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パレード・オブ・ガレイゼル  作者: ドンガラガッシャン
第二章
18/24

男の性と教会の今~デリケートな少年を添えて~

割り込み投稿しています。この後の話の方が先に投稿していますが、時系列からこのような形になりました。お手数おかけしますがご了承ください。

いつになく下品でいて血生臭い話です。野郎どもが下品です。投稿するのやめようかなと考えていましたが一万字超えたのでもったいない精神が発動しました。

下品です。ごめんなさい。

 それは2月の半ばの事だった。


「それでは第一回、パレード・オブ・ガレイゼル青少年健全保護対策作戦会議を開始する」

「意味わかんねーよ」


 今日は、ガレッドによって突っ込みが入れられた。











『わはははは』


 他人事のように笑うガルガストがまた憎たらしい。それでもここにはいないラスカーからも嘆願書が提出されたため、渋々なガレッドの率いる第十三中隊は、ルーガスの店に集められていた。ただし詳しいことは知らされていない。

 店は既にハロー・ハローの面々が機材を持ち込み、万全の体制を整えていた。だがそこに、エルシーの姿だけがない。


「おい、ルイ中佐はどうした。お前らの上司だろ」

「エルシーちゃんは参加禁止!ダメ、絶対!!」

「ラスカー様と上層の皆様が快く引き止めてくださっています」


 技術部門の定期報告会が邪竜ガルガンの件で早まった。上層部は監視機器を、神殿内に常備したいのだ。

 ほか技術部員と報告会に出席している彼女は今現在、映像通信の向上を高く評価されていて他部門の責任者たちを唸らせていた。


「そして今回の会議の発案者はこのルーガス様で、私ことトム・リードが補佐に入ります」

「また妙なコンビ組んだなオイ」


 余計ここに呼ばれた理由がわからない。いつかの神殿突入時の作戦会議と、ルーガスとガレッドの位置だけが変わったような本格的な機材を使用している会議である。やる気は全くないが、キイチとリンレイもここにいた。


「はよ要件言え」

「北区の娼婦たちが、ガホットの宿屋や温泉施設の真っ当な従業員として採用され始め、何を思ったのかルーガス様に感謝の贈り物をし始めました」

「ラブポーションをね!」

「解散っ!!」



 即座にガレッドはそう叫んだ。



 確かに軍が出るような案件ではある。ただし憲兵達の出る話であって、魔法兵たるガレッド達はお門違いというものだ。

 同じ事を思ったのだろう。キイチがまず速攻で店を出ようとしたが、髪を発光させてまでして、ルーガスがそれを阻止した。

 必死である。

 舌打ちがやけに大きく響いたが、それをさらに上回るルーガスの泣き言とガルガストの笑い声が、それの余韻を消し去った。


「キイチ帰んないでえええぇぇぇぇ!!!ほんとに!彼女たちは!!善意のつもりで贈ってくれただけなんだよおおおおおぉぉぉ!!!!!!!」

『あははははは!!!!!!!!!』

「で、これがその贈られてきたラブポーションです」


 混沌としてきた会議の中で、冷静にトムは話を続けた。その同僚達が持ってきた、二人がかりでやっと運べる大きな木箱。その中身こそ、この会議の議題であった。


 形も違う大量の瓶が、怪しい色をした液体を湛えて詰め込まれていた。

 男たちのどこか興奮したどよめきに、ユリアやチャレットが軽蔑の眼差しを向けていた。薪ストーブの中にいたシャラだけがそれを見ていたが、物言わぬ炎となりきることに専念していて忙しかったので見なかったことにした。


