リオルと訓練~金色の輝きを添えて~
また新知識。キーワードは金色。
フロティア暦3月2日 朝。
「おはようリーゼ!昨日のかっこいい人誰!?」
「はぅ!?」
早朝の家の手伝いも終わり、リーゼは登校中に仲良しの同級生といつも通り合流し、開口一番尋ねられた。
「レーシャ……ガホット来てたのね……」
「も―びっくりしたわよ、知り合いが、あそこを見たいって言うから一緒についていったら、リーゼは男の子と一緒に宝石店入ってくし!そのピアス贈り物?何々、そんなに?」
「違うわよレーシャ。贈り物だけど、宝石店の神サマからよ。開店したばっかのご先祖様の味と変わらずおいしいって、褒めてくれたの」
「神サマ!?」
心底驚くレーシャにあわせ、横に結わえ艶のある黒い髪がふわりと跳ねた。相変わらず淡い色合いの青い瞳がよく映えている、猫のような美少女である。
「いくら神だからって、私のリーゼを渡さないわよ!?」
中身はこれだが。
「もー早くしないと遅刻しちゃうわよ」
「あ、待ってリーゼ本当にアレ本気!?そこははっきりして欲しいの!ねえっ!!」
厄神である事をひた隠し、レーシャは必死で問いかけた。
それからさらに数日後。
パレードのカウンターには、誰も店にいないのをいい事にサラマンダーが伸びていた。
動く気配は、ない。
『………』
「ごめんシャラちゃん、怖いからたまに動いてくれる?」
『………』
「しょーがないよ。隠密行動にその背びれは無理だよ」
『………キイチから何の連絡もないぃぃぃぃ捨てられたぁぁ!!!』
おいおい泣き出したサラマンダーにしょうがないなーと言いながら、ルーガスは大きなリンゴが使われたケーキを一切れ提供してやった。
三月も半ばを過ぎた。高台にあるパレード・オブ・ガレイゼルは、案の定一般客が激減した。その分駐屯所建設に関わっている作業員などで賑わったりするが、彼らが作業に向かうと途端に暇になる。
補充された人員、もとい今後この駐屯所の食堂で作業するメンバーは今、厨房の方でヨシツネの父、ミズヒコによって和食を伝授されている。
刃物の扱いだけは本当に職人と言えるルーガスは大根の飾り切り百個チャレンジには参加したが、今回は見送った。だしの種類とかを覚えていられない。今まで勘を頼りに適当にやって、美味しいものができていた。そのスタイルを変える気もない。
リオルはというと、裏手の方でミトやチャーリーによる魔法の訓練を受けていた。
肉体強化魔法を思ったよりも早い段階で軍の基準値以上となったため、魔法の素質が優れていると皆が判断した結果である。
これは店の手伝いを覚えるよりも魔法の方を優先した方がいいとなり、まずは飛翔魔法をチャーリー監督の元訓練していた。
飛翔魔法などを王都内で使用するには、許可が必要になる。面倒だから先にしようと、みなが賛成したのだが。
「うーん…ここまで安定しちゃったら別に……飛翔魔法は問題ないかな?」
「そうなんですか?」
「初チャレンジで俺と同等とか普通はおかしい。まあ選定水晶の所からしておかしかったけど」
以前実施された、リオルの魔法適正判定検査の話である。
精霊を大量に封じ込めた色とりどりの水晶玉は、揃えられたその全てがリオルに反応して見せた。便乗したルーガスも同様である。
「やっぱ“オールラウンド”かー……その魔力保有量で」
そうガレッドがため息をついたのには、訳があった。
まずオールラウンドとは全属性の全てが使える者を言い、これ自体は珍しくもない。大抵の人間はこれに当あてはまり、しかし絶対的な魔力保有量が少ない。実際に魔法を行使できるものが限られている理由である。
せいぜいコップ一杯分の水の量と例えられるほど、微々たるものであるのだが。
この魔力保有量を数値化する機械は、正常に作動していながらとんでもない数値をたたき出してきた。
リオル : 7980000
ルーガス : 23640000
ガルガスト: 31480000
ガレッド : 1300
「やっぱ機械正常だよなー」
『なー』
「エルシーちゃんはいくつ?」
「3600です。契約者としてはちょっと多めといったところです」
