リオルと訓練結果~北の来客を添えて~
三月最初の投稿です。
「………やはりここではないか」
「公務ではここが最後に姿を見られた場所なんだけどね~?何もないわね」
「キイチ、ジニー。俺たち以外にこの遺跡来てないぞ。もう出よう」
「オッケー、キイチ」
「……ああ」
1500年は前に破棄された、ホーロライ山脈に隠れるように存在するユグラスト神の神殿である。夏場は観光客のために一般開放もされるのだが、冬場は衰えのない猛吹雪のため立ち入ることも普通は不可能。
内部はかの神域に続いていたという門が完全に破壊され、侵入してくる冷気によって全てが氷漬けになっている。保温の意味を込めて肉体強化魔法を維持いているが、キイチたちも長居は出来ない。
「山脈の全ての神殿は調べつくしたぞ」
「そして空回り」
「………帝国のラスカー様と合流する。お前らはどうする」
「ついて行くに決まってんでしょ!あたしだって温泉入りたい!!」
「お、いいねー奇跡の湯!!」
「凍傷とかもう勘弁!」
満場一致で、そうなった。
山脈一帯の猛吹雪は、四月になるまで止まらない。
「―――――――抜刀!」
『ドラゴンクロウ!!』
『ホーリーハンマー!』
地面に叩きつけられた木製の大槌は、そこに神の精霊と魔力を流し込み魔法の樹木を瞬時に作った。
満開となった花から迸るのは、麻痺効果のある光の花粉。十分な役目をこなすと、樹木は薄暗い倉庫の中から消え去った。
『木神ウルドラ!?ガルガストと手を組んだのか!?』
『そいつは神喰だぞ!?貴様それでも神か!!』
『そうとも!俺、隣の倉庫の持ち主、兼、神!』
『本当に神なのか!?』
ルーガスたちに適度に消耗され、体がしびれて動けない厄神達をガレッドの部下たちが手際よく拘束している最中のやり取りである。
なぜ神が商売やっているんだと厄神が突っ込むが、お前らだって似たようなもんだろとリンレイが手にした小瓶を目の前に突き出してやると押し黙った。
先月彼の手で解析されたラブポーションの一つであった。
「一番中毒性の高い奴だ」
『売れねーだろ、もう』
厄神の創った薬だから使うと男のあそこ縮むなんてデマ、ルーガスが流してたぜ?
うわ容赦ねー
『嬉々としてチャーリーってやつと一緒に流してた。女どもに』
「女受けいいからなーあいつら」
『で、薬使おうとした客に娼婦たちがせせら笑って薬の効能ばらすんだよ。入店料はしっかり分捕っといて』
「ヤル気失せるわー」
『高い金払ったのに副作用がとんでもねーは、何も出来ずに入店料は取られるは、男としてどーよ?』
「二度と買わねー」
そんなやり取りを目の前でされた厄神達は、案の定激怒した。
『道理で最近の売れ行きが悪い訳だ!!』
『シュレスト様がガホットを引けといったのはお前らのせいか!?』
『レアドロップにまで馬鹿にされるは!アドゥヴァスト神がシュレスト様を笑いに来るは!貴様らこのままで済むと思うなよ!?』
自爆するだけの簡単な作業である。聞いていたガレッドは途中でたまらず噴き出した。
リンレイも楽しんでガルガストの茶番に付き合ったが、ここまで喋ってくれるとは思わなかった。
馬鹿だこいつら。
『あー…こりゃ完全に切り捨てた薬の残りモンで小遣い稼ぎしてただけの、はすっぱだ』
「じゃあもう消しちゃっていい?」
『ひっ!?』
『銀髪のオッドアイ…っ!』
『神殺し!』
『やだやだやだやだやだ死にたくない死にたくない死にたくn』
「うるさい♡」