「で、ルーガス様とガルガスト神曰く、幾つか厄神の気配がするそうです」

『お薬売って資金調達とか、昔からある常套手段だよな』

「しかもそんなお薬が半数以上占めちゃってるんだもん!!さすがの僕だって由々しき事態だと判断したよ!?間違ってる!?」


 それは確かに魔法兵の管轄であり、厄神弱体化実行部隊の関係者である二人が呼ばれるのもまた、道理であった。

 そしてそのあたりの認識だけは、ルーガスもしっかりと持っていた。

 という訳で、まずは薬を調べることになった。


「しっかしお前もよくこんだけもらったな、ルーガス。何かしたのか?」

「あんな焼け跡の生き残りなら、むしろ逆に安心できるから採用した方がいいよーって言い触らしはした。事実だし」

『事実だな』

「ああ、それは正しいな」


 曲がりなりにも医者であるために、リンレイがまず薬の成分を検査することになった。だがまず量が多い。内容が被っているものも多くあったが、それでも五十種類はあった。


『同じ薬をただ薄めただけのとかもあるから、そう時間はかかんねーぞ』

「詳しいなあんた」

『俺がリリーダみてーな毒花の神から、どんだけ嫌われると思ってるんだ』

「しかもそういう厄神がよく作るんだよねーラブポーション」

「お前も詳しいなルーガス」


 茶々入れにいちいちツッコミを入れ、エルシーのいないハロー・ハローにデータを入力してもらいつつ、リンレイは数時間で作業を終えた。

 その結果がこちらである。


「えー……本当に同じモノを薄めて色を変えたものが大半でした!中毒性ばっちりな厄神お手製のものでした!!最近使ったことあるって馬鹿ども!今すぐ風呂場に駆け込むように!!」

「ダレン暫く任せた!!」

「隊長ぉぉぉ!!!?」


 よりによってな人物を始め、何人かが後に続いた。











「はいここにハンコをお願いします♡」

「あ、はい……っと、よろしくお願いします」


 指定されたところにハンコをしっかりと押さえつけたリオルは、少々お待ちくださいとラニが去ったことにより、まだトンカチの音も響き渡る建設途中のコイン銀行の受付で、居心地悪く座っていた。銀行としてのディティールなどがもう決められているためか、ウルドラ神率いる集団より遅れた作業なのに、もう終わりが近かった。


 なぜそんな所にリオルがいるのかと言えば、たまにあるラニの襲撃もとい来店中に、そう言えば自分の口座作んなきゃと言ったからである。何か閃いたようなルーガスによって休日も決定され、今日は朝から店を追い出されてしまった。

 突然だったのでリオルも反論したが、これから出入りする北区の元娼婦たち関係でみんなと話し合うけど、参加する?と返された。謹んで辞退した。

 エルシーがここに絶対に来ない時間帯は前から狙っていたらしい。そこにリオルにも丁度良く都合が出来たといった具合である。


「まあリオルはいてもいっかな?と僕は思ってる」

「ルーガスさーん。ガレイゼル帝国は今現在、十八歳未満は未成年ですよー?」

「え、そうなの?昔は十三歳だったのに」

「1500年前の知識ですね」

「これが世にいうジェネレーションギャップ……っ!!」

「すまないリオル。そういうわけで後の事は我々に任せてくれ。店長さんはこっちで何とかする」

「ウルドラもいる今の温泉街でリオルに手を出す奴もいないから一人でも大丈夫だよー。鍵も身に着けてるし」


 機材を運ぶハロー・ハローの面々にも見送られ、リオルは店を後にした。

 移動も含めてかれこれ一時間経っているが、まだ朝の八時半だというのに入り口で待っていたラニにより、予定よりも早く終わってしまった。


「お待たせしました♡リオル様の口座開設は滞りなく完了いたしました!ご利用ありがとうございます♡」

「ありがとうございます、ラニさん……その、すみません忙しい時に……自分のために時間を割いていただいて」

「いーえ♡これからのますますのご活躍を、我々コイン銀行も楽しみにしております♡」


 大金をよろしくと、言わんばかりのいい笑顔だった。


「……いや、自分は店長みたいな資産とかありませんよ?」

「大丈夫です!私のセンサーが反応しております!!それはそうとリオル様」

「はい?」

「じ・つ・は♡私、リオル様とお話がしたくて、この後お休みをいただきましたの。お時間、ございますね♡」

「……投資とかはちょっと…」


 やんわり断ろうとしたが、ラニは真剣な顔をして話を続けた。金の話ではないと、少年は察知して姿勢を整えた。


「ラビラット人経由で、ユグラスト教会に不穏な動きありとの情報を得ました。キイチ隊長たちにも伝わっていないだろう極秘情報です」



 紙などで情報を残したくありません。ウルドラ神が隠れ蓑になってくださりますので、あちらの方に移動します。お時間、よろしいでしょうか?



