魔装のチカラ
「く、おぉっ!」
「っ」
身体に毒が入ってから驚くほど早く動き、いつも以上に力が出す事が出来る。…だが、武器は無いので殴りかかるしかないのだが。
銀髪少女は両手に剣を構えたまま即座に距離を取り、まだ驚愕の表情を浮かべている。
「毒で本能的思考になったのにも拘らず、思考ができる…? どうして…? なんで…?」
本能的思考で思考が出来るのは、本能的に思考しているからじゃ…ってややこしいなっ。
とにかく、酷く取り乱しているように見えた。どうして、何故、と俯いたまま呟き続けて、ふと顔を上げる。その顔は、不気味に嗤っていた。口は、例えるならば三日月の様な形をしていた。
「解らない事なんて考えなければいいんだよ。 そうだよ。 だったらもう本能的思考《、、、、、》すら出来ないくらい、毒で冒せば良いんだよ」
「はぁ…? お前の毒はすでに俺に入ってるぞ?」
「クスクスッ。 ソレは、10分の1以下の毒だよ? …これから、もっと毒を入れてあげるから。 本能的思考すらできないくらい、毒で冒してあげる」
「10分の1…以下…?」
嘘だろ?かなりの力と速度になって、さらに思考に霧がかかってほぼ本能的判断に任せるしかない状態になっているんだぞ?
「さぁ、ハジメお兄さん。 私で染まって…?」
その言葉と同時に、彼女の身体から黒い霧があふれ出る。それを見れば、先ほど俺の中に入った毒が10分の1以下であると、直ぐに解る。それほどの凄まじい毒の量だった。
銀髪少女の手に持つ剣を束ねて持ち、そこに黒い霧が纏わり付く。そこから形状を変化させ、大太刀へと変貌する。
さらに、身体にも纏わり付いて黒い羽織姿になる。
「あはははっ。 さぁハジメお兄さん。 私は毒の塊だよ? これでも、触れれるかな。 私としては、嬉しいんだけだなぁ」
「………くっ」
無理だ。アレに近付いたら、確実に堕ちる。此処は逃げるのが得策だろうが…。
「ハジメお兄さん。 私を、受け入れて…!」
「っ!?」
気が付いたら、地面に押し倒されていた。心臓部に突き立てられているのは、黒い大太刀。
「が、あぁあああぁああっ!!」
その大太刀から流れ込んでくる毒だけでも凄まじいモノだと言うのに、さらに彼女自身が俺に覆い被さる様にして密着してくる。そこからも、かなりの量の毒が入り込んでくる。
苦しい。痛い。熱い。嫌だ。この毒に冒されたら俺は--。
視界が暗くなって行く。意識が薄れて行く。駄目だ。意識を手放したら--。
「…結界張ったのになぁ」
そんな声と同時に、少女の重みが消える。引き抜かれる大太刀。
「…ぁ………」
「クスクスッ。 大丈夫。 直ぐに、もっといっぱい毒を入れてあげるからね?」
「や………め--」
「ハジメっ!」
俺の言葉を遮って、ローザが視界に飛び込んでくる。足音からして、他の四人もいるようだった。
「もぅ…。 邪魔しないでよ」
「………ハジメに酷い事をさせない」
「でも、少し来るのが遅かったね。 もう、ハジメお兄さんは私の毒漬状態だよ?」
「そんなっ」
ネロウの声が聞こえるが、それは何処か遠くで聞こえている様な気がする。
あぁ、ネロウ達が遠くにいるんじゃなくて、俺の意識が遠くに行きそうなんだな。
「………み-な、ごめ--」
なんとかそれだけ呟いて意識を失った。
* * *
既にハジメは毒漬にされてしまった後らしい。
喉が渇いて目を覚ましたらハジメがいなかったので総動員で探したのだが、遅かった。
「………今直ぐ、ハジメから毒を抜いて…!」
「あははっ。 面白い事を言うね。 じゃあ、聞くよ? ………どうやって?」
「…えっ?」
「どうやって毒を抜けばいいの? 貴方達も、毒を抜く方法を知らないからハジメお兄さんに抑えて貰ってたんでしょ?」
「それ、は……」
言い返せない。