因みに一般の魔法兵は平均で1000となる。一般人に至っては100あればいい方だ。
「そりゃ飛翔魔法も楽々会得するよねー。飛翔はもういいや」
上空100mへの挑戦をモノの数分でクリアした、自分より才能のある生徒。
ちょっと悲しそうなチャーリーを、ミトたちも同情した。普通は年単位の訓練が必要なのだが、やはりリオルも常識で測りきれない枠だった。
「……チャーリー魔法兵も国一の飛翔魔法の使い手ですよ」
「ありがとうボーン魔法兵。で、二人共。他の特別許可がなきゃ使えない魔法で、オススメって何かある?」
「あの飛翔魔法をこうも簡単に会得したうえ、移転魔法があるからな。移動系統はもういいだろう」
炎系統はガルガスト神がいるからむしろ不要、水魔法も残ったミナト医師がいればまあ……通信系統は我々がいるからなー…
「………ボーン魔法兵あるか?」
「えーと……魔動兵器の型で得物を見つける?剣とか、槍とか」
「軍人じゃないリオルに魔動兵器はちょっと……」
「ですよねー……」
「店長暇すぎてこっち来たーー!昼食の準備ミズヒコに追い出されたー!!」
更に怪獣がやってきた。
適当と大雑把なルーガスが油で、常に計算された狂いない味付けを重視する職人なミズヒコは水なために、衝突してはこのように店長が追い出されることがままあった。
「リオルの訓練どんな感じー?」
「飛翔魔法は問題ないと言われました。次はどんな魔法を訓練するか考えています」
「じゃあ髪の毛発光するほどの肉体強化、もう一回チャレンジ?」
「先月頭の中が沸騰して死にかけたんですが!?」
「大丈夫大丈夫。数こなせば慣れるから♡」
「ひぃ!」
異空間から抜刀までして迫りくる、少年を善意のつもりで甚振る悪魔に躊躇はない。リオルは青ざめ、アレクセイ達も慌てて止めに入った。
「いや無茶ですよルーガスさん。ミナト医師が無茶振りするなって説教したじゃないですか」
「意外とハードですよね、ルーガスさんって」
「だってさー、力ないオッドアイなんてご馳走じゃん。キイチがここ離れた理由だってそれだし」
ある有力な情報網によって、ユグラスト教会にいるオッドアイ、ユラ・イコール・ユグラストが消息不明であることが判明した。
それだけではない。護衛任務についていたキイチ以外のフレア隊員も、大量の血液を残し姿が消えた。
そしてこの事実をキイチに伝えないよう、ユグラスト教会の大司祭に次ぐ地位をもつ六色司祭たちが満場一致で決定し、情報を遮断していた。
そこでキイチは先月のうちにホーロライ共和国に戻り、極秘裏に他部隊隊長と共に行動している。もはや教会の意向など従う義理もない。
「そりゃキイチ隊長も激怒するっつの」
「ホーロライ共和国も最近になってキイチ隊長たちが音信不通になってるの気付いて、慌てだしたしたけど遅くね?」
「キイチ隊長も極秘に指名手配されたとか……大丈夫かな」
「俺らにも情報降りてこなかった!」
『オメーらもよく監視対象の俺と飯食えるよな』
「「「「監視しても無駄じゃないっすか」」」」
そう言った彼らによって机の上に広げられたのは、黒竜新聞をはじめとした世界各国の今日の新聞である。竜の爪のようなフォントを使用するガレイゼル語の新聞が多いが、他の国もある。
続くのはホーロライ共和国を筆頭に北の国が使う、ガレイゼル語と同じスペルも混ざるロライ語の新聞。そして大陸西方面の国が公用語とする、蛇のように横に伸びるサザ語の新聞がいくつかだ。店に来ていた他の客も集まりだし興味深そうにそれを眺めた。
「兄ちゃんたち外国の新聞も読めんのか?すげえな」
「ガホットの事はもう話題になってねーのか、これ」
「そりゃ一面はユグラスト教会のスキャンダルで埋まるだろ。しかも大司祭様が行方不明」
「六色司祭は汚職から雲隠れしたけどよ……これそいつらが大司祭殺したんじゃねーのかって噂、マジなんじゃねぇ?」
「それにサザーラの方の国がが黒い精霊をウチで浄化するって話、本当なのか?」
「あっちもホーロライまで持ってくの、土地的につらいからなー」
「それ以前に大神殿の魔法陣は無事なのか?そこら辺の話は全然こねーし」
各自言いたい放題である。