「……俺は、これからどうすれば?」

「ストーダン神が店を開きたいという話に、私が喰いついたのに運悪く巻き込まれた役をお願いします♡」


 それもどうかと思ったが、空いた時間でウルドラ神達の様子を見に行こうとしたのもまた事実。なので、二人は連れ立って宿場予定地に向かう事にした。


「さあお早くリオル様!!ストーダン神が待っておりますのよ!!」

「……元気ですねー…ラニさん……」


 役でもなんでもなく、本当にラニのテンションに巻き込まれただけのような気が、しないでもなかった。











「……で、どの厄神が創ってたんだ?」


 一風呂入ってさっぱりしたガレッドは、女性兵士の軽蔑の眼差しにも全く動じずにシレっと会議に戻ってきた。


「その前にお前は一緒に楽しんだ相手を連れて来いよ」

「反竜(アンチ・ドラゴン)勢力の送り付けきやがった高級娼婦とかいう体の暗殺者。も(・)う(・)死(・)ん(・)で(・)る(・)。竜人に毒なんて効かねーのによくやるなーとは思ってたが……そっかー厄神かー」

「え、今の時代厄神の創ったモノが出回ることないの?」

『魔動機器の発達でヤバイもんの大抵が弾かれるからな』

「うっわ、ここにきて科学が足枷」

『検査通ってますよーって嘘言って出回ったってとこだな』

「……」


 この手に関しては博識なことを披露するルーガスに、リンレイはいろいろ言いたかったが、諦めた。



 所詮こいつも男なんだ。うん。むしろこう言ったことにまで関心がなければ、本当に危ない奴だ。そういう事だ。



「リンレイ、厄神の特定は出来るのか?」

「フレア隊長の特権で、ユグラスト教会の厄神のデータベース利用出来る奴が、すぐそばにいてくれたおかげでな……っと、合致した」


 ガレイゼルの利用するものとは異なる、紫色の光を放って起動する魔動機器が該当した厄神を表示する。

 表示される一面は、機械を操作するリンレイにより淡い青色の光の中にいた。


「……厄神№02……毒霧のシュレスト神……ここでまたその神か……」


 “祟り対象になるため、画像はありません”と書かれたホーロ語がやけに目につく画面である。殆どの欄が不明となっているのもまた、らしいと言えた。

 物珍しげにそれを覗き込んだルーガスが、キイチの言葉によって数字に気づいた。


「№02?01って誰?」

『アドゥヴァスト』

「あー、あいつ。やっぱ生き残ってんの?」

「疫病神衆(やくびょうしんしゅう)トップのワンツー揃ってその反応かよ。ホントどうなってんだあんたの神経」

「大丈夫!ちゃんと肉体は生まれた時のモノだけだよ!神経だって弄ってないさ!!」

「ちげーよ」


 ガレッドに青筋が立った所で、それでだなと、リンレイがほかの軍人にも聞こえるこれで説明し始めた。


「中身自体はシュレスト神のものだが、ガラス瓶の方とかに他の厄神の痕跡がある。店を襲撃した厄神が大半で、ルーガスによって消滅済みだ」

『つまり今までの襲撃のホントの目的は、俺や坊主とかじゃなくてこの活動資金の実態を暴かれたくなかったって事か。阿保じゃね?』


 そういう事だった。キイチたちも似たような雰囲気を出していたが、ここはルーガスがしかたないよと言い出した。