容赦ない黒剣の一突きで、その厄神は消滅した。身に宿していた黒い精霊は回収され、纏っていた属性の精霊も、根源たる金の粒子も大気に溶けて、消え去った。残ったのは厄神が暫く宿っていたために劣化も激しい男の亡骸。
他の厄神も、黙り込んだ。
「さあリオル!」
「ひぃ!!」
「何で君が僕に怯えるの!?」
当たり前だというのにルーガスは大げさにショックを受けていた。
ガレッドは呆れたが、話は聞いていたのでとっととやってくれと促した。
相手はここ数十年、北区の元スラムの闇をより一層深いものにしてくれた憎い敵だ。同情の余地はない。
「いいから坊主、頼むわ」
「は…はい……」
『あ?もう一人のオッドアイか?いったい何を……!?』
拘束されていた厄神達は、目の前に出てきたリオルがルーガスの幻を壊すほどの魔力を行使する真意に気づかない。
自分の色を晒し、身体をラピスラズリの輝きの中に囲ったリオルには彼ら厄神の根本が視えた。
捉えた、もう逃がさない。
『何をした!?お前いったい何を……!?やめろやめろやめろやめろぉぉぉぉぉぉ!!』
自身の中の金色が騒めいた事に気が付いた時には遅かった。彼の中にある金色の精霊をリオルが虚空で引き抜くと、空想の中で厄神の体内にいたその手は確かに、金の砂粒を掴み取っていた。
同時に厄神の崩壊は始まった。様子を見続けていたルーガスの黒剣に黒い精霊は吸い取られ、人の亡骸がもう一つそこに倒れた。
「あれ……?」
倒れかけた少年を、神の黒い尾が支えてやった。残った厄神達もルーガスによって切り捨てられ、厄神達は消滅した。
『………厄神一柱でこの消耗か、燃費悪いな』
「でも神なら上位も下位も関係ないね、コレ」
『ああ、シュレスト達でもひとたまりもない』
「うーん……リン君ちょっとリオルのこと見てて」
「は?おい、ルーガス!?」
何処かに行こうとする店長を引き留めようとする少年特有の高い声を最後に、リオルの記憶は一時途絶えた。
次に気づいたときは温泉の中だった。
「………んん?」
「おう、リオル起きたか?」
『やっぱ温泉サイコーだよなー』
『ねー』
神々二柱がいるが、それでもまだ狭いとは思わない。
この広い温泉は、ルーガスの店の風呂場ではなかった。
「………ここウチの温泉じゃないですね…?」
『ウチ!』
ウルドラ建設の温泉宿だった。
“まったり亭”。
一週間以上の長期滞在しか受け入れないが、既に一年先まで予約がいっぱいな人気宿。彼らの趣味と職人技が詰め込まれた木造建築は、この温泉街一の立派な佇まいだった。
倉庫の件は本当に困っていたことだったので、そのお礼らしい。案内された個室には彼らのルートでしか手に入らない極東の食材を使った豪勢な食事がすでに置かれていた。
宿の中にある料亭の中でも一級品のコースらしい。
まず手を付けていいのかリオルは迷ったが、意を決して箸を伸ばした。
美味かった。
「………!」
『お、煮こごりに感動』
『坊主、チョイス渋いな』
「うおっコレ…シラコアユじゃねーか?よく持ち出せたな」
『むふん』
初めての食感など、少年は夢中になって喰いついたが空腹が満たされてくると他の事も気になってきた。
カニをダシにしているという味噌汁を存分に味わっていた所で、少年は我慢が出来ずつい口に出した。
「あの……店長は……?」
『ラスカーに捕獲された』
『もう化け猫』
「ああ……相当お怒りだったな…ラスカー様」
どう考えても自分が倒れた件である。
よほど無茶をさせたようにしか傍からは見えないらしい。