『……もう大分知れ渡ってんな』
「六色司祭がトンズラなんてするからですよ!!情報規制できるか!そんなもん!!」
現在。上層もすべて消え壊滅状態が続くユグラスト教会の大神殿は、ホーロライ共和国の援助という名の占領下に入っていた。
共和国は意識誘導のために、まず押収した六色司祭の汚職を発表し国内にまだ残っていた…さすがに中身は大分持ち出されていたが…彼らの銀行口座を凍結した。ガレイゼル帝国内のコイン銀行も行動が早かった。これはどう考えてもラニである。
また、大司祭の私室だといわれる写真が初めて新聞に掲示されたのだが。
「どう見ても地下牢ですそんな所に次の大司祭として押し込められそうになっていましたリオルです」
「そんなことしたらさすがに僕が!大神殿に乗り込んで!ガルスじゃないけど!敷地を全部焼き払うもんね!!」
『え、それ俺がやりたい』
「「「「やめてっ!」」」」
戻ってきた荒ぶる店長を、客であるはずのユグラの眼が必死でなだめる。上層は屑だったが自分達のような者も多く残されているのだ。心からやめてほしい行いである。
それに参加することなく、リオルは新聞に挟まっていた六色司祭たちの手配書を眺めていたが、後一枚……犯罪者とは違う意味で捜索されている大司祭の手配書を見つけた。
金文字で印刷された名はユラ・イコール・ユグラスト。六人の簡素なそれと比べとても豪華だ。写真に色も付いている。見つけ次第速やかに保護してほしい麗人として、こんな紙っぺらではとても良い扱いを受けている。
「ああ、この女の人がもう一人のオッドアイ」
「え!?見た事なかったんですか!?」
「白黒写真はありますよ?カラーだと初めてです。ホントに赤と青のオッドアイなんですね」
但し幸は薄そうである。光をモチーフにしたような大きなピアスに、綺麗に結われた癖のないたっぷりとした黒髪。真珠のような肌はきめ細かく、ストーダン神のような知的な女性に見える。しかしその表情は悲しげな笑みである。
物凄く惹かれるが、これはない。
「………公式の写真ではないですよね、こんな表情」
「行事ごと以外の大司祭は、いっつもこんな感じでしたよ……おかわいそうに」
「ラスカー様も何とか待遇を改善しようとされていたんですけどねー……シュレスト神が帝国の王族を大量虐殺しちゃって、こっちの立て直しが最優先になっちゃったんですよ」
生き残った二人のガレイゼル王族を神々の呪いの言葉から守るために、ラスカーは教会に戻れずにいた。そのため教会とのやり取りも山頂である神殿との通信しかなく、大司祭とのやり取りはいつも何処かの盗聴が入っていたためにノイズがひどく、また六色司祭の誰かが傍に控えておりあからさまに通信を監視していた。
冬に入ってからの通信は、寒波による天候不良によって映像もなく音もひどいものだった。通信時間もさらに制限されてしまい、詳しいことを聞くことも出来ない日々。
しかし毎年かの地の吹雪はひどいものであることを、精霊獣も知っていたために見過ごした。
今思えば六色司祭による隠蔽工作だったと悔やむラスカーが昨日の今頃、陛下や元帥と共に駐屯所建設の視察ついでに店を訪れたが、大司祭の安否は彼女自身も解らなかった。
『それに……私は彼女より、ウィリアム達を優先します』
はっきりそう宣言したラスカーに、ユグラの眼たちだけでなく、その場にいたリンレイも驚愕した。
だろうなと訳知り顔で陛下と元帥が同意したが、ルーガスは首を傾げてガルガスト神を脱力させた。ここは理解してやれよと言うも、無駄だった。
「ガルガスト神、ガレイスト王族の血脈って、なんか特別なんですか?」
『魔法無効体質。レナードが生前やべえ効果のある魔法陣を破壊してたって話は知ってんだろ?』
「でも魔法陣なんてレトロなモノ、魔動機器の発達で最近は使うやつもいないっすよ?」
まず魔法陣は描くことが大変である。印刷された大量生産では効果もなく、全てが手書きでなければならない。書き込むための道具やインクも相当高価な道具を使わなければならず、
はっきり言えば金食いの技術である。