「そう言っちゃ向こうに悪いよ。手渡ししてくれた子とかに値段について聞いたんだけど、けっこうしてたよ?」


 金貨一枚で新品の男受けのいい下着を買うか、それとも媚薬を買うかが娼婦たちの当たり前らしい。


「ちなみに今は雪の結晶みたいなレースのついた、白いのとか青いのが人気だって」


 キイチ以外の男が、わかるとばかりに頷いた。


「あと除毛クリームとかすっごい人気の奴あるんだけど、それもシュレスト製だった」

『あーあの中毒性とか全くない、ガチで健康とか肌のケアとかも考えてる奴な』

「一般人にも流通しててすっごい需要あるんだけど、そっちどうする?本気でそっちは何ともないよ?」


 それは、非常に扱いづらい内容だった。女性人たちも噓でしょとばかりの顔である。愛用しているものだった。


「シュレスト神が作ってるって言ってもさー……回収したら反発起こりそうじゃない?」

『えー、アレ次に生えてくる毛が薄くなるって人気なんだろ?俺だって残しといてほしいぜ、それ』

「ウルドラとかは石鹸とかボディクリームは作れるけど、デリケートな部分とか毒性で毛だけを対象にするの、シュレストじゃないと無理だって」

『おう、キイチ。除毛剤は見逃せよ』

「出来るかバカタレ!!厄神の活動資金だぞ!」

『ウルドラが無理なら他の木神とかも作れねーって事じゃねーか!!男なら毛深い女よりちゃんと処理した方がいいって思うだろー!?』

「知るか!!」


 ええええ!!?と結構な人数に叫ばれてしまった。とりあえず隣にいたリンレイは叩いた。

 お前は俺と一緒にその資金で辛酸をなめた側だろうが。


「…………リン君達水属性のお医者さんで似たような薬品作れないの?」

「挑戦してる奴は多いが調合がなー……結構難しいぜ、アレ」

『お前もやったことあるのか』

「発明したら大金持ち間違いなし」


 チャリンとばかりのサインである。美少年だけに、俗っぽいのが残念だとチャレットがため息をついてユリアがぎょっとした。











「まあ、では技術第二部門のコールド・ボックスは、北区の病院移設に全面協力されるのですね」

「冷蔵庫の技術が医療関係からえらく評価されているんですよ。まあウチのメンバーの古巣でもあるんで」

「錬金した人体を保管するのに適していますからね」

「もう箱じゃなくて倉庫全体をそうしてくれと言われまして。まだそんな大掛かりなものは実験が終わったばかりだというのに」

「ですがそうなると港の方からもそういった話が来ているのでは?」

「そうなんですよ、あっちで上手くいったからこっちでもやれと」

「なるほど」


 報告会も無事終了し、各部門の主任たちは食事会の一角でそんな風に盛り上がっていた。


「ウェット中佐もこれからお忙しくなりますね。ヴォルト中佐の方でも増員がされたそうですが」

「ふん、ひよっ子どもが増えたせいで仕事がはかどらん!」

「そんな。仕事をちゃんと覚えたら戦力になるんだからいいじゃないですか。うちも増やしてほしいのに…」

「軟弱な!」


 相変わらず吹けば飛びそうなほど不健康そうな、痩せぎすのスイ・ウェット中佐と、頑固おやじとよく言われる、ツナギ姿に辛うじて歯車が柄にある緑色のネクタイをするビート・ヴォルト中佐。そしてエルシーの三人が、今回の報告会の主役であった。


