魔装の目的
ここは、何処だろうか。
辺りを見渡してみる。見覚えの無い場所だ。
酷く頭が痛い。一体何があったんだっけ…?
「凄い。 まだ意識があるんだね」
暗闇から声が聞こえてくる。
「おま、えは……」
「私の毒のほぼ全てがハジメお兄さんの中に入ったのに、まだ意識があって思考出来るんだね。 ほんと不思議」
暗闇から現れたのは、銀髪緑眼の少女だった。その姿は半透明であった。
「まぁでも、ハジメお兄さんの精神に干渉出来るようになったし、実質私の玩具同然だけどね」
「精神に、干渉…?」
「そう。 ハジメお兄さんが思った事や、感情とかをコントロールできるの。 例えば、殺したいって思えば、私はそれを増幅させる事が出来る」
それは、かなり不味いんじゃないか?感情を誘導されて、それを増幅されたりしたら…。
「クスクス。 さぁ、行きましょう?」
「何処、へ…?」
「私の製作者を殺しに」
その言葉と同時に彼女の姿は消えて無くなり、代わりに二振りの剣が地面に突き立っていた。ご丁寧に鞘とかベルトも近くに転がっている。
手に取る前に、もう一度状況の整理だけをしておく。
今の俺は、思考する事が出来ている。恐らく、二、三週以上毒が回って、可笑しなことになってるんだろう。そして、別に体が自由に動かせないとか、操られているとかいう感覚は無い。
だが、精神干渉されているせいか、余りいい気分ではない。むかむかする感じと言ったらわかり易いか。でもまぁ、これもまだマシな方だ。慣れているから。
だが、一番不快で邪魔なのは--
(クスクス。 早く、私を手に取ってよ)
「………」
この頭の中に響いて来る声である。
(どうしたの? 早く)
声に急かされる。取り敢えずベルトを拾い、付ける。そこに鞘を付けて地面に突き立つ二振りの剣を鞘に納める。丁度、腰でXの様な形になる感じに吊ってある。
(似合うよ、ハジメお兄さん)
「あっそ」
(愛想ないなぁ…)
「毒漬にした魔装が何を言ってるんだ」
(クスクス)
脳内に、口を三日月状に歪めて笑う彼女の顔が浮かぶ。本当に性質の悪い奴だ。
「あぁそれと、聞いとかないといけない事があるんだが…」
(なぁに?)
「なんで、わざわざ拉致って毒で無理やり操ろうとしたんだ?」
(だから、さっきも言った通り--)
「いや、そうじゃなくて…」
(………?)
こいつ、アホか?あれだけの実力と性格を持っといて実はアホの子なのか…?
「なんで直接お願いしなかったんだって話だ」
(私は魔装だよ? 人間ではな--)
「いや、魔装とか人間とか関係ないだろ? お前はお前なんだし、意志ある時点で相談--」
(っ!)
「ん、どした? って痛い痛い痛い!」
息を呑む様な反応の後、締め付けられるように頭が痛くなった。と同時に、
(………バカ)
そんな小さな呟きが聞こえた。俺が一体何をしたというのだろうか。
(もうこの話はお終い)
「やれやれ…。 で、その制作者ってのは何処にいるか知ってんのか?」
(貴方と戦った町の地下だよ)
「地下、ねぇ」
(行くには、研究所の施設内を通らなきゃいけない)
「取り敢えず町に戻らないといけないのか…。 ローザ達大丈夫かな…」
(もし会ったら、どうする気?)
どうする気って、そりゃあ…。
「事情話して手伝ってもら痛い痛い痛いっ!!」
(それは、ダメ)
「なんでだよ」
(彼女たちの魔装を取られて、わた--いや、実験道具にされたら、どうするの?)
「………あぁ、そう言う事か」
(………)
二重の意味を込めて言った言葉に、魔装の銀髪少女は黙りこくる。
あぁそうだ。もうひとつ大事な事を聞かないと…。
「お前、名前なんて言うんだ?」
(無い)
「本当か?」
(嘘なんてついても仕方ないよ。 名前欲しいくらいなんだよ?)