まあ、あの消耗を考えれば致し方ないのかと、リオルは最後のメロンにフォークを刺した。
ラスカーとルーガス。どちらがいつも正しかったかなど、言うまでもないことである。
「まあ兎に角お前は食え食え。栄養とっとけ」
『細っちい、まずそう』
『もっと筋肉付けろ』
「捕食者の眼何ですが!お二人とも!?」
「はっはっは」
「ねえラスカー…正座もういい?」
『ダメです』
「えー…あ、ごめんなさい」
金色の獅子の頭をした男が二人、ラスカーの背後に控えていた。
神殺しの人類も、ここはおとなしく引き下がった。
それぐらいの知恵だけは、残っていた。
それだけは。
ウルドラ神の旅館で極東の味を十分に堪能したリオル達は、閉店時間になって帰ってきたというのに別に怒られることもなかった。
「それじゃあ若旦那、あっしはこれで」
「いつもありがとうございますミズヒコさん……っ!」
彼と他の作業員によって、店はもう締めの作業を終了していた。テーブルには椅子が逆さに乗せられ、椅子の脚まできれいに拭き取られている。他の作業員たちは先に帰させたという。もはやこの店は、彼とチャレットなしでは立ちいかない。少年でさえわかるほど、あの店長は商売に向いていなかった。
「いいんすよ、別に。というか、あの男は店やってねーで厄神を滅する方が大事なお仕事だろうに、ったく……」
「………」
元軍人であるミズヒコは、現役時代は水魔法を使う魔法兵だった。彼自身も厄神とは何度かやりあっており、自分達の手では殺せない厄神を痛感していた。
「神殺し…か……」
そう言って港の家に戻っていく男の背を、リオルはずっと見送った。
店長が帰ってきたのはそれから暫くしての事だった。
「ただーまー……」
「お帰りなさい店長……グッタリですね…」
「正座もうヤー……」
グッタリとして、カウンターの椅子が乗っていない空間にするりと体を持たれかけた。本当に疲れたらしい。
絞られきって水気のない男の顔に同情したのか、リンレイが戸棚のガラスコップに水を入れて渡してやった。もはやどこに何があるのか、店員でもないこの医師もちゃんと把握しているらしい。
「で?何であの時お前はすぐ温泉を取りに走っていったんだよ」
「そりゃ神殿から脱出したばっかのリン君みたいな疲労具合だもん。ホントは温泉に浸かるのが一番だけどさー、お店遠かったから」
取り敢えず温泉水飲ませようと取りに行った。
「ウルドラが自分ちの温泉使ってもいいよって言ってくれたのは、ホント助かったよー…死にかけてたし」
「!?」
『おう、ガレスそれ以上は医者も真顔になってるから止めとけ』
「リン君こわーい」
「………っ」
水を集めだした少年を羽交締め、さらなる混沌を食い止める。行けない、これ以上はややこしくなる。
「そ……それで、店長!?俺の“金の精霊を取り除ける能力”は、有効ですか!?」
「今はお荷物」
『あんな雑魚一匹で死にかけるんじゃーなー』
「そうだリオル!!もうあの能力を使うなよ!死ぬぞ!!」
そうなった。
「……じゃあ、結局魔法の特訓は……」
『続行だよな、他のもっと使えそうなので』
「まあ肉体強化魔法はいい線言ってるし、テレポートもあるから捕まっても脱出は可能だね」
「あとは攻撃か……よっしリオル!明日は俺が水魔法教えてやろう」
『何をぉぅ!だったら俺が炎魔法やる!』
「えー!じゃあ僕も!!」
『「お前は駄目だ」』
「何で!?」
「いや、俺ももう勘弁してほしいんですが……」
「!?」