「そういえば。ルイ中佐はあの現代に蘇った黒騎士殿とかいう人物と行動を共にしているそうですが、どんなお人なんですか?」

「氷結魔法を使わなくて便利だと、業務用の冷蔵庫を大層気に入られてました。ワインセラーも買われています」


 地下倉庫に設置して、いそいそと大人たちが自分の酒も持ち込んでいるらしいとリオルが愚痴っていた。


「あー、意外と売れたんですよね、アレ」

「車も三月にやって来るとか、最近はカレンダーをよく見つめられています」

「お、初期予約の後半組か。よくわかってるじゃねーか」


 自分達の開発したのだ。話題に挙げられると、嬉しいものがある。


「ただし厄神によく狙われるので、ガレッド少佐率いる第十三中隊と我々が、常に」

「あー………厄神の情報収集もルイ中佐の管轄ですもんね………」

「そこらの厄神の呪いぐらいは、最近の魔道具でも跳ね除けれるじゃろーが」

「最近シュレスト神の配下と思われる厄神が………」

「………そらルイ中佐ぐれーじゃねーと通信できないな」


 流石のビートも、シュレストの名が出されては無茶振りも出来なかった。

 大物の名に、ウェットも自分の事のように不安顔で少女のことを心配した。


「中佐、ご自身の身を本当に労わってくださいね。真面目にその黒騎士より、ルイ中佐の方が狙われたら大変です」

「今日もいろいろな人から言われましたが、大丈夫です」


 それは、エルシーも解っていたし、ルーガス自身がとてつもなく強いので問題ない。


「………けど、リオル様はそうじゃないんですよね…」

「何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません」


 取り繕うように、少女は皿の上のケーキを頂いた。











 リオルは三時のおやつ時だからと、クッキーなどを大量に詰め込まれた蔓の籠と共に店に戻った。


「えええええ“パラダイスピンク”今そんな特典付くの!?」

「大幅値上げ?行かねーよあんな店」

「あああああああああああミーアちゃんに突っ込みてぇぇぇ!!」

「ビッグマグナム?喧嘩売ってんのかその男娼館」

『よっし喜べ野郎ども!!今ミナト医師によって出回ってる薬の完全把握が完了したぁぁぁぁ!!!!』



 おおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!



「あ、もうちょっと外出てますねこの屑ども」


 思わずそう言って扉を閉めかけた。だがそれもキイチの足によって遮られ、店に引きずり込まれてしまう。


「大人って汚い!!」

「アレに俺を加えるな!!俺だって耐えられんわ馬鹿どもが!」


 キイチもいろいろと限界だった。カウンターで遠巻きにしている女性陣と合流し、嬉々として薬の成分を発表するリンレイと、それに盛り上がる神とその一同から遠ざかる。


「取り敢えず他のラブポーションも全部把握しようという話になったのは認めるが、なぜああも盛り上がる」

「アレクセイさんはチャーリーさんに弄られてますね、店長は……いつになく真剣だ」


 リンレイが完全に保証した薬をじっと見つめていた。


「あ!作ったの誰か分かった!!カロック!!」

『あいつか!!カメの精霊獣!!!』


 特に男(・)の(・)滋(・)養(・)強(・)壮(・)に(・)良(・)い(・)と(・)言(・)わ(・)れ(・)る(・)、水草の根を日ごろ食べている精霊獣である。

 皆一斉に笑い出した。


「………………………」

「お前はあ(・)あ(・)なるなよ」

「………シュレスト神の創った薬の見分け方は教わりました」

「それだけで十分だ」


 なぜあそこまで盛り上がれるのかリオルにはまだよくわからなかったが、お土産として持ってきた焼き菓子を女性陣に渡し、飲み物を頼んだ。

 早速キイチに捕まったのは、むしろ良かったのかもしれない。


「ラニさんから、キイチさんに伝えしてくれと頼まれました。この店は常に盗聴防止の守りが働いているんですけど、二階に移動しますか?」

「リオル、ここで教えて」


 なぜかバカ騒ぎをしていたリオルとガルガストがこちらを凝視していた。

 異様だった。周りにいた軍人たちも一歩下がり、彼らから遠ざかった。もはやバカ騒ぎをしていた名残はなく、精密に作られたビクスドールのように感情が見えない。

 はっきり言って怖かった。


「……て、店長?」

『坊主、お前さんから、俺たちも見過ごせねえ因縁の糸が見える』

「何ですかソレ!?」

『俺達“神”は重要性が高い情報持ってたりキーパーソンだった場合、その人間が光の糸とかリボンでラッピングされてるように見える』

「神様特権だね。僕やリオルも見えるよ、オッドアイだから」

「え!?糸!?リボン!?」

『坊主自身に見えてどーすんだよ。でだ、おい』



 何の情報を託された。



「……ラニさんの、例の姪っ子さんの家族経由の情報です」


 疫病神衆(やくびょうしんしゅう)に生まれながら呪われた、三歳のラビラット人の女の子。このような子供たちは神の呪いへの免疫が少ないために、すぐさま近くにあるユグラスト大神殿に送られる。