『そらそーだ。もとは神の言語を人間が行使するなんてとんでもねー始まりだ。それぐらいの出費は当然じゃねーか。何なら俺が今すぐ魔法陣この場に作るか?その陣の中でなら俺、火球となったでっけぇ隕石が空から降ってくる大陸破壊魔法、使えるぜ?』
「あ、いいです。よくわかりました」
人間には廃れた技術だが、神々にとっては当たり前の魔法補助技術である。しかも規模が半端ない。それを人類が唯一破壊する手段が、ガレイゼル王族のこの体質である。
『陣を構成するには神も時間がかかるってのに、レナードの奴もこっちの苦労を知らずにあっさりぶっ壊すしよー……陣の周りにあった防壁魔法も無意味なんだぜ!?ひどくね!?』
「ガルス何のために魔法陣創ってたの?」
『ユグラストの刻印を俺のにすり替えようとしたアレ』
「あー!あったねーそんな事!レナードがすごい焦って止めに入ったから勢い余って二人がキss」
『え、お前も俺としたいの?キス』
「やだ」
……魔法陣があれば、神々はとんでもない事が可能らしい。
「………それでもユグラスト神の契約者じゃないですか。何でこんなひどい扱いを受けるんですか?」
牢屋には二つの枷も存在していた。就寝時には首と右足首に付けられていたと、記事には同情を誘う内容がびっしりと書かれていた。たまに毒が盛られていた食事によって死にかけてもいたらしい。そこで食べること大好きなシャラとルーガスが可愛そう、と思わず叫んだ。
「まるで国王になったレナードじゃん!!」
「………一国の主と同じほど危険な地位とは、さすがですね」
『扱いは奴隷と一緒だ。国際法で禁止されて何百年も経つのにな』
あの巨大な魔法陣に唯一触れることができる人間故に求められていたのは、陣の修復その一点のみ。文字が読めるのも何かと不便だという理由で、教育もろくに受けられなかったらしい。
全てが、六色司祭の都合であった。
酷い。
なぜ。大司祭という地位に就かせておきながら。
『母親が娼婦で父親も誰か分かんねぇ。最初は偽物扱い受けて、怒り狂った信心深い皆さんが目玉抉り取ろうとしたぐらいだ。俺とラスカーが止めに入って本物だって宣言したが、それでも殺そうとする輩が多くてな。俺とか風神の一部が面倒見てやってたんだよ。文字も計算も俺達で教えた。特にロリコンのウィンドー』
「風神のウィンドー神ですか?」
エルシーとも契約している神である。確かに大人になった彼女の美貌からして、幼少期はさぞ可愛らしい少女であったことだろう。
写真を見つめる少年に、店長は何かを悟った。
「え!?リオルの好み知的な年上!?リーゼちゃんとのデートはホントにお節介だった!?ごめんね!!今度ストーダンの都合聞いとくよ!!」
そしてリオルは、初めて髪を発光させるほどの肉体強化魔法に成功しながら、初めて人を殴り飛ばした。
「ストーダン神はウルドラ神が好きなんですよ!?邪魔するようなこと考えないでください!!」
『オメーも逞しくなったな、坊主』
そして本当に次に教える魔法について深刻に考え込む軍人たちが、そこにいた。
お昼も食べた、午後の訓練。
「で、どうする?」
「地属性の魔法はストーダン神が教えてくださる。考えなくていい」
「すまん、俺実は炎魔法特化」
「知ってた」
「だろうな、あの十三中隊所属だし」
「リオル肉体強化の方慣れた?」
「コツは掴みました」
そう言って魔法を発動するリオルは、ルーガスとは違い、空の星々のような煌めきを持つ髪に変化した。
肉体強化魔法を発動させたルーガスの背後に今日もいる彼のように、まるでラピスラズリの様である。
「うん、うん!やっぱりリオルもおんなじ色だね!!」
「………で、店長。その後ろにいらっしゃる方はどなたで?」
妙にご機嫌な上司に、リオルは身構えながら尋ねてみた。そんなモノが全く見えない軍人たちは沈黙を守り続けた。
「ああ、これ?とりあえず死んでるけど、ユグラスト神がまだ復活する可能性がある証拠。詳しいことは難しいから僕よくわかんない」
「………………………そうですか」
アレクセイが必死にその言葉の意味をかみ砕こうとしているあたりで、リオルはもうそれ以上の追及を諦めた。
「それはそうとして!リオル、次のステップだ!!」
この精霊集めてごらん!!