というわけで翌日、厄神の処理も終わった軍人たちも合流し、訓練は続行された。
「………」
『置いてかれたね、ルーガス』
「シャラちゃんこそ……キイチから連絡来たの……?」
『来たよ』
「へー」
「!?」
今日は店の手伝いに加わっていたトムだけが、その重要でいて能天気な世間話を聞いていた。
『キイチからの連絡?結局こっちに戻って来るってだけだもん。いつ来るのかもシャラわかんない』
「あっちは成果あったのか?」
『無かったって。山脈中の神殿跡地を見て回ったのに、ユラ様の死体とかなくてよかったーってジニーとかは嬉しそうだったって』
「そうか……まだ死体は上がっていないのか…」
ほっとして、リンレイは木製のベンチに深く沈んだ。ウルドラ建設が空き時間に作った廃材製のベンチだが、座り心地はよく温泉街の至る所に設置されている。これもそんなベンチの一つであり、ウルドラ神自らもが持ってきた。
ガルガストに炎の精霊の扱いについて注意を受けているリオルがよく見える。先ほど暴発を引き起こしたためにちょっと神経質になってはいるが、今はもう赤の精霊をかき集めることに抵抗はない。
『おーし、いい感じだ。いいか坊主。金の精霊を根源に持つ神は、それのおかげで精霊を操るのはたやすいが、人間は別だ。ガレス?アレを人類と俺は認めねぇ』
聞いていたシャラも頷いた。人外揃ってこの反応、相当である。
訓練は順調に続いているので、シャラもリンレイに向き直った。
『あと温泉うおおおおお!ってジニーとリフが盛り上がってるって』
「あー…あの面子はなー…」
『おっしソコだ!行け!!』
「“爆ぜろ緋の華”!!」
「「おおっ!」」
狙い通り、リオルの手から放たれた火の玉は空き地に設置された的に向かい、そして破壊した。
「おおーーー……普通の魔法だ……」
「ガルガスト神教えるの上手いですね…」
『比較対象を医者にしてくれない!?あっちはさすがの俺も傷つくぜ!?』
同じころ、店の中にいた当人が盛大なくしゃみをしていた。
だがそんなことを知る者はおらず、訓練は炎魔法から水魔法に移された。
「おーし、じゃあ水の精霊をまず集めてみるぞー…っつっても、炎みたいに集めた瞬間暴発するような性質は水にはねーから、こっちの方が簡単だな」
「あ、集まりました」
「おう…炎の時から思ったが、初めてにしては簡単に集めきったな」
「さすが主神の契約者ですねー。風の魔法も、エルシー様みたいにあっさり発動しましたし……今ならもう、俺より先に発動できるだろうし」
「しょげるなよチャーリー……発動までのタイムラグが、人の使う属性魔法最大のデメリットなんだ……仕方がない事だ」
きょとり顔の少年に、ガルガストがだよなーとばかりに説明した。
『周りが規格外ばっかだからそういう認識になるよなー…あのなぁ坊主、何で魔法兵の奴らが、国税で作られた魔動兵器を一人一人が所持するんだ?』
当然、魔法を使うだけではままならないためである。
肉体強化などの属性も関係ない魔法は問題がないが、精霊を一定数かき集めて自身の魔力と混ぜ込み、調整を施された魔法として行使するには…数秒だろうと、属性のない魔法以上に時間がかかる。
「戦闘、特に接近戦においてそのタイムラグは命取りだ」
『だから普通は、ガレッドの奴みたいな頑丈で肉弾戦に強い奴が切りかかって相手側の魔法を使う時間を奪っている間、他の魔法兵が属性魔法を後方からぶっ放して援護するっつーのが主流だ』
まあ俺やルーガスにンなこと関係ないがな!