 呪いと共に送り込まれる黒い精霊を、大魔法陣によって定期的に体内より除去しなければ幼い精神は狂ってしまう。


「その大魔法陣に唯一触れることができて、管理と維持をされているユラ・イコール・ユグラスト大司祭が……今月の謁見行事を中止されたことは」

「聞いている。今年は寒波に見舞われ、大神殿では風邪が流行っている」



「昨晩、疫病神衆(やくびょうしんしゅう)の襲撃があり、そ(・)れ(・)よ(・)り(・)以(・)前(・)か(・)ら(・)大司祭が行方不明になっていたことが判明しました」



 一瞬、間があった。


「キイチさん!!大神殿に行ってください!与えられていた極(・)秘(・)任(・)務(・)も、知っていた六色司祭(ろくしょくしさい)が後釜に俺を大司祭にしようとしたためです!!」

「は!?どういう事だ!?」


 聞き捨てならないとガレッドが叫んだが、それよりもキイチが駆け出そうとして、その肩をガルガストが掴んで制止した方が彼の怒気を強めた。


「放せ!!」

『ラビラット人がこうやって極秘裏に情報を流してくれた労力を尊重してやれや……おいトム』

「兄になんとお伝えすれば?」

「“黒の六番”を“ストレート”」

「かしこまりました」


 そう言って懐から取り出した通信機は家紋入り。リード家専属の通信魔機器である。


『これで共和国には自然体で戻れる手立てができるとして…坊主、他はないか?』

「………あの、その………フレア隊は大量の血痕を残し消息不明、ほかの部隊もほぼ壊滅し……ここでキイチさんが戻られたら主導権を根こそぎ持っていかれると思った六色司祭(ろくしょくしさい)が、大神殿内の全てに緘口令を敷いたとか」

「そこまで腐ってたかあの下種どもが!!!!」

「ひっ」


 珍しいキイチの激昂に、傍にいたユリアたちも震え上がった。まるで炎のような怒り方である。

 流石に、リンレイがこれに魔法で水を被せた。

 ピチョンと一滴、音がした。

 とっさに避けたガルガストの顔は笑っていたが、目の前でそんなことが起こったリオルは一瞬心臓が時を止めた。


「………っ」

「落ち着け、キイチ。世界樹の棘(いばら)のフレア隊長なだけあって、お前も頭に血が上りやすいな」

「………………………すまん」

「リオル、他は?」

「襲撃したのはアドゥヴァスト神です!以上です!!」


 やり遂げたリオルはカウンター内にいたチャレットたちの方に避難した。

 仕方がないとはいえ、怖かった。本当に。


「………………………感謝する……それと、湯舟をしばし借りるぞ」

「大丈夫です!温まって来てください!!」


 キイチが完全に姿を消したことにより、皆も詰めていた息を盛大に吐き出した。

 あいつ怒るとおっかねーなというガレッドに、周りも激しく同意した。


『トム』

「ガルガスト神。ホーロライ共和国に別荘作るって話が保留のままなので、何とかしてくださいって兄が困ってるんですが」

『あ、いっけね☆フレア隊長が代替わりするときの話だったから放置してた☆』


 そして、茶番は始まった。


「せっかく作った申請書類とかが古くなったんで、また新しく作り直さないといけなくなるとか」

『おっとそれは後が怖い。各所の恨み節が飛んでくる前に、フ(・)レ(・)ア(・)隊(・)長(・)に(・)現(・)場(・)の(・)視(・)察(・)を(・)し(・)て(・)も(・)ら(・)わ(・)に(・)ゃ(・)』

「世界樹の棘(いばら)のフ(・)レ(・)ア(・)隊(・)長(・)の(・)宿(・)命(・)で(・)す(・)か(・)ら(・)ね(・)。火属性でもあるガルガスト神の行動と、その実態を調査するのは」

