン。


「……いい趣味していますねー……」






 壁際には、漆黒の……誰かの人骨が、リンレイの診療室の標本のように飾られていた。







 それが本当の国父レナードの人骨であることを、リオルのオッドアイは見抜いていた。


「……ガルガストさんの刻印……」


 骨の全てに刻み込まれている金の刻印は、死した後も怪しく光り輝いていた。

 実はキイチの心臓に刻まれていた刻印を見ていたからこそ、リオルには気になっていたことがある。

 リリーダが従えていたレナード、そして魔法陣のあの時にウルドラ神が捕獲して連れてきたホムンクルス。そのどちらにも、心臓にガルガストの契約者(コントラクター)として有名な彼にあるはずのモノがなかった。

 この金の刻印である。

 と、なると。


「リリーダ神が盗んだのはなんなんですか?」

『ホムンクルスだ』

「ひぅ!?」

「あ、ガルスお帰りー」

『おー』


 怒りは静まったらしいが、まだご自慢の黒い尾を遊ばせながらガルガストがやって来た。

 竜人の姿なため、また異様にこの空間と馴染んでいた。

 暖炉の前の一人掛けのソファに身を沈めたガルガストは、その尾で隣のモノをリオルに示した。


「……」


 座れとばかりのその棘に、リオルは無言でしたがった。

 ルーガスはというと………甲冑の股を見つめていた。

 そんなモノを話題にしたくなかったので、少年は話題を骨の方に促した。


「………国父レナードには、骨の方に刻んだんですね……」

『あーあいつはな……刻んだら骨も黒くなっちまって俺も当時は焦ったもんだよ。キイチもその話を聞いて心臓の方選んだしよ』

「……で、どういう事なんですか?」

『まずどれだ?』


 たしかに、何を聞かれているのかわからないほどツッコミ所は多い。


「……リリーダ神は自慢げに言っていました。レナード王の遺体は、臣下たちによって保存されていたとか…王の墓所の発掘には、リリーダ神が援助もしていました」

『その墓所の遺体がそもそもホムンクルスだ。俺はそんなものにまで刻印を刻むほど暇じゃねーよ』

「……聞いてもいい事なんですか?」

『むしろお前は聞いておくべきだ。記憶のない坊主と野次馬もなく話せる絶好の機会だ、教えられることを今言うから叩き込め』

「はい」


 ルーガスが今だ甲冑を見つめている中、神の語りは始まった。



因縁的に無理=生理的に無理

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