『全部出来るし!』
「………」
「あああ、あの!リンレイさん!?それで、この集めた精霊にはどんなイメージを流し込めば魔法として発動するんですか!?」
神の傲慢が発揮され少し機嫌を悪くした少年の刻印が、衣服の中で怪しく光りだした。
敏いリオルがすぐに気付き、慌てて注意を自分に向けた。ファインプレーだとばかりにアレクセイ達も頷いた。
「………炎の時と一緒だ。的の所に勢いよく吹き飛ぶ水の球もよし、消火作業するホースから流れる水みたいのは魔力を一定量消費し続ければ長く続くし、魔力が一気に持ってかれるが、水を凍らしてぶっ放すのも殺傷力が挙がってお勧めだ」
『そこはもう拾った石を肉体強化してぶん投げた方がよくね?』
「投石はぶつかった場所を凍り付かせることは出来ねーだろ?植物系の神や怪物にスゲー有効だ。炎対策はしても氷対策まで追いつかない神も多いしな。覚えといて損はないぞ」
「じゃ、氷の球でやってみます」
「ん?ちょっと待てリオル、魔力量が……」
リンレイが止めようとしたが、放たれた氷の球は的にぶつかった瞬間砕け散り、5mは離れていたリオルたちの足元も凍り付かせた。最近は雪が降ることもなくなり若葉が見え始めた近くの木々も、完全に凍り付いていた。
「………ま、凍り付かせるまで水魔法を操れる奴も少ないし、上出来ではあるな…」
「ごめんなさい」
ガルガスト以外仲良く足が凍り付いたが、リンレイによって溶かされた。魔法訓練ではよくあることだとチャーリーとアレクセイが今日初めて水魔法を使った少年を励ましたが、少年は気を落としたままである。兎に角魔法は問題なく発動できたのだからと、今日の訓練は終了となった。
「というかアレだけの範囲凍り付かせたのに、リオルくん魔力消費による疲れとかない?」
「え?ないですけど」
「ミナト医師、どう思われますか?」
「俺は王都全部凍り付かせたらぶっ倒れる」
「すみません、参考にならないです」
そんなやり取りをしながら店に戻ると、駐車場の方でルーガスがはしゃいでいた。
ミトや他の店員たちも一緒である。ただしチャレットのような女性陣はいない。また男だけで盛り上がってるのかとリオルが身構えたが、そうではないらしい。
『あん?何やってんだガレス』
「今更だけど訂正するよ!僕の今の名前はルーガス!そして今!ガレッド少佐君が僕の車を持ってきてくれた!どや!!」
『どや』
「おう、昨日ぶりだな」
「あ、昨日はありがとうございました」
昨日と同じ軍服に身を包んだ竜人は、車の納品にやっていていた。ただの車ではない。一般車両と同じデザインではあるが、軍用車と同じ強化ガラスといった特殊な素材を使われた特製品である。色もどことなく一般車よりも暗い。
「……なぜ店長の車を、軍が?」
「お前だって乗るだろ」
「俺ですか?」
言葉の矛先が自分に向けられ、リオルは驚いた。まるで意味が解らない。
「ウチの上層部は、六色司祭なんつー犯罪集団がウチの黒騎士が保護しているオッドアイを狙ってたって事実に大変遺憾なんだとよ」
『坊主はよく知らないだろうが、国王陛下と元帥様は元は世界樹の棘の隊員で…王族のアレがなけりゃぁキイチじゃなくあの二人のどっちかがフレア隊の隊長だったぐらいだ』
「………それは…確執がありそうですね…」
『めっちゃあったぞ。ラスカーがあの二人に付いたぐらいのな』
相当な軋轢があったらしい。何となくルーガスに対して、ガレイゼルの上層がよく融通する理由が見えてきた。
私情が盛り込まれているのなら、この車も存分に使用させてもらおう。
ただし、一つだけ言いたい。
「………つまりコレ、俺や店長が乗車中になんか仕掛けられるの前提なんですよね……」
『もうそろそろお前も自覚持とうか、オッドアイ』
「自衛の方は順調か?金の精霊はなしって話になったんだろ」
少年が青白い顔をして倒れたのをガレッド自身も見ていたために、心配そうな顔である。
いい人だ。そこで新車に大はしゃぎする銀髪の男よりもよっぽど人間らしかった。
「リーオルー!これでドライブ行こーよー!!シャラちゃんも遠出にノリノリだよー」
『キイチ来てる!北の国境!でも大変!!何かに追われてる!』
「あ、違うみたい」
ノリノリではなく、必死である。
「ダンテ!十三中隊全員に通達!警戒態勢!!」
「はい!」
「ルイ中佐!アレクセイです!」
―――エルシーです。リオル様に何かありましたか?