「………は?」
頭上に伸ばされたルーガスの手に、金色の粒子が集まってきたのはすぐの事だった。
昼時になり店にやって来たリンレイもすぐに気づいた。店の扉に手を伸ばしたまま、そちらの方を凝視する。
「………?」
店の裏手、建築作業をしている方だ。
そこから、刻印が刻まれた両腕がざわつく何かが集まっていた。
店の中にいたガルガストもそれに気付いた。店の扉を勢いよく開き、リンレイを盛大に驚かせたが謝罪もなく、いつになく深刻な顔をして現場に向かう。追いかける三人がユグラの眼だと分かると、リンレイも後に続いた。
『………ガレス、早速それを教えるのか』
「あ、ガルス。リン君もいらっしゃい」
「………何してんだよお前ら」
「精霊集めてる!」
全属性の始まり!
そう言われて納得ができる、美しい輝きだった。ルーガスの手の中に集まったのは両の手で包み込めるほど少ない量であったが、命を魅了する存在感がある、ナニか。
子供のように、無邪気に、そして褒めてといわんばかりにルーガスは叫んだ。
「黄金の精霊!!黒が大分減ったからまた増えた!!」
『馬鹿野郎!今すぐ止めろ!!』
『来ちゃった!!』
『……って神が集合するだろ……』
遅かった。ガルガストの足元の地面から、ウルドラが頭をのぞかせユグラの隊員を絶叫させた。傍から見れば生首である。リンレイもちょっと離れた。
「あれ、ウルドラ?君もお店始めたんじゃないっけ?いいの?」
『金色!金色!!そのほっぺどした、いやそれよりも金色!』
新しい神が生まれるの!?
『……その前にお前は土から出て来いよ』
『あい』
ぬるりと木神は、土の中から這い出てきた。
『『「「「おおおおーーーー」」」』』
「………店長、こんなに金色の精霊集めてどうするんですか?店長が魔法を使うんですか?」
「さあ?ユグラスト神が集めろって」
「え?」
『ふんっ!』
「あだーーーーー!?」
ラスカー渾身の頭突きをかまされたルーガスは店の床に沈み、丸まった。契約者たる陛下も彼女のその行為には驚いたが、水晶の中に集められている金の精霊が何やら輝きだしたのでそちらに戻った。
「何すんだラスカー!!」
『少しは頭を使いなさい!かの方の名をそう簡単に出してどうするんです!?』
「事実じゃん!嘘よりいいじゃん!?」
『金の精霊なんてものを扱える存在が、どれほど少ないか知っているでしょう!!』
「いっぱいいるじゃん!?僕にリオルにラスカーにオッドアイなら誰でもぅ!?」
二発目が即座に炸裂し、今度こそルーガスは沈黙した。
まだまだ大気の中にいた金の精霊をかき集め、鬣の生えた大型の獣にした、ラスカーの額よりも強大な二発目。
それはサザーラ周辺に生息するレーオンと呼ばれる獅子の頭をした大男だった。
別名、猫の帝王。獰猛で、人も襲う。
『で、それに乗ることを許されてんのがあの女王様よ……ありゃ強烈だぞー?何せ体全部があの金の精霊だ。神の源、金の魂、原初の精霊……最近はラスカーもあの技繰り出せないほど数減ったんだがな』
「私も初めて見たぞ、ラスカー」
『精霊自体がいないとできなかったので…ところで、その精霊も回収してよろしいですか?』
「どうするのだ?」
『送ります。これ以上は言えません』
何処に送るのかは、はっきりとは言わないが何となく察しは付く。しかしこの未だ伸びている黒騎士、情報の価値をわかっているのだろうか?