『俺はものすごくどーでもいいんだけどさー……なんか横やり入れたいんだよなーユグラスト教会のお(・)上(・)の(・)奴(・)ら(・)が(・)』

「ガルガスト神の行動を管理したいみたいですしねー因みに書類の有効期限は来月の頭です」

『やっべ、思ってたより滅茶苦茶期限近かった』


 最後は本気で焦っていた。迎えに来たリード家の使いも、その書類の関係者らしかった。


「連絡もないし、完全白紙になったのかと思ってたんですよ!?期日が近いんでもう今日のうちに共和国へ出発してもらいます!!」

「先代のうちに終わっている話じゃなかったのか!?俺は何も聞いてないぞ!!」

『キイチ、シャラは!?』

「た(・)だ(・)書(・)類(・)と(・)土(・)地(・)を(・)見(・)に(・)行(・)く(・)だ(・)け(・)だ(・)か(・)ら(・)シャラは残れ!何かあったら連絡しろ!!」


 そう言って慌ただしく出て行った彼らを、何も知らされていないユグラの眼は、見たままを大神殿に報告した。


「物体保有神ガルガスト、期限間近なホーロライ共和国の土地管理系列書類を思い出し、フレア隊長を引き連れ出国の準備に入りました。一班、追跡します」

『本部了承。任務を続行せよ』

「四班、報告します。リード家の者がラスカー様にガルガスト神を報告。エルシー・ルイ中佐に抱えられたまま転移魔法(テレポート)を行使。こちらに降臨されました。激怒されています」

『本部了承。任務を続行せよ』

「こちら七班、対象が転移。ロストしました」

『本部了承。転移先から報告を受けている。七班は速やかに撤収せよ』

「こちら二班。連日ガルガスト神に挑戦している冒険者(ハンター)が移動中のガルガスト神を発見。バイクで追尾しています」

『本部了承。任務を続行せよ』




「物体保有神ガルガスト。国境にて竜化し飛翔、共和国方面に向かっています。追跡不可能」

『本部了承。ユグラの眼は帝国内にて待機せよ』




 一通りの作業を終えたユグラスト教会の通信士は、やっと終わったと安堵していた。

 しかし、すぐに入った通信で一気に緊張が走った。


「ピンマーク通信長!ラスカー様です!!」

「私が出る。お繋ぎしろ」


 インカムを受け取った長官は緊張する皆が見守る中、通信をオンにした。


『失礼。ラスカーです。ガルガストがまた書類を溜め込んでいたらしいのですが…』

「フレッチャー・ピンマーク通信長であります、ラスカー神。こちらもその報告は受けております。今現在、ガルガスト神は共和国に向かいガレスト高原上空を飛行中、通信はほぼ不可能です」

『共和国に到着する予定時刻は?』

「今夜あたりにでも到着するかと思われます」

『わかりました。私の方からもガルガストには厳重注意を致します。キイチにもあなた方にも、ご迷惑をおかけいたします』

「いえいえ、滅相もございません」


 いつもならここで終わるが、今日の彼女はなぜか粘った。


『所で、いつもはこの時間、ミュナン通信士がご対応されますが、彼女はどちらに?人事異動にはまだ早いのでは?』


 襲撃で亡くなった、通信士の名であった。


「………申し訳ありません、ラスカー神。彼女は今病欠しておりまして、私がご対応させていただきました」

『まあ、そちらは風邪が流行っていると聞いてはおりましたが、彼女もでしたか。他の皆様は大丈夫ですか?』


 六色司祭の監視の目がなければ、今すぐにでも伝えたいことが山ほどある。

 しかし、それは許されない


「………こちらは、風邪が流行っている程度ですので……ラスカー様も、かの黒騎士と共に三人目のオッドアイを保護されているとか……お(・)気(・)を(・)付(・)け(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)」