「世界樹の棘フレア隊キイチ・アズマ隊長と契約しているサラマンダーからの報告です!北の国境付近にてキイチ・アズマ隊長が何かに追われている模様!ガレッド少佐率いる第十三中隊も警戒態勢に入りました!」
―――ラスカーです。話は聞いておりました。チャーリー魔法兵と変わっていただけますか?
「はっ……は?」
「?」
何でといわんばかりのチャーリーが通信機を受け取り、幾つかの指示を出されたらしい彼が誰に向けてかわからない敬礼を何度もした所で通信は終了した。
戻された通信機をぞんざいに懐にしまいながら、アレクセイが詰め寄った。
「チャーリー!どんな指示だった!?」
「………飛翔魔法の許可下りた……映像通信士として現地に直行しろって……アレクセイはここでデータ収集だって」
「現地にお前が!?」
『もういいか軍人!?なら行くぞガレス!俺たちも飛翔だ!』
「先に行くねチャーリー君!頑張って追いついてね!」
「おい軍部!!俺には許可下りねーのかよ!?」
相変わらず自分の翼で飛ぶことを許されない竜人が一人吠えたてるが、ルーガスとガルガストがいなくなる店の警護を自分の通信機に指示された。
「リオルお店から出ちゃダメだよ!」
「店長!一体北の国境で今何が!?」
「わかんない!でも北の方がおかしいのはリオルも見えるよね!」
「何か真っ黒な糸みたいのがブワッと来てますけど!?怖いんですけど!!」
『会ってるぞ!それも因縁の糸の一種だ!』
但し向こうがこっちに敵意持ってた時のだがな!
「………何なんですかあの数は!?」
北の空が、黒い糸で覆われかけていた。不気味なことこの上ない光景だったが、リンレイ達は必死に目を擦っているだけだった。他に見えているのは、風の精霊から強風を巻き上げ今まさに飛び上がろうとする黒剣を構えた男と、黒い竜人に化けている神と………震えているシャラのみである。
「とにかくリオル……外出ちゃダメだよ」
再度念押ししたルーガスは、今度こそ真顔で飛び立った。
『サラマンダーロケット!!』
「え!?ちょっシャラちゃんも一緒なの!?」
追ってチャーリーとシャラも飛び立ち、その勢いに土ぼこりが盛大に巻き上げられた。
「店に入るぞ!」
「ごほっ」
リンレイに促された皆が涙目になりながら店の中に入ると、既にガレッドとアレクセイによって通信設備は整えられていた。
ガラス版には高速で移動する空中と、二つの黒い点を追いかける端の方に炎がちらつく空中の二つが表示されていた。
ルーガスのネクタイリングとチャーリーの付けている映像機器からの光景である。
「………速いなあの魔法兵……母親譲りか」
「何か言いましたか?」
「何も?」
何も知らないアレクセイの問いに答えることはなく、リンレイは映像の方に集中した。ガレイゼル帝国の北の国境など、魔動車で一日はかかる距離である。だというのに、彼らはもうそれさえも超えキイチたちを発見した。
ガレイゼル帝国北方に広がる不毛にして広大な砂礫の地、スラト平地の中であった。
強奪したのか、ホーロライ軍のトラックの荷台から後方に向けて、先程のリオルのような火球を休みなく放つキイチと他二人の世界樹の棘。トラックを運転する男も何やら叫んでいるのが映像からうかがえる。
「ストームのトルス隊長にルーツのリフェ隊長!運転しているのはファントムのジニー隊長か?無事に生き残ってはいたか」
かつての同僚たちの無事に、リンレイは安堵した。
しかしアレクセイ達は後方の団体に泡を食って映像を調整し始めた。何せそれは、キイチたちを追いかけて帝国方面に進行中なのだ。
「何だあの怪物の数は!?どっかの放置されていた神殿にちょっかい掛けたのかあいつら!」
「データ解析の結果出ました!キマイラ型の怪物!アドゥヴァスト神の神気反応あります!」
「ユグラスト教会を襲った厄神の創造した怪物か!となるとあれは追手か……っ」
精霊反応なし!属性はありませんが、肉体強化魔法を常時発動しています!爪や牙が厄介です、気を付けてください!!