確かにそうだ。私達は毒を抜く方法を知らない。それは、【魔装を扱う者】だからだ。だが、彼女は【魔装】その物…毒を与える本体なのだから--。
「貴方は、魔装でしょ? 自分で知ってるんじゃないの?」
「気付くか…。 でもまぁ、毒は抜かないよ。 このまま私だけのモノにするの」
「そんなことさせないっ!」
フーザの叫び声と同時に五人全員で殺しに掛る。だが、その攻撃の全てを避けられ、逆に反撃されて私達の方が消耗する。
「あはっ。 弱いね、お姉さんたち」
「くっ…」
「本当の、魔装のチカラを見せてあげるよ」
そう言うと彼女は手にした大太刀を徐に横なぎに振るう。それと同時に、激しい衝撃を背中に感じた。
「が、ぁ…」
それぞれ、背後にあった木に背中から叩きつけられたのだ。
「あはは。 今のが剣撃波だったら、お姉さんたち死んでたよ?」
「く、ぅ…」
「今回は見逃してあげるけど、もう私たちを追い掛けない方が良いよ? 悲しむのは、ハジメお兄さんなんだから」
「どう、いう、事…」
「簡単だよ。 貴方達が追ってきたら、ハジメお兄さんに貴方達を殺させるの」
言いながらも彼女は歩いてハジメの傍による。
駄目だ、ハジメを助けないと。思う事は出来ても、身体が動いてくれない。先ほどの一撃は、あまりにも強力すぎた。他の皆も同様の様だ。
「それじゃあ、お姉さんたち。 また会ったら、多分私は剣だと思うけどよろしくね」
「ま、て…」
「やぁだ♪」
ハジメに手を添えると、ハジメ諸共消え去ってしまう。
「うぅ…。 ハジメ…」
助けられなかった。
如何にハジメが一人で夜中に出歩いたとは言え、ハジメ一人に責任を押し付けるのは間違っている。それに気付けなかった私達の落ち度でもあるからだ。
「みん、な。 生きて、る?」
ネロウが問う。
「なんとかね…」
「ギリギリ…」
「私もです…」
「………私も」
それぞれが満身創痍状態だ。この状態では、例え騎士相手でも負けるのは確実だろう。
「皆。 一旦帰ろう」
「それが、得策ね…」
皆は重い足を引きづりながら家へと戻る。
ハジメの事は確かに心配だ。だが、心配をするならまずは助けれるだけの万全の状態に戻そう。それくらいしかできないだろうけど、しないよりはマシな筈。
全員でリビングの椅子に座り込み、相談する。
「………今回の敗因、なんだと思う?」
まずはこれだろう。
「まず一つ。 実力差はかなりあったと思う」
「後、魔装の扱いも負けてたね…」
「毒の扱いも含めたほうが良いかな?」
取り敢えず挙がったのはこの三つだ。実力、魔装の扱い、毒の扱い。
実力と魔装の扱いはなんとかできるかもしれないが、毒の扱いなんてどうすればいいか解らない。
「………毒の扱いは、一旦置いとこ」
「そうね。 取り敢えずは実力と魔装の扱いをなんとかしないとね」
「実力なんてそんなに直ぐ高上する訳じゃないよ?」
「それは………」
実力をどうやって付けるか。私達の相手になる様な人はいない。………いない?
「………剣豪級の人に頼んで稽古付けて貰えば」
「それは良いと思うけど、大丈夫かな? 斬られそうで怖いよ」
「魔装姫は良い噂ないからねぇ」
「他に案が無いんだし、取り敢えずコレね」
「後は魔装の扱いだけど、これはもう個人で魔装と向き合うしかないと思うの」
ラーズの言う通りだ。私達魔装姫は、互いの魔装を使う事が出来ないのだから。
「あまり時間は掛けていられないと思うけれど、各々魔装の扱いをなんとかする事。 後は、稽古だけど…、ハジメがいないから町に行くのは危ないんだけれど…」
「………行くしか、無い。 なんとか、しないといけないから」
「…そうね。 怯えていても、ハジメは戻ってこないものね…」
その通りだ。ハジメを取り戻すためなんだから、なんだってやって見せる。
「それじゃ、皆、町に出る準備をして!」
「「「「りょーかい!」」」」