 血痕がまだ至る所に残っている通信室にて、フレッチャーが彼女に言えるのは、それだけだった。






『とまあ……いつも通りのガルガストの行動ですので、タイミングが悪いと思われていますが、二人の行動は奇異にとられてはおりませんでしょう』

「まさかあの大神殿がそのような事になっていたなんて……」

「ラニさんも襲撃されたのは昨日の夜だと言われていたので……」


 本気で必要書類を溜め込んでいたガルガストを説教しに、ラスカーと便乗したエルシーは店に乗り込んできた。シレっとリンレイとルーガスが薬品の全てを二階に隠し、ガレッドとトムが経緯を報告。

 見事な連係プレーでもって、少女には存在さえ知らせていなかったラブポーション対策本部は、ユグラスト教会の現状に対する極秘会議という認識を植え付けることに成功した。

 そしてラスカー神に対応した通信士の音声データを記録しこれを解析。動揺からして、ミュナン通信士が殉職したと断定。更には心音さえも拾い上げ彼自身が監視されていることを特定。


 大人って一体。


「ほらリオル。現状を見るに、君の特訓を最優先した方がよさそうなんだから、君も話に参加しなくちゃ」

「なぜそんな結論になったんですか店長?」

「あれ?アドゥヴァストについて聞いてない?」

「歴史上邪竜ガルガンに次ぐ大量殺戮者だという事なら……」

「ユグラスト神の事が大っ嫌いだから、僕らオッドアイも大っ嫌い」


 まるで子供のような理屈であるが、本当にそれが理由である。

 厄神は、嫌いな主神を崇めるからこそ教会を不定期に襲撃し、世界樹の棘(いばら)隊員や教会の関係者を星の数ほど殺してきた。


 疫病神衆(やくびょうしんしゅう)不動の一位として教会に、そして人類に“邪神”とも言われる最悪の神。


「強くなんないと、あいつは死にたい時に殺してくれないよ?」

「………っ!!」


 その日から、黒騎士による少年の特訓は過酷になった。











『たでーまー』

「あれ?」


 その深夜、ガルガストが転移魔法(テレポート)して戻ってきた。

 連絡をずっと待っていたシャラがこれに猛抗議した。


『なんでガルガストだけ!?なんでキイチから連絡ないの!?』

『しょーがねーじゃんかよー……生き残った他部隊の隊長が、俺んち別荘に潜伏してやがって……』

「で、キイチは共和国に残ってガルスは戻ってきたと?」

『おう』


 残念ながらフレア隊隊員の安否は彼らも知らなかったが、ともに行動することをキイチが決めた。ならば、ガルガストに止める理由はない。


『で?坊主はどうしたんだ?』


 今夜はルーガスではなく、リオルがカウンターに突っ伏していた。動くのも億劫そうだが、お帰りなさいと、律義にガルガストへ声をかけた。

 今にも死にそうな青い顔で。


「………ちょっと、危機感抱いたんで、店長による特訓を本格化する話になりまして」

『要望が出鱈目すぎて脳内がキャパオーバーしたってか?』


 呆れるガルガストに、ルーガスはアハハと照れて肯定する。やり過ぎだとラスカーやリンレイにも怒られていた。


『キイチがシャラの事捨てたぁぁッ!!!!!』

「………ごめんシャラ……四十度の高熱出していたからもうちょっと労わって…」

『あ、ごめん』


 そんな高熱が出たなど、只事ではない。


『何要求したんだよ』

「髪の毛発光するほど肉体強化?」

『当たり前だ馬鹿野郎』


 最初に要求するにしてもハードルが高すぎる。

 当たり前の様にルーガスがやっているので、リオルも肉体強化の魔法を言われるままに出力を上げ、そしてよくある通りに自爆した。

 肉体強化の魔法は出力が増すたびに体内の魔力の流動が早まり、脳内処理が追い付かなくなる。

 最悪、脳の血管が破裂する。


「基礎中の基礎の魔法だって知ってますけど……まさかここまでしんどいとは……」

『あー……頑張れや』

『キイチィィィ……』




 少年の課題は、山積みである。




というわけでキイチは別行動。これがいずれ後悔の元になるともうわかってる。

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