それに物理攻撃が半減はされると思ってください!
「聞こえましたかルーガスさん!?」
―――属性魔法への耐性は!?
「データ上では確認できません!!」
―――やっちゃえガルス!
―――よっしゃ黒色煉獄ひゃっほぅ!!
相変わらずガルガスト神の黒炎は、情け容赦なく黒い獣たちを飲み込んだ。
頭上から降り注いだ死の炎には、獣の群れも不意を突かれたらしく一部が瞬時に焼き払われた。
魔動車の面々も一瞬焦ったが、飛翔してきたチャーリーにキイチが気づいたため混乱はすぐに収まった。
―――キイチィィィィィッ!!!
―――ぐふっ
―――あれ!?シャラかお前!?
―――という事は味方でいいのかキイチ!!
荷台に突っ込んだシャラに続いて、チャーリーが彼らに合流した。
―――自分はラスカー様の指示でここにいます!!このまま国境に向かってください!世界樹の棘隊長の皆様を、帝国は保護します!!
ただし追ってくる獣の群れを、歓迎した憶えは誰にもない。
「黒炎によって300体ほど消滅しましたが、まだ150体は残っています!」
ちょっとした一軒家ぐらいの巨体を誇るキマイラたちである。竜人のガルガストでさえ小さく見える上に、肉体強化魔法でちょっとやそっとの攻撃は通じない。ガレッドも一体が精一杯だと爪を噛む。そんな厄災としか言えないものが後150体。
その前に立ちはだかるのは、たった一人のオッドアイと、神が一柱。
「悪夢ですよね……普通は」
「ルーガスたちがいなかった今まではな……数的には圧倒的に不利なのにな」
「何でしょうねこの安心感…」
言っている間にもキマイラの数は減っていた。
「もう残り100体きりました…」
「意味わかんねーぞあいつら……」
しかし肉体強化の魔法によって切り捨てるのは難しくなっていることを確認したのか、ルーガスはいつもの大剣を捨て地面に両手を付きつけた。
―――ウルドラ直伝!“豊穣祈願”!!
ルーガスの魔力を注ぎ込まれた一帯の地面が、内包していた何色もの精霊を一気に撹拌され柔らかくなった。
となると、体通りの重量を有するキマイラたちは男の狙い通りに大地へ沈み込む。
翼のあるものは空に逃げようと羽を広げるが、飛翔魔法で距離を詰めたルーガスが切り落としそれも許されない。何度再生使用と無駄である。
ガルガストは足掻く怪物の首をその腕力にものを言い、確実に刈り取っていた。その様子を、トラックの面々は呆然と見ているしかなかった。
店の面子も似たようなものだった。
「………農地でよく見る魔法だなー……」
行使された魔法自体は、それほど珍しいものではない。ただ彼らの知る魔法とは規模が、それ故に使い方がまるで違う。
「あんな深くまで一瞬で地面やわらかくできるか?普通」
「なんかもう溺れてますね……キマイラたち……地上で、ですけど」
「さすが店長。農家に謝れ」
―――何でそうなるのリオル!?
おかげで今世紀最大の絶望ともいえる怪物の大群が、危なげもなく駆除された。国境警備のガレイゼル軍が到着した頃にはもう、数体しか残っていない。
「なんか必死に逃げてたアタシ達がバカみたいよ……」
「まあいいじゃん生き残れたんだし」
「すごいぞジニー。車のエネルギー残量0だった」
「うっそマジ?」
「マジでギリギリだったじゃねーか俺達!!」
『キイチのびゃあああああかぁぁぁ!!!!!』
「……っ……っ!!」
かくして、今後パレード・オブ・ガレイゼルの戦力として名の上がる面子がこうして合流を果たしたのであった。
合流しました。面子を増やして。