「なら適当に付けていいか?」
(仮名って奴? うん、いいよ)
なんか、最初会った時と印象違うのは気のせいだろうか。なんか、こう、何とも言えない…。
そんな事よりも今は名前だ。名前、名前……………………………あ。
「ハクってどうだ?」
(何からとったの?)
「俺の名前」
(…? ハジメお兄さんは、ハジメって名前じゃないの?)
「本当の名前は久瀬朔だ」
(クゼ、のクにハジメのハを取って、ハク…。 うん、ありがと、ハジメお兄さん)
「気にいってもらえて何よりだ」
この調子で、なんとかハクと和解して行けたら良いな。って、あれ?なんか、変な気持になるのはなんでだ…?
(………ハジメお兄さんが、悪いんだからね)
「お前の仕業かっ! 何をした!?」
(私を意識するように、感情をコントロールした)
「………は?」
(クスッ。 この調子で、ハジメお兄さんを私だけのモノにする)
どうやら、和解にはまだまだ時間がかかる様だ。待ちの門の前に立って、しみじみと思うのだった。
* * *
「何っ! ハジメが連れて行かれた!?」
「………う、うん」
ハジメがいないせいで、かなり気分が悪くなる。だが、殺してはいけない。毒を制するんだ。
「それに毒漬にされたというのも本当か?」
「本当だよ」
ラーズが答える。こうやって交代しながら話す事によって、気分を整えながら喋る。それに、ハジメほどじゃないけど魔装姫の声を聞いていると落ち着く。が、それでも無理矢理抑えるレベルなのでハジメがいないとどうにもならない。
「解った。 直ぐに--」
「………?」
ナーザの視線が、窓の外に固定される。それを不思議に思い、私達も窓の外に目を向ける。
「「………は、ハジメっ!?」」 「お兄さん!?」 「「ハジメさん!?」」
思わず皆で声を上げてしまった。上げてから、気づいた。
--窓があいているという事に。
『っ!?』
ビクリと反応したハジメが振り向いたと思うと、脱兎の如く逃げ出したのだ!
「ちょ、お兄さん!?」
「………皆、追う。 逃げちゃだめって言ったのに、逃げだ」
「そっちが重要なのか!?」
私も含めて、皆取り乱してしまっている。
「くっ。 騎士団総動員で捜索に出る。 君たちも彼を追ってくれ!」
「………言われるまでも無い!」
ハジメが逃げ去った方向に五人で全力疾走する。途中から分かれて五ルートを一気に捜索する。すると、見つけた。見つけたと同時に、ハジメも私を見つけた。その顔は、戸惑っているように見えた。
「………ハジメ、どうして逃げるの?」
「事情があって」
声を聞いて、落ち着ける。此処は何時も通りだ。
続いて--
「……く、した、よね…?」
「え?」
「………約束したよね、これから逃げない事って」
それを告げると、ハジメはダラダラと汗を欠き始めた。約束を覚えているという事は、彼は毒に冒されていないのだろうか?
いや、彼の腰に交差するように吊ってあるあの剣は、あの魔装だ。つまり、毒漬にされてる事に間違いは無い。
「………ハジメ? 嘘付いた罰。 覚悟は、良い?」
「………よ」
「よ……?」
「良くないですぅ!」
振り向き、全力で走り去ろうとするハジメ。毒が入っている証拠か、その脚力は恐るべきものだ。
だが--。
「ラーズ、ネロウ、フーザ、リーファ!」
「「「「いわれなくてもっ!」」」」
「まさか、会話で時間稼ぎされてたのか…!」
「ふっふー。 そのとーりだよ!」
何故リーファが得意気なのだろうか。時間を稼いだのは私なのに。
魔装姫全員に囲まれたハジメは、囲んでいる誰にも聞こえない様な声で、ナニカを呟いた。呟いた時、此方を向いていたのでその口の動きで何を言ったのか解った。
『ごめん』
読み取ると同時に、ハジメは鞘から剣を引き抜いた。