ウルドラ神につつかれているが。
「………」
『ウィリアム。私は精霊の回収にしばし留まります。あなたは公務の続きを』
「へ…陛下……本日の視察は源泉の方ですが……」
「………うむ、案内せよ」
名残惜しいとありあり滲ませながら、王は去った。軍人たちもその背がなくなるまで敬礼を維持し、バタンと店の扉が閉じたところで店長の回収に入った。
「あーあ…腫れがまた増えて男前になったなこりゃ」
「ミナト医師、何とかできますか?」
「“自己回復魔法”ぐらい、肉体強化より朝飯前だろ、こいつにとっちゃあ……」
それにあの伝説の“他者回復魔法”出来る奴がポンポンいたら錬金術の発展はなかったなー
「ですよねー」
『温泉ぶちこみゃいいだろ、こんなん』
そう言ったガルガストがルーガスを荷物のように担いでから暫くして。
風呂場の方から大きな水飛沫と店長の悲鳴が聞こえてきたが、リオルは気にせず床掃除を行った。
その間に十の水晶玉に込められた金色の精霊は、全てラスカーが抽出し異空間に収納してしまった。どこの異空間なのか聞くのは無粋である。ラスカーも答える気は全くなかった。
『それでは私はウィリアムの方に合流いたしますが、リオル様』
「はい?」
『金の精霊は、普通むやみやたらに扱うものではありません。何せ難しいことをクリアできれば神を創れます。ルーガスは絶対に出来ませんが………ご注意を』
シュレストあたりは可能ですので
そう言ってラスカーは消え去った。
「………」
「店長戻った!顔も戻った!!」
「店長!!なんであの金の精霊の収集を優先するんですか!?あのシュレスト神レベルの大物に余計狙われることになったんですけど!?」
早速ラスカーの不吉な言葉を頂いたリオルが、肌艶もよくなって戻ってきた男に詰め寄った。リンレイも返答次第ではぶちかますぞとばかりに、青い精霊を集めだしている。
ルーガスは首元をつかまれ揺さぶられながらも、自分なりの主張をする。
「あれ?誰からも聞いてない?金色の精霊が神の魂の大本だよ?」
「それっぽいことはついさっきガルガストさんがっ」
『言ったな』
耳元で言ってやったばかりである。
「だからその金の精霊を厄神達の中から分捕って、魂をダイレクトアタック?みたいな?僕もそこまでの技量はないけど」
「ちょっと店長の言ってる意味が解らない」
『俺もだわー。え、何こいつできるのそんな事?』
ガルガストも半信半疑に問いかける。そんな技聞いたこともなかった。
そもそもさ、と男は続けた。
「ぶっちゃけリオルに戦闘云々の才能はない。後方支援型」
『そこは同意する』
「確かに」
「ぐっ」
リンレイさえも同意した。口には出さなかったが、まだそこにいた三人の軍人も同じことを考えていた。
ちなみに厨房班は陛下が今日もやって来るという話を聞いた時点で、作業員たちに差し入れをしに全員で出て行った。ユグラスト教会所属とはなっているユグラの眼たちも、出ていく際にウルドラに何か耳打ちされていたが、とうに姿を消していた。
昨日も似たような現場逃亡を図ったので、今更みな何もいう事はない。
「この店長と陛下のやり取りなんて、心臓一つじゃとても足りない」
そう言ったミズヒコに、皆が激しく同意した。
だがそんな評価を頂くようなルーガスも、リオルの厄神への対抗策にはそれなりに頭を使っていた。
「だから戦闘に持ち込まれるよりも前に、そんな事出来るんなら絶対近付かない!って……思ってもらえるような技を会得させるなら、これかな?って」
『自分でもできねーのにか?』
「見る性能はリオルがダントツだよ?むしろこれが出来てもらわなきゃ困るかなー?」
「店長理想が高すぎてついていけない」
「そんな事ないよリオル!金の精霊を把握することはこうもあっさり出来たんだよ!?僕だって最初、水晶玉におんなじ量溜めるのに三日はかかったよ!?」
なのにリオルってば十分足らずで完了させるんだもん!!
「これはちょっとそこら辺に潜伏している厄神を捕まえてこなきゃならないね!」
『そうだな、何事も実践だな☆』
『うおー』
『いやお前は店帰れよ』
『俺知ってる!厄神がいっぱい来るとこ!ちょっと困ってた。ユグラの奴に先行ってもらった、こっち』
「なんだって?」
先ほどの彼らの耳打ちを訝しんでいたリンレイが少し後悔しながら声を出した。何か言いたげだったが結局、通信機器を渡してきて出て行った三人の真意に気づいてやれなかったのが悔やまれる。
早速懐に入れた通信機の電源を入れると即座に反応が来た。
『ミナト隊長』
「元だ元」
『失礼しました。そして厄神いました』
丁度戻ってきた厨房組も、厄神発見の一報に神経を尖らせ、店をクローズにした。アレクセイとミトも上司に報告するが、神々がそんな人類の根回しを気にするはずがない。
『こっち』
「よっしゃこーい」
『やっふぅぅぅ』
「何でノリノリ!?しかも俺も連れていく気満々!正気かあんたら!?」
「何事も経験!」
「せめてガレッドさんが来るのを待ってくださいよ!」
くれなかったので、ガレッド達とは現地で合流することにした。
なんだかんだルーガスはスパルタ